ぼくと私
……正直骸亜以外全く声が出なかった。
それに気づかないのか骸亜は話を続けようとする。
「俺は……」
「ちょっと待て。」
神が止める。
「いきなり電波なこと言われて混乱してるのにそこから続けられると余計わからねえよ。」
「そういうと思って今からそのこと説明してやろうと思ったんだがな……。」
「確認してからにしろ。説明入れられても混乱してる頭じゃ頭に入らん。」
骸亜は少し黙った。
そして少し黙ったあと
「もう頭は整理できたか?」
全員が頷いた。
もちろん私も。
とはいっても神が言ってくれなかったらまだ混乱していただろう。
「続きを話す。俺はこの世にごく稀な異世界の自分と全てを共有してしまうんだ。」
……やっぱり意味がわからなかった。
私は……私達はまた説明があると思って声を出さなかった。
「つまりだ。俺は記憶、感覚、体、意識を共有したんだ。記憶から始まり、最終的には意識を共有する。」
「その共有はいつから始まったんだ?」
「書物を見た限り人によって共有し始める時期も進行スピードも違うみたいだが、俺は……俺達はと言った方がいいのかな。神、お前と喧嘩して俺が引っ越したくらいからだ。ちょうど一年半前か。その時に『二人』の記憶が一気に流れてきた。記憶を共有って言ってもわからないと思うが感覚的には見たものが二つあるんだよ。ウラルの飛鳥と話しているのとクロスの飛鳥と話しているのが見えていた。始めは時々ウラルの飛鳥に話さないけないことをクロスの飛鳥に話していたことも逆もあったな……。」
骸亜が懐かしそうにしていた。
私も一年半前の骸亜……0を思い出した。
そのとき実際によく会話になっていなかった気がする。
骸亜は続けた。
「実際に声を聞いたはずがないのにそいつの言ったことや声を知っていて、実際に食べてないのに味を知っていて、殴られてないのに痛みを知っている……。複雑な気持ち、いや、気持ち悪かったな。次に感覚がそうなって……。」
骸亜の話は長かった。
説明だけでも長いのに途中昔話までして余計長くなった。
昔話の時はウラルの私以外は少しイライラしながら聞いていた。
まあ結論を言うとこの骸亜はクロスとウラルの2人の骸亜が融合した状態で、その体の融合が1ヶ月前……私がヒラブル役所を破壊した直後くらいに起こって、1週間前に完全な融合を果たした、……という感じだろうか?
「以上だ。何か質問は?」
「長い。」
神が手を上げて皆の意見をまとめて言った。
「ああ、それはすまん。途中脱線したりしてな。」
「……あ、そういえばだが、」
竜が手を上げる。
「骸亜、どうしてお前は俺の能力のことについて知っている。確かに飛鳥にこの能力のことを話したし、実際に使用しているところも見ている。だがお前は飛鳥から聞いたにしては行動が早すぎる。お前はまるで以前から俺の能力について全部知っているみたいなんだよ。」
そう言われればそうかもしれない。
骸亜が知ったのは多分今日の昼休みくらいだろう。
なんとなくそんな気がする。
昼に竜の能力について知ってその夜実行するためにここにくるのはいくらなんでも早すぎる。
骸亜は
「調べたんだよ。無いと思いながらクロスでな。………すごく見つかったよ。まあ見つかったのは類似した内容だったけどな。」
骸亜は少し疲れたというような顔をした。
私は竜の力について無知といえるほどなので周りのみんなと同じように真剣な顔があまりできなかった。
骸亜は竜に近づき、
「実はな………」
骸亜が竜の耳に囁く。
竜はそのことを聞き、驚いていた。
横を見ると鈴が少し顔を赤らめていた。
そのときに困惑している「私」をみつけた。
竜は骸亜と話し始め、鈴も神と何か話している。
私はさっき二人が何を想像してるのか疑問に思いながらもソファに座って一人クロスにいる符養や鈴のことを考えていた。
「あの……。」
急に話しかけられて体がビクッとする。
声のした方を振り向くと、「私」がいた。
「な、何?」
「ちょっと違和感を覚えて……。」
「???」
飛鳥は私が意味不明だとわかったのか慌てて説明した。
「すいません。『ぼく』なのにぼくと全く似てなかったから……。」
ああ、なるほど。
………確かに今の私は彼女と違うと思う。
私は彼女に微笑みながら、彼女に言った。
「私も1ヶ月前まではあなたみたいだった。けど、私の親友が私を……ぼくを変えてくれたの。」
「……親友?もしかして鈴さん?」
「そう、あっちの鈴。あの人が『堅苦しい 』っていうわがままで一人称も丁寧口調もやめさせられたの。」
「そういえばぼくも言われました。」
飛鳥は苦笑いをする。
飛鳥に苦笑いを浮かばせる鈴に私は若干だが呆れる。
しかしどこか飛鳥は羨ましそうだった。
「けど羨ましいです。ぼく……わ、私もあんな日常すごしてみたいです。」
「意外と馴れるとつまらない……むしろ大変だよ?モンスターとかと戦わないといけないし。」
「ですけど羨ましいです。明るい性格の私がいて、鈴さんや骸亜さん達とクラスメイトとして対等に話せる、そんな世界……。」
たしかにこっちの世界の私からみたら私の立場って羨ましいのかな?
どっちかっていうと私はこっちの世界の方が羨ましいと思えるんだけどなぁ、やっぱり……。
「ぼ……私もそんな風になりたいなぁ。」
「……一緒なんだ。」
飛鳥の頭の上から?マークが浮かび上がる。
「……あ、ごめん。多分なれると思うよ。私達は元々の性格も中身も似ているんだからさ。」
「え?あ、はい。」
「ほら、そこも堅苦しい。」
「あ、ごめんなさ……ごめん。」
……私にやらせると言葉が乱暴になるというか、敬語というもの自体ができなくなりそうというか……。
後のことは鈴に事情を話してきっちり指導してもらった方がいいだろう。
私の喋り方がこうなったのもあっちの鈴のせいだから同じ成果が期待できるだろう。
こっちの鈴はお嬢様だからもしかすると今の私より数段きれいな言葉遣いになるかもしれない。
「話は終わったか?」
後ろを振り向くと骸亜が目の前に立っていた。
もしかしてと思い、周りを見ると鈴や神、竜もいた。
どうやら話を聞かれていたようで、
「飛鳥、あなたは今の喋り方でも十分だと思うけど?」
「あ……あ、あ…鈴さん……。」
話を聞かれていたのがよっぽど恥ずかしかったのか(まあ私も恥ずかしいのだが)飛鳥は顔を真っ赤にして言葉にならない何かを発していた。
私はその飛鳥をひとまず置いといて(骸亜にでも任せておこうかな)、鈴を捕まえ、少し離れたところに連れていった。
「鈴、言い過ぎじゃない?」
「私はただ飛鳥はあのままで良いって思ったから……。」
「けど彼女が明確な意思表示をしたんだよ?参考にならないかもしれないけど私があの状態だった時はあんな風に意思表示した記憶はないよ。いつも人の意見に従うだけだった。」
「……うん、言われてみればあの子も自分の意見を積極的に言ったことなんてなかったかも。」
鈴は賛成してくれた。
「で?私を説得したのは何か理由があったからじゃないの?」
「それはね……」
私は鈴に飛鳥の喋り方、性格を変えるように頼み、その理由まで全てを話した。
その本人のところをチラッとみたら、予想通り骸亜に対処されていた。
「わかったわ。絶対向こうの私より行儀の良い飛鳥を育てるんだから。」
「ははは……。せめてゲーム感覚でやるのだけはやめてあけてほしいな。」
話も終わったことだし鈴に戻ろうと提案する。
鈴もOKしてくれて戻るとちょうど飛鳥が立ち直っていたところだった。
「おお、話は済んだのか?」
「ええ。早速本題を進めましょ。」
本題と言われて一瞬何かと思ったがよく思い出してみたら、まだ元の体に戻っていないと気づいた。
骸亜は飛鳥を竜の前に移動させていた。
私も行かなければいけないと思ったので行く。
「よし、竜はじめてくれ。」
竜が頷き、そして私と飛鳥に手を置いた。
「『イタズラ好きな魂を司る双子の悪魔、飛鳥と飛鳥、二人の魂を入れ替えよ。』」
一瞬体の感覚がなくなり、ふわふわした感覚だけがあったが、すぐに感覚が体に馴染むような感じがした。
そして、体から魔力がみなぎるのを感じ、やっと私は元の体に戻れたのだと思った。
「竜、さっきのあれは魔術?それとも召喚術?」
さっきまで飛鳥だったためか竜は少し戸惑っていたがすぐに落ち着いたようで
「い、いや、あれは俺の能力だ。俺は体に悪魔を宿している。それ以上は俺もうまく説明できないんだ。」
「飛鳥、」
背後から骸亜が話しかけてきた、いい加減背後から話しかけてくるのをやめてほしい。
「あのさ……」
「今から空間魔術の方法を教える。」
いきなり言われた。
確かに教えられないと帰れないが、いくらなんでもいきなりすぎる。
しかし、それが0だと諦める。
多分、骸亜も別れがつらいだろうし。
「……どういうやり方なの?普通の魔術とは違うの?」
「ああ、だがいたってシンプルだ。空間座標……まあ住所でもいいか。それを術式にウラルの言葉で組めばいいだけだ。」
「え゛……?」
ウラルの言葉って……私漢字ってやつをまだ完全に覚えてない。
しかも読むことはできるけど書いたことなんてない。
「大丈夫だ。ここにはウラルの言葉を知っているやつばっかりだ。まず俺がお前の家の住所を紙に書いてやるからそれで術式を組め。」
骸亜が紙に文字を書き私は骸亜の手を持つ。
私は骸亜からもらった紙を見て術式を組もうとする。
が、ある声に遮られた。
「待ってください。」
飛鳥だった。
「あの……その……ありがとうございました。あなたがいなかったら多分変われなかったと思います。」
「かもね。けど、私とあなたは同じ『飛鳥』なんだから敬語なんておかしいよ。自分に敬語って変でしょ?」
あう……と言ったきり飛鳥は何も話せなかったみたいだった。
「骸亜、今度こっち来たらまたあの日のリターンマッチといこうぜ。お前、本気出してなかったろ?」
「武闘家の技を使わせると絶対にお前は俺に一発当てれないぞ。」
「なら、こっちは神と鈴を加えていいか?」
「……そうすると飛鳥がこっちに加わるぞ。」
骸亜も竜と別れの話をしていたようだった。
「飛鳥、ありがとね。あなたがいなかったらあの子に養子の話をする勇気が出なかったと思うわ。」
「ふふ、なんかもう会えないみたいな言い方だね。またいつか遊びに来るしそれかクロスに一緒に行こ。あっちの鈴とも会わせたいし。」
各々別れの言葉を交わした。
そして骸亜からもらった紙……紙を……
「どうした?」
「紙……無くした……。」
骸亜が頭に手を当てる。
骸亜は仕方なく新たに紙に住所を書き、それを鈴に渡す。
次に紙に住所を書いて私に渡す。
「鈴、それが飛鳥のうちの住所だ。いつか来る時にでもそれを見て来ればいい。飛鳥、術式できたか?」
「あ、うん。」
私は術式を組み、術を発動させる。
「『空間を超越する魔力よ、我らをその魔力で飛ばせん。 ディメンション!』」
横を見ると、飛鳥が私にか骸亜にかわからないが微笑んでいた。
しかし一瞬だった。
私達は空間を飛んでいた。
私は骸亜の手を握っていたが、骸亜は私の手を離した。
「ぜろ!」
「ここらへんなら俺は自分の家に着ける。心配なら明日学校で俺のクラスに来い。」
私はそんなつもりはなかった。
だって0を信じてるから。
やっと地に足がつく。
そこで私が見たのは取っ組み合いをしている符養と鈴だった。
私はやっぱりあの鈴と似ても似つかないと思う。
けど、ここが私の帰る場所なんだよね。
この日常が私の普通なんだ。
祝一周年!今まで読んでくれてありがとうございますm(_ _)m
今回で異世界編完結です。
ですが、いつかウラル飛鳥やその他ウラルの人物のその後の物語を書きたいと思っております。
今回は骸亜についてでも
骸亜
ウラルの骸亜とクロスの0が一人の人間になった状態。
今は二人の体だけでなく、精神も一つになり、完全に一人となった。
現在クロスの0の家に住み、武闘家科四年である。