絆
「これは『はる』や『しゅん』って読むの。」
竜の家から帰ってきてすぐ、私はウラルの文字を覚えさせられていた。
もうすでに私は「ひらがな」という文字と「カタカナ」という文字をマスターしていた。
そして今「かんじ」という字を習っている。
それよりも普通なら9年近くかかることをGWの5日でマスターしろというのはさすがに難しいと思う。
「飛鳥一回教えただけで熟語とかも全部覚えるってすごいね。」
「そ……そうかな。」
「そうよ。普通なら一回で覚えるなんてできないわよ。……読みは大丈夫だったけど書ける?」
「うん、大丈夫だと思う。」
「じゃあ、この本を今日中に読んでおいて。全部で23巻あるけど読めるだけでいいからね。」
と、鈴が本を私に渡す。
私はそれの1巻を手にとって読み始める。
挿し絵があり、文字ばかりだけど私の世界の本より神に渡された本に似ていると感じる。
「おお、もう早速読み始めるんだ。」
「………」
鈴が何かを言ったようだけど私は本を読んでいて聞こえなかった。
鈴は
「ははは……このところもそっくりなんだ。」
「鈴」
「は、はい!?」
「うるさい。喋らないかどこか行っていて。」
鈴は静かに部屋を出る。
全く……この世界の鈴はあっちの鈴と一緒でうるさいな。
まあどこか行ってくれたし、静かに本を読むか…………。
…………。
……………………。
……………………………………………………………………………………………………………………………。
静かだ…。
普通ならここで鈴は影でコソコソ私の様子を見にきて私がそれに気づくくらいのやり取りがあってもいいはずだ。
こちらの鈴は言ったことを素直に聞いてくれるみたいだけど……。
私はいつもの日常と違うことを感じた。
今はいつもと違うことにだらけなのにそのことだけが大きく違うと思えた。
「帰りたい」
無意識に思っていたことが口に出てしまった。
そうだ、私は帰りたかったのか。
そう思うと私の目から涙が出てきた。
私は誰もいないか周囲を見回し、誰もいないとわかると思う存分泣いた。
私は悲しかった、寂しかったのだ。
知っている人に似ている人は大勢いたが、本人はいなかった。
私はそのことに寂しさを感じていたのだ。
楽しそうとは思っておらず、「帰りたい」ということしか考えていなかった。
今なら符養と一緒に修行していたころだろう。
それも今は無い。
鈴につきあわされることも無い。
符養が夜私のベッドに入ってくることもない。
きついサンとルナの修行も、モンスターとの戦闘自体無い。
だがそれは私にとっては意味不明な世界にひとりで飛ばされることよりはましだったのだ。
私が泣いていると鈴が扉を開けて駆け込んできた。
「ちょ、飛鳥!?なんで泣き始めるの!?」
「どう……して…?見てたの?」
泣きながらでうまく言葉が出てこない。
「飛鳥に言われたけどやっぱり気になって、二階に行かずにこっそり見てたの。そしたらいきなり泣き出すから。」
「そう……。」
「そういえばどうして泣いてたの?」
私はまだ気持ちが落ち着かなかったから落ち着くまで少し黙っていた。
鈴もそのことを察知してくれて落ち着くまでの間、何も言わなかった。
ようやく落ち着いた私はすぐに話し始める。
「やっぱりいつも友達がやってくれることをしてくれなかったことが寂しくて……。ううん、本当は素直に帰りたかったの。私は私の世界に帰りたい!どうしてこんなわからないところに飛ばされたの!?友達はみんな私の知っている友達じゃなくなったし!もう……」
「わかったわかった。また怒ってきてるよ。」
「あ、ごめん。けど飛鳥がそう思っているなんて……。」
鈴は悲しそうだった。
しかしなぜか少し嬉しそうだった。
「だ、だけど私はこっちの鈴達と離れたくない。私にとってはどの世界の鈴でも大切だから。」
「ふふっ、私達自身は出会って2日目なのにね。けど私はそう感じないんだよね。前から一緒にいるみたいな。まあこっちの飛鳥と住んでいたからだとは思うけど。」
不思議と笑顔になれた。
しかし鈴はそのあとに悲しそうな顔をした。
「けど、私も本音ではこっちの世界の飛鳥を心配しているの。けど私にはどうすることもできない。だからあなたを帰す方法を探してるの。ううん、あなたが帰れば飛鳥が帰ってくるって思ってるから……だからあなたを帰したいだけ。………だけど、私もあなたのことが大切よ。」
鈴は微笑んだ。
私はまだ帰れるわけではないのに鈴との別れが寂しくなって鈴に泣きついていた。
「はいはい、今日は簡単に引き下がったけど明日竜を叩き折るから今日は私が言ったことを終わらせよ。」
ずっと泣いている私をみて泣き止ませるためにか鈴が言った。
しかしあるワードのせいで私は鈴の言葉の前半しか聞けなかった。
「え……鈴、竜さん叩き折ったら竜さん死ぬんじゃ……?」
「言葉のあやよ。本当に叩き折る気は無いから。」
「な、ならいいけど……。」
鈴は立ち上がり、夕食をつくろうとキッチンに向かった。
私は少し考えてから本を読むのに取りかかった。
あと半分、読み切ろう。
クロス
飛鳥がおかしいと符養から聞いたんだとツヴァイが0に話した。
今0は急いで魔術科に向かっている。
符養は飛鳥が別人みたいになったとしか言わないらしい。
「やっぱり片方は抜けているとはいえ、裁きの者の中でも派閥とかあるのか?」
「あいつは特別な所だったからあまり交流がなかっただけだ。そうでないとしてもあいつはあまり人と接さないタイプの奴だ。」
「そうか、俺はどんなやつか知らないから是非見てみたい……って、なんでお前もついてくる?」
0が見た限りではツヴァイは0に内容を伝えたあと、クラスメートと軽い組み手をしていた。
「用事を思い出したと抜けてきた。俺だって今の飛鳥が心配だからこうして様子を見に来てだな。」
「お前のそれは心配じゃない、単に面白がっているだけだろ……。」
0とツヴァイは同じ科だ。
だから2人は1カ月前のあの事件の時以降、(ライバル的な関係として)よく会話したりよくチームを組むことがあり、仲良くなった。
そんな仲良し2人は魔術科の飛鳥のクラスの前に到着した。
0は教室に入り、飛鳥を見つける。
飛鳥も入ってきた0をみて「そんなはずは……」という顔をしていた。
0が飛鳥に近づき、言葉を発そうとしたが、飛鳥のほうが早かった。
「骸亜…さん…?なんでこんなところに……?」
若干目に涙を浮かべているのが見えた。
0は「骸亜」というワードを聞き、懐かしい日々を思い出して笑いがこみ上げてきた。
ツヴァイと元々飛鳥と話していた鈴はなぜ0がこんな反応をしているのかがわからなかった。
確かに今の「クロスにいる」飛鳥はいつもの飛鳥じゃない。
だってこいつはウラルの飛鳥なんだからな、と0は思った。
0はクロスの飛鳥にもみせたことがない優しい口調で言った。
「久しぶりだな、元気だったか?飛鳥……。」
ウラル
私は本を読みきったと同時くらいにできた晩御飯を食べていた。
鈴は驚異的なスピードだと言っていた。
私は元々本が好きでとてもぶ厚い本ばかり読んでいてそれを読み続けるうちにぶ厚い本を30分くらいで読み切ってしまうほどになっていた。
鈴が貸してくれた本は500ページもなかったはずだから一冊5分から10分で読み終わってしまう。
「いやいや、速読のとよく知らないけどラノベ5分はさすがに無理よ。絵本じゃあるまいし。」
「鈴はこれどのくらいかかるの?」
と言いながら鈴の本を一冊見せる。
「えっと……集中すれば2、3時間くらいじゃないかしら。」
それが普通くらいなのかと思う。
……………………………………
そのとき、私は誰か懐かしい人に会った。
…………………………
いや、そんなはずはないと思い直す。
私はさっき……今も鈴と会話していた、他の人がきた気配もない。
しかしこの感じとった記憶も私自身のものだ。
つまりこの記憶はクロスにいる私のものだ。
二人揃えば別人といえど違う世界の自分達なのだ。
……だけど何故この記憶を私が感じたのだろう。
夕食後、鈴にそのことを話すと
「うーん、その記憶は向こうで誰かが送ったとか。」
「なんで?」
「それは、事件を解決できる重要な人物が記憶のビジョンの中にいたからじゃない?」
「けど、その記憶は懐かしさが強くて内容が見えないの。」
「まるで暗号ね……。」
「鈴、ウラルの私が会ったら懐かしいって思える人って誰?」
「やっぱり親じゃないかしら。……待って、もしかするとあいつ…まさかね。」
「あいつ?」
親以上に大切な人がいたのだろうか?
まあ私も親がいないし、サンとルナが親みたいなものだけど。
「骸亜っていうんだけどね。飛鳥の親代わりの人よ。……っていっても私や竜と歳は変わらないんだけど。けど飛鳥にとってあの人が一番大切だったみたい。あいつが死んだとき、すごい怒って竜に攻撃してたっけ。」
「死んだって……竜さんが殺したの!?」
「いや、本当に死んだかすらわからないけど建物内の戦闘でね、私たちが外に行ったあと二人だけで闘ってたの。で、竜が勝ったらしくて建物から出てきたんだけどね、骸亜は出てこなくて結局建物は崩れたわ。けど、瓦礫からあいつの遺体は出てこなかったの。」
「だけど出てこなかったことからその時のウラルの私は竜さんが殺したと思い込んで……。」
自分がものすごく怒るとどうなってしまうのだろう。
私だとウラルの自分より酷くなるかもしれない。
剣をもって強力な技や魔術を詠唱がめちゃくちゃな状態で乱発して魔力が切れるまで容赦なく敵に撃ち続けるだろう。
「けど思い返してみれば、その時以来飛鳥がキレたところみてないな。あれから竜にはキツいことばかり言うけど、基本楽しそうだし。」
「そうなんだ。けどそれまでにすごい時間かからなかった?私自身がそんなんだから。」
「うん、だけど今でも飛鳥は私たちに心を開いてくれてないと思う。……飛鳥、」
「? 何?」
「私こっちの世界の飛鳥が帰ってきたらあの子を私の家で養子にしたいんだけどいいと思う?」
「え…」
言葉が見つからなかった。
私はウラルの鈴と過ごしていて姉ができたみたいで嬉しい。
しかしウラルの私はどう思うだろうか。
もし私が「いいと思う」と言ったらあっちの人生を勝手に私がきめたことになるのではないか?
「そ、そういうのを私が答えてもダメだと思う……。」
「やっぱり?けど自分がこっちの飛鳥の立場ならどう?」
「私はいいと思う。鈴はしっかりした人だからこっちの私をしっかり守っていると思うから。」
「そんなこと言うけどあなた、自分のもとの世界に帰ったら私に姉妹になってほしいって言われるのよ?」
「それは速攻で拒否する。」
クロスの鈴もこっちの鈴みたいにちゃんとしていてくれて年上なら考えるけど。
……あ、符養がいたから無理か。
彼女なら「私が飛鳥の妹になる……」って言いそう……。
「……なんか私の場合はOKしてくれたのに傷つく。」
鈴が落ち込んだ。
「こっちの鈴はあっちの鈴を知らないからそんな反応するんだよ。一度会えば私が拒否する理由わかると思う。」
「……そんなこと言っているけどもしかしてあっちの私のこと嫌いなの?」
「嫌いじゃないよむしろ好き。けど、一緒にいると疲れるっていうか……。真剣な時はウラルの鈴みたいに…かっこいいのに…………。」
私はかっこよくないよ、と鈴が言った。
いや、多分そう言った。
急に目の前が真っ暗になって意識を失ってしまったからだ。
空を飛んでいる
そんな感覚だった。
地面や壁といった堅い感触がなく、どこにも触れていない。
と、堅い感触が戻った。
「飛鳥っち!」
その声で目が覚めた。
そこには鈴がいた。
だが、さっきより少し幼い。
それと呼び方。
ああそうか。
私はクロスに帰ってきていた。
クロス帰ってきた飛鳥。
しかしまたウラルへと行かなければならない事情ができた!?
異世界での物語もいよいよクライマックス!?
次回!『別れ』
……と、半分あっていて半分はずれている次回予告です。
次回は飛鳥の世界の物語ではなく別世界の別時間での人物の物語でもやろうかなと思ってたり思ってなかったり……。
異世界と異世界での物語が交差し始めた
とは言ってもまだまだ序章なんですけどね
戸宮神 秋雨高校一年
竜の親友だが竜は否定。
中学は竜や鈴と違い、中学二年まで予知夢を見ることができた。
竜達とは中三の秋に偶然出会い、意気投合して仲良くなったらしい…。
お調子者でよく鈴や竜からスルーされることが多い。