一ヶ月後の私
あの実習から一ヶ月後。
私は魔術科にも慣れてきて、鈴から口調の改善をしつこく言われて変えてみたが変わったのは私の口調だけではなく性格も少し変わってしまった気がする。
「鈴、おはよっ!」
朝、私は鈴に挨拶する。
この一ヶ月何も事件がなかった。
「お〜、飛鳥っちおは〜。」
鈴が返してくれる。
私は鈴の隣の席に座っていつものような会話を始める。
「飛鳥っち知ってる?昨日久しぶりにウラルからの物が見つかったんだ〜。」
「え!?そんなニュースやってた?」
ウラルというのはこの世界に平行する世界でその世界に行った人は誰もいない。
しかし時々ウラルの物がクロスワールドにくることがある。
昨日のニュースを思い返すがそんなニュースはやっていないことに気がつく。
「ま…さか…。」
「そのまさかだよ飛鳥っち♪」
鈴がニヤッと笑う。
「昨日見つけたんだ。だから今日うちにきなよ。」
「うーん、興味あるけど見るだけ?」
「違うよ。使うの。」
私は鈴の発言に驚いた。
ウラルの物を使った人はいない。
なぜなら使い方がわからないからだ。
「え、使うって…。使えるの?」
「正確には使い方を考えようと言った方が良かった?」
その言葉で私はホッとする。
「もう、まぎらわしいな。」
「ごめんごめん。……あ、もうすぐ授業だ。飛鳥っち、また授業の後にね。」
私は自分の席に戻った。
授業の後、鈴は私を連れて自分の家に向かった。
鈴の家はまだ一度も行ったことなかった。
理由は簡単で鈴が行かせなかったからである。
しかしどうして今になって家に入れてくれるのだろう。
「ここだよ。……ごめんね、家が汚くて。」
私は鈴の家の中を見て驚いた。
汚いほどではない。
完全にゴミの山だった。
だがよく見るとゴミではなく何かの資料のようだ。
その証拠になにやら文字が書いてある。
「それまだ使うから捨てないでね。」
鈴が奥の部屋から叫ぶ。
「これ何の資料?」
「ああ、これら全部私のオリジナル魔術や複合魔術の研究資料。私こうやって魔術の研究しているんだ。」
知らなかった。
やっぱり複合魔術やオリジナル魔術の発動はここまで研究しなければいけないようで、すぐに出せた私がなぜか恥ずかしい。
「ごめんね。私が簡単に魔術だせて。」
「なんで飛鳥っちが謝るのさ。…あ、本題に戻らなきゃ。」
私も魔術の研究資料ですっかり忘れていた。
「ほい、これなんだけど。」
鈴が取り出したのは箱のようなものでそこに札が刺さっている。
札には赤い帽子をかぶったおじさんが描かれている。
「…これの使い方を考えるの?」
「うん、そだよ。」
たしかウラルの機械はすべて雷のエネルギーで動いていると聞く。
つまりこれに雷の魔法をあてれば動くのかな?
「『天にある雷、裁きを』…」
「あああ飛鳥っち!なんで呪文唱えてるの!?」
鈴が止めにくる。
私は何か変なことをしただろうか?
「え?だってウラルの機械は雷のエネルギーで動いているって聞いたことあったから試してみようかなと。」
「あ、そうなの。じゃあこれに雷の魔術を撃てば動くかもしれないということだね。」
「うん、どうせなら最大の魔術を二人で撃てば活発に動くかもしれないよ。」
私の提案で二人で雷魔術の上級魔術を撃つことになった。
「「『雷よ、我らの敵に裁きの雷で破滅に陥り、破滅の雷で敵を裁け ジャッジメントボルテック!!』」」
巨大な雲が私達の目の前に現れる。
そして雷が機械に降り注ぐ。
しかし機械の様子がおかしい。
起動してもいいのに、全く起動せずなにやら電気を帯びている。
「どうしたのかな?…いてっ!!」
鈴が機械に触れるが鈴はすぐに手を引っ込める。
「いって〜…。ホントどうしたんだろ…。」
「魔術が強かったのかな?…って、ちょっと!これ危ないって!」
私は機械が異常な状態になっていることに気がついた。
そして機械が爆発した。
私達はどうにか避難していたため怪我も何もなかった。
しかし鈴が大切にしていた研究書が燃えていく。
このままでは家全体が燃えてしまう。
「飛鳥っち。ちょっと水系魔術で消火を手伝ってくれない?今度は弱い魔術を使ってさ。」
「わかった。」
二人で別の場所で燃えている火を消しにはいる。
「『飲まれろ! アクア!!』」
魔法陣から水が噴き出す。
水は火を消していく。
下級魔術の多くはコツをつかめば長時間発動させることができる。
なので連続で術を発動するより魔力の消費を抑えることができる。
火はすぐに消えた。
しかし鈴は少し悲しそうな顔をしている。
「鈴、ごめんね。私があんなこと言わなければ鈴が大切にしていた研究書が燃えなかったのに……。」
「そんなことまったく気にしてないよ。」
「うぇ?」
驚きすぎてマヌケな声が出てしまう。
「だってさっき悲しそうな顔をしていたからてっきり…。」
「ああ、さっき『今日のご飯どうしようかな〜』って思ってて…。ここにあったのは研究済みのだからいい…って飛鳥っち?なんでそんな怖い顔を?」
「うるさーい!私の謝罪の言葉を返せー!」
私は鈴を二時間近く説教した。
そして次の日、鈴は昨日何もなかったかのように私に話しかけてきた。
「飛鳥っちおはよっ!」
「あのね、昨日のこと何も思ってないの?」
「過去のことは気にしない♪」
この人は過去のことでウジウジしたくないからこんなことを言っているだけで本当は心の底から反省している。
……と思いたい。
「飛鳥っちさ、私だけには普通に喋るよね。」
昼休みに鈴が話しかけてくる。
「……鈴が敬語やめてって言ったんだよね?」
「言ったけど私だけじゃなくて他の友達にも敬語じゃなくて普通に喋ればいいじゃん。0にもあの実習以来敬語でしょ?」
ゼロと会話している時は鈴はいないはずなのにどうしてこういう情報が入ってくるのだろう。
私はこの人に監視されているのではないのだろうかという感情が生まれた。
「私を監視してるの?」
「監視じゃないよ。ほら、親が子供の成長を見守るようなものだよ。」
「私、あなたの子じゃないんだけど…。」
鈴は戸惑っている。
私は怒っている。
私は鈴のストーカー行為をどうにかしなければいけないと思った。
「鈴、あなたはその…私を監視するのをやめてほしいのだけど。これ以上やるといくら私の大切な親友でも私の最大級の魔術と剣技でお仕置きをしなければいけなくなるよ?」
「わかったから、剣をおろそ。」
頭を冷やした私とストーカー行為を反省した鈴は話の本題に戻る。
なぜ私が鈴以外の人には敬語で話すのかということである。
「で、なんでなの?」
鈴が聞いてくる。
「え、えっと…まだ鈴以外の人には話しかけにくいからかな?鈴とは冗談を言い合える…相棒的存在だと思えるからだと思うよ。」
「飛鳥っち……私のこと、そんなにも大切に…。」
鈴が泣き始める。
嬉し泣きだろうか、私はそっとしてあげると授業の鐘がなる。
鈴は授業中も泣いていた。
放課後、鈴は私に昼のことについて話しかけてくる。
「今日はごめんね。急に泣きだしてさ。私一度泣きだしたら止まりにくいからさ。」
「うん。私も言って良かったと思ってる。」
「けどさ、」
鈴は声を真剣にして話をきりだす。
「他の人にも敬語で喋らないように心がけようね。」
やっぱり諦めていないようだった。
帰りの道中、私は誰かの気配を感じながら鈴と話して帰っていた。
「飛鳥っち~、なんかにおわない?」
鈴が話しかけてくる。
何もにおわない。
ということは鈴なりの「誰かの気配がする」ということなのだろう。
「うん、におうね。気をつけたほうがいいかもね。」
「右からする?」
「そうだね。右だね。」
鈴や私が言ったように右から誰かの気配…殺気がする。
もしこの殺気の正体が殺し屋だとしたら殺し屋失格だろう。
「あれ?においが小さくなった?」
鈴が「殺気が消えた」と言う。
私にも殺気が感じられない。
その瞬間、鈴が倒れこんだ。
私は周りを見渡すがどこにも人はいない。
人の気配がしてその方向…つまり後ろを見ると一人の少女が立っていた。
飛鳥の変わりようがすごくて驚きました。
しかしこれは鈴に対してだけなので安心してください。
第二部です
第二部からは一つの話ごとに章わけをする予定です(一部もそうでしたが・・・)
グダグダ、長々とやっていきますがここからも応援よろしくお願いしますm(_ _)m
ウラル
クロスワールドに平行する世界。つまり私達が住む世界のことである。
時々ウラルの物体がクロスワールドに流れることがあるが逆は無い。さらに言うとウラルの人がクロスワールドにくることは無いし逆も無い。