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きちんと文を書こうと思い、全て改変します!内容はそのままの部分も多いですが、残しておきたいため、ここに全話張ります!

作者: B.B(ビックベア) 熊原大智
掲載日:2026/03/24

第一話

高三の冬、


学校は自由登校前最後であり、俺はすでに大学が内定している、もう彼女とは当分会えないと思いながら、別々な大学に通うことになった女友達と途中まで歩いていた。


憂鬱な気分の中、家にの目の前に着いたとき、背中を見られているような感じがした。思えばこれが俺の試練の始まりだった...地面が、揺れた。


「……は?」


最初はただの地震だと思った。


けど、違った。


空が――割れた。


ガラスみたいに、黒い亀裂が走って、


その向こうから“何か”がこちらを覗いている。


巨大な“目”。


ありえない。現実じゃない。


周囲の人間もざわついてるのに、どこか現実感がない。


そのとき、頭の中に直接、声が響いた。


「――選別を開始する」


冷たくて、感情のない声。


「試練を与える。生き延びよ」


次の瞬間、視界の端に文字が浮かんだ。


【ステータスを解放しました】


「……は?」


周りを見ると、何も見えていない人もいる。


逆に、驚いた顔で空中を見つめてる奴もいる。


どうやら、“見えてる奴”と“見えてない奴”がいるらしい。


さらに、俺の視界にだけ、ノイズ混じりの表示が現れた。


【称号:「次代の挑戦者、才覚を秘めし者」】


訳もわからず文字を押してみると頭の中にノイズが流れてきた…■■■̷̡̾■■̷̩̓■■


文字が、壊れてる。


バグみたいに、読めない。


「なんだよこれ……」


理解が追いつかないまま、また地面が揺れる。


次に現れたのは――


家の庭。


いや、“庭の奥”。


そこに、今までなかったはずの“入口”があった。


黒く口を開けた、異様な穴。


「……ダンジョン?」


なぜか、そうとしか思えなかった。なぜならこれから起こる試練が頭に流れ込んできたから...


でも、親も近所の人も、誰も気づいてない。


まるで“存在していない”みたいに通り過ぎていく。


俺にだけ、見えている。


――行くしかない。


理由はわからない。


でも、行かなきゃいけない気がした。


家に戻って、じいちゃんの遺品を引っ張り出す。


古びた、日本刀。


重い。けど、不思議と手に馴染む。


「……はは、何やってんだ俺」


笑ったけど、止まらなかった。


そのまま、庭の奥の“穴”に足を踏み入れる。


中は、真っ暗だった。


完全な闇。


「見えねえ……」


ポケットからスマホを取り出して、ライトをつける。


白い光が、狭い通路を照らした。


湿った空気。


どこかから、水の音。


一歩ずつ、奥へ進む。


足音だけがやけに響く。


そして――


突き当たりに、“扉”があった。


不自然なほどに、綺麗な扉。


この場所に似つかわしくない。


「……開けろってことかよ」


手をかける。


その瞬間――


第二話

扉は、思っていたよりもずっと軽かった。


「……拍子抜けだな」


ギィ、と鈍い音を立てて開く。


その先にあったのは――部屋、ではなかった。


空間そのものが、歪んでいた。


中央に浮かんでいるのは、黒い“渦”。


煙みたいにも、水みたいにも見える。


でもどれにも当てはまらない。


見ているだけで、頭がざわつく。


「……なんだよ、これ」


生き物?


いや、違う。


でも、“何か”がそこにいるのは分かる。


心臓が嫌な音を立てる。


普通なら、逃げる場面だ。


なのに――


「……知らねえよ」


気づいたら、踏み込んでいた。


じいちゃんの日本刀を握り直す。


理由なんてない。


ただ、“叩ける距離にいる敵”にしか見えなかった。


「ッ!」


振り下ろす。


刃が、黒い渦に触れた瞬間――


ズブッ、と嫌な感触が手に伝わる。


柔らかいのに、抵抗がある。


次の瞬間、


「――■■■■■■」


耳じゃない、“頭の中”で何かが悲鳴を上げた。


黒い渦が、ぐにゃりと歪む。


さらにもう一撃。


二撃、三撃――


「うおおおッ!!」


意味も分からないまま、叩き続けた。


そして――


渦は、弾けた。


黒い粒子になって、空中に散っていく。


静寂。


「……は?」


息を切らしながら、その場に立ち尽くす。


今、自分は何を斬った?


分からない。


でも――


視界に、また文字が浮かぶ。


【???を撃破しました】


【経験値を獲得】


【称号効果の一部が反応】



三話


黒い粒子が、完全に消えきる前。


霧が黒く、濃く、歪み始めた


「……まだ何かあんのかよ」


視界が白く濁る。


さっきまでの静寂とは違う、“気配”があった。


その中心に――


“人影”が立っている。


黒いフード。


顔は、影に沈んで見えない。


いつからそこにいたのかも分からない。


「……誰だよ」


問いかけても、そいつは動じない。


ゆっくりと、こちらを向く。


そして――


口を開いた。


「私は、先代の挑戦者」


空気が、重くなる。


意味が分からない。


だが、“冗談じゃない”ことだけは直感で分かった。


「次代の挑戦者に、ほんの少しのプレゼントを」


「……成長を、期待するよ」


淡々とした声。


感情があるのかすら分からない。


「……は?」


理解が追いつかない。


何を言っているのか分からない。


でも――


分からないままにしておくのは、もっと気持ち悪かった。


「ふざけんなよ」


踏み込む。


考えるより先に、体が動いていた。


日本刀を振り上げる。


「お前、何者だッ!!」


そのまま、斬りかかる――


が。


刃が届く直前。


そいつの体が、霧に溶けた。


「なっ……!?」


空を切る一閃。


手応えは、ない。


完全に、消えた。


残ったのは、霧と――


耳の奥に残る、最後の声。


「.....どうか君にとっての正しい選択を」


四話


しばらく、その場に横になっていた。


天井もない、歪んだ空間をぼんやり見上げながら、息を整える。


「……なんなんだよ、マジで」


ひんやりとした床が、まるで俺を拒むかのように冷たく沈む。


思考を整理しようとするけど、頭の中は混乱のまま、なにもまとまらない。


地震。空の亀裂。変な声。ステータス表示。


黒い渦に、あのフードの影。


何一つ理解できていない。考えようとしても、途中で思考が止まる。


怖いとかじゃない――ただ、圧倒されて、体が思考を拒否している感覚だった。


「……ダメだな」


分からないことを考え続けても、答えは出ない。


だから、ゆっくり体を起こした。


そのとき、視界の端に――


“それ”があった。


部屋の奥。


さっきまでは気づかなかったはずの位置に、ぽつんと置かれている。


「……宝箱?」


いかにも、って感じの箱。


金属製なのか木製なのか判別できないが、微かに光を反射している。


この状況で現れる時点で、怪しさしかない。


罠の可能性もある。


「……はは」


少しだけ笑った。


もうここまで来ると、逆にどうでもよくなってくる。


「今さらだろ」


ゆっくり近づく。


刀は握ったまま。


冷たい床が足の裏に伝わる感覚を無視して、呼吸を整える。


箱の前に立つと、周囲の空気まで止まったかのように静かになった。


しばらく見つめる。


動かない。気配もない。


何かが潜んでいるようで、でも何もない。


そして――


「……開けるぞ」


誰に言うでもなく、呟く。


手をかける。指先に伝わる冷たさが、なぜか安心感すら与える。


微かに箱の蓋が震えた。


一瞬だけ、躊躇した。


だが、理由はない。


そのまま、蓋を引き上げる――


光が、飛び出した。


眩しくもない、不思議な光。


その中に、小さな結晶が浮かんでいる。


透き通った青い輝きに、目を奪われた。


そして、同時に視界の端に文字が浮かぶ。


【スキルコアを入手】【使用しますか?】


「Yes or No」


「……は?」


 「当然yesだろ!」


そう言うと文字化けした称号の効果欄が、かすかに光った。


読めない。でも、なぜか体が熱を帯び、力が湧いてくるのが分かる。


理解はできないけど、確かに“何か”が変わった――そう感じた。


その瞬間、霧が立ち込めた。


「……またかよ」


先ほど現れた先代の挑戦者とやらがまた出てきた…


顔は影に隠れ、表情は見えない。


でも、存在感だけで相変わらず圧倒的だった。


「私は、先代の挑戦者」「プレゼントの説明をするのを忘れていたね…」


口を開くと、声が直接、頭に響く。何度聞いても慣れることは無さそうだ。


「……は?」


まだあるのか...


言葉の意味を考えるより先に、疲れたと思うより先に体が動いた。


「ふざけんな!」


刀を振り上げ、斬りかかる――


だが、刃が届く直前、黒い影は霧に溶けた。


一瞬のうちに消えた空間に、残ったのは微かに漂う冷気だけ。


耳に、最後の声。


「……君は私によく似ている、スキルを使いこなせ」


その瞬間、また文字が浮かんだ。


【スキル獲得】


【スキル"念動力"魔力操作"を習得しました】


「……え?」


何が起きたのか、まだ分からない。


でも、確実に――俺の体に変化があったのは確かだ。


ゆっくりと息を整え、もう一つの宝箱の中身を握りしめる。


ここから、何が始まるのか――まだ誰も知らない。


ステータス


名前_源藤仁


称号_次代の挑戦者、才覚を秘めし者


魔力_


体力_


スキル_念動力、魔力操作


五話


ダンジョンの出口から出ると、空気は変わっていなかった。


時間が――まったく経っていないことに気づく。


「……え、さっきの時間、無かった?」


腕時計も、スマホの時計も、同じ時刻のままだ。


現実は何も動いていない。


でも、確実に自分は変わった。


胸の奥に、熱いものが残っている。


それから、選ばれし者、いや選ばれてしまった者達に聞こえた試練を思い返してみる。


伝えられた試練は、四つあった――


第一の試練


覚醒者のみがダンジョンを視認できる。


その者だけが強くなる。


つまり、俺みたいな存在は特別だ。


普通の人間には、この場所は見えない。


第二の試練


すべての生物にダンジョンが視認される。


モンスターが強化され、ダンジョンの外へ出てくる。


もう安全な場所は、どこにもない。


第三の試練


人類のほとんどが覚醒を遂げる。


全世界が戦場になる。


人類とモンスターの総力戦が避けられない。


第四の試練


魔王や魔神と呼ばれる化け物が現れる。


その時代のランカーが挑む。


勝とうが敗れようが、残り5年しか生き残れない世界。


恐怖は、現実にも降りかかる。


一度ニュースを見れば――


日本全国、いや世界中で、突然発狂する人間が現れ、街は混乱した。


「もうおしまいだ」――そんな言葉が溢れた。


政府は、伝染型の精神病ではないかと緊急事態宣言を発令する。


同時に、渋谷のスクランブル交差点に異様に人がいないことが話題になり、


「ここになにかがあるのでは?」と疑われる始末だった。


そんな世界で、俺は生き残るために――


準備を整えた。


装備を確認し、食料や薬、必要なものを集める。


じいちゃんの日本刀はもちろん、宝箱から手に入れた刻印が入った布やスキルも駆使する。


すべては、次のダンジョン攻略のためだ。


――もう、引き返す理由はない。


胸の奥に、先代の挑戦者の言葉を思い出す。


「……君は私によく似ている、スキルを使いこなせ」


深く息を吸い、俺は歩き出す。


ダンジョンに向かう一歩一歩が、未知の試練への覚悟を刻んでいく。


ダンジョンに行くための装備


登山用バック


 -懐中電灯


 -食料


 -水


 -じいちゃんの日本刀


 -宝箱から出た謎の布


自分自身


六話


渋谷の街に足を踏み入れたとき、最初は半信半疑だった。


ニュースで「異様にスクランブル交差点が空いてます」と言われても、本当にダンジョンがあるのかの確信はほとんどなかったからだ。


だが、目の前に――確かに、空間の歪みが広がっていた。


灰色の霧と、不自然に揺れる空気。


その中心に、ダンジョンの入口。


「……あったんだ」


ほっと息を吐いた。


家から持ってきた日本刀が見つからなくてよかった、と安堵もした。


見つかってたら、今頃ここにはいなかっただろう。


恐る恐るダンジョンに足を踏み入れる。


中は、まるで漫画やアニメでよく見るような光景だった。


ゴブリンやスライムといったモンスターが数十体、散らばるように存在している。


でも、こちらから攻撃しない限り、襲ってくる気配はないようだ。


「……よし、まずはスライムか」


刀を取り出し軽く振ると、ぷるぷるした感触のままスライムが切り裂かれる。


すると、すぐに経験値が入ったようだ。


画面表示のない世界なのに、体が確かに成長を感じている。


次は、スキルの練習だ。


家で確認した通り、念動力は目標を定めてイメージすると対象を潰すことができる。


魔力操作は、魔力を使って剣のようなものを作る能力。


魔法も試したが、どうやっても上手くいかない。


しかも、両方使うと体力がぐんぐん削られることも分かった。


まず念動力を試す。


「潰れろ」――そう思っただけで、周囲のモンスターが一瞬にして潰れた。


圧倒的に便利だが、体力は大幅に消耗する。


疲れ切った体を抱え、周りにモンスターがいないことを確認してから床に倒れ込み、仮眠を取った。


目を覚ますと、周囲にモンスターが戻っていた。


腰を抜かすほど驚いた。


どうやら、ボスを倒さない限り、時間差で復活するらしい。


「……なるほど、練習にはちょうどいいな」


今度は魔力操作を試す。


手刀を鋭くしてゴブリンを斬る。


不思議と、殺しても吐き気がしない。


称号の効果かもしれない。


いや、称号も含め、ほとんどのことがまだ理解できていない。


ひたすら、寝て倒してを繰り返す。


レベルは10まで上がったが、それ以上は全然上がらない。


持久戦には向かない体質だと痛感する。


少しは持久力が延びたものの、やはり疲れる。


そしてついに、ボス部屋に到達する。


ボス部屋の扉を押し開けると、空気が一変した。


湿った匂いと、どこからともなく聞こえる低いうなり声。


部屋の中央、巨大なスライムとゴブリンが、こちらを見据えていた。


スライムは半透明で、光を反射する表面が揺れる。


ゴブリンは筋骨隆々で、手には棍棒のような武器を握っている。


まるで、漫画やゲームのボスそのものだった。


「……ふぅ、まずは落ち着け」


呼吸を整え、手にした日本刀を握り直す。


目標を定め、念動力の核を思い浮かべる。


「潰れろ……!」


手元から意志が伝わるような感覚とともに、スライムの体がぐにゃりと潰れ、弾けて消滅した。


拍子抜けするくらい簡単だったが、その分、ゴブリンが視界に入ると威圧感が増す。


「よし、次はこいつだ」


魔力操作を使って、刀の先端に魔力の刃を形成する。


透明な光の刃が、手刀に沿って鋭く伸びる。


ゴブリンの棍棒が振り下ろされる前に、まずこちらから斬りつける。


「くっ……硬い!」


棍棒で防がれながらも、隙をついて斬撃を重ねる。


一撃一撃、魔力操作で刃を強化するたびに体力が削られていくのが分かる。


でも、称号の力なのか、感覚的に耐えられる範囲だ。


ゴブリンは素早く回避し、反撃を狙う。


棍棒が肩をかすめ、痛みが走る。


踏み込んで距離を詰め、念動力で目標に圧力をかける。


「潰れろ……!」


集中した瞬間、ゴブリンの体がぐにゃりと歪み、床に崩れ落ちた。


体を起こす前に、もう一撃、刀で仕留める。


倒した瞬間、体中の力が抜け、膝から床に崩れ落ちる。


「はぁ……はぁ……疲れる……」


息を整えながらも、達成感が込み上げる。


スライムは簡単、ゴブリンは時間がかかった。


でも、両方を倒しきった達成感は大きかった。


ふと、周囲を見渡す。


モンスターは時間差で復活するらしいが、今は静かだ。


この瞬間、少しの安堵と次の戦闘への覚悟が胸に湧きながらも眠りについた。


7話


ボスを倒した瞬間、全身の力が抜け、床に崩れ落ちた。                   


意識はまだ戦闘中の緊張に引きずられ、呼吸が荒い。


体中が痛く、疲労で手足が鉛のように重い。


そのまま、気づけば寝ていた。


夢も見ず、ただ床に横たわって、体を休める。


目を覚ますと、部屋は静かだった。


戦闘の気配は消え、モンスターの残像もない。


目の前には、あの宝箱。


「……またか」


疲労でろれつが回らないまま、手を伸ばし蓋を開ける。


中には光る小さな袋――マジックポーチが入っていた。                   


名前からしてただものではない気配。


試しに手持ちの日本刀や、モンスターから手に入れたドロップアイテムを詰め込むと、不思議なことに全部収まった。


重さも変わらず、何でも収納できるらしい。


準備を整え、ダンジョンの外に出る。


ふと空を見上げ、街の景色を確認して――違和感に気づく。


「……時間、めっちゃ経ってる?」


前回のダンジョンのときとは違い、現実世界ではかなりの時間が経過していた。         


カレンダーを確認すると、卒業式まであと2日。


                      


「……は?」                  


                        


心臓が跳ねる。                 


親には「友達とキャンプに行く」と言ってある。


でも、これはさすがに言い訳が通用しない時間のずれだ。                   


家に帰ると、スマホの電源を切れていて連絡できなかったことを言い訳にして、急いで卒業式の準備をする。                                      


服を整え、必要な書類をまとめ、荷物を確認する。      


疲労で動きが鈍い体を引きずりながら、何とか1日が終わった。


体は重いけど、心の奥では不思議な高揚感が残っている。                   


                      


「……ま、何とかなるか」                   


                                 


明日も、そして卒業式も――戦場を抜けた俺にとっては、また別の試練の始まりにすぎなかった。


8話


――やばい。


目が覚めた瞬間、そう思った。


時計を見る。


一瞬で血の気が引いた。


「……は?」


完全に寝坊していた。


昨日の疲れが抜けきらず、そのまま寝落ちしたのが原因だ。          


体はまだ重い。でも、そんなこと言ってる場合じゃない。                


「詰んだ……いや、まだだ!」


飛び起きて、適当に身支度を整える。


ネクタイは歪み、シャツのボタンも一つズレている。         


でも直してる時間はない。


玄関を飛び出して、全力で走る。


今日は――      


青葉学院高等部の卒業式。


そして俺、源藤仁は――


成績良好、態度良好。


その結果―


「……卒業生総代なんだよなぁ!!」


叫びながら走る。


遅刻とかシャレにならない。


最悪、式そのものが止まる可能性すらある。


坂道を駆け上がったところで、前方に見覚えのある姿があった。


風を切るように、自転車を漕ぐ少女。


幼なじみの――西恵。


「おい!西!!」


思わず声を張り上げる。


彼女は一瞬だけこちらを見た。


目が合う。


「乗せてくれ――!」


そう言いかけた瞬間。


西は、にやっと笑った。


そして――


そのままスピードを上げて、走り去っていった。


「……は?」


一瞬、思考が止まる。


「いやいやいや!ちょっと待て!?」


取り残される俺。


遠ざかっていく背中。


「薄情すぎるだろ!!」


叫びながら、結局自分の足で走るしかなかった。


なんとか、ギリギリで学校に到着する。


校門をくぐった瞬間、膝が笑った。


息は上がりきって、視界が少し揺れる。


「はぁ……はぁ……間に、合った……」


先生の視線が突き刺さる。


でも、怒られる余裕もない。


そのまま式は始まり――


気づけば、壇上に立っていた。


「……あー」


頭が回らない。


さっきまで全力疾走していたせいで、心臓の音がうるさい。


それでも、なんとか言葉を紡ぐ。


用意していたはずの文章はほとんど飛んでいたが、口は勝手に動いた。


拍手。


歓声。


気づけば、役目は終わっていた。


式が終わった頃には、完全に燃え尽きていた。


体は重く、意識もぼんやりしている。


友人たちの声も、どこか遠くに聞こえる。


ダンジョン。


モンスター。


試練。


そんな“世界が変わった現実”は――


この瞬間だけは、頭から消えていた。


「……疲れた」


ただ、それだけを呟いて、空を見上げる。


青くて、何も変わらない空。


まるで、あの出来事が全部夢だったかのように―


9話


卒業式を終え、俺は正式に“自由人”になった。


校門を出た瞬間、妙な解放感があった。


これからは学校に縛られることもない。


――普通なら、の話だが。


「……いや、今それどころじゃないよな」


スマホを確認すると、大学からの通知が来ていた。


内容はシンプルだった。


“非常事態宣言に伴い、当面の間登校禁止”


さらに追い打ちをかけるように、


“安全が確認されるまで来校しないように”


とまで書かれている。


「……来るなってことかよ」


思わず苦笑する。


まあ、あの状況を見れば当然かもしれない。


世界中で人が発狂し、意味不明な現象が起きている。


それを“感染する精神病”として処理している時点で、政府も混乱しているのが丸わかりだ。


「ってことは……」


少し考えて、結論にたどり着く。


「……暇だな」


少なくとも、半年くらいは確実に自由な時間がある。


普通なら最高の状況だが――今は違う。


むしろ、猶予期間だ。


あの“試練”のことを思い出す。


第一、第二、第三、そして第四の試練。


どれも冗談じゃ済まない内容だった。


特に最後。


魔王や魔神と呼ばれる存在。


そして、残り5年という制限。


「……笑えねえ」


小さく呟く。


あれが本当なら、いずれ俺は“化け物”と戦うことになる。


しかも、勝っても負けても終わりが見えている世界。


なら――やるべきことは一つだ。


「強くなるしかねえ」


そのために必要なものを、頭の中で整理する。


まず、自分自身の強化。


レベル上げ、スキルの習熟、戦闘経験。


そして――


「……仲間、か」


一人で戦うには限界がある。


実際、ダンジョンで痛感した。


持久力が足りない。


判断も、戦い方も、まだ未熟だ。


あのボス戦だって、運が良かっただけだ。


もし相手がもう少し強かったら――間違いなく死んでいた。


「……ソロは無理ゲーだな」


結論は出ている。


仲間が必要だ。


信頼できる仲間。


じゃあ、どうやって探すか。


「……ネット、か」


スマホを操作する。


すると、すぐに見つかった。


“覚醒者スレ”


とある匿名掲示板に、すでにそれは存在していた。


開いてみると、書き込みはカオスだった。


『ダンジョン見えてる奴いる?』


『これゲームじゃね?』


『ゴブリンいたんだが』


『スキル使えたんだが俺だけ?』


「……いや、普通にいるんだな」


少なくとも、自分だけじゃない。


それだけで、少し安心した。


だが同時に――


「やばい奴も多そうだな……」


匿名ということもあって、信用はできない。


下手に組めば、後ろから刺される可能性もある。


「……慎重にいかないとダメだな」


掲示板は情報収集用に使うことにする。


次に考えたのは、SNSだった。


「……あれ、使うしかないか」


スマホの奥深く。


ほとんど触っていなかったアプリを開く。


中学生の頃に作ったアカウント。


いわゆる――黒歴史の塊。


「うわ……」


過去の投稿が目に入る。


意味不明なポエム。


謎の設定。


“選ばれし者”とか書いてある。


「……消したい」


本気で思った。


でも、今はそんなこと言ってられない。


「背に腹は代えられない、か……」


意を決して、投稿を打ち込む。


『覚醒者募集。ダンジョン攻略できる人、連絡ください』


送信。


数秒の沈黙。


そして――


通知が鳴り始めた。


「は?」


思った以上の反応だった。


その中に、見覚えのある名前があった。


西 恵


「……え?」


思わず、画面を見つめる。


メッセージを開く。


『あんたも、聞いたんだ』


短い一文。


でも、それだけで分かった。


「……マジかよ」


あの日。


空の亀裂と、あの“声”。


それを――西も聞いていた。


つまり。


「西も、覚醒者ってことか……」


脳裏に浮かぶのは、あの朝の光景。


自転車で走り去っていったあいつの顔。


あのときの“目”。


どこか、いつもと違っていた気がする。


「……なるほどな」


偶然じゃない。


最初から、“そういう世界”だったってことか。


少し考えて、返信を打つ。


やり取りを重ねて、状況を確認する。


どうやら西もダンジョンに入っているらしい。


しかも、それなりに戦えている。


「……頼もしいな」


小さく笑う。


これで、少なくとも一人。


信頼できる仲間候補ができた。


さらに、SNS経由で数人から連絡が来ていた。


中には、まともそうなやつもいる。


「……よし」


決断する。


「一度、会ってみるか」


来週。


ネットで集めたメンバーと顔合わせをすることになった。


正直、不安はある。


どんな奴が来るのか分からない。


でも――


「やるしかねえよな」


立ち止まっている暇はない。


試練は、もう始まっている。


そして俺は――


その中で生き残るために、進むしかない。


仲間一覧


 -俺


 -恵


 -?1


 -?2


 -?3


 -?4


 -?5


十話


今日は休み。


何もない日――のはずだった。


いつも通り、適当に起きて、適当に一日を消費する。


そんな“普通”を送るつもりだった。


だが――


「……は?」


スマホの通知を見た瞬間、固まった。


『今日、集合な。忘れんなよ』


送信者――西恵。


数秒、思考が停止する。


そして、ゆっくりと記憶が蘇る。


「……あ」


そうだ。


今日は――


黒歴史アカで集めた変人たちと会う日だった。


「終わった……」


思わず天井を見上げる。


現実逃避したくなる気持ちをぐっと堪える。


(いや、でも行かないと何も始まらないよな……)


そう、自分に言い聞かせる。


とりあえずベッドから降りて、朝ごはんを食べる。


パンをかじりながら、ぼんやりと考える。


(正直、行きたくねえ……)


相手はネットで集めた覚醒者。


まともな保証なんてどこにもない。


むしろ――


“まともじゃない可能性の方が高い”


「……やめとくか?」


一瞬、本気でそう思った。


だが。


「……いや、ダメだな」


結局、結論は変わらない。


仲間は必要だ。


一人じゃ、いずれ死ぬ。


なら、多少ヤバい奴でも――


「使えるならアリ、か……」


そこまで考えたところで、ふとスマホを置く。


「……よし、ゲームしよ」


現実逃避、開始。


コントローラーを握り、電源を入れる。


今日くらいは平和に過ごしてもいいだろう――


そう思った、その瞬間。


ピンポーン。


「……は?」


インターホンが鳴る。


嫌な予感しかしない。


恐る恐るドアを開けると――


そこにいたのは。


「よ、準備できた?」


西恵だった。


「……なんでいるんだよ」


「迎えに来たに決まってんじゃん」


当然のように言う。


その後ろには――


原付。


「……お前、それ」


「16の時にとった」


「いやいやいや、校則」


「もう卒業したけど?」


「……あ」


言い返せなかった。


確かに、もう関係ない。


「ほら、乗りな」


「いや、ちょっと待て」


拒否権は――なかった。


気づけば、後ろに乗せられていた。


風を切る音。


思ったよりスピードが出る。


「おい、飛ばしすぎだろ!」


「大丈夫大丈夫」


全然大丈夫じゃない。


「落ちたら死ぬぞ!」


「その時はごめん」


「軽い!!」


そんなやり取りをしながら――


俺たちは、集合場所へ向かっていた。


到着したのは、小さな喫茶店。


外観は落ち着いていて、普通の店に見える。


だが――


「……ここに、あいつらがいるのか」


扉の前で立ち止まる。


正直、入りたくない。


中には、


怪鳥(黒羽)


女帝(QUEEN)


私刑囚(プー太郎)


奇行子ヒカル


仲裁者(黒羽 人)


という、どう考えてもヤバそうなメンバーが待っている。


「……帰っていい?」


「ダメに決まってんでしょ」


背中を押される。


強制的に入店。


カラン、とベルが鳴る。


店内を見渡す。


そして――


「……誰?」


思わず、そう呟いた。


そこにいたのは、想像していた“ヤバそうな奴ら”ではなかった。


普通の青年。


落ち着いた雰囲気の女性。


ちょっと気だるそうな男。


無駄に元気そうなやつ。


そして――一人、明らかに空気を整えている男。


「……え、マジで?」


拍子抜けする。


だが、その瞬間。


一人が口を開いた。


「君が、“次代の挑戦者”かな?」


空気が変わる。


ただの集まりじゃない。


こいつら――


“本物”だ。


11話


「とりあえず、自己紹介から始めようか」


落ち着いた声で切り出したのは、黒羽人――黒羽正利だった。黒羽人くろうにん


自然と場の空気が引き締まる。


「私は黒羽正利。その……この気だるそうにしているのの兄だ」


隣に座っている男へ視線を向ける。


当の本人は椅子に深くもたれかかり、やる気があるのかないのか分からない表情をしていた。


「来る前はとても楽しみにしていたから、決してだるいわけではない……はずだ」


「じゃあ次は俺っすね」


間髪入れずに返すその男。


「大学三年っす。ヒカルって呼ばれてまーす。まあ、“奇行子”とか言われてますけど」


軽い口調。


どこか掴みどころがない。


(……絶対クセ強いな、こいつ)


内心でそう思いながら、次へ視線を移す。


「大四の、水無月詩乃です」


落ち着いた声。


姿勢も綺麗で、どこか大人びた雰囲気を持っている。


「QUEEN、とか呼ばれちゃってます(笑)」


柔らかく微笑むその様子に、場の空気が少し和らいだ。


「中学三年です!」


元気な声が響く。


「来年度で高校一年になります!水無月恒一です!プー太郎とか私刑囚って呼ばれてます!詩乃お姉さんの甥です!」


一気にまくしたてるような自己紹介。


勢いがありすぎて、逆に圧を感じる。


(……なんかそのあだ名、どっかで恨み買ってそうだな)


そんなことを思いながら聞き流す。


そして最後。


「黒羽です。よろしくお願いします」


短い。


必要最低限。ただ正利さんの弟のようだ、


だが――


一番“何かある”感じがした。


(この人、たぶん一番やばいタイプだな……)


直感がそう告げる。


一通り終わり、視線がこちらに集まる。


「……こんにちは」


軽く息を吸って、口を開く。


「集まっていただき、ありがとうございます。源藤仁です」


一瞬だけ言葉を選ぶ。


「皆さんとパーティーを組んで、ダンジョンを攻略していきたいと思っています」


言い切ると、最後に――


「西恵です!よろしくお願いします!」


元気な声で、恵が締めた。


一拍の静寂。


そして、俺はすぐに本題に入る。


「それで、早速聞きたいんですけど」


正利を見る。


「“次代の挑戦者”って、どこから知ったんですか?」


空気が、少しだけ変わる。


正利は迷いなく答えた。


「私たちの称号が、“次代の随伴者”だからです」


「……は?」


思わず間の抜けた声が出る。


「その効果の一つに、“次代の挑戦者の位置を把握する”とあります」


淡々とした説明。


だが、その内容は重い。


「さらに」


詩乃が言葉を引き継ぐ。


「その人と一緒に行動することで、経験値ボーナスなどの補正も入るみたいなの」


「つまり」


ヒカルが肩をすくめる。


「俺らにとって君は、“当たり”ってわけ」


「……マジかよ」


小さく呟く。


そんな重要な存在だなんて、聞いていない。


というか、誰も教えてくれない。


そのとき。


「ちなみに!」


恒一が勢いよく口を挟む。


「私たち、もう一ヶ月くらい前から集まって活動してるんですよ!」


「レベルも、だいたい10くらいにはなってます!」


「……一ヶ月で?」


思わず聞き返す。


「うん!結構頑張った!」


明るく答えるその様子に、少しだけ考える。


(俺、もっと短期間で……)


言葉には出さない。


だが、確実に差はある。


「あとさ」


恵が横から口を挟む。


「“次代の挑戦者”のことは、覚醒者ならだいたい知ってるよ」


「試練とか、ダンジョンのことも」


「……そうなのか」


思っていたより、世界は進んでいるらしい。


「でね」


恵は少しだけ笑う。


「もう決まってるっぽいよ」


「……何が?」


「私たちがパーティー組むの」


「……は?」


間の抜けた声が出る。


だが、周囲を見れば――


誰も否定しない。


むしろ、“当然”という空気。


その瞬間、ふと思い出す。


ゲームで何度も組んできたパーティー。


このメンバーで、何かをやることに違和感がない。


まるで――


最初から決まっていたみたいに。


「……運命、ってやつか?」


小さく呟く。


自分でも信じているわけじゃない。


でも、そう考えると妙にしっくりくる。


一度、全員を見渡す。


クセは強い。


まともかどうかも分からない。


それでも――


「……分かりました」


小さく息を吐く。


「じゃあ」


少しだけ笑って、言った。


「これからの試練の乗り越え方と、パーティーについて話していきましょう」


十二話


なんだかんだで自己紹介は終わった。


最初はどうなることかと思ったが、気づけば場の空気は落ち着いている。


クセの強い連中ばかりだが、不思議と居心地は悪くない。


「じゃあ、まずはパーティー名決めるか」


ヒカルが軽い調子で言った。


そこからは――


地獄だった。


「“ダークブレイカーズ”とかどうっすか?」


「ダサい」


「“QUEEN’s Order”は?」


「それもう私が目立つだけじゃない?」


「“最強軍団☆”!」


「却下」


「……ラプターでいいだろ」


ぼそっと呟く。


だが――


「それ、却下ね」


即座に恵に切り捨てられた。


「は?」


「なんかダサい」


「いやシンプルでいいだろ!?」


「はい次ー」


完全に流された。


(……ラプター、良かったと思うんだけどな)


内心で少しだけ引きずる。


そんなこんなで議論は続き――


最終的に決まったのは。


「“プロヴォカートル”でいこう」


正利がまとめる。


異論は……まあ、多少はあったが。


「……もうそれでいいよ」


結局、全員が折れた。


こうして、俺たちのパーティー


**“プロヴォカートル世界に挑む者達”**が誕生した。


だが、驚きはそれだけじゃなかった。


「あと、もう一つ」


正利が続ける。


「ダンジョンのシステムで、“ギルド”を作ることができるらしい」


「……は?」


思わず声が漏れる。


「ギルド?」


「ええ。覚醒者をまとめる組織のようなものです」


「ゲームかよ……」


いや、もう今さらか。


「パーティーとは別枠で、大規模な戦力を管理できる」


詩乃が補足する。


「情報共有や、拠点の管理にも使えるみたいね」


「……それ、めちゃくちゃ重要じゃね?」


ヒカルが珍しく真面目な声を出す。


「だからこそ」


正利が静かに言う。


「ギルドも、作るべきだと考えています」


その言葉に、全員の視線が集まる。


そして――


ここでも、ひと悶着あった。


「名前どうする?」


「“最強連合”とか?」


「いやだからダサいって」


結局、また揉めた。


そして最終的に決まったのは。


継承機関サクセッション


「……なんか急にそれっぽいな」


「でしょ?」


詩乃が微笑む。


「“挑戦者と随伴者”っていう関係的にも、意味は通ってると思うわ」


確かに――


妙にしっくりくる名前だった。


「で、運営はどうするんだ?」


誰かが言う。


一瞬、沈黙。


そして。


「……正利さんでいいんじゃない?」


恵があっさり言った。


「異議なし」


「任せるわ」


「俺もそれで」


全員一致だった。


「……いや、ちょっと待ってください」


当の本人が苦笑する。


「いきなり全部任されるのは――」


「いや、頼む」


俺が言う。


「そういうの、俺ら全員無理だと思う」


「うん、無理」


「絶対ぐだる」


全員が頷く。


「……分かりました」


少し考えたあと、正利は静かに頷いた。


「では、私がまとめ役を引き受けます」


こうして――


ギルド“継承機関サクセッション”も正式に動き出すことになった。



---


「じゃあ次は、今後の方針だな」


話題を切り替える。


「どこでレベリングする?」


ヒカルがスマホを操作する。


「掲示板とSNSの情報だけど――」


「関東、ほぼダンジョン枯れてる」


「……早すぎだろ」


「人多いからな」


正利が冷静に分析する。


「奪い合いが既に始まっている可能性もあります」


その言葉に、少しだけ空気が重くなる。


「近場は?」


「新潟、長野」


即答だった。


「まだ未開拓のダンジョンがそこそこ残ってる」


「……遠征か」


簡単じゃない。


だが――


「行くしかないな」


誰も否定しない。


ふと、思い出す。


第二の試練。


すべての生物に、ダンジョンが見えるようになる。


モンスターが外に出る。


人類のほとんどが覚醒する。


「……その前に強くならないと」


自然と口に出ていた。


「だな」


ヒカルが頷く。


「そうなったらもう、地獄だろ」


「経験値の奪い合い」


「アイテムの奪い合い」


そして――


人間同士の争い。


「……だから」


俺は静かに言う。


「今のうちに、できるだけ上に行く」


その言葉に、全員が頷いた。


「決まりですね」


正利が締める。


「まずは新潟、もしくは長野でのレベリング」


「戦力を整え、次の試練に備える」


こうして。


俺たち


**“プロヴォカートル”**と


**“継承機関”**は――


本格的に動き出した。


来るべき試練に抗うために。


皆のレベル


 -仁 23レベ


 -恵 10レベ


 -正利さん 10レベ


 -ヒカル 10レベ


 -以下同文!


13話


「遠征に~出発で~ございます」


ヒカルがふざけた調子で言う。

気づけば、季節は四月の終わり。

普通なら大学生活が始まっている時期だ。

だが――


「……まあ、ないんだけどな」


思わず苦笑する。

講義も、サークルも、何もない。

あるのはただ一つ。

レベリング。

「行くぞ」

短く言って、俺たちは新潟へと向かった。

親にはまた「キャンプ」と適当な理由をつけた。

もはや常套句だ。

(……いつまで通じるんだこれ)

そんなことを思いながらも、現地に到着して――

言葉を失った。

「……人、多すぎだろ」

駅前からすでに異様だった。

人、人、人。

しかも、そのほとんどが――

「……覚醒者、だな」

恵が小さく呟く。

妙に鋭い視線。

無駄のない動き。

一般人とは明らかに違う空気をまとっている。

「この調子だと、すぐに国内じゃ足りなくなるな」

ヒカルが肩をすくめる。

「海外遠征も、時間の問題かもね~」

冗談っぽく言うが、笑えなかった。

それくらい、異常な光景だった。

「まあ、でも」

正利が静かに言う。

「ここにいる大半は、“こちら側”です」

「……は?」

「継承機関のメンバーです」

一瞬、意味が分からなかった。

「……マジで?」

「ええ」

淡々と頷く。

「この数週間で、ある程度の基盤は整えました」

「いやいやいや、早すぎだろ」

「ダンジョンのシステムが、思った以上に優秀でして」

詩乃が補足する。

「犯罪履歴や危険性の判定も、ある程度は分かるみたいなの」

「……万能すぎない?」

思わず呟く。

だが、それがあるなら――

「変な奴を弾ける、ってことか」

「ええ」

正利が頷く。

「だからこそ、ある程度の統制が取れているわけです」

改めて周囲を見る。

確かに、ただの混雑じゃない。

どこか秩序がある。

(……この人、普通にやばいな)

組織をここまで短期間で作るのは、普通じゃない。

「とりあえず、入るぞ」

人混みを抜け、俺たちはダンジョンへ向かった。

入口は一つ。

だが――

「……意外と入れるな」

中に入ると、外の混雑が嘘のように静かだった。

「インスタンス型っぽいね」

ヒカルが言う。

「一つのダンジョンでも、中は分かれてるんじゃない?」

「なるほどな」

つまり、奪い合いは“入口”だけ。

中に入れば、自分たちのフィールド。

奥へ進む。

薄暗い空間。

湿った空気。

そして――

「来るぞ」

正利の声と同時に。

地面が揺れる。

現れたのは――

オーク。

数十体。

さらに、その奥に。

オーガが数体。

「……普通に強そうだな」

言い終わる前に。

「グォオオオオッ!!」

一斉に襲いかかってきた。

「散れ!」

俺は叫ぶ。

同時に、念動力を発動。

見える範囲のオークをまとめて押し潰す。

ぐしゃり、と鈍い音。

だが――

「……硬いな」

何体かは潰しきれない。

体格が違う。

筋肉量も、密度も。

「なら!」

日本刀を抜く。

一気に間合いを詰め、斬る。

肉を断つ感触。

血が飛び散る。

だが――

止まらない。

「ちっ……!」

そのとき。

「下がって!」

恵の声。

直後――

雷が走った。

バチンッ!!と音を立てて、数体のオークが吹き飛ぶ。

「……いいな、それ」

「でしょ?」

余裕の表情。

「あと、オーガはあんたじゃないと無理っぽい」

「……だろうな」

視線を向ける。

オーガ。

でかい。

そして、明らかに格が違う。

「前は任せます」

正利が一歩前に出る。

その瞬間、雰囲気が変わった。

「……行きます」

次の瞬間。

突っ込んでいた。

正面から、オーガに。

「おい、正面は――」

止める間もなく。

拳が叩き込まれる。

鈍い音。

だが。

「……効いてるな」

オーガがよろめく。

(バーサーカーかよ……)

ほぼ力押し。

だが、それが通用している。

「サポート入れますね~」

ヒカルの声。

淡い光が、体を包む。

「……軽い」

疲労が抜ける。

「それ、HPと精神同時回復っす」

「便利すぎだろ」

「でしょ~?」

軽いノリだが、効果は本物。

(ヒーラー、マジで貴重だな)

この世界、HPは減りにくい。

だが――

体力と連動している。

つまり。

動くだけで、削れる。

「……長期戦はきついな」

戦闘は続く。

斬って、潰して、撃ち抜く。

連携は完璧とは言えない。

だが、それでも――

「押してる!」

確実に、前に進んでいた。

そして。

最後の一体を斬り伏せたとき。

静寂が戻る。

「……はぁ」

大きく息を吐く。

「終わったか」

「いや~疲れた」

ヒカルがその場に座り込む。

「一旦休憩ね」

恵も腰を下ろす。

その後。

俺たちは交代で見張りを立てながら、休憩を取った。

しばらくすれば――

モンスターは復活する。

「……効率いいな」

「でしょ?」

恵が笑う。

こうして。

俺たちの生活は――

変わった。

戦って、休んで、また戦う。

ただそれだけの繰り返し。

だが――

確実に、強くなっている。


継承機関(サクセッション)


人数_2400人強

アイテム保管数_数万個


アイテム保管は仁君のマジックポーチとダンジョンの保管システム、コインロッカー見たいなもので行っています!アイテム保管は仁君のマジックポーチとダンジョンの保管システム、コインロッカー見たいなもので行っています!


14話


気づけば――かなりの時間が経っていた。

正確な日数は分からない。

ダンジョンに潜り、外に出て、また潜る。

その繰り返しの中で、時間の感覚は曖昧になっていた。

「……でも、確実に強くなってるな」

ステータスを開く。

全員、レベルは35から37付近。

だが――

「ここから、上がらねえな」

ヒカルがぼやく。

「完全に頭打ちだね~」

恵も同意する。

経験値の伸びが、明らかに鈍くなっていた。

「……なら」

俺は前を見据える。

「行くか。ボス」

ダンジョンの最奥。

そこにあったのは――

またしても、あの“扉”。

重厚な見た目。

圧迫感のある存在感。

だが。

「……軽いんだよな、これ」

手をかける。

抵抗はほとんどない。

ギィ、と音を立てて開く。

その先にいたのは。

「……でけえな」

オーガ。

だが、今までのものとは違う。

体格。

圧。

存在感。

すべてが段違いだった。

「……鑑定する」

恵が目を細める。

一瞬の静寂。

そして――

「オーガキング。レベル、56...」

「……は?」

思わず声が出た。

20近いレベル差。

明らかに格上。

「来るぞ!!」

正利の声。

次の瞬間――

地面が砕けた。

オーガキングが踏み込む。

速い。

巨体とは思えない速度。

「散開!!」

俺は叫ぶ。

同時に、念動力を叩き込む。

見えない力で、オーガキングの体を押し潰す。

だが――

「……効きが浅い!」

止まらない。

そのまま拳が振り下ろされる。

「くっ……!」

横に飛ぶ。

衝撃で地面が抉れる。

(まともに食らったら終わりだな)

「サポート入れる!」

ヒカルの声。

体が軽くなる。

同時に、精神の消耗も回復していく。

(助かる……!)

「雷、行くよ!」

恵が魔法を放つ。

雷撃が直撃。

一瞬、動きが止まる。

「今だ!!」

俺は踏み込む。

日本刀を振り抜く。

だが――

「硬っ……!」

浅い。

完全には通らない。

「前は任せてください」

正利が前に出る。

その目は、完全に戦闘モードだった。

「……はっ!」

拳を叩き込む。

衝撃が伝わる。

オーガキングがわずかに体勢を崩す。

(正面からやり合えるのかよ……)

「ヒカル、回復回せるか!」

「ギリっすね~!」

「なら!」

俺は深く息を吸う。

集中する。

念動力を一点に絞る。

(核……あるなら、そこだ)

見えない“芯”を探る。

そして――

「潰れろ!!」

全力で圧をかける。

一瞬。

オーガキングの動きが止まる。

「……効いた!」

「続けろ!!」

正利の声。

全員で畳みかける。

雷。

斬撃。

打撃。

そして――

「……っ!」

最後の一撃。

首元を断ち切る。

巨体が、崩れ落ちた。

静寂。

そして。

「……勝った、か」

力が抜ける。

そのまま、その場に座り込んだ。



---


「はー、つっかれたぁ」

ヒカルが大の字になる。

「やっぱ仁、すぐバテるよな」

「うるせえ……」

息を整えながら返す。

「その分、強いスキル多いじゃないですか」

正利が静かに言う。

「私たちの中では、レベルも一番高いですし」

「まあ、称号は伊達じゃないってことね」

恵が笑う。

「……かもな」

小さく呟く。

もし――

一人だったら。

(……間違いなく死んでたな)

「で、次どうする?」

ヒカルが起き上がる。

「次は、他のメンバーも呼ぶべきだな」

俺は言う。

「第二の試練が来る前に――」

一度、区切る。

「4級ダンジョンを攻略できるくらいにはなりたい」

「……ちなみにここ?」

「10級」

「……無理じゃね?」

「やらないと死ぬだけだろ」

「それもそうか……」

ヒカルが苦笑する。

「とりあえず」

詩乃が口を開く。

「ここからは各自でレベル50目指しましょうか」

「ギルドの運営もあるし」

「QUEENは上げないのか?」

「私は生産職だから」

さらっと答える。

「物を作った方が経験値が溜まるのよ」

「それに、前線向きのスキルもないしね」

「……なるほどな」

役割分担が、はっきりしてきた。

「はー……忙しくなるな」

俺は天井を見上げる。

「ギルドも整えないといけないし」

「第二の試練が来る頃には、企業登録も必要ですね」

正利が淡々と言う。

「今はまだ、ダンジョンドロップを富裕層が買い漁ってくれてるので資金はありますが」

「いずれ、管理が必要になるでしょう」

「給料とかもあるしな」

「ええ」

「ドロップは自動回収で、分配もシステム管理ですから」

「当面は問題ありません」

「問題はその先だよね」

恵が言う。

「世界中にダンジョンがバレた後」

誰もすぐには答えない。

だが。

「まあ」

ヒカルが軽く言う。

「その時は――武力で解決でしょ」

「……シンプルだな」

だが、間違ってはいない。

「じゃあ、決まりだな」

俺は立ち上がる。

「まずはレベル50」

「そこから先は――」

少しだけ笑う。

「その時考える」

こうして。

俺たちは次の段階へ進む。

試練は、まだ始まったばかりだ。



---


モンスターの構造


 -全てのモンスターには核が存在し、核とダンジョンが魔力の紐を結ぶことで継続てきに生活している生き物です。動物型などの一部の種には核の他に心臓があり、さほど地球上の生物と変わりません。ただし、魔力がなければ生きていけず、現時点ではダンジョンの外には行くことができません。しかし例外があります。ダンジョンが発生し、高まっていく魔力濃度によっていずれはモンスターが地球上を徘徊することになるでしょう、これが第四の試練を攻略できなかった際の終末であり、終焉です。


以上、よろしくじゃあ第三話(載っけてしまっただけで変更可能)からいくよ


三話


黒い粒子が、完全に消えきる前。


霧が黒く、濃く、歪み始めた


「……まだ何かあんのかよ」


視界が白く濁る。


さっきまでの静寂とは違う、“気配”があった。


その中心に――


“人影”が立っている。


黒いフード。


顔は、影に沈んで見えない。


いつからそこにいたのかも分からない。


「……誰だよ」


問いかけても、そいつは動じない。


ゆっくりと、こちらを向く。


そして――


口を開いた。


「私は、先代の挑戦者」


空気が、重くなる。


意味が分からない。


だが、“冗談じゃない”ことだけは直感で分かった。


「次代の挑戦者に、ほんの少しのプレゼントを」


「……成長を、期待するよ」


淡々とした声。


感情があるのかすら分からない。


「……は?」


理解が追いつかない。


何を言っているのか分からない。


でも――


分からないままにしておくのは、もっと気持ち悪かった。


「ふざけんなよ」


踏み込む。


考えるより先に、体が動いていた。


日本刀を振り上げる。


「お前、何者だッ!!」


そのまま、斬りかかる――


が。


刃が届く直前。


そいつの体が、霧に溶けた。


「なっ……!?」


空を切る一閃。


手応えは、ない。


完全に、消えた。


残ったのは、霧と――


耳の奥に残る、最後の声。


「.....どうか君にとっての正しい選択を」


四話


しばらく、その場に横になっていた。


天井もない、歪んだ空間をぼんやり見上げながら、息を整える。


「……なんなんだよ、マジで」


ひんやりとした床が、まるで俺を拒むかのように冷たく沈む。


思考を整理しようとするけど、頭の中は混乱のまま、なにもまとまらない。


地震。空の亀裂。変な声。ステータス表示。


黒い渦に、あのフードの影。


何一つ理解できていない。考えようとしても、途中で思考が止まる。


怖いとかじゃない――ただ、圧倒されて、体が思考を拒否している感覚だった。


「……ダメだな」


分からないことを考え続けても、答えは出ない。


だから、ゆっくり体を起こした。


そのとき、視界の端に――


“それ”があった。


部屋の奥。


さっきまでは気づかなかったはずの位置に、ぽつんと置かれている。


「……宝箱?」


いかにも、って感じの箱。


金属製なのか木製なのか判別できないが、微かに光を反射している。


この状況で現れる時点で、怪しさしかない。


罠の可能性もある。


「……はは」


少しだけ笑った。


もうここまで来ると、逆にどうでもよくなってくる。


「今さらだろ」


ゆっくり近づく。


刀は握ったまま。


冷たい床が足の裏に伝わる感覚を無視して、呼吸を整える。


箱の前に立つと、周囲の空気まで止まったかのように静かになった。


しばらく見つめる。


動かない。気配もない。


何かが潜んでいるようで、でも何もない。


そして――


「……開けるぞ」


誰に言うでもなく、呟く。


手をかける。指先に伝わる冷たさが、なぜか安心感すら与える。


微かに箱の蓋が震えた。


一瞬だけ、躊躇した。


だが、理由はない。


そのまま、蓋を引き上げる――


光が、飛び出した。


眩しくもない、不思議な光。


その中に、小さな結晶が浮かんでいる。


透き通った青い輝きに、目を奪われた。


そして、同時に視界の端に文字が浮かぶ。


【スキルコアを入手】【使用しますか?】


「Yes or No」


「……は?」


 「当然yesだろ!」


そう言うと文字化けした称号の効果欄が、かすかに光った。


読めない。でも、なぜか体が熱を帯び、力が湧いてくるのが分かる。


理解はできないけど、確かに“何か”が変わった――そう感じた。


その瞬間、霧が立ち込めた。


「……またかよ」


先ほど現れた先代の挑戦者とやらがまた出てきた…


顔は影に隠れ、表情は見えない。


でも、存在感だけで相変わらず圧倒的だった。


「私は、先代の挑戦者」「プレゼントの説明をするのを忘れていたね…」


口を開くと、声が直接、頭に響く。何度聞いても慣れることは無さそうだ。


「……は?」


まだあるのか...


言葉の意味を考えるより先に、疲れたと思うより先に体が動いた。


「ふざけんな!」


刀を振り上げ、斬りかかる――


だが、刃が届く直前、黒い影は霧に溶けた。


一瞬のうちに消えた空間に、残ったのは微かに漂う冷気だけ。


耳に、最後の声。


「……君は私によく似ている、スキルを使いこなせ」


その瞬間、また文字が浮かんだ。


【スキル獲得】


【スキル"念動力"魔力操作"を習得しました】


「……え?」


何が起きたのか、まだ分からない。


でも、確実に――俺の体に変化があったのは確かだ。


ゆっくりと息を整え、もう一つの宝箱の中身を握りしめる。


ここから、何が始まるのか――まだ誰も知らない。


ステータス


名前_源藤仁


称号_次代の挑戦者、才覚を秘めし者


魔力_


体力_


スキル_念動力、魔力操作


五話


ダンジョンの出口から出ると、空気は変わっていなかった。


時間が――まったく経っていないことに気づく。


「……え、さっきの時間、無かった?」


腕時計も、スマホの時計も、同じ時刻のままだ。


現実は何も動いていない。


でも、確実に自分は変わった。


胸の奥に、熱いものが残っている。


それから、選ばれし者、いや選ばれてしまった者達に聞こえた試練を思い返してみる。


伝えられた試練は、四つあった――


第一の試練


覚醒者のみがダンジョンを視認できる。


その者だけが強くなる。


つまり、俺みたいな存在は特別だ。


普通の人間には、この場所は見えない。


第二の試練


すべての生物にダンジョンが視認される。


モンスターが強化され、ダンジョンの外へ出てくる。


もう安全な場所は、どこにもない。


第三の試練


人類のほとんどが覚醒を遂げる。


全世界が戦場になる。


人類とモンスターの総力戦が避けられない。


第四の試練


魔王や魔神と呼ばれる化け物が現れる。


その時代のランカーが挑む。


勝とうが敗れようが、残り5年しか生き残れない世界。


恐怖は、現実にも降りかかる。


一度ニュースを見れば――


日本全国、いや世界中で、突然発狂する人間が現れ、街は混乱した。


「もうおしまいだ」――そんな言葉が溢れた。


政府は、伝染型の精神病ではないかと緊急事態宣言を発令する。


同時に、渋谷のスクランブル交差点に異様に人がいないことが話題になり、


「ここになにかがあるのでは?」と疑われる始末だった。


そんな世界で、俺は生き残るために――


準備を整えた。


装備を確認し、食料や薬、必要なものを集める。


じいちゃんの日本刀はもちろん、宝箱から手に入れた刻印が入った布やスキルも駆使する。


すべては、次のダンジョン攻略のためだ。


――もう、引き返す理由はない。


胸の奥に、先代の挑戦者の言葉を思い出す。


「……君は私によく似ている、スキルを使いこなせ」


深く息を吸い、俺は歩き出す。


ダンジョンに向かう一歩一歩が、未知の試練への覚悟を刻んでいく。


ダンジョンに行くための装備


登山用バック


 -懐中電灯


 -食料


 -水


 -じいちゃんの日本刀


 -宝箱から出た謎の布


自分自身


六話


渋谷の街に足を踏み入れたとき、最初は半信半疑だった。


ニュースで「異様にスクランブル交差点が空いてます」と言われても、本当にダンジョンがあるのかの確信はほとんどなかったからだ。


だが、目の前に――確かに、空間の歪みが広がっていた。


灰色の霧と、不自然に揺れる空気。


その中心に、ダンジョンの入口。


「……あったんだ」


ほっと息を吐いた。


家から持ってきた日本刀が見つからなくてよかった、と安堵もした。


見つかってたら、今頃ここにはいなかっただろう。


恐る恐るダンジョンに足を踏み入れる。


中は、まるで漫画やアニメでよく見るような光景だった。


ゴブリンやスライムといったモンスターが数十体、散らばるように存在している。


でも、こちらから攻撃しない限り、襲ってくる気配はないようだ。


「……よし、まずはスライムか」


刀を取り出し軽く振ると、ぷるぷるした感触のままスライムが切り裂かれる。


すると、すぐに経験値が入ったようだ。


画面表示のない世界なのに、体が確かに成長を感じている。


次は、スキルの練習だ。


家で確認した通り、念動力は目標を定めてイメージすると対象を潰すことができる。


魔力操作は、魔力を使って剣のようなものを作る能力。


魔法も試したが、どうやっても上手くいかない。


しかも、両方使うと体力がぐんぐん削られることも分かった。


まず念動力を試す。


「潰れろ」――そう思っただけで、周囲のモンスターが一瞬にして潰れた。


圧倒的に便利だが、体力は大幅に消耗する。


疲れ切った体を抱え、周りにモンスターがいないことを確認してから床に倒れ込み、仮眠を取った。


目を覚ますと、周囲にモンスターが戻っていた。


腰を抜かすほど驚いた。


どうやら、ボスを倒さない限り、時間差で復活するらしい。


「……なるほど、練習にはちょうどいいな」


今度は魔力操作を試す。


手刀を鋭くしてゴブリンを斬る。


不思議と、殺しても吐き気がしない。


称号の効果かもしれない。


いや、称号も含め、ほとんどのことがまだ理解できていない。


ひたすら、寝て倒してを繰り返す。


レベルは10まで上がったが、それ以上は全然上がらない。


持久戦には向かない体質だと痛感する。


少しは持久力が延びたものの、やはり疲れる。


そしてついに、ボス部屋に到達する。


ボス部屋の扉を押し開けると、空気が一変した。


湿った匂いと、どこからともなく聞こえる低いうなり声。


部屋の中央、巨大なスライムとゴブリンが、こちらを見据えていた。


スライムは半透明で、光を反射する表面が揺れる。


ゴブリンは筋骨隆々で、手には棍棒のような武器を握っている。


まるで、漫画やゲームのボスそのものだった。


「……ふぅ、まずは落ち着け」


呼吸を整え、手にした日本刀を握り直す。


目標を定め、念動力の核を思い浮かべる。


「潰れろ……!」


手元から意志が伝わるような感覚とともに、スライムの体がぐにゃりと潰れ、弾けて消滅した。


拍子抜けするくらい簡単だったが、その分、ゴブリンが視界に入ると威圧感が増す。


「よし、次はこいつだ」


魔力操作を使って、刀の先端に魔力の刃を形成する。


透明な光の刃が、手刀に沿って鋭く伸びる。


ゴブリンの棍棒が振り下ろされる前に、まずこちらから斬りつける。


「くっ……硬い!」


棍棒で防がれながらも、隙をついて斬撃を重ねる。


一撃一撃、魔力操作で刃を強化するたびに体力が削られていくのが分かる。


でも、称号の力なのか、感覚的に耐えられる範囲だ。


ゴブリンは素早く回避し、反撃を狙う。


棍棒が肩をかすめ、痛みが走る。


踏み込んで距離を詰め、念動力で目標に圧力をかける。


「潰れろ……!」


集中した瞬間、ゴブリンの体がぐにゃりと歪み、床に崩れ落ちた。


体を起こす前に、もう一撃、刀で仕留める。


倒した瞬間、体中の力が抜け、膝から床に崩れ落ちる。


「はぁ……はぁ……疲れる……」


息を整えながらも、達成感が込み上げる。


スライムは簡単、ゴブリンは時間がかかった。


でも、両方を倒しきった達成感は大きかった。


ふと、周囲を見渡す。


モンスターは時間差で復活するらしいが、今は静かだ。


この瞬間、少しの安堵と次の戦闘への覚悟が胸に湧きながらも眠りについた。


7話


ボスを倒した瞬間、全身の力が抜け、床に崩れ落ちた。                   


意識はまだ戦闘中の緊張に引きずられ、呼吸が荒い。


体中が痛く、疲労で手足が鉛のように重い。


そのまま、気づけば寝ていた。


夢も見ず、ただ床に横たわって、体を休める。


目を覚ますと、部屋は静かだった。


戦闘の気配は消え、モンスターの残像もない。


目の前には、あの宝箱。


「……またか」


疲労でろれつが回らないまま、手を伸ばし蓋を開ける。


中には光る小さな袋――マジックポーチが入っていた。                   


名前からしてただものではない気配。


試しに手持ちの日本刀や、モンスターから手に入れたドロップアイテムを詰め込むと、不思議なことに全部収まった。


重さも変わらず、何でも収納できるらしい。


準備を整え、ダンジョンの外に出る。


ふと空を見上げ、街の景色を確認して――違和感に気づく。


「……時間、めっちゃ経ってる?」


前回のダンジョンのときとは違い、現実世界ではかなりの時間が経過していた。         


カレンダーを確認すると、卒業式まであと2日。


                      


「……は?」                  


                        


心臓が跳ねる。                 


親には「友達とキャンプに行く」と言ってある。


でも、これはさすがに言い訳が通用しない時間のずれだ。                   


家に帰ると、スマホの電源を切れていて連絡できなかったことを言い訳にして、急いで卒業式の準備をする。                                      


服を整え、必要な書類をまとめ、荷物を確認する。      


疲労で動きが鈍い体を引きずりながら、何とか1日が終わった。


体は重いけど、心の奥では不思議な高揚感が残っている。                   


                      


「……ま、何とかなるか」                   


                                 


明日も、そして卒業式も――戦場を抜けた俺にとっては、また別の試練の始まりにすぎなかった。


8話


――やばい。


目が覚めた瞬間、そう思った。


時計を見る。


一瞬で血の気が引いた。


「……は?」


完全に寝坊していた。


昨日の疲れが抜けきらず、そのまま寝落ちしたのが原因だ。          


体はまだ重い。でも、そんなこと言ってる場合じゃない。                


「詰んだ……いや、まだだ!」


飛び起きて、適当に身支度を整える。


ネクタイは歪み、シャツのボタンも一つズレている。         


でも直してる時間はない。


玄関を飛び出して、全力で走る。


今日は――      


青葉学院高等部の卒業式。


そして俺、源藤仁は――


成績良好、態度良好。


その結果―


「……卒業生総代なんだよなぁ!!」


叫びながら走る。


遅刻とかシャレにならない。


最悪、式そのものが止まる可能性すらある。


坂道を駆け上がったところで、前方に見覚えのある姿があった。


風を切るように、自転車を漕ぐ少女。


幼なじみの――西恵。


「おい!西!!」


思わず声を張り上げる。


彼女は一瞬だけこちらを見た。


目が合う。


「乗せてくれ――!」


そう言いかけた瞬間。


西は、にやっと笑った。


そして――


そのままスピードを上げて、走り去っていった。


「……は?」


一瞬、思考が止まる。


「いやいやいや!ちょっと待て!?」


取り残される俺。


遠ざかっていく背中。


「薄情すぎるだろ!!」


叫びながら、結局自分の足で走るしかなかった。


なんとか、ギリギリで学校に到着する。


校門をくぐった瞬間、膝が笑った。


息は上がりきって、視界が少し揺れる。


「はぁ……はぁ……間に、合った……」


先生の視線が突き刺さる。


でも、怒られる余裕もない。


そのまま式は始まり――


気づけば、壇上に立っていた。


「……あー」


頭が回らない。


さっきまで全力疾走していたせいで、心臓の音がうるさい。


それでも、なんとか言葉を紡ぐ。


用意していたはずの文章はほとんど飛んでいたが、口は勝手に動いた。


拍手。


歓声。


気づけば、役目は終わっていた。


式が終わった頃には、完全に燃え尽きていた。


体は重く、意識もぼんやりしている。


友人たちの声も、どこか遠くに聞こえる。


ダンジョン。


モンスター。


試練。


そんな“世界が変わった現実”は――


この瞬間だけは、頭から消えていた。


「……疲れた」


ただ、それだけを呟いて、空を見上げる。


青くて、何も変わらない空。


まるで、あの出来事が全部夢だったかのように―


9話


卒業式を終え、俺は正式に“自由人”になった。


校門を出た瞬間、妙な解放感があった。


これからは学校に縛られることもない。


――普通なら、の話だが。


「……いや、今それどころじゃないよな」


スマホを確認すると、大学からの通知が来ていた。


内容はシンプルだった。


“非常事態宣言に伴い、当面の間登校禁止”


さらに追い打ちをかけるように、


“安全が確認されるまで来校しないように”


とまで書かれている。


「……来るなってことかよ」


思わず苦笑する。


まあ、あの状況を見れば当然かもしれない。


世界中で人が発狂し、意味不明な現象が起きている。


それを“感染する精神病”として処理している時点で、政府も混乱しているのが丸わかりだ。


「ってことは……」


少し考えて、結論にたどり着く。


「……暇だな」


少なくとも、半年くらいは確実に自由な時間がある。


普通なら最高の状況だが――今は違う。


むしろ、猶予期間だ。


あの“試練”のことを思い出す。


第一、第二、第三、そして第四の試練。


どれも冗談じゃ済まない内容だった。


特に最後。


魔王や魔神と呼ばれる存在。


そして、残り5年という制限。


「……笑えねえ」


小さく呟く。


あれが本当なら、いずれ俺は“化け物”と戦うことになる。


しかも、勝っても負けても終わりが見えている世界。


なら――やるべきことは一つだ。


「強くなるしかねえ」


そのために必要なものを、頭の中で整理する。


まず、自分自身の強化。


レベル上げ、スキルの習熟、戦闘経験。


そして――


「……仲間、か」


一人で戦うには限界がある。


実際、ダンジョンで痛感した。


持久力が足りない。


判断も、戦い方も、まだ未熟だ。


あのボス戦だって、運が良かっただけだ。


もし相手がもう少し強かったら――間違いなく死んでいた。


「……ソロは無理ゲーだな」


結論は出ている。


仲間が必要だ。


信頼できる仲間。


じゃあ、どうやって探すか。


「……ネット、か」


スマホを操作する。


すると、すぐに見つかった。


“覚醒者スレ”


とある匿名掲示板に、すでにそれは存在していた。


開いてみると、書き込みはカオスだった。


『ダンジョン見えてる奴いる?』


『これゲームじゃね?』


『ゴブリンいたんだが』


『スキル使えたんだが俺だけ?』


「……いや、普通にいるんだな」


少なくとも、自分だけじゃない。


それだけで、少し安心した。


だが同時に――


「やばい奴も多そうだな……」


匿名ということもあって、信用はできない。


下手に組めば、後ろから刺される可能性もある。


「……慎重にいかないとダメだな」


掲示板は情報収集用に使うことにする。


次に考えたのは、SNSだった。


「……あれ、使うしかないか」


スマホの奥深く。


ほとんど触っていなかったアプリを開く。


中学生の頃に作ったアカウント。


いわゆる――黒歴史の塊。


「うわ……」


過去の投稿が目に入る。


意味不明なポエム。


謎の設定。


“選ばれし者”とか書いてある。


「……消したい」


本気で思った。


でも、今はそんなこと言ってられない。


「背に腹は代えられない、か……」


意を決して、投稿を打ち込む。


『覚醒者募集。ダンジョン攻略できる人、連絡ください』


送信。


数秒の沈黙。


そして――


通知が鳴り始めた。


「は?」


思った以上の反応だった。


その中に、見覚えのある名前があった。


西 恵


「……え?」


思わず、画面を見つめる。


メッセージを開く。


『あんたも、聞いたんだ』


短い一文。


でも、それだけで分かった。


「……マジかよ」


あの日。


空の亀裂と、あの“声”。


それを――西も聞いていた。


つまり。


「西も、覚醒者ってことか……」


脳裏に浮かぶのは、あの朝の光景。


自転車で走り去っていったあいつの顔。


あのときの“目”。


どこか、いつもと違っていた気がする。


「……なるほどな」


偶然じゃない。


最初から、“そういう世界”だったってことか。


少し考えて、返信を打つ。


やり取りを重ねて、状況を確認する。


どうやら西もダンジョンに入っているらしい。


しかも、それなりに戦えている。


「……頼もしいな」


小さく笑う。


これで、少なくとも一人。


信頼できる仲間候補ができた。


さらに、SNS経由で数人から連絡が来ていた。


中には、まともそうなやつもいる。


「……よし」


決断する。


「一度、会ってみるか」


来週。


ネットで集めたメンバーと顔合わせをすることになった。


正直、不安はある。


どんな奴が来るのか分からない。


でも――


「やるしかねえよな」


立ち止まっている暇はない。


試練は、もう始まっている。


そして俺は――


その中で生き残るために、進むしかない。


仲間一覧


 -俺


 -恵


 -?1


 -?2


 -?3


 -?4


 -?5


十話


今日は休み。


何もない日――のはずだった。


いつも通り、適当に起きて、適当に一日を消費する。


そんな“普通”を送るつもりだった。


だが――


「……は?」


スマホの通知を見た瞬間、固まった。


『今日、集合な。忘れんなよ』


送信者――西恵。


数秒、思考が停止する。


そして、ゆっくりと記憶が蘇る。


「……あ」


そうだ。


今日は――


黒歴史アカで集めた変人たちと会う日だった。


「終わった……」


思わず天井を見上げる。


現実逃避したくなる気持ちをぐっと堪える。


(いや、でも行かないと何も始まらないよな……)


そう、自分に言い聞かせる。


とりあえずベッドから降りて、朝ごはんを食べる。


パンをかじりながら、ぼんやりと考える。


(正直、行きたくねえ……)


相手はネットで集めた覚醒者。


まともな保証なんてどこにもない。


むしろ――


“まともじゃない可能性の方が高い”


「……やめとくか?」


一瞬、本気でそう思った。


だが。


「……いや、ダメだな」


結局、結論は変わらない。


仲間は必要だ。


一人じゃ、いずれ死ぬ。


なら、多少ヤバい奴でも――


「使えるならアリ、か……」


そこまで考えたところで、ふとスマホを置く。


「……よし、ゲームしよ」


現実逃避、開始。


コントローラーを握り、電源を入れる。


今日くらいは平和に過ごしてもいいだろう――


そう思った、その瞬間。


ピンポーン。


「……は?」


インターホンが鳴る。


嫌な予感しかしない。


恐る恐るドアを開けると――


そこにいたのは。


「よ、準備できた?」


西恵だった。


「……なんでいるんだよ」


「迎えに来たに決まってんじゃん」


当然のように言う。


その後ろには――


原付。


「……お前、それ」


「16の時にとった」


「いやいやいや、校則」


「もう卒業したけど?」


「……あ」


言い返せなかった。


確かに、もう関係ない。


「ほら、乗りな」


「いや、ちょっと待て」


拒否権は――なかった。


気づけば、後ろに乗せられていた。


風を切る音。


思ったよりスピードが出る。


「おい、飛ばしすぎだろ!」


「大丈夫大丈夫」


全然大丈夫じゃない。


「落ちたら死ぬぞ!」


「その時はごめん」


「軽い!!」


そんなやり取りをしながら――


俺たちは、集合場所へ向かっていた。


到着したのは、小さな喫茶店。


外観は落ち着いていて、普通の店に見える。


だが――


「……ここに、あいつらがいるのか」


扉の前で立ち止まる。


正直、入りたくない。


中には、


怪鳥(黒羽)


女帝(QUEEN)


私刑囚(プー太郎)


奇行子ヒカル


仲裁者(黒羽 人)


という、どう考えてもヤバそうなメンバーが待っている。


「……帰っていい?」


「ダメに決まってんでしょ」


背中を押される。


強制的に入店。


カラン、とベルが鳴る。


店内を見渡す。


そして――


「……誰?」


思わず、そう呟いた。


そこにいたのは、想像していた“ヤバそうな奴ら”ではなかった。


普通の青年。


落ち着いた雰囲気の女性。


ちょっと気だるそうな男。


無駄に元気そうなやつ。


そして――一人、明らかに空気を整えている男。


「……え、マジで?」


拍子抜けする。


だが、その瞬間。


一人が口を開いた。


「君が、“次代の挑戦者”かな?」


空気が変わる。


ただの集まりじゃない。


こいつら――


“本物”だ。


11話


「とりあえず、自己紹介から始めようか」


落ち着いた声で切り出したのは、黒羽人――黒羽正利だった。黒羽人くろうにん


自然と場の空気が引き締まる。


「私は黒羽正利。その……この気だるそうにしているのの兄だ」


隣に座っている男へ視線を向ける。


当の本人は椅子に深くもたれかかり、やる気があるのかないのか分からない表情をしていた。


「来る前はとても楽しみにしていたから、決してだるいわけではない……はずだ」


「じゃあ次は俺っすね」


間髪入れずに返すその男。


「大学三年っす。ヒカルって呼ばれてまーす。まあ、“奇行子”とか言われてますけど」


軽い口調。


どこか掴みどころがない。


(……絶対クセ強いな、こいつ)


内心でそう思いながら、次へ視線を移す。


「大四の、水無月詩乃です」


落ち着いた声。


姿勢も綺麗で、どこか大人びた雰囲気を持っている。


「QUEEN、とか呼ばれちゃってます(笑)」


柔らかく微笑むその様子に、場の空気が少し和らいだ。


「中学三年です!」


元気な声が響く。


「来年度で高校一年になります!水無月恒一です!プー太郎とか私刑囚って呼ばれてます!詩乃お姉さんの甥です!」


一気にまくしたてるような自己紹介。


勢いがありすぎて、逆に圧を感じる。


(……なんかそのあだ名、どっかで恨み買ってそうだな)


そんなことを思いながら聞き流す。


そして最後。


「黒羽です。よろしくお願いします」


短い。


必要最低限。ただ正利さんの弟のようだ、


だが――


一番“何かある”感じがした。


(この人、たぶん一番やばいタイプだな……)


直感がそう告げる。


一通り終わり、視線がこちらに集まる。


「……こんにちは」


軽く息を吸って、口を開く。


「集まっていただき、ありがとうございます。源藤仁です」


一瞬だけ言葉を選ぶ。


「皆さんとパーティーを組んで、ダンジョンを攻略していきたいと思っています」


言い切ると、最後に――


「西恵です!よろしくお願いします!」


元気な声で、恵が締めた。


一拍の静寂。


そして、俺はすぐに本題に入る。


「それで、早速聞きたいんですけど」


正利を見る。


「“次代の挑戦者”って、どこから知ったんですか?」


空気が、少しだけ変わる。


正利は迷いなく答えた。


「私たちの称号が、“次代の随伴者”だからです」


「……は?」


思わず間の抜けた声が出る。


「その効果の一つに、“次代の挑戦者の位置を把握する”とあります」


淡々とした説明。


だが、その内容は重い。


「さらに」


詩乃が言葉を引き継ぐ。


「その人と一緒に行動することで、経験値ボーナスなどの補正も入るみたいなの」


「つまり」


ヒカルが肩をすくめる。


「俺らにとって君は、“当たり”ってわけ」


「……マジかよ」


小さく呟く。


そんな重要な存在だなんて、聞いていない。


というか、誰も教えてくれない。


そのとき。


「ちなみに!」


恒一が勢いよく口を挟む。


「私たち、もう一ヶ月くらい前から集まって活動してるんですよ!」


「レベルも、だいたい10くらいにはなってます!」


「……一ヶ月で?」


思わず聞き返す。


「うん!結構頑張った!」


明るく答えるその様子に、少しだけ考える。


(俺、もっと短期間で……)


言葉には出さない。


だが、確実に差はある。


「あとさ」


恵が横から口を挟む。


「“次代の挑戦者”のことは、覚醒者ならだいたい知ってるよ」


「試練とか、ダンジョンのことも」


「……そうなのか」


思っていたより、世界は進んでいるらしい。


「でね」


恵は少しだけ笑う。


「もう決まってるっぽいよ」


「……何が?」


「私たちがパーティー組むの」


「……は?」


間の抜けた声が出る。


だが、周囲を見れば――


誰も否定しない。


むしろ、“当然”という空気。


その瞬間、ふと思い出す。


ゲームで何度も組んできたパーティー。


このメンバーで、何かをやることに違和感がない。


まるで――


最初から決まっていたみたいに。


「……運命、ってやつか?」


小さく呟く。


自分でも信じているわけじゃない。


でも、そう考えると妙にしっくりくる。


一度、全員を見渡す。


クセは強い。


まともかどうかも分からない。


それでも――


「……分かりました」


小さく息を吐く。


「じゃあ」


少しだけ笑って、言った。


「これからの試練の乗り越え方と、パーティーについて話していきましょう」


十二話


なんだかんだで自己紹介は終わった。


最初はどうなることかと思ったが、気づけば場の空気は落ち着いている。


クセの強い連中ばかりだが、不思議と居心地は悪くない。


「じゃあ、まずはパーティー名決めるか」


ヒカルが軽い調子で言った。


そこからは――


地獄だった。


「“ダークブレイカーズ”とかどうっすか?」


「ダサい」


「“QUEEN’s Order”は?」


「それもう私が目立つだけじゃない?」


「“最強軍団☆”!」


「却下」


「……ラプターでいいだろ」


ぼそっと呟く。


だが――


「それ、却下ね」


即座に恵に切り捨てられた。


「は?」


「なんかダサい」


「いやシンプルでいいだろ!?」


「はい次ー」


完全に流された。


(……ラプター、良かったと思うんだけどな)


内心で少しだけ引きずる。


そんなこんなで議論は続き――


最終的に決まったのは。


「“プロヴォカートル”でいこう」


正利がまとめる。


異論は……まあ、多少はあったが。


「……もうそれでいいよ」


結局、全員が折れた。


こうして、俺たちのパーティー


**“プロヴォカートル世界に挑む者達”**が誕生した。


だが、驚きはそれだけじゃなかった。


「あと、もう一つ」


正利が続ける。


「ダンジョンのシステムで、“ギルド”を作ることができるらしい」


「……は?」


思わず声が漏れる。


「ギルド?」


「ええ。覚醒者をまとめる組織のようなものです」


「ゲームかよ……」


いや、もう今さらか。


「パーティーとは別枠で、大規模な戦力を管理できる」


詩乃が補足する。


「情報共有や、拠点の管理にも使えるみたいね」


「……それ、めちゃくちゃ重要じゃね?」


ヒカルが珍しく真面目な声を出す。


「だからこそ」


正利が静かに言う。


「ギルドも、作るべきだと考えています」


その言葉に、全員の視線が集まる。


そして――


ここでも、ひと悶着あった。


「名前どうする?」


「“最強連合”とか?」


「いやだからダサいって」


結局、また揉めた。


そして最終的に決まったのは。


継承機関サクセッション


「……なんか急にそれっぽいな」


「でしょ?」


詩乃が微笑む。


「“挑戦者と随伴者”っていう関係的にも、意味は通ってると思うわ」


確かに――


妙にしっくりくる名前だった。


「で、運営はどうするんだ?」


誰かが言う。


一瞬、沈黙。


そして。


「……正利さんでいいんじゃない?」


恵があっさり言った。


「異議なし」


「任せるわ」


「俺もそれで」


全員一致だった。


「……いや、ちょっと待ってください」


当の本人が苦笑する。


「いきなり全部任されるのは――」


「いや、頼む」


俺が言う。


「そういうの、俺ら全員無理だと思う」


「うん、無理」


「絶対ぐだる」


全員が頷く。


「……分かりました」


少し考えたあと、正利は静かに頷いた。


「では、私がまとめ役を引き受けます」


こうして――


ギルド“継承機関サクセッション”も正式に動き出すことになった。



---


「じゃあ次は、今後の方針だな」


話題を切り替える。


「どこでレベリングする?」


ヒカルがスマホを操作する。


「掲示板とSNSの情報だけど――」


「関東、ほぼダンジョン枯れてる」


「……早すぎだろ」


「人多いからな」


正利が冷静に分析する。


「奪い合いが既に始まっている可能性もあります」


その言葉に、少しだけ空気が重くなる。


「近場は?」


「新潟、長野」


即答だった。


「まだ未開拓のダンジョンがそこそこ残ってる」


「……遠征か」


簡単じゃない。


だが――


「行くしかないな」


誰も否定しない。


ふと、思い出す。


第二の試練。


すべての生物に、ダンジョンが見えるようになる。


モンスターが外に出る。


人類のほとんどが覚醒する。


「……その前に強くならないと」


自然と口に出ていた。


「だな」


ヒカルが頷く。


「そうなったらもう、地獄だろ」


「経験値の奪い合い」


「アイテムの奪い合い」


そして――


人間同士の争い。


「……だから」


俺は静かに言う。


「今のうちに、できるだけ上に行く」


その言葉に、全員が頷いた。


「決まりですね」


正利が締める。


「まずは新潟、もしくは長野でのレベリング」


「戦力を整え、次の試練に備える」


こうして。


俺たち


**“プロヴォカートル”**と


**“継承機関”**は――


本格的に動き出した。


来るべき試練に抗うために。


皆のレベル


 -仁 23レベ


 -恵 10レベ


 -正利さん 10レベ


 -ヒカル 10レベ


 -以下同文!


13話


「遠征に~出発で~ございます」


ヒカルがふざけた調子で言う。

気づけば、季節は四月の終わり。

普通なら大学生活が始まっている時期だ。

だが――


「……まあ、ないんだけどな」


思わず苦笑する。

講義も、サークルも、何もない。

あるのはただ一つ。

レベリング。

「行くぞ」

短く言って、俺たちは新潟へと向かった。

親にはまた「キャンプ」と適当な理由をつけた。

もはや常套句だ。

(……いつまで通じるんだこれ)

そんなことを思いながらも、現地に到着して――

言葉を失った。

「……人、多すぎだろ」

駅前からすでに異様だった。

人、人、人。

しかも、そのほとんどが――

「……覚醒者、だな」

恵が小さく呟く。

妙に鋭い視線。

無駄のない動き。

一般人とは明らかに違う空気をまとっている。

「この調子だと、すぐに国内じゃ足りなくなるな」

ヒカルが肩をすくめる。

「海外遠征も、時間の問題かもね~」

冗談っぽく言うが、笑えなかった。

それくらい、異常な光景だった。

「まあ、でも」

正利が静かに言う。

「ここにいる大半は、“こちら側”です」

「……は?」

「継承機関のメンバーです」

一瞬、意味が分からなかった。

「……マジで?」

「ええ」

淡々と頷く。

「この数週間で、ある程度の基盤は整えました」

「いやいやいや、早すぎだろ」

「ダンジョンのシステムが、思った以上に優秀でして」

詩乃が補足する。

「犯罪履歴や危険性の判定も、ある程度は分かるみたいなの」

「……万能すぎない?」

思わず呟く。

だが、それがあるなら――

「変な奴を弾ける、ってことか」

「ええ」

正利が頷く。

「だからこそ、ある程度の統制が取れているわけです」

改めて周囲を見る。

確かに、ただの混雑じゃない。

どこか秩序がある。

(……この人、普通にやばいな)

組織をここまで短期間で作るのは、普通じゃない。

「とりあえず、入るぞ」

人混みを抜け、俺たちはダンジョンへ向かった。

入口は一つ。

だが――

「……意外と入れるな」

中に入ると、外の混雑が嘘のように静かだった。

「インスタンス型っぽいね」

ヒカルが言う。

「一つのダンジョンでも、中は分かれてるんじゃない?」

「なるほどな」

つまり、奪い合いは“入口”だけ。

中に入れば、自分たちのフィールド。

奥へ進む。

薄暗い空間。

湿った空気。

そして――

「来るぞ」

正利の声と同時に。

地面が揺れる。

現れたのは――

オーク。

数十体。

さらに、その奥に。

オーガが数体。

「……普通に強そうだな」

言い終わる前に。

「グォオオオオッ!!」

一斉に襲いかかってきた。

「散れ!」

俺は叫ぶ。

同時に、念動力を発動。

見える範囲のオークをまとめて押し潰す。

ぐしゃり、と鈍い音。

だが――

「……硬いな」

何体かは潰しきれない。

体格が違う。

筋肉量も、密度も。

「なら!」

日本刀を抜く。

一気に間合いを詰め、斬る。

肉を断つ感触。

血が飛び散る。

だが――

止まらない。

「ちっ……!」

そのとき。

「下がって!」

恵の声。

直後――

雷が走った。

バチンッ!!と音を立てて、数体のオークが吹き飛ぶ。

「……いいな、それ」

「でしょ?」

余裕の表情。

「あと、オーガはあんたじゃないと無理っぽい」

「……だろうな」

視線を向ける。

オーガ。

でかい。

そして、明らかに格が違う。

「前は任せます」

正利が一歩前に出る。

その瞬間、雰囲気が変わった。

「……行きます」

次の瞬間。

突っ込んでいた。

正面から、オーガに。

「おい、正面は――」

止める間もなく。

拳が叩き込まれる。

鈍い音。

だが。

「……効いてるな」

オーガがよろめく。

(バーサーカーかよ……)

ほぼ力押し。

だが、それが通用している。

「サポート入れますね~」

ヒカルの声。

淡い光が、体を包む。

「……軽い」

疲労が抜ける。

「それ、HPと精神同時回復っす」

「便利すぎだろ」

「でしょ~?」

軽いノリだが、効果は本物。

(ヒーラー、マジで貴重だな)

この世界、HPは減りにくい。

だが――

体力と連動している。

つまり。

動くだけで、削れる。

「……長期戦はきついな」

戦闘は続く。

斬って、潰して、撃ち抜く。

連携は完璧とは言えない。

だが、それでも――

「押してる!」

確実に、前に進んでいた。

そして。

最後の一体を斬り伏せたとき。

静寂が戻る。

「……はぁ」

大きく息を吐く。

「終わったか」

「いや~疲れた」

ヒカルがその場に座り込む。

「一旦休憩ね」

恵も腰を下ろす。

その後。

俺たちは交代で見張りを立てながら、休憩を取った。

しばらくすれば――

モンスターは復活する。

「……効率いいな」

「でしょ?」

恵が笑う。

こうして。

俺たちの生活は――

変わった。

戦って、休んで、また戦う。

ただそれだけの繰り返し。

だが――

確実に、強くなっている。


継承機関(サクセッション)


人数_2400人強

アイテム保管数_数万個


アイテム保管は仁君のマジックポーチとダンジョンの保管システム、コインロッカー見たいなもので行っています!アイテム保管は仁君のマジックポーチとダンジョンの保管システム、コインロッカー見たいなもので行っています!


14話


気づけば――かなりの時間が経っていた。

正確な日数は分からない。

ダンジョンに潜り、外に出て、また潜る。

その繰り返しの中で、時間の感覚は曖昧になっていた。

「……でも、確実に強くなってるな」

ステータスを開く。

全員、レベルは35から37付近。

だが――

「ここから、上がらねえな」

ヒカルがぼやく。

「完全に頭打ちだね~」

恵も同意する。

経験値の伸びが、明らかに鈍くなっていた。

「……なら」

俺は前を見据える。

「行くか。ボス」

ダンジョンの最奥。

そこにあったのは――

またしても、あの“扉”。

重厚な見た目。

圧迫感のある存在感。

だが。

「……軽いんだよな、これ」

手をかける。

抵抗はほとんどない。

ギィ、と音を立てて開く。

その先にいたのは。

「……でけえな」

オーガ。

だが、今までのものとは違う。

体格。

圧。

存在感。

すべてが段違いだった。

「……鑑定する」

恵が目を細める。

一瞬の静寂。

そして――

「オーガキング。レベル、56...」

「……は?」

思わず声が出た。

20近いレベル差。

明らかに格上。

「来るぞ!!」

正利の声。

次の瞬間――

地面が砕けた。

オーガキングが踏み込む。

速い。

巨体とは思えない速度。

「散開!!」

俺は叫ぶ。

同時に、念動力を叩き込む。

見えない力で、オーガキングの体を押し潰す。

だが――

「……効きが浅い!」

止まらない。

そのまま拳が振り下ろされる。

「くっ……!」

横に飛ぶ。

衝撃で地面が抉れる。

(まともに食らったら終わりだな)

「サポート入れる!」

ヒカルの声。

体が軽くなる。

同時に、精神の消耗も回復していく。

(助かる……!)

「雷、行くよ!」

恵が魔法を放つ。

雷撃が直撃。

一瞬、動きが止まる。

「今だ!!」

俺は踏み込む。

日本刀を振り抜く。

だが――

「硬っ……!」

浅い。

完全には通らない。

「前は任せてください」

正利が前に出る。

その目は、完全に戦闘モードだった。

「……はっ!」

拳を叩き込む。

衝撃が伝わる。

オーガキングがわずかに体勢を崩す。

(正面からやり合えるのかよ……)

「ヒカル、回復回せるか!」

「ギリっすね~!」

「なら!」

俺は深く息を吸う。

集中する。

念動力を一点に絞る。

(核……あるなら、そこだ)

見えない“芯”を探る。

そして――

「潰れろ!!」

全力で圧をかける。

一瞬。

オーガキングの動きが止まる。

「……効いた!」

「続けろ!!」

正利の声。

全員で畳みかける。

雷。

斬撃。

打撃。

そして――

「……っ!」

最後の一撃。

首元を断ち切る。

巨体が、崩れ落ちた。

静寂。

そして。

「……勝った、か」

力が抜ける。

そのまま、その場に座り込んだ。



---


「はー、つっかれたぁ」

ヒカルが大の字になる。

「やっぱ仁、すぐバテるよな」

「うるせえ……」

息を整えながら返す。

「その分、強いスキル多いじゃないですか」

正利が静かに言う。

「私たちの中では、レベルも一番高いですし」

「まあ、称号は伊達じゃないってことね」

恵が笑う。

「……かもな」

小さく呟く。

もし――

一人だったら。

(……間違いなく死んでたな)

「で、次どうする?」

ヒカルが起き上がる。

「次は、他のメンバーも呼ぶべきだな」

俺は言う。

「第二の試練が来る前に――」

一度、区切る。

「4級ダンジョンを攻略できるくらいにはなりたい」

「……ちなみにここ?」

「10級」

「……無理じゃね?」

「やらないと死ぬだけだろ」

「それもそうか……」

ヒカルが苦笑する。

「とりあえず」

詩乃が口を開く。

「ここからは各自でレベル50目指しましょうか」

「ギルドの運営もあるし」

「QUEENは上げないのか?」

「私は生産職だから」

さらっと答える。

「物を作った方が経験値が溜まるのよ」

「それに、前線向きのスキルもないしね」

「……なるほどな」

役割分担が、はっきりしてきた。

「はー……忙しくなるな」

俺は天井を見上げる。

「ギルドも整えないといけないし」

「第二の試練が来る頃には、企業登録も必要ですね」

正利が淡々と言う。

「今はまだ、ダンジョンドロップを富裕層が買い漁ってくれてるので資金はありますが」

「いずれ、管理が必要になるでしょう」

「給料とかもあるしな」

「ええ」

「ドロップは自動回収で、分配もシステム管理ですから」

「当面は問題ありません」

「問題はその先だよね」

恵が言う。

「世界中にダンジョンがバレた後」

誰もすぐには答えない。

だが。

「まあ」

ヒカルが軽く言う。

「その時は――武力で解決でしょ」

「……シンプルだな」

だが、間違ってはいない。

「じゃあ、決まりだな」

俺は立ち上がる。

「まずはレベル50」

「そこから先は――」

少しだけ笑う。

「その時考える」

こうして。

俺たちは次の段階へ進む。

試練は、まだ始まったばかりだ。



---


モンスターの構造


 -全てのモンスターには核が存在し、核とダンジョンが魔力の紐を結ぶことで継続てきに生活している生き物です。動物型などの一部の種には核の他に心臓があり、さほど地球上の生物と変わりません。ただし、魔力がなければ生きていけず、現時点ではダンジョンの外には行くことができません。しかし例外があります。ダンジョンが発生し、高まっていく魔力濃度によっていずれはモンスターが地球上を徘徊することになるでしょう、これが第四の試練を攻略できなかった際の終末であり、終焉です。


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