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暖かな陽気に包まれ、頬を撫でるそよ風が心地よく感じられる頃。

長く厳しかった冬の名残はすでに消え、柔らかな陽光が石畳を淡く照らしている。

風はどこからともなく花の香りと土の匂いを運び、城壁に囲まれた城下町をやさしく包み込んでいた。

その穏やかな空気とは対照的に、城下町は過去にないほどの賑わいを見せていた。


青空へと次々に放たれる色とりどりのバルーン。

子どもたちの歓声に応えるように、楽団の奏でる陽気な旋律が広場に響き渡り、太鼓と笛の軽快なリズムに合わせて芸人たちが曲芸や手品を披露する。

人々は笑い、驚き、手を叩き、祝祭の空気に酔いしれていた。


露店通りもまた、活気に満ちている。

炭火で焼かれる串焼きの香ばしい匂いが漂い、甘く煮詰めた果実の蜜の香りが風に溶ける。

鉄板の上で弾ける油の音、鍋の中で踊る香草の香り。

焼きたてのパンを掲げて客を呼び込む声、色鮮やかな布地を広げて見せる商人、手作りのアクセサリーを誇らしげに並べる職人。

値段の駆け引きや冗談混じりのやり取りがあちこちで繰り広げられていた。


この祝祭のような賑わいの中心にあるのは、今日行われるメインイベントだった。


城下町の大通りを抜けた先、高い鉄格子に囲まれた王立魔法学園。

その威容を誇る大校門の前には、すでに数えきれないほどの市民たちが集まり、隙間なく人垣を作っていた。

老若男女が肩を寄せ合い、背伸びをしながら門の向こうを覗き込もうとしている。


「入学前の試験で学園ランキング一位を取ったらしいよ」

「新しい魔法の開発もしたんだってさ。教授たちが騒然としたらしい」

「とんでもない美少女だとか。王都の貴族たちまで見に来るって話だぜ」


噂の中心にいるのは、最年少で魔法の最高位である“三魔皇”に選ばれた少女。

今日行われるのは、彼女の功績を讃えると同時に、王都中にその存在を知らしめる表彰パレード――すなわち、盛大なお披露目であった。


市民たちのざわめきが波のように揺れる中、学校の鉄格子の内側には、整然と整備された庭園が広がっている。

左右対称に植えられた低木と季節の花々、白砂の小道、中央に伸びる石畳の道。

その奥行きはおよそ百メートル。

陽光を受けて輝く噴水の水音が、遠く微かに聞こえていた。

さらにその先には、学園本館へと続く石段がそびえている。

数えておよそ二百段。

石段の格段には、学園の生徒が彼女の姿を見ようとすでに列をなしていた。

さらに頂には、数人の衛兵が整列し、式典用の銀のトランペットを携えて待機している。

そして、最奥にそびえる大門。

その前には二人の屈強な重装兵が立っている。

全身を覆うシルバーの鎧は眩しく光り、巨大な槍を地面に突き立てたまま微動だにしない姿はまるで石像のようだった。


一方――


大校門の裏側では、喧騒から切り離された静寂の中、二人の少年少女が待機していた。

顔に黄色い縦線のタトゥーの入った黒髪の少年が、隣に立つ小さな少女へ静かに問いかける。


「フィーリア、準備はいいか?」


フィーリアは彼の制服の裾をぎゅっと掴み、不安げに揺れる瞳を伏せた。

華奢な肩は緊張でこわばり、小さな指先にはわずかな震えが宿っている。

それでも彼女はゆっくりと顔を上げ、言葉の代わりに小さくコクリとうなずいた。


深呼吸をする間もなく、大校門の向こう側から二人の重装兵が声を張り上げた。


「――開門!!!」


次の瞬間、到底人の力では開けられそうにない巨大な扉が、ミシミシと鈍い音を立てながらゆっくりと動き始める。

扉の隙間から差し込む光が、細い一筋となって二人の足元へ伸びる。

やがて光は広がり、少年と少女の姿をまばゆく照らした。

外から流れ込む歓声と楽団の音色が、次第に近づいてくる。

少年はそっと微笑み、彼女に手を差し出す。


「フィーリア、行こうか」

二人は、ゆっくりと開かれていく扉の向こうへ歩き出す。


これは――

呪いで声を奪われた少女と、魔法が当たり前の世界で魔法を使えない少年の物語。

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