第8話 ~木村教授登場~
2116年 秋 マシンルーム
水嶋さんから一通りタイムマシンを見せてもらった後、120本ものタキオン・クロノードが球場に配置されたドームの五角形の扉を出た。
ちょうど扉の外に、見慣れない男性が立っていた。
「ひょっ、ひょっ、ひょっ、滝君だね。わたしは木村だ、ここではAIやネット、コンピュータ関係の一切を仕切ってるよ」と、気さくな感じで突然に自己紹介までしてくれた。
「あ、はじめまして、私も前職では、一応SEの端くれでして、いろいろご指導ください」
と、ここは深めに頭を下げる。
「あれ、教授。お約束は11時で、もう少し時間が有りますが」と水嶋さんが言ってくれる。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、あまりに自由な時間ができてしまってね、これからまた会議なんだろ、同席させてもらえるように重さんと廣庭さんには確認取ったよ」
「そうでしたか。あ、滝さん、木村教授はAIについて、そのすべてを知ると言っても過言ではない人です。今回のプロジェクトで最重要人物です」となんだか熱心に語ってくれた。
「水嶋さん、ありがとうね」そう言いながら、両手を差し出して水嶋さんと握手を交わし始める。なんだか、すごく話しやすそうな人だ。AI関係と言えば、直接の上司かもしれない。ひとまずは喜ぶべき。
「木村博士、頼りにさせて下さい」そう言いながらこちらも両手を差し出すと、しっかり両手で握手してもらえた。
「滝君の率直な意見をいろいろと聞いてみたいと思ってる、漢とかいて「おとこ」と読むって感じの人は良い、本当にいい」やばい、さっきのテーブルでの話しを聞かれてたのか?
「滝君、ひとつ君に頼みが有るんだが」
「はい、うけたまわります」
「いや、そこまでかしこまらなくていいよー。博士じゃなく教授と名乗ってるから、呼ぶときは教授と呼んでおくれ」
「はい、ご希望に沿います。一応あの、博士とお呼びする方が、私からするとより尊敬度が高いイメージなんですが」
「それよく言われるんだけどね、ラテン語のドクトル(doctor)もプロフェッソール(professor)も、元々まったく同義なんだ。
私としてはプロフェッサーと呼んでほしいところだけど、そのノリで全ての周りの人に「博士」呼びはご遠慮いただいてるんだよ」
「わかりました、木村教授」
「そうそう、それで」
うーん、付き合いやすいのか、そうでもないのか……。
全員が、朝から使っていたミーティング・テーブルに集合した。
しげ爺=重富博士は、博士や教授からは「重さん」と呼ばれていてる。若手からは、重富さんや重富博士だ。
廣庭博士は、単に博士と呼ぶ場合、ここでは廣庭博士をさす様だ。若手も多くの場合、省略形で呼ぶようだ。
木村教授は、もちろんこの人も博士。この三人はみんな博士なんだが、なんとなくの呼ばれ方で誰が誰の事を言っているのか取り違えないように、チェック……と。
今回の会議はこのビッグ3と、水嶋さんと俺の計5人だ。
打合せ開始、真っ先に口を開いたのは木村教授。
「重さん、夕べ決定して今日ここに滝君がいるって事は、ほとんど何も説明してないでしょ、この後、AI関連の話しは僕中心でやるとして、まずはここまでの詳しい経緯を教えてあげないと? でしょ」
「そうじゃな、極秘事項だから今まで話せなかったが、わしはもう長い事、この終末が見えておってな、教授と博士とずっと秘密裏に準備してきたんじゃ。
だからこそ今ここに及んで、これだけの設備を何とか準備する事が出来ておるのじゃ。
想定通りと言うか、わしの予想より少し早かったが、あの2110が発生した。
もともと準備していたわしらはここにこうして揃っておるが、タイミングが違ったために、追加機材などを求めたり、あるいは家族を迎えに、と、その時下に行っておった何人かの仲間は、誰もここに戻ってこれなかった。
本当に悔やまれるところじゃが、あの2110の緊急状態のさなかにあっても、極端な金持ちと、政府高官と呼ばれる方々は、何とかここまで、その家族と、移ってきたわけじゃな。
その後は「日本国の暫定政権の議会」が隣のビルに置かれて、議会が何でも取り仕切ってきたわけじゃ。
高官の内最初は2人だけだったはずじゃが、我々のこのプロジェクトの後ろ盾もおってな、その関係で、ここのすべてもその議会が取り仕切る事となったのじゃ」
「おっそうじゃ、龍馬のこれが用意できた、渡さねばな」と、眼鏡を手渡される。
先ほど水嶋さんが使っていたスマートグラスの眼鏡タイプだ。スマートグラスは技術的にもうずっと以前から眼鏡使用者以外にも、耳の位置に軽く掛けるだけで同様の機能をするタイプ(正式にはスマートイヤタッチと言うらしいが、どちらもたいていスマートグラスと呼ばれている。)
「ありがとうございます、セキュリティーが心配で」と言ったところで、それには教授=木村教授から、
「そうそう、それはこの後、合わせて説明してあげるよ」とのコメント。
「なんだか、私のために、皆さんにお時間頂いてなんと申し上げていいのやら」
「いいですよぉ、いろいろ詳細決めてしまわなあかんこともありますからねぇ、このメンバーが最適でしょう」と博士=廣庭博士からもコメントをもらえた。
博士から、引き続き話が始まった。
「では、映像を皆さんのグラスに出しますね。これ開いてください」
そこには、一つの表が映し出された。
回 ジャンプ元 タイプ ジャンプ先
1 2116/10/1(木) 第一回遠征 ⇨ Open 2027年10月1日 渋谷交差点へ
2 2116/10/15(木) 戻り ⇦ 2027年10月2日 渋谷交差点から
3 2116/10/29(木) 第二回遠征 ⇨ Open 2027年10月1日 お台場へ
4 2116/11/12(木) 戻り ⇦ 2027年10月5日 お台場から
5 2116/11/26(木) 第三回遠征 ⇨ Closed 2027年11月26日 国会議事堂前へ
ここで語られたことは、今までの俺の人生全てを軽くぶっ飛ばすほどの、重大で、壮絶で、その悲壮さは筆舌に尽くしがたい。とても一人の人間が背負いきれるようなレベルのものではなかった。ただ、その最後に希望もあった。




