第7話 ~キャプテン・シート~
2116年 秋 マシンルーム タイムマシンのそば
「案内するように」と指示を受けたため、しぶしぶといった体で、水嶋主席研究員が俺をともなってタイムマシン本体が置かれたドーム状の場所へ歩いていく。
100以上のレーザー砲のようなものが球場に取り囲んでいる一部分が、五角形の扉になっていて、水嶋さんが開いた扉には10本以上のレーザー砲? が固定されいてる。
俺はそそくさと、その扉を潜り抜け、中央に進んだ。
球体内部の床はガラス張りで、特異な空間に足を踏み入れた感が、すごい。
近くに寄って、タイムマシンをじっくり観察してみる。
空中、地上、水中など、どこでも移動できるといった感じで、キラキラ輝くその機体が本当に宇宙船の様で、あまりのUFO感に、忘れたハズの子供心がくすぐられる。
そして何より、今、この機体のすぐそばに立ってみると、最初に遠目から見た時にも、ここを球状に取り囲んだ100本以上は有るレーザー砲のように見える何かが、天井も床の下からも全天候型にぐるりと、本当に綺麗に均等に並んで、こちらを真っすぐに狙っているような配置だ。
「こりゃーたまるか」思わず、感心して声が漏れた。
と、その次の瞬間、なぜだか俺は、クタッとその場に崩れ落ちる格好で座り込んでいた。
「神聖な場です、こんな所で座り込まないでください」えっ、この状況が理解できないが、こちらを相変わらず嫌っているのはわかる感じだ。
?? なぜ俺は崩れ落ちた? 左の膝裏に軽い衝撃? 扉を閉めて後から追ってきた彼女が俺の背後に? おい、ガキかよ、これはあれだ「膝カックン」って奴だ。
瞬間、怒るか、仕返しを試みるか、スルーするか考えて、最後を選ぶことにした。
パンパンとズボンのホコリをはたく素振りをして、立ち上がりながら、
「床面のガラス強度も充分ですね」と、言い放ち、続けて、
「この機体は何人乗りですか?」
「最大、8人です」
短い返答でおわり。会話が続かねー。
「陸海空どこでも行けそうですね、もしかして大気圏突入を想定した形や強度とかしてます?」そこまでは絶対無理だろう、と思いながら聞いてみると、
「そうです、20回は突入を繰り返せる仕様です」と、今度はわずかだが声のトーンが高くなった。
技術者として真剣に取り組んできたのだろう、自慢したい気持ちはわかる。技術的なこだわりは随所にありそうだ。ならば、
「この、名前を知らないんですが、正確に球の中心に向けてレーザーでも発射できそうな、素子はなんていう名前ですか?」
「それは、タキオン・クロノードです」おっ、期待通り元気に答えてくれたぞ! と思ったら、言い終わった直後から、少し頬を膨らませてないか?
「なるほど、光速度不変のこの世界で、唯一その光速を超える「タキオン粒子」を、マシンに周りから放射して、時間(chrono)を超えさせる、そのための放射素子(node)でタキオン・クロノードですか?」
「そう、合ってます」よかった、うれしそうだ。
「いい名前ですね」よし、ドンドン行ってみよう!
「そ、そうでしょ」
「これ絶対、あなたのネーミングでしょ」さぁ、これでどうだ!
「ち、違いますよ、廣庭博士です」
「あれ? 違いました?」
「どうして私だと?」
「後半のつなげた造語が可愛くて、雅なおじさまには無い発想かと」
「……」
「ここを取り巻いている、この、そのクロノード達は、全部で何本ですか?」
「何本か当ててみてください」きたーっ、技術者あるあるな質問に質問返し……
「120本ですかね」
「えっ」そのまま、無言で、少し目を開き気味にしている。やばい、当ててしまったのか? こういう時は、近いけどハズレって答えで繋ぐのがいいのだが、ここはしかたない、こちらの手の内を全て明かせば、どこか指摘してくれるだろう。
「正多面体で最も面数の多い20面体、正三角形20枚のバクテリオファージとかの奴ですね。あれの20の頂点を全てカットすると、その断面が5角形で12枚、中の三角形は全て6角形に変わって20枚出来上がる。この32面体が俺の知ってる最も球体に近い幾何学的な形なんです。そう、サッカーボールです。いろいろ言いましたけど、要は、それしか思い浮かばなくて……」
「この120本で、やっと動作が安定して、ここにたどり着くのに何か月もかかったのに、それでも、どうしてこの一瞬で?」
「あ、扉が五角形だったから」
「そうですか……」近づけたのか? それとも距離は遠のいたのか? そんなことを考えてると、
「あ、マシンの中入ってみます?」よかった、のかな?
「ぜひぜひ、お願いします」
彼女が少しだけ首を動かしながら、視線を固定、その後視線を左右に動かすと、バシューッといった僅かな音がした。高級なスポーツカーのようないい音をさせて、マシンの背後の扉が開いたのがわかる。
彼女がした動作は、『スマートグラス』を起動して、リモートでタイムマシンのハッチを開けさせたのだろう。
はるか昔、インターネットやAIの黎明期には、スマートフォンからスマートウォッチなどが有ったハズだが、私たち現代人は、そのさらなる進化系ともいえるスマートグラスをほとんどの人が使ってきた。手ぶらで、空間全てに何でも投影でき視線で操作できる、それが当たり前だった。
過去形にしたのは、2110=あの忌まわしい2110年夏からの事を境いに、急速に使われなくなったせいだ。
だが待て、なぜ彼女はこんなにもセキュリティーの厳重なはずの場所でスマートグラスを使っている?
俺になら見せてもいいと? いやそんなはずはない。クロノイドのこのドームの中は外からも丸見えだし、だとすると、ここには特別なガードが有るのか?
新たな疑問、好奇心が思いっきり湧き上がってくるが、まずはタイムマシンに乗り込んでみよう。
真ん中に新たな扉、左右にも扉。彼女はその3つの扉もすべて開け放ってくれた。
「左右は、それぞれ3人迄、平らにして寝たり、椅子と机にして作業が出来たりする、仮の居住スペースです」
「おお、キャンピングカーみたいだ、いやずっとそれより高級感有るね」
彼女は、真ん中の扉をくぐり、ドンドン奥へ進んでいく。
真ん中の空間が、操縦席、コックピットというやつか、フロントガラスのすぐ前に、左右にそれぞれ一人用のシートが配置されている。その中間の少し後ろ、1席だけのより大きく豪勢なシートがある。機長? 隊長席? いわゆるキャプテンシートと言う奴だろう。
そして、そのシートよりも後部に、左右に二人掛けのシートが配置されている。
前面2、中央1、後部4、あれ7人? と思いながら見回すと、入り口入ってすぐの扉横に、明らかに「引っ張り出せばシートになります」と「補助席」感を主張している出っ張りが見える。
水嶋さんは真っすぐに奥まで行って、最前列の右側のシートに座ると、後ろを振り返って、中央のシートを指さして、
「はやく、座ってください」と言った。
なんだろう、この、ものすごく口元が緩んでいる自分、それを流石に悟られまいと、顎を手でなぜてみたり、それはそれで落ち着かなく見えているだろうか。
最初はあんなに「敵意」と呼べるほどだったが、心配の種が一つ減ったかと、おもわず謝辞を口にする。
「本当に、突然今日やってきた男と組まされて、そしてこの関係性で、何と言っていいやら」
「あ、立場とかだと思ってます? それ、全然違ってますから、まあ、もう忘れてください」
まあ、この際、そういってくれるし、一応忘れることにしよう。
タイムマシンを降り、クロノードのドームの五角形の扉から出たとき、ちょうど外に、見慣れない男性が立っていた。




