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キュベルス~人類滅亡とたたかう者たちの笑うしかないデス・ループ~  作者: 泊波佳壱
第2章 日本の新たなる夜明け

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第8話 ~人助けは良いことだけど~

2117年 1月21日(木) ⇨ 時間跳躍9 ⇨ 2025年1月21日(火) ⇨ 18日後

⇨ 2025年 2月8日(土)  潜伏開始から 18日


人類滅亡まで あと570日   時間跳躍可能回数 あと41回


 第二隊のメンバー達は、今日も、潜伏先マンションで「メインホール」と呼んでいる201号のリビングに集まって話し合っている。




 ここまでの活動を振り返ると、2月7日に、防衛事務次官と自衛隊統合幕僚長との会合に潜入し、ミッション4を成功させることができた。

 それ以前にもミッション1、ミッション2は成功しているが、ミッション3は大きな誤算で計画自体の見直しとなった。



 未来の本部の6人と、こちらの6人総出で調査、検討をして、新たなターゲットとミッションは次のように改定された。


  ―― 「重要人物リスト」 Target key person (基礎データ S1-02改) ――


■ 2027年のAI憲章本格始動に向け 2025年に接触対象とする人物たち ■


1.政府のトップ

   2027年   内閣総理大臣 鷹宮(たかみや)隼人(はやと)

   2025年時点 官房副長官


2.優秀な技術者「AI憲章」の現地開発担当として

   木村(きむら)明次(あきつぐ) 木村教授の先祖


3.政府・デジタル行政の要

   山内(やまうち)亮司(りょうじ)  デジタル庁 戦略・組織グループ(上席政策企画担当)

   津野田(つのだ)修一(しゅういち) デジタル庁 戦略・組織グループ(上席政策企画担当)


4.国防・災害対策等の要

   防衛事務次官 沼田(ぬまた)秀典(ひでのり)

   統合幕僚長  沖田(おきた)歳也(としや)


  ――  ――  ――  ――


 このデータの内、変更の有ったのは3番目の項目、環境省への直接アプローチを一時停止して、デジタル庁の若手二人からアプローチを開始する。

 リストには載っていないが、環境省ターゲットとしては、管名文代にかわり、(たちばな)真希(まき)という人物も、候補として検討されている。




 午前中には、この最終決定を終えて、現地潜伏メンバー6名はフリータイムとなった。


 そして夕刻になり、(たき)龍馬(りょうま)水嶋(みずしま)さな子が晩御飯の準備をほぼ終えたタイミングだ。


 ちょうど外出先の村橋(むらはし)りんから、メンバーのスマートグラズに、今本人が見ている視界の映像とチャットメッセージが転送されてくる。


 歩道橋で酔っ払い老人を保護。

 意識朦朧(もうろう)として、今にも歩道橋から車の多い道路に転落しそうな状態だったため、近くの交番に連れて行ったところ。



 警官とその老人がやり取りをしている映像、

「おじいさん、はい、ここに名前とか住所とか書いて」

「……わしはなぁ、わしは、むにゃむにゃ……ス~ス~、うっ……」

「ちょっと、寝てないで! じゃ、なにか免許証とか、身元分かるものない?」


「有るぞ、いっぱい持っとる。じゃが、誰にもやらんぞ……むにゃむにゃ」

「ダメだなこりゃ、ちょっと、服さわるよ、あ、これね。戸津蔵(とつくら)征二(せいじ)68歳と、住所は」



 もうひとりの警官が、村橋りんに向かって話し始める。

「どうやら、身元分かったようなので、後はこちらで対処します。ご協力感謝します。えっと、念のため、お礼などの都合で、こちらにお名前と連絡先を……」


「あっ、いえ、私はたまたま通りかかっただけなので名乗るほどの者でもないですし、お礼とか、いっさい結構ですから、これで失礼します」

 と、そう言い残して、そそくさと、交番を後にする村橋。



 少し交番を離れた後に、村橋から、今度は文字でなく口頭で、

「すみません、あまり現代に関与は良くないかとも思ったのですが、目の前で死亡事故というのもちょっと、あれだったので」と申し訳なさそうにしている。



 隊長である滝龍馬としては、こういう時、真っ先に明確な言葉を掛けるべきだと自認している。

「タイムマシンを稼働しなくても、目の前で人が救えたのなら、それはそれでよかったじゃないですか。お疲れ様です」


 それに対して、少し声のトーンをあげて、村橋が応じる。

「良かった、こちらに時間(タイム)跳躍(ジャンプ)する前には、『ミッションに関係の無い改変は、不確定要素を増やすから、なるべく避けるように』ってかなり強めに言われてたから、迷ったんですけど、滝隊長、ありがとうございます」


「いやぁ、その場にいたら、僕もそうすると思うので、こちらこそ、ありがとう」と返したところに、料理の手を止めて水嶋が話しに混ざる。

「りんちゃん! そこなら、近そうだねー。ご飯できたから、まっすぐ戻っておいで―、みんな揃ってるよ」



 永倉(ながくら)詩織(しおり)高杉(たかすぎ)風香(ふうか)も配膳を手伝って、ダイニングテーブルに食事の準備が整った頃、村橋もメインホールに戻ってきて、もう一度、今の話しになった。

 そこで、

「実は……」と、高橋風香からも報告が入る。

「一昨日のことなんですけど、赤ん坊を抱っこひもで抱いたお母さんがいて……



 ―――以下、再現化---

 前が良く見えていない状態で、母親が重たそうな乳母車を押していて、今にも歩道の路肩から車道に落ちそうな勢い。

 風香は以前に新聞記事で「母と子供二人がトラックにはねられて全員死亡」という記事を見ていたのを思い出した。


 走り寄って声をかけ、乳母車を押してあげながら、大通りから離れた住宅街の通りまで話しながら隣を歩く風香。

 風香はその家族を見送っているとき、やたらと恐縮している母親と、その胸に抱かれた乳飲み子のクリっとした丸い目と、乳母車の赤ん坊の笑顔、その様子を見ながら、つい目頭が熱くなっていた。


「怒られちゃうかな、でも、まあいいや」そう思ったという。

 --- ---



 話しを聞き終えるなり、龍馬は、しげ爺の口調を真似て、

「だめなのじゃ、気持ちはわかるが、それは、君たち自身が危険になるかもしれぬからのぉ、だからダメなのじゃ」と言ってみるが、満面の笑顔と、いまにも吹き出しそうな口調になっている。少し真面目な顔になって、


「ま、誰に怒られたってさ、数百億人救うのも一人救うのも、同じ方向だよ。無理はしなくていいけど、助けたいと思って行動できたんだから、いいさ。何かあれば僕が責任取るよ」と言ってみる。


 水嶋も、

「私たちが導入を願っているAI憲章だって「選別しなくていい」万全な仕組みを作ろうってテーマなわけだし、そっちの方が似合ってる気がするな」とフォローをしながら、

「さぁ食べようか」と言いかけて、席が一つ空いているため、言葉を止めた。



 ちょうどその時、キッチン側のドアの外で「ニャー」という鳴き声がきこえた、と思うと、そのドアを開けて、近藤(こんどう)清明(きよあき)がホールに入ってきた。


 ダイニングテーブルのそばを通り抜けて、奥のリビングに、キャリーケースを大事そうに抱えて足早に歩いていく。

 そのキャリーの中からは、また「ニャー」という鳴き声と、よく見ると側面の透明な素材を通して、中で暴れるように動き回っている猫がみえる。


 その場の全員が、「今にも食事を」と思っていたのをすっかり忘れたように、ゾロゾロと近藤の後を追って、リビングのテーブルの方に移動し、テーブルというよりも清明を囲む状態でその場に集合した。


「あ、龍馬さん! それと(みんな)も! 実はこれには訳が有って、どうか座って話しを聞いて欲しくて」と、うつむき加減に近藤が促すので、みな、テーブルを囲んで普段自分が座る席に着いた。


 テーブルの真ん中に、先ほどからのペットキャリーが置かれていて、中の主が動きまわることで、そのキャリーケース自体が、テーブルの上で、ズズッ、ズルっと動いている。



「どんな子なの、見せて見せてー」と言いながら、高杉風香が、キャリーに近寄る。

「あっ、ちょっと」と永倉詩織が声をかけたときには、既に風香は蓋を開け、中を覗き込んでいた。

 そのとたん、「シャーーッ」と威嚇の声をあげる、中の主は、まだ小さな、真っ黒な猫。


 滝は、なるべく感情を表に出さないように、声を抑え気味に発言する、

「清明ぃ、いったい何がどうして、こういうことになってるのかな?」


 近藤清明の話しを要約すると、こんな感じだ。


 近藤は、用心のために、キュベルスメンバーが今活動拠点としているこのマンションを、こちらに来る前から、その場所や周りの環境をチェックしていたという。

 そしてその時に、このマンションから6軒ほど離れた場所に、極めて老朽化し、人が住まなくなって取り壊された廃屋の記事を見つけたという。


 彼が気になったのは、その家には、元の家主が飼っていたのか、自然に野良猫たちが集まったのか、20匹を超える猫たちがいたことだ。

 建物の取り壊し時に、その猫たちは全て捕獲され、殺処分されたというのだ。


 その記事がどうしても頭から離れなくて、チェックすると、我々がここに来た2か月後に、捕獲されている事がわかり、里親募集のホームページを作ったという。

 

 皆の冷たい目線にさらされながら、清明が立体スクリーンに、そのホームページを表示して見せている。

 一匹、一匹の何枚もの写真や、見る人が気に入るであろう猫たちの特徴が、細かく記してあった。


 さらに、様々な愛護団体等やペットショップなどにも声を掛けたという。

 そして今日、譲渡会を開いてきたというのだ。



「あんたね、みんなが重大なミッションやってるときに……」と水嶋が声を荒げるが、

「うーん、ちょうどさっき隊長さん『数百億人救うのも、一人すくうのも』って言ってたし」と風香が助け舟を出す。

「いや、でも、人じゃなくて、猫だし」

「それよか、連れてきちゃっても、飼えないでしょ?」と、皆口々にいろいろと言い始める。


 皆が、いろいろ言い合っている間に、キャリーの開け放たれた蓋から外を覗いていた黒猫は、おそるおそる外に出ようとしたが、誰かの声におびえて中に引っ込む、という行動を何度か繰り返していた。


 が、ついにはそーっとキャリーを出て、正面からはずいぶんそれているのに、キャリーをぐるっと回りこんで、滝のほうに歩み寄った。

「……」滝は、無言でその様子をじっと見ている。


 永倉がたずねる「で、なんでこの子を連れて帰ったの?」

 清明は、よく聞いてくれました! とばかりに永倉の方を向いて、

「この子だけは、誰が来ても、ずっと激しく威嚇して、一切誰も寄せ付けなくて、現に僕だってほら」そう言いながら差し出した両腕は、無数のひっかき傷で赤くミミズ()れになっていた。


「へーっ、そんなに嫌がられてんのに、連れて帰っちゃったんだ」

「だって、こうして関わっちゃったから。殺されちゃうのとか、もう考えられなくて」


「誰にも一切なつかなくて、威嚇し続けて」と言われたその黒い子猫は、気が付けば龍馬の膝の上で、寝息を立てている。

 何人かがその様子に気づいて、ほぼ同時に、クスッと吹き出している。


 子猫を起こさないように、小声で話そうと注意を払いながら、

「いや、でも無理だよー、我々はずっとここにいるわけじゃないし……」その後に、何をどう言ったものかと思案する僅かなタイミングで、さな子が、

「この子、もう名前あるの?」と、いたずらっぽく訪ねる。


 清明は「名前は……」と言った後、一呼吸開けて

「ミナです!」と言い切った。


 その直後に龍馬が「はぁ?」と、皆が驚くほど大きな声を出した。

 その場の4人は、本当に驚いていたが、近藤清明としては、そういう反応を予測していた。


 2110年の大災害で、亡くした龍馬の妻の名前と同じ発音だ。ここに戻る道すがら、どうやってこの猫を救おうか、そんな事許してくれるだろうか? と考えた末の悪知恵(わるぢえ)だった。


 龍馬の大きな声にも驚いた様子もなく、膝の上の子猫は、スヤスヤと寝息を立てている。

「偶然、龍馬さんの、奥さんの名前と一緒だったんです」と、さらに清明が言い放つ。


 その場には、さすがにそれはひどくないか? そう感じたものもいた。

 だが、村橋が、

「そっかぁ、同じだったんなら……」と言葉を発したのを皮切りに、

「ええーっ、それなら」

「そんな偶然……」

「なら、なんとかならないかな」と、皆がそんなことを言い始めた。


 もともと野良なのだ、きっと名前はない。近藤がとっさに考えたのだろうということはこの場の多くの者は察しているが、ふわふわの真っ黒な塊りに既に魅せられている。


 こんな調子で、なかば無理やりな状態で、真っ黒な子猫のミナという、7人目の隊員が誕生した。



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