第7話(2) ~国防のトップ二人との対話~
2117年 1月21日(木) ⇨ 時間跳躍9 ⇨ 2025年1月21日(火) ⇨ 17日後
⇨ 2025年 2月7日(金) 潜伏開始から17日
人類滅亡まで あと571日 時間跳躍可能回数 あと41回
―― 時間改変作業 <<接触>> 2025年2月7日(金) ――
―― つづき ――
2117年の自衛官 永倉詩織は話しを続ける。
「地球規模で人類は分断され、各個に滅亡寸前ですが、既に詳細規模は把握できません。我々日本人は、北海道大雪山系の山麓の避難基地で137名が、現在生存確認できている生き残りでございます」
「137」沼田 秀典防衛事務次官が驚きの声をあげる。
「137とな」沖田 歳也統合幕僚長もその数に驚いている。
「我々自衛隊員は、7名のみが生存です。が、未だ解体命令は出ておりません。
任務は継続中です」
ここで、場は、しばらくの沈黙となる。現場の悲惨さ、苦しみを現代人二人が呑み込むまでの重要な時間だ。
龍馬が後をつなぐ。
「10名のみとなっておりますが、国の政府機関の代理となる沖田 歳也議会が機能しており、その指揮の元、自衛隊本体の皆様は、避難基地の安全を確保して下さっています。
我々科学者等を中心とする12名の組織もまた、議会の指示の元、この2025年に任務を果たしにまいりました。交渉が主任務とはいえ、学者や技術者ばかりでは危険なため、我々の隊に永倉殿にご助力を頂いている次第です」
「そうですか、で、その任務は?」
「はい、2117年では、既に環境破壊はもはや止められず何をしても滅びます。
この時代に今から準備し、日本で2027年から的確な回避策を実現し世界に広げれば、これから先の未来での「人類滅亡」は防げます。
そのために、我々が未来で開発した「AI憲章」という新しいインフラ制御の仕組みを、この時代に導入して頂くために参りました」
「たしかに、映像も見たが、にわかには信じがたいな」と、沼田事務次官。
龍馬は試みに、永倉さんに向かい
「自衛隊の方になら伝わるお話しとか、何か無いですか?」
「あ、それなら、我々が防衛大学校で習うものの中に、沖田統合幕僚長殿のお教えがございます。
『練意を研ぎ、兵站を旨とせよ。』であります」
その話し方に龍馬は一人、この場に似合わぬ余計な事を考えてしまった。
自衛隊の方は、高位の立場の方と話すのなら、少佐という立場の人物でも、こういう話し方になるのかな、自分もそういう話し方の方が失礼が無いのか?
沖田統幕長が懐からメモを取り出し、話し始める。
「これは驚いたな、ちょうどここに持っておる。これが、三日後の幹部訓示に何を話そうかと書いた原稿だ。まだ誰にも見せておらんのだが」
食事の膳の横に出したメモには『己の練と意を研ぎ、出でては兵站を旨とせよ。』と書かれている。
「ん? 少し違うようじゃな」とぼやく沖田統幕長に対して、そのメモを覗き込みながら沼田事務次官が笑いをこらえるように言い放つ。
「それは同じものだ! 90数年? ならばそのようにそぎ落とされるのも道理じゃろうて。羨ましいな、未来にまで語り継がれる「言葉」を残すなど」
照れ隠しをするように、沖田統幕長が質問を投げ掛ける。
「タイムマシンというのはどういう原理だ?」その位置には永倉三佐は龍馬に向けて手を広げて説明を促す。
「ご説明申し上げます。世界線という概念でございまして、他の時代に時間跳躍しますと、その瞬間に跳んだ先に「新しく枝分かれした別の世界線」ができます。
元々の世界線と、タイムマシンが来た事で枝分かれした世界線、この二つが同時に並行して存在しはじめます」
「そうすると、親殺しのパラドクスなどは?」と沖田統幕長。現場を動かすトップ、瞬時にわかるとは頭がいい。
「はい、それぞれの世界線から同じ人が集まっても問題ないため、そういう問題は一切発生しません」
「ということは、君たちが今ここに来て、我々の今いるこの世界線を、滅びない未来に向かわせたいと言っておるという事じゃな」と、これは沼田事務次官、こちらも頭脳明晰だ。
沖田統幕長が、目を大きく見開きながら話し始める。
「今の話しからすると、こういう事か? 壊滅寸前の隊の救出要請かと思えば、違うのじゃな? 自分たちが……ではなく、この時代の我々を救いに来たというのじゃな?」
「はい」「然りであります」
ここでまた、しばしの沈黙。
「君らの話しは、これからの自衛隊の最優先に取り組むべきテーマとなった。
たちまちは『秘密裏に』という事じゃろうが、とにかく今後はいろいろと詳細を聞かせてもらわねばな」と言い切って、村田事務次官に向き直って、
「おっと、これは指示無きまま暴走になりますかな?(と少し口元を緩めながら)村田殿、私としてはその方向を望みますが、さて如何?」
「制度が、民意が、いや、そういうことを言うておる場合ではないですな。私も私の立場から、まわりと調整を付け「動ける」環境を作るように力を注ぎましょう。ただ、その前に一つ、大事なことを伺いたい」
「はい、なんなりと」
「君たちも我々も日本人だから日本なのか?」
龍馬は、その質問を本当にありがたく感じた。これだけの立場の二人が、こうも理解をしてくれている。そのうえで何と見事な質問か。
はやる気持ちを抑えながら、話し始める。
「確かに日本人だからはゼロではありませんが、日本から始めることの重要な意味が幾つもございます。そのため、我々日本人の生き残りがタイムマシンと「AI憲章」の二つを持てたことを幸運に思っております。
少し話が続きますが、どうかお許しください」
「うむ」
「いくつもの理由がございます。
1.地理的理由
台風・地震等の災害が多く被害も多い
気候変動に国を挙げて対処してきた最前線
2.技術基盤
高い技術力と、政府主導でインフラが高水準に整備されている
このインフラ制御の新たな進化が対策の鍵
3.軍事的安定性
軍事力に比して、まったく軍事的野心が無い国だから
「覇権」を唱えて他を圧する国が新たな仕組みを持てば対立も生まれますが
他国にその心配をもっとも持たれないモデルケースたりえる
4.AI憲章との親和性が極めて高い
災害時にも、暴動や略奪などが起こらない、人々の気持ちの豊かな国
人が統治しながらインフラ統合のAIを上手く活用できる下地有り
まずは、日本で実践し、世界各国にも導入してもらうという流れが期待されます」
「うむ、どれも納得できる。「軍事的~」の部分など様々な感情論もあろうが、日本から世界というのはうなずける。
だが、世界は一国の都合では動かぬからな、なかなかに難しいものが有るとは懸念する」防衛事務次官のするどい、極めてするどいコメントである。
「村田殿、それは」沖田統幕長が、不安そうに声をかける。
「現場判断としては、『リスク有り』と言っても、やりたいと本当に腹は決まっておるのか?」と沼田事務次官が問う。
「無論だ」
「ならば、協力は惜しみません。諸外国とも他の省庁とも、多大な政治的な攻防も必要だ、それらは事務方の仕事ですからね。「日本から始める」か、お互いその言葉には弱いですね」
「おや、そういえば、二人ともずっとその姿勢のままでしたね、すまんすまん、こっちに座ってくれ」
こうして、国防に関する中心人物二人は、何よりも心強い味方になってくれた。
このやり取りを皮切りに、「AI憲章」の詳細や、近未来の様々な災害や、それについての新たな事前対策など、多くのやり取りがなされるようになる。




