第7話(1) ~国防のトップ二人との対話~
2117年 1月21日(木) ⇨ 時間跳躍9 ⇨ 2025年1月21日(火) ⇨ 17日後
⇨ 2025年 2月7日(金) 潜伏開始から17日
人類滅亡まで あと571日 時間跳躍可能回数 あと41回
―― ターゲット:沼田 秀典(Hidenori Numata) ――
防衛事務次官 (国防政策の要「防衛省」におけるキャリア官僚トップ)
経歴
23歳 防衛省入省(旧防衛庁内局キャリア) 大臣官房文書課
27歳 装備政策課 防衛計画大綱 作成補佐 , 30歳 外務省出向(安保条約課)
36歳 防衛政策局 戦略企画室 課長補佐 , 39歳 国家安全保障局 出向
43歳 整備計画局 課長 , 46歳 在米日本大使館 防衛参事官
48歳 大臣官房審議官 , 51歳 防衛政策局長
54歳 大臣官房長 , 57歳 防衛事務次官
一般的印象
極めて慎重な人物。法の遵守、外交や予算が国防にとって極めて大切と知る人物。
省内での印象は、誰よりも頭脳明晰で囲碁や将棋、ボードゲーム等では誰にも負けたことが無いという。
愛煙家で世界のタバコや煙管・葉巻等のコレクター。
―― ターゲット:沖田 歳也(Toshiya Okita) ――
自衛隊 統合幕僚長 (陸上、海上、航空の三隊を統合した制服組のトップ)
経歴
22歳 防衛大学校卒業 航空自衛隊入隊 , 23歳 3等空尉 航空自衛隊 飛行教育隊
25歳 2等空尉 , 28歳 1等空尉 F-35飛行隊
32歳 3等空佐 飛行隊 飛行班長 , 34歳 作戦幕僚
35歳 統合幕僚学校(指揮幕僚課程)入校 , 37歳 航空幕僚監部勤務
41歳 2等空佐 , 43歳 1等空佐 戦闘機飛行隊長
45歳 在外勤務(ワシントン防衛駐在官) , 48歳 航空幕僚監部 防衛計画部 課長
51歳 空将補 航空方面隊 幕僚長 , 54歳 空将 航空総隊司令官
56歳 統合幕僚副長 , 58歳 統合幕僚長
一般的印象
若くしてエース・パイロットと呼ばれた。(航空自衛隊では飛行機乗りは総合職採用)
30代半ばでコックピットを離れ、幕僚監部からアメリカ勤務も経験。
少佐(3等空佐)以降は、とにかく部下に対して情に厚い男として知られる。
祖父は日本海軍、父は海上自衛隊という家系に生まれ育った。
歳也の息子も航空自衛隊に入隊、現在ヘリ・パイロット。
―― 時間改変作業 <<接触>> 2025年2月7日(金) ――
沼田防衛事務次官と、沖田統合幕僚長は、同じ年の生まれということもあり、ときおり非公式にあって話しをすることが有る。事実上の日本の国防のトップ二人だ。
気心が知れているとは言え、その立場は大いに異なるため、決してなれ合うことは無い。むしろ多くの場合において、その意見は真っ向から対立する。
この日も、防衛省と幕僚監部どちらからも概ね移動しやすい、都内の落ち着いた和食店の離れの個室で、軽く酒を酌み交わしながら、会合を行っている。
遠くのビル壁や公園の木々を借景として、日本庭園が見渡せる個室だ。ガラス張りの戸が縁側をはさんでおり、庭には誰も人がいない事がいつでも目視できる。部屋への入り口の長い渡り廊下は、通路の本館側にそれぞれの配下が待機している。
和やかに話しているように見えて、沖田は自衛隊を動かす側のトップ、沼田は止める側のトップ、剣と鞘と言ってもいい関係でどちらも重要だが、ほぼすべての事柄でその目指す方向が相反する。
相反すると分かっているからこそ、話し合いが大切だと、時折こうして二人で顔を突き合わすようになっていた。
個室での会合が始まって一時間をゆうにすぎ、予算編成を前にした案件など、だいたい話題が出尽くした頃のことだ。
縁側に、突然まばゆい光の不思議な屈折がおきたとみるや、二人の人物が突然に表れた。
ふたりはその場に片膝を付いて、そっと室内側の扉を横に引いた。多少距離は有るが、同じ一つの空間に、いきなり、謎の人物が現れたかっこうだ。
沖田統幕長は、突如現れた二人を厳しい目で睨みつけ、短く「誰だ?」と言葉を発した。その手は、テーブルの下に無意識にすばやく移動している。
一点を睨みつけているようで、現れた二人について「一人は女性だがよく訓練されているようだ、もう一人の男は、弱くはないだろうが特殊な訓練を受けている物ではない」と瞬時に見て取っている。手や腰や足元にも目を向けて、武装している様子はないことも確認している。
沼田事務次官は、微動だにせず、その場のそのままの格好で「店の者ではないな?」と、これまた短く声を発した。
その直後には時計を確認し、二人の向こうを透かし見るように庭を見て、また、渡り廊下に続く出入口の方もチェックしている。そして、
「ここがどこかわかっていますか?」と言葉を続ける。
縁側に突然現れた二人は、滝 龍馬と永倉 詩織である。
永倉が話し始める。
「沼田防衛事務次官殿と沖田統合幕僚長殿の会合の席と存じております。が、極めて重要な事ゆえ、このようなご無礼をどうかお許しください」
一気に、そう言いながら、中腰のまま、右手を顔の前に立てて、挙手敬礼の姿勢を取る。
「何者か?」と怒声を浴びせようとした沖田統幕長が、永倉の姿勢を見て、その言葉を飲み込んだ。
「私は、2117年、陸上自衛隊所属。永倉三等陸佐であります」
そのことばに、沖田統幕長がすぐに反応する、
「今、何といった?」長年の経験、立場と職業柄、所属隊と階級はすぐに認識する、問うたのはそこではない、そのことが永倉にも理解できるので、求められている答えを伝える。
「はい2117年であります。90年ほど未来の日本から、タイムマシンでやってまいりました。さらに、ご紹介します、こちらはタイムマシン第二隊隊長の 滝 龍馬氏であります」
これには、沼田事務次官が質問を投げ掛けた。
「タイムマシンだと? 何をそんなばかばかしい。が、聞いてやろう、ここに何をしに来たというのだ?」それには、ちょうど紹介された流れもあり、龍馬が応える。
「その未来では、人類は滅亡の淵に有ります、その状況からその滅亡回避の任務のために、こちらにお力をお借りしにまいりました。
ご無礼いたしますが、こちらをご覧ください」そう言って、龍馬が、クリスタルチップを乗せた状態で、手のひらを上にして広げた。
和室の床の間あたりの空間上に、立体スクリーンが出現し、未来の大惨事の状況が映し出され始める。
ここでは、その映像に合わせて滝が言葉を添える。
「2110年夏、温暖化は歯止めが利かなくなり、人類のほとんどは茹で上がるように死んでしまいます。2119年には人類は滅亡します」
スクリーンに映し出された映像には、地峡全体の映像、見慣れた青ではなく茶色に濁り、雲の流れが異常な速度で渦巻いている。
都市部の映像に切り替わる。
急に温度が上がり、エアコン・空調システムから熱風が噴き出す。オフィスや、駅の構内や、いろんな場所で、ゆらゆらと揺れる空気の中で、バタバタと倒れていく人たちの映像だ。
極度の熱中症状態、皮膚がみるみる白くなっていく「茹で上がっていく」人たちがそこに映っている。
干上がったダム、高速道路では等間隔で安全停止した車の中で、動かなくなった人たち。その救助に向かう自衛隊ヘリが、墜落する映像。
救助誘導をしながら、自衛隊員と民間人がともに白くなってその場に崩れ落ちていく映像」
「うっ」無意識に沼田事務次官がひしゃぎ潰したような声を発している。
「敵、ではないのだな相手は。環境破壊か、で、どうなっているんだ?」沖田統幕長も沈痛な表情で問う。これには、永倉三佐が答える。
「地球規模で人類は分断され、各個に滅亡寸前ですが、既に詳細規模は把握できません。我々日本人は、北海道大雪山系の山麓の避難基地で137名が、現在生存確認できている生き残りでございます」
「137」「137とな」ふたりがその数を繰り返す。
「我々自衛隊員は、7名のみが生存です。が、未だ解体命令は出ておりません。
任務は継続中です」
ここで、場は、しばらくの沈黙となる。現場の悲惨さ、苦しみを現代人二人が呑み込むまでの重要な時間だ。




