第6話(2) ~昼休みに昨夜のディナーを~
2117年 1月21日(木) ⇨ 時間跳躍9 ⇨ 2025年1月21日(火) ⇨ 15日後
⇨ 2025年 2月5日(水) 潜伏開始から15日
人類滅亡まで あと573日 時間跳躍可能回数 あと41回
ミッション3の環境省幹部の説得 失敗・断念。
滝龍馬はタイムマシンに乗り込んだ。
2117年の未来のマシンルームとつながった。
「おう、龍馬、たいへんじゃったな、一通り見ておるぞ」と、タイムマシンのフロントスクリーンにデカデカと映った老人が話しかける。
年齢の割に極めて元気に背筋を伸ばしたその老人は、キュベルス計画のトップ、重富博士だ。
「しげ爺、ターゲット3の管名さんは一度断念して、他のターゲットを再検討し対応しようというのが、先ほどまでのこちらの会議で出た希望です」
「ああ、そうじゃろうて、こちらでも同じことを考えておった。9回目のジャンプ前に互いに検討した後、いろいろ調べた中で、こちらで数点面白いものを見つけたので、それを送っておくぞ」
そのように、新たなターゲットの可能性を相談し始めるうち、順にメンバーが乗り込んできた。
未来の本部でも、カメラが引きになって、向こうの6名全員が揃っているのが見える。
こちらも6名、女性たちは、互いに手を振り合ったりしている。
「皆、元気そうでなによりじゃ。二日後には、ミッション4が控えておるじゃろ、その後に新たなターゲットでミッション3をやり直せるように、互いに検討しよう」しげ爺のメッセージに続き、木村教授が、
「AI憲章の内容については、万全ですが、2025年の実装に問題が有って、詳しい内容や対処は、また相談させてもらいますよ」とのメッセージと、廣庭博士からは、
「どうですか? 何か資材やマシン関係でこまったことはありまへんか?」との気遣いなど。
いろいろと今後の新ターゲットに関して会話を交わしている間にも、いつもはマシンの操作を行っている水嶋さな子から、永倉詩織が操縦桿を受け取り、
「現在時刻 2月5日 11時30分 目的地に向けて出発します」
と小声で発信を告げる。
「あ、ステルスモード、入れます」と水嶋が発声すると、フロントスクリーンに未来の映像とオーバーラップして映し出されていた正面の映像が、ほんの一瞬フワッとブレたような感覚を覚える。
表面に、3D空間スクリーンが投影された証拠だ。このスクリーンには視点に応じて、真の向こう側が映し出される感じでステルス状態が実現される。
フワッと浮きあがったマシンはいっきに雲の上まで上昇し、その後は、東南東方向に向きを変えて、どんどん加速を始めた。
「偏西風から追い風のため、行きは目的地まで20分です」と、これまたコックピット内のメンバーに向けて、小声で永倉が発声する。
「あ、どこに行くか分かった」と水嶋がこれまた小声で言う。
スクリーンの向こうからこちらを見ていたタイムマシン開発メンバーの一人、大久保美波流が、
「東方向で20分なら、6200km程度、その時代のジャンボジェット機で7時間程度で行ける距離ですね、どこに向かっているのかしら?」と、やや怪訝そうに漏らすと、廣庭博士が、
「どこに飛んでいかれはってもよろしおす、ステルス性能と飛行性能を、実地に試しといてくださいねぇ」と、こちらは満面の笑みである。
「東に6200kmと言えば?」「そのあたりは海の中」「人がいる場所?」「島?」
「ハワイだね」「そう、ハワイしか、そのあたりに人はいない」
画面の向こうとこちらで、皆がいろいろ「どこに向かっているのか?」「で、その目的は?」と推察し始める。
「もうすぐ昼なので、皆で昼食を遠出して食べようかと」と龍馬が口にする。
「ほう、ほう、ほう、それはけしからん、いや、うらやましいぞ。で行先はハワイですな」
「はい、その通りです」と永倉さんが受けて、さらに話し始める。
「じゃついでにクイズです。
私たちは、2月5日の11時30分に日本を出発しました。この音速をはるかに超えるマシンでは、20分あれば現地、ハワイ・オワフ島のホノルルに到着します。
この時、オワフ島の現地時間はどうなっているでしょう?」
「ハイ」スクリーンの向こう、日下まことが手をあげている。
「はい、日下さん」と、ニコニコしながら永倉が名前を呼ぶ。
「時差は19時間前ですから、2月4日の16時50分ですね」
「正解です! 昼に飛び立って、昨日の夕方に戻って、また今日の午後に戻ってきます。タイムマシンみたいでしょ」と永倉がニコニコしている。
自衛官さん、実はけっこうお茶目だな……と、口に出さずに思った者が、この場には少なからず居る。
「ほんとのタイムマシンだけど、時間跳躍無しのジャンプ??」と清明が感心している。
しばしの沈黙の後、
「そうするとなにかね? ホノルルで夕日でも眺めて優雅に食事かね?」
「はい、実はそういうミステリーツアーでして」
「ふぉっ、ふぉっ、『昼休憩にホノルルで夕日を眺めてディナー』うーん、やはりけしからん」と木村教授。
「そちらの皆さんには、申し訳ないのですが、行ってきます、そちらもそろそろお昼休憩を」と言うと、
「ちなみに質問じゃがのう、マシンは何処に留める予定かのう?」
「ポートロック・ロードという海岸沿いの通りが有り、その海岸線の岩場の間に、ステルスのまま海上停泊の予定です」
「では、こちらからも、まだ茹で上がっておらん時代のハワイの夕日を見ながら、ここでランチができるように、つないだままにしていてはくれんかのう?」との重富博士の声に、永倉さんが龍馬の方を向く。
それにこたえて龍馬が頷いたので、
「はい、そうさせていただきます。我々は現地での食事をお許しいただいて、2117年の皆様には、せめてダイヤモンドロックの端に落ちていく夕日の風景をお楽しみください」
そんなやりとりの後、急にマシンは減速しドンドン高度を落とし、ハワイ諸島が見えて来たかと思うと、火山や緑よりも人工物が一番多い島にどんどんと降りて行った。諸島の中で一番人口の多いオワフ島だ。しまの南端を回って東に進み、西向きの海岸線の岩場にタイムマシンを下ろした。
開け放たれたハッチから、すぐに陸に降りられる。そこから10mも歩けば、ポートロック・ロードという名の大きな通りだ。
通りに面したレストランに入ると、6人はそれぞれ好みのディナーを注文した。
ゆっくりと皿が運ばれ、メンバーはそれぞれ、沈み始めた夕日を眺めながら、食事や他愛もない話しをしている。
龍馬の頬を、熱いものがつたっていた。
「あ、ごめん、なんだろ、重大な使命が有るのにね、つい」と龍馬。
「綺麗ですね」と村橋りん。
「すっごい綺麗」と言った直後に「あ、小さな虫たちも夕日に照らされて綺麗」と高杉風香。
「龍馬さん、なに泣いてるんすか?」と清明。
「米軍との合同訓練で来てた時に見たんです、この景色。嫌なことあったけど、この景色見たら忘れられて、だからみんなに見てほしくて」と永倉詩織。
「うん、ありがとう、ほんと、ありがとう」その場に崩れ落ちるように体を斜めにしていた水嶋も、ポロポロと涙をこぼしている。
本人は気づいていないのか、隣の席の龍馬に、しなだれかかる状態になっていた。
うまくいかなかったこと、口には出さないが、やはり相当つらかったのだろうなと、みながそんな思いで見つめていた。
これから、もっと大きな、いくつもの困難が待ち受けている。
キュベルスのメンバー達よ、せめて今、この瞬間は、穏やかな時間を過ごしてくれ。




