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キュベルス~人類滅亡とたたかう者たちの笑うしかないデス・ループ~  作者: 泊波佳壱
第2章 日本の新たなる夜明け

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第5話(2) ~環境省トップとの接触~

2117年 1月21日(木) ⇨ 時間跳躍9 ⇨ 2025年1月21日(火) ⇨ 9日後

⇨ 2025年 1月30日(木) 潜伏開始から9日


人類滅亡まで あと579日   時間跳躍可能回数 あと41回


2025年に潜伏開始した第二隊は、ターゲット1人目と2人目に無事に接触し、一応の目的を達成。

その勢いでターゲット3人目に接触を開始する。


(2)水嶋たちは、手土産として、申請書の偽装を暴いて見せた。

  ―― 時間改変作業 <<接触①>> 2025年1月30日(木) ――

  ―― つづき ――


 管名の目の前、空中に浮かぶスクリーンには、水嶋隊員が映り、話しをしている。


「この情報を信じなくても大丈夫です。ただ、〇〇石炭火力発電所の再稼働申請の提出資料の添付3-7から、添付3-11まで、5枚に渡って、全て虚偽のデータです。貴方が最終の承認手続きを終える前に、必ず再チェックして下さい。


 もう一度言いますね、

   〇〇石炭火力発電所の再稼働申請

   添付3-7~3-11   です。


 この件が片付いた頃、私水嶋が、環境研究機関フューチャーQの研究員を名乗ってご挨拶に伺います、その時は宜しくお願いします。


 こちらももう一度言いますね、

   フューチャーQの水嶋  です。


 では、その時にお会いしましょう」


 その言葉が終わった瞬間、空間に浮かんだスクリーンは、昔のカメラのネガのように、一瞬色が反転したような気がしたが、すぐに跡形もなくその場から消え失せた。




 ちょうどその申請書類は、管名のデスクに回ってきている。


 相手はその事も知っているのか? それにいつの間に、この装置はバッグの中に入れられたのか? つい、部屋の中や戸口やベランダに続くカーテンや、あたりを見回してしまう。


 どこかから見ているのではないのか? いや、だとしても、そんなものに屈するわけにはいかない。


 私はどんな相手からの「意志」にも屈することは無い、私の信じ守ってきた正義のためにここにいるのだから。


 管名は、出勤するなり、提出され承認待ちになっている申請書類の束を確認する。


 別省庁からの書類や、ましてや民間等からの申請書類は、未だにデジタル化されず「紙で」提出される。これがなかなかに膨大な量におよび、机の上や書類棚を圧迫し続けている。


 はたして、問題の申請書類は、それはすぐに見つかった。


 見ると確かに、添付書類は大量に存在し、ちょうどその中の3-7~3-11は、各炉ごとのCO2排出量の検査データと、基準値の80%~高いものでも90%にとどまっているという検査機関の証明付きで数値が記載された書類となっている。


 部下3人に、書面としての改竄の有無、検査機関への照会、さらに、建設時点での古い書類に数値データの記載が無いかの確認を、とそれぞれ指示を出した。


 なんと、あろうことか、紙面自体から数値の周りに「画像加工の痕跡が検出」された。


 検査期間は当初、すでに提出済みとこちらへの情報開示を渋っていたが、検査機関としての認証取り消し案件だと凄むと、最終的にはしぶしぶ該当書類を出してきた、その数値は、現在の基準値の2倍の排出量を示している。


 過去の、その炉が建設され稼働した直後の検査実測値も手に入った。それは、今回の検査機関より、さらに大きな値であった。


 最終的に炉の管理委託先を呼んで問い詰めると、「触媒や温度管理の徹底で、CO2排出量は明らかに初期稼働時よりは減らせている」と繰り返し語り、その点には嘘が無く、多少の改善は事実とわかるが、基準値に遠く及ばず、改竄していることをついには認めた。


 こんなものを認めていたら、たしかにあの映像の通りになっていただろう。その点では、あの映像の提供者に、水嶋という人物に感謝しなければならない。


 却下の指示を出し終えて、今はひとまずは胸をなでおろした。


 その管名の姿を見ながら、まわりの職員達は、「流石だ」「なぜ気づけたんだろう」「女性ゆえの細やかさだろうか」などと噂したが、管名はそれを無視し、上司にその申請が改竄であり悪質である旨の報告のみを行った。




 それから、3日ほどが経った。


 窓口から、内線が入り、「環境研究機関フューチャーQ研究員で水嶋さん とおっしゃる方がご来客」と告げられるが、「今重大な会議中」として、合うのを断った。


 次の日にもまた訪問が有り、「『アポは有る』とおっしゃってます」との取次ぎにも、そちらの記憶違い、こちらは知らない」と拒否を続けた。


 週を跨ぎ、次の月曜にも、また訪ねて来たが、同様のやり取りをして追い返した。




 月曜の業務を終え、自宅に帰った管名は、テーブルの上に不思議な光がキラキラしているのを発見する。ずっと置きっぱなしになっていたガラス片が、郵便物などの下で、明るく光っていた。


 何とはなしに手に取ってみる。


 また、空間上に巨大なスクリーンが映像を結んだ。

 そこに映し出されたのは、都市の映像だ。


 熱中症や感染症で病院に駆け込む人々。多すぎる患者に医療崩壊してゆく現場。暴動。

 農村では、干上がった大地で茶色や黒に枯れ果てて、実を付ける前に崩れ落ちる作物。


 前回と同じ女性の声でナレーションが入る。


「そして、これが――2110年」

 さらに切り替わった画面では、バタバタと熱波で倒れその場で息絶える人々。


「その後数年で、世界はこうなります」

 空は灰色に濁り、海は茶色く泡立ち、

 かつて都市だった場所は、風に削られた廃墟の骨組みだけが残っている。

 そこにはもはや、生き物の気配は、ない。


「人類は、2110年代のうちに滅亡します。その未来を変えるために私たちはこの2025年に来たのです。この事実をどうか理解して下さい」


 どこまでも荒廃した世界が続く映像が流れ、つぎのメッセージが重なる。


「今この映像を見せているのはクリスタルチップと言います、貴方が声で指示すれば、任意の年、任意の地域の様々な事象の記録を表示できます。


 明日、もう一度職場にお伺いします。とにかく話しをさせて下さい」


 そこで、無音となり、画面全体はただうす青色の背景に、

「ご希望の時間と場所を」との文字が表示されている。


 文代は、しばらくの間、呆然としていた。その後、命じた、

「今のを、もう一度見せて!」

 ひととおり同じナレーションと情景が流れる。


「もう一度」

 さらにもう一度、その後「ご希望の時間と場所を」との文字に対して、

「日本の、真夏の最高気温の20世紀から最後までの変化は?」


 2020年代までどんどん上昇したが、2040年頃までほぼ横ばい、ただその後また緩やかな上昇をはじめ、2108年から40度を超え、2110年には一気に50度に達している。


 その後、思いつく限りの時間や場所の映像を見て行った。

 ひとしきりそれらの映像を見て、

「これは、未来の事実なのね」と、さすがに納得する。


 そこでふと我に返った文代は、自宅に帰り着いてから着替えることも食事も忘れて、2時間以上たっている事に気が付いた。




  ―― 時間改変に関する記録  2025年2月3日(月)――


 管名文代の対応に対して、水嶋も、他のキュベルスメンバーも首を傾げた。小さくはない「プレゼント」が、確かに功を奏したはずだ。問題の申請書類は却下されているのを確認済みだ。なのにこの塩対応はどういうことだ?


 三度訪問を拒否された後、自宅で「未来の真実が見られるように」準備をした。

 さすがに「真実を知れば」その事の重大さに気が付いてくれるはずだと。


 彼らは、この後、知ることになる。

 私欲もなく、誠実で職務に忠実な善人が、動かしがたい壁となる事も有ると。


 いっそ私欲にまみれた汚職官僚に、いくらか巨額の袖の下でも渡した方が、人類全てが救われるのなら、どれだけ安いか……とすら、矛盾を感じるほどに。




  ―― 時間改変作業 <<接触②>> 2025年2月4日(火) ――


 水嶋隊員は、4度目の訪問で、やっと環境省の会議室に通されていた。

 あまり大勢で威圧する必要もないだろう、ただフォローの必要な場合や万一の場合も考え二人体制で対応、そう考え、滝が同行し二人で臨むこととなった。

 

 他には誰もいない会議室で、タイムマシン遠征隊第二隊の水嶋副隊長と滝隊長は、二年後に環境事務次官になる女性、管名文代と、三人だけで対峙した。


 水嶋が先に口を開く。

「まずは、こちらのメッセージに気づき、あの炭素火力発電所の再稼働、止めて頂けたようで、本当に良かったです」


 互いの関係性を確認する一言だが、その返答は大きく予想に反していた。

「正規の手順を踏まず、根拠も示されない情報で、公的な業務を捻じ曲げようとしたこと、どのような対処をすべきかと思案しておりました」


 滝は、文字通りその場にのけぞっていた。


 水嶋は、言葉を失い目を見開いていた……が、気を取り直し、

「昨日の映像は見られましたか、私たちは2117年から来ているのです、その未来でわかっている事実なので、貴方をお助けしたのですよ?」


「勘違いしないで! 私は貴方に助けられた覚えはない。書類の問題を見つけたから却下した。それだけです」


 眉間に力がこもり、少し首を傾げてしまう。道理が合わないだろ!


 水嶋はてのひらで、膝をポンポンと叩いてから、

「昨日の映像は見て頂けましたか? 私たちの存在や、ここにきている理由、そして何より、『このままでは人類は滅びてしまう』という事実はご理解いただけましたか?」


「はい、よくわかりましたよ。なので、前回のあなた方の妨害は不問としましょう。

 で、これ以上何か御用ですか?」


 水嶋は、自身の持ってきたクリスタルチップを胸ポケットから出し、テーブルの上に置こうとする。


「だから、それはもう何度も見ました。ここではもう結構です」と、管名が少し声を大きくする。


「2110年に、人類滅亡を決定づける大惨事が起こります、その後の2119年には完全に」

「人類は滅亡するという事なのですね」管名は淡々と言葉をつないだ。


 水嶋は、椅子から少し身を乗り出す、

「わかっていただけましたか。現在の日本で、この温暖化問題に中心となって対処可能なのは環境省だけなのです」


「はい、それも理解しました」

「よかった、だからこそ、貴方の力が必要なのです。環境省が動けば、この問題は大きく変えられます」


 数秒の沈黙。やっとここで、納得、合意の返事が得られると、安堵の気持ちで待つ水嶋と滝。だが、


「いいえ」

「いいえ?」


「協力しません。私はあなた方に一切協力できません。するはずが有りません」

「はぁ?」と、これは、なるべく無言で見守ろうと思っていた滝の口から思わず出た言葉。


「なぜですか?」と水嶋の震える声。

 バカにしているのではないのだろうが、何を興奮しているの? とばかりの無表情な管名。水嶋が言葉をつなぐ。


「このままでは人類は滅びるんですよ。全ての私たちの歴史も、そこにある優れたものも、様々な国家や政治の仕組みだって、全て全く何も残らないんですよ。

 協力しない理由なんて、無いじゃないですか」


「もしそうだとしても、まあ実際そうなるのでしょう。だとして、どうだというのです?

 私は行政官です。私の職務ではありません」


「いや、そういう事じゃないんですよ。この非常時に、貴方の立場でなら、救う活動を始められると言っているんです」思わず滝も発言する気持ちを止められなかった。震えそうになる声をなるべく抑えながら、言葉を続ける。


「貴方が一歩踏み出すだけで、人類はすくわれるんです」


「一歩踏み出す権限など、私には有りません」


「え?」「は?」


「権限? 違いますね、そんな馬鹿で意味不明な越権行為など有り得ないということです。

 誰かの意見が正しいからと言って、正式な手続き以外の声に従って、正式な手続き以外の何かをするなどということは、一切有り得ないのです。


 各年度の予算枠、我が国内外の全てのステークフォルダーの切実な希望や願いに基づく各種の書類、環境省から他の省庁との間で調整される様々な議案、すべて正式な手続きの上で行政は正しく動いてゆくのです。わかりますか、この意味が?」


「その行政手続きとか言っている間に、世界が滅びるんです。今までの常識・前例・手続き主義、そういうのを取っ払って、今、一番大切なことをやってください」


「私は行政官です。貴方がたの言う「一番大切な事」に従う道理が有りません。ルールや手順を無視して何かを断行するのは、独裁者や新興宗教だって「大切だ」「これが正義だ」と言いますよ。それに応じるいわれはないのです」


「貴方のせいで世界が滅んでも?」


「ほら、以前どこかの宗教家がそういう言葉で声明文を送りつけて来ていました。もう、話しになりませんね。これ以上言うなら、しかるべき対処をしなければなりません、ここから退室して下さい。今すぐに!


 あなた方の存在やこれまでの行動は、手続き外の危険な前例です。

 しかるべき部署に情報共有します。今後、私の部署の職員に接触しないでください」


 退出しようと席を立つ二人に向けて、管名はさらに言葉を浴びせる。

「いいかげんに理解しなさい! 人類が滅びる?

 だからと言って「手続き以外の主張に屈する」など行政官としては有ってはならない事なんです!」




  ―― 時間改変に関する記録  2025年2月4日(火)――


 当初の「ターゲット3」については、これ以上の接触を断念。

 ターゲットの切り替え、つまり、別ルートから、2027年に「AI憲章」を「国の制度として実現」していく協力者を新たに調査/発掘。


 懸案として、初期ターゲット3からの妨害に要注意。今後の動向によっては、最悪の場合、接触前に「戻って」接触しない世界線を作成する必要が有りうる。



 ひとまず「ターゲット4」への接触に移行する。




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