第5話(1) ~環境省トップとの接触~
2117年 1月21日(木) ⇨ 時間跳躍9 ⇨ 2025年1月21日(火) ⇨ 9日後
⇨ 2025年 1月30日(木) 潜伏開始から9日
人類滅亡まで あと579日 時間跳躍可能回数 あと41回
2025年に潜伏開始した第二隊は、ターゲット1人目と2人目に無事に接触し、一応の目的を達成。
その勢いでターゲット3人目に接触を開始する。
―― ターゲット:管名文代(Fumiyo Kanna) ――
2027年 環境事務次官 に就任(予定) 55歳(環境省初の女性キャリア官僚トップ)
2025年(現時点) 地球環境局 地球温暖化対策総括課長
経歴
東京大学 文科一類 入学、法学部 卒業
23歳で国家公務員Ⅰ種(現・総合職)合格(上位成績)
24歳で環境庁入庁(当時は「庁」)大気保全局配属
31歳で地球環境局 気候変動国際交渉担当補佐
37歳で環境政策課 課長補佐
40歳で環境政策課 課長
42歳で地球環境局 気候変動対策課 企画官
47歳で地球環境局 気候変動対策課長
53歳で地球環境局 地球温暖化対策総括課長
近未来(世界線0の記録)
54歳で地球環境局 地球温暖化対策局長
55歳で環境事務次官
一般的印象
「環境外交で世界は変えられる」との発言が残る
大気保全局ではデータ分析・交渉文書作成で頭角を現す
海外勤務経験あり(ジュネーブ代表部でCOP会議(気候変動枠組条約)参加)
―― 関係資料①:地方TV局 朝のニュース番組「映像」 1976年 ――
「本日は〇〇保育園の様子を取材してきました」として6人の園児にインタビューしている。質問内容は「どんな大人になりたいですか?」という問いに、「パイロット」「野球選手」といった男の子や「素敵なお嫁さんになって優しいままになります」といった女の子がいる中で、マイクを向けられた最後の女の子として文代が登場。
「科学者になって、みんなの生活がもっと豊かになれるように研究したいです」と元気に発言。
映像がスタジオに戻って、メインキャスターが「しっかりしたお子さんですね。将来が楽しみです」と、コメントをもらっている。
―― 関係資料②:校内新聞「自由研究で県知事賞」 1983年 ――
今年の夏休みの自由研究では、本校からは3名の代表が県大会に進み、6年A組の管名文代さんが「私たちの未来に潜む危険の研究」で県知事賞を受賞。
大会では、自身の研究を持ち時間いっぱい掛けて自信を持って発表し、優勝。
その後、表彰式直後にマイクを向けられ、
「日本は世界有数の地震大国で大型地震の発生も予測されています。
今回調べていく中で、もっと怖い感染症や、異常気象、宇宙からの巨大隕石など、ほかにも多くの危険が有ることがわかりました。
詳しいデータを調べ、数値としてその発生確率や、対処に必要なことを正確にとらえて対策を考えることが、とても大切だと分かりました」
と、もう一度研究内容の要旨を力強く語ってくれました。
―― 関係資料③:新聞記事「ボランティア学生海外で活躍」 1994年 ――
3500世帯の家屋が流されたインドネシア洪水の復興ボランティアとして、日本の大学生を中心とした20人のチームが大活躍。インドネシア政府から感謝状が贈られた。
チーム代表を務めた管名文代さんは、
「私たちは、実際にはこちらのNGOのデータ整理や被害世帯調査と情報連携といった事でしかほとんどお役に立てていません」と謙虚に語り、最後に、
「異常気象による被害は地球環境の問題であると同時に、住宅の構造や強度やなどの問題が大きく、多くの人や団体に、経済支援を願いたい」と呼び掛けた。
―― 関係資料④:ボランティアサークルの新人募集チラシ 1998年 ――
社会で活躍する卒業生対談の中の1件。
3年生の質問「管名先輩、在学中のボランティア活動を認められて、大手外資系コンサルから誘われて内定をもらったそうですが、公務員の道を進まれたと伺っています。それはなぜですか」との質問に対して、こう答えている。
「打診された給与はすごくよかったんですけど、それより人が嫌がる、誰もやりたがらない困難な仕事が多いと聞いて、こちらを選びました。
新入生の皆さんには、そんなことを真似しろとは言いません。
でも学生の間は、ぜひいろんな困難に挑戦してみてください。経験は裏切りません」
―― 関係資料⑤:新聞記事「環境省の判断に抗議」 2028年 ――
2025年から再稼働した〇〇石炭火力発電所のCO2排出基準値が改竄されていた問題について、本日、環境NGOグループが、当時、廃止を撤回し再稼働を承認した環境省を相手取って抗議書を送った旨を発表。グループ代表は、当時の環境省地球環境局トップらに説明会見を求め、出方によっては厳しい対処も辞さないと語る。
―― 時間改変作業 <<接触①>> 2025年1月30日(木) ――
正月休みなど省庁ではお飾りだというものもいるが、民間企業に働き方改革を呼びかける手前、国の機関も、さすがに正月休みは残業不許可の流れが強くなり、地域環境局総括課長の管名も、率先して代休消化も交えて長めに休暇を取っている。
それでも、1月も終わりが近付いた今では、正月ムードもとっくに抜け、所内は怒涛の忙しさに忙殺されている。
女性で出世は珍しいとさんざん言われているが、環境省には現在、管名の下、4名の課長のうち一名も女性であり、開かれた風通しの良い職場だと自負している。
ここでは、限られた予算をいかに効率よく使って、地球環境問題に資するか、ギリギリの調整が日夜行われている。
主な対象は、様々な公共・第三セクター・民間のインフラ設備や資源プラントなど、また、各産業ごとの製品や生産プラントなどである。
それぞれに定められた規制基準値が守られているか、国連や国際社会の要請で、年々厳しくなる基準値への対応に向け、正しく挑戦できているかといった監督を行っている。
その対象は社会全体で有るから、その対象は膨大で複雑、さらにその様相は、年々やっかいになっていく。
春の人事にはまだ時期が早いが、管名は事務次官室に呼ばれ、4月からは局長にといった話が出ていると耳打ちされた。いや、偉くなりたいわけではない、だがこの場を私以上にうまく切り盛りできる人員が他に居ないので仕方がない。
既に他の人事もあらかた構想済みであろうとは思われるが、次官からの「次の総括課長は誰がいいと思うか?」との問いに、想定通りと思える無難な答え(この場合は女性課長の高梨)の名前を応えておく。
やがて、その日も終業の時間となり、例の通り、管理職は皆、率先して職場を後にする。
都内のそれなりの高級マンションの自室に帰り着いた管名は、玄関のドアを閉めた途端に、バッグの中で耳慣れない音が響きはじめた事に驚く。
スマートフォンの電話や何らかのアラームなどでは無い。いや? 知らぬ間に設定が変わったのか?
リビングまで移動し、ソファーに腰掛けながら、バッグの中身を、テーブルに広げ始める。ほどなく、見慣れないライター程度の大きさのガラス片が、似合わぬ大きな音を発している事に気づく。
手を伸ばし、触れようとした途端、リビングの視線より高い位置に、突然に大きなスクリーンが出現する。この部屋にそんな設備はない、不思議だが、よく見ると、このガラス片から出ている光が、そのスクリーンを空中に投影しているのがわかる。
スクリーンに映った若い女性は、見慣れない斬新な服装をしている。
「驚かれるでしょうが、私たちは、未来から来ました。その証明とあいさつ代わりに、一つの情報を急ぎお知らせします。
こちらは3年後にテレビや新聞を騒がせニュースとなる事案です」
スクリーンには、女性の姿が消え、変わりに、新聞記事が映し出されている。
『〇〇火力発電所再稼働問題 環境NGOグループ、環境省の杜撰な認可に抗議』
さらに続けて、同様の内容を告げるTVニュースや、最後には、謝罪会見で、並ぶ役人の真ん中に管名自身が立ち、頭を下げているシーン。
「基準値をはるかに超えるCO2が排出されていることが判明しています。なんで環境省ではその偽装が見抜けなかったんですか?」
「もしかして、役人の方がそれを指示したのでは?」
「環境破壊しても自分の懐が膨らめばいいと? あなた方が偽装を指示したんですか?」
だんだんエスカレートする追及の声が、急に静かになった。
空中に浮かぶスクリーンには、先ほどの女性が映り、話し始める。
「突然こんなものを見せられても、質の悪いフェイク映像やデマと疑う事でしょう。ですが、これは未来の事実です。
管名さんは私利私欲で動くような人では決してないと、私たちは知っています。ですが、この時の社会はそうは判断しなかった。
ただ、この情報を信じなくても大丈夫です。ただ、〇〇石炭火力発電所の再稼働申請の提出資料の添付3-7から、添付3-11まで、5枚に渡って、全て虚偽のデータです。貴方が最終の承認手続きを終える前に、必ず再チェックして下さい。
もう一度言いますね、
〇〇石炭火力発電所の再稼働申請
添付3-7~3-11 です。
この件が片付いた頃、私水嶋が、環境研究機関フューチャーQの研究員を名乗ってご挨拶に伺います、その時は宜しくお願いします。
こちらももう一度言いますね、
フューチャーQの水嶋 です。
では、その時にお会いしましょう」
その言葉が終わった瞬間、空間に浮かんだスクリーンは、昔のカメラのネガのように、一瞬色が反転したような気がしたが、すぐに跡形もなくその場から消え失せた。




