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キュベルス~人類滅亡とたたかう者たちの笑うしかないデス・ループ~  作者: 泊波佳壱
第2章 日本の新たなる夜明け

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第2話(2) ~鷹宮総理の決意~

2117年 1月21日(木) ⇨ 時間跳躍9 ⇨ 2025年1月21日(火) ⇨ 7日後

⇨ 2025年 1月28日(火) 潜伏開始から一週間


人類滅亡まで あと581日   時間跳躍可能回数 あと41回


2025年に潜伏を開始した第二隊は、ついにターゲット1人目への接触を開始する。


  ―― 時間改変作業 2025年1月28日(火) 14時スタンバイ ――


 各テレビ局は、緊急報道としてこの事件を取り扱った。新聞でも夕刊と翌朝の一面に

「鷹宮官房副長官の妻と長女死亡 遊園地観覧車爆発事故」

 といった見出しで、この事件の事は詳細に報じられている。


 元の時間の流れでは、そうなっていた。




 実は、このしばらく前から、キュベルスのメンバーたちがこの場を打開すべく立ち回っている。


 都内の某住宅地に彼らが借りているマンションの駐車場から、タイムマシンをステルス状態にして発進させ、遊園地のバックヤードの作業スペースに着陸させている。事件発生の約1時間前だ。



 チームは、二手に分かれて対処を始めた。

 村橋りん、高杉風香の2人は、観覧車の担当職員のうち、この爆弾を持ち込む犯人を捜して走り回る。

 事前に名前はわかっているが、ずいぶん若いころの顔写真しか手に入らず、捕まえられないまま、結果的に事件発生を許してしまう。

 

 滝龍馬、水嶋さな子、近藤清明、永倉詩織の4人は、タイムマシンに乗り込んでいる。

 爆発が実際に起こってしまった場合に、空中でマシンを寄せて、二人を助け出すためだ。


 遊園地のバックヤードからステルスモードで飛び立ったタイムマシンは、水嶋の的確な操縦桿さばきで、観覧車の一番上で停止しているゴンドラにその後部ハッチをぴったりと寄せる。

 ひらいたハッチの内側、それぞれ左右の手すりをしっかりつかみながら、近藤と永倉が手を伸ばして、ゴンドラの扉を開ける。


 ゴンドラの扉は、中からは安全上あかないが、外から操作さえすればロックを解除できる仕組みになっている。

 何の躊躇もなく、滝はゴンドラに乗り込み、意識を失っている6歳の娘さんを抱き抱える。そのままマシンに戻る姿勢になりながら、手を伸ばして夫人の手を握り、マシンの内部に引き入れる。


 実はこの時、倒れ始めている観覧車の動きを、タイムマシンの動きと、左右から近藤と永倉が、押し戻すことで、多少はその倒れようとする動きをなんとか押しとどめていた。


 マシンがハッチの扉を閉じながら、その場を離脱する。そのすぐ側をかすめるように、観覧車の本体は、大きな音を立てて倒れ始めた。タイムマシンの加速がもうすこし遅ければ、巻き込まれていただろう。間一髪で、それをかわし、その場から真っすぐ移動している。


 水嶋隊員が、さらに上手い操作で、行き過ぎた場所から戻るように、元いた遊園地のバックヤードに着陸した。



 コックピットから、村橋、高杉ふたりに、次の指示を出す。


 鷹宮本人に接触し、「気分が悪いからトイレ」と言って、人ごみを離れるように誘導してもらう。


 水嶋が夫人の手を引き、龍馬が娘さんを抱き抱えて、鷹宮のそばに歩み寄る。


 夫の姿を見て安心したのか、夫人が倒れ込みそうになり、鷹宮が走り寄って抱きすくめる。




 SP達が、ぞろぞろと龍馬たちを取り囲む。鷹宮本人も、SP達も、誰も事態が理解できない。


 龍馬が、話しかける。

「鷹宮隼人さん、こんな形でお初にお会いする事になってしまいましたが、奥様と娘さんは何とか我々が助け出しました。ただ、見えない未来の技術によるものですので、今は我々の事はどうか内密にしてください。


 爆発する前、すんでのところで、実はお二人は観覧車に乗っていなかった。とでもしていただければ幸いです」



「いや、それでは……、なんとお礼をしていいやら」泣きはらした顔から、先ほどとは打って変わって笑顔になっている、悲痛な顔から急に笑顔になった不思議な硬直の顔だ。



「今はまず、救急隊と同行して娘さんを病院へお連れ下さい。いずれまたお会いしましょう。あ、名刺代わりにお渡ししたい物が有るのですが、誰にも渡さずに、ご自身で持っていて頂けますか?」


「ああ、約束しよう」


 その声を聴いて、龍馬は、クリスタルチップをそっと手渡すと、すぐに二人で後ろを向いて立ち去ろうとする。


 SPの何人かが後を追おうとするので、

「どうか、総理に、いや失礼、官房副長官についていてあげてください」そう言って鷹宮の方を向くと、事情を察して鷹宮がSPを手招きしてくれたので、安心してその場を後にする。




 救急車の中で、娘の手を握りながら、夫人が鷹宮に話しかけている。

 二人の状態や、怪我などが無いかひとしきり話した後、夫人が言う。


「ねえ貴方、なんであの人たちはこのことが分かったのかと思ってたら、そのうちの一人が言ったの「自分たちは未来から来ました」だって。本当にそんなことあると思う? でも、それなら確かに助けられるかも……。

 宇宙船みたいな見たことも無い乗り物だった。それが、降りたら、外からは一切見えないの」


「あの連中、「いずれまた」って言ってたから、きっとそのうち接触してくると思うよ。それまでは「すんでのところで、実は観覧車に乗らなかった」「それで助かった」って事にしてくれないかってさ」


「そうね、わかったわ」





  ―― 時間改変の後、 2025年1月28日(火)夜 ――


 のちの総理大臣、鷹宮隼人(43歳のこの時は官房副長官)は、長い一日を終え、熱いシャワーを浴び、自室のソファーに深く腰を下ろしていた。

 昼間の遊園地の大惨事から、妻も娘も何とか無事に生還した。


 病院に付き添った後、官邸で報告等を行ったり、マスコミに囲まれたりと、疲れているのになかなか解放されず、やっと先ほど自室に戻ってきたのだ。

 妻と娘はとっくに病院から戻り、ぐっすり眠っている。


 担当医の話しでは、娘は、

「現場ではショックだったのでしょう。軽度の脱水と軽い熱疲労だけで、どこを調べても異常は見当たりません。奇跡的です」とのことだった。


 奇跡――


 鷹宮はふと、あの滝と名乗った青年から手渡されたクリスタルチップを手に取ってその手触りを確かめてみる。


 すると、突然に、何もないハズの正面の空間上に、ホログラムのように四角いスクリーンが立ち上がる。

 彼はその技術の正体を知らないが、2100年代ではどこにでもある空間位相工学(Spatial Phase Engineering)を使った空間スクリーンだ。


 広い空間の中に、正面に何人かの人物が立っている。みな見慣れない服装だ。

 正面真ん中に、あの滝と名乗った人物もいる。空間の右奥には、球場に並んだたくさんの突起があるドーム、その中には宇宙船のような乗り物。


 滝の隣の老人が語り始めた。

「貴方は今から二年後、2027年に、総理大臣になります。

 私たちは、その二年前に、ご家族にご不幸が有ることを知って、勝手ながらお助けに上がりました。


 これを見ておられるということは、何とかうまくいったのですね。本当に良かった。

 2110年夏、温暖化は歯止めが利かなくなり、人類のほとんどは茹で上がるように死んでしまいます。2119年には人類は滅亡します」


 その言葉に続いて、

 地球の映像が映し出される。だが、現代とどこかが違う。見慣れた青ではない。

 茶色に濁り、雲の流れが異常な速度で渦巻いている。


 急に温度が上がり、エアコン・空調システムから熱風が噴き出す。オフィスや、駅の構内や、いろんな場所で、ゆらゆらと揺れる空気の中で、バタバタと倒れていく人たちの映像だ。極度の熱中症状態、皮膚がみるみる白くなっていく「茹で上がっていく」人たちがそこに映っている。


 干上がったダム、高速道路では等間隔で安全停止した車の中で、動かなくなった人たち。

 ナレーションとテロップが流れる。


―――

 かつてAIはインフラを制御し危機を一時的に緩和したが、

「未来予測制御」の欠如(=人が選別され殺される悪しき工業技術思考)のまま、無秩序に導入は拡大し、ついには統治責任までAIに委てしまう。

 社会は分断され破局を防げなかった。

―――


 さらにまた、終わっていく世界の惨状の映像が流れつづけている。


 鷹宮は空中のスクリーンを凝視し続けている。

 普通に考えたら何かの悪い冗談、質の悪い手の込んだいたずらだと思うかもしれない。

 だが、知ってしまった。未来人の存在、未来からの救済。

 既存の物理法則を無視して、我が娘を救ってくれた者たちの存在を。


 もう疑う余地はない。


 滝と名乗った男の隣にいた女性が映った。彼女は語り始めた。

「私たちは、なんとかそれを食い止めたくて、2117年からやってきた、僅かな未来の生き残りです。

 2027年からスタートするAI活用の間違いを正し、世界を救いたくて「AI憲章」(AI5原則)という新しいルールを用意しました。


 いきなりにわかには信じられないかもしれません。それに今はまだ何もしなくて大丈夫です。来るべきその時に、どうかまたお話しをさせて下さい。それまでお元気で」


 そう言い残して、映像は、空間上に立ち上がっていた四角いフレーム毎消え失せた。

 部屋は元の静寂に戻る。


 鷹宮は顔を覆い、声を殺して泣いていた。ぬれた裾と、漏れる声を聞いて、そうしている自分に気づき、驚いているもう一人の自分がいる。

 普段見せる事の無い、厳しい形相になっている。


 つい先ほどまでは、政治家ではなく、一人の夫として父親としての感情でいっぱいだった。


「妻も、娘も、大切な家族が一度に二人とも死んでしまう未来だった?」

 誰かは知らないが、たしかに妻と娘は助けられた。

 安堵とともに、今こうして未来の重大な状況が知らされた。


 未来から来た彼らが確かに助けてくれた。だが、その彼らが、その未来を救うには、自分が必要だという事なのだろう。

 すぐにでも彼らに会い、もっと詳しい話しを聞かなければ、やるべき大仕事がたくさん待ち構えている。


 この夜、未来の総理大臣が、「人類の未来を背負う覚悟を決めた」。

 だが、本人以外は、誰もそれを知らない。

 もっともそれは、都内の某住宅地で、救出成功の祝杯を挙げている龍馬たちを除いてのことだが。




 ベッドルームの扉が開く。


 見ると娘が眠そうな目をこすりながら顔を出す。

「パパ……?」

 鷹宮は、いつもの優しい顔に戻って娘に向き直る。


「どうした?」

「こわい夢をみたの……」

 鷹宮は、壊れ物をそっと扱うように、娘を抱き上げた。


「もう大丈夫だよ、ほら、ベッドに行こう」

 いつもと変わらぬ、あまいルックスだ。


 よく見なければ気付かない程度だが、その鷹宮の目元には激しい決意を湛えた強い力がこもり、精悍さを増している。

 そう、未来を見つめる視線になっている。




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