第2話(1) ~鷹宮総理~
2117年 1月21日(木) ⇨ 時間跳躍9 ⇨ 2025年1月21日(火) ⇨ 7日後
⇨ 2025年 1月28日(火) 潜伏開始から一週間
人類滅亡まで あと581日 時間跳躍可能回数 あと41回
2025年に潜伏を開始した第二隊は、ついにターゲット1人目への接触を開始する。
―― ターゲット:鷹宮隼人(Hayato Takamiya) ――
2027年 日本国内閣総理大臣 に就任(予定) 45歳(戦後最年少)
2025年(現時点) 官房副長官 2年前の2023年に就任(当時41歳)
ルーツ
祖父:鷹宮陸人は町工場経営から一代で地方都市を代表する大企業へと発展させた人物
父: 鷹宮徳人(陸人の次男)は地方中核都市の県議会議員ののち国会議員
保守でありながら改革に熱心と、様々な層から人気の高い政治家
隼人は徳人の長男
経歴
国立大学法学部卒 安全保障と行政制度を研究、在学中に欧州公共政策大学院(留学)
28歳で国家公務員試験に合格し総務系官庁に入省
33歳の時、父徳人が急逝。退官して父の跡を継ぎ地元から出馬、衆議院初当選
35歳で現役人気女優 朝霧恵美と結婚
40歳で党の安全保障部会長
41歳では官房副長官
近未来
45歳で党内の世代交代の象徴として総理に担ぎ上げられる
一般的印象
「国際協調を理解する保守」 という立ち位置がウリ
若いのに忖度しない発言で、多くの世代から人気
あまいルックスで女性からのうけも良い
―― 関係資料①:朝霧恵美・鷹宮隼人結婚披露宴「映像」 2017年 ――
二人の結構披露宴は、大御所芸能関係者や政財界の大物たちをはじめとする1000人近い招待客を招き、都内有名式場で開催された。
その様子は大手テレビ局でも一部放送され、話題となっている。
細身で引き締まった新郎の立ち姿とあまいスマイル、新婦の大輪の薔薇を思わせる晴れがましい笑顔がテレビ映えして、終始和やかに進行している。
ネット番組の動画では、三度目のお色直しから式場に戻る直前の新婦にマイクが向けられ、新郎の対立政党系メディアと思われる記者からは、「いったいどれだけの資金を用意して口説いたのか?」などという揶揄とも取れる質問、他には「ご主人のどこに惚れたのですか? ルックスですか? 資金力ですか?」という質問がとぶ。
新婦は一瞬、イラッとした表情を浮かべたかと思うと、すぐにいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「お金ならきっと、私の方が稼いでます。ルックスも、私のほうが、ねぇ」ここで一呼吸開けてから、「負けても負けても誠実なんです。よく言うほら、あれです。誠実が服着て歩いているような? 誰よりもそういう人です、なので決めました」と一気に言い放った。
この言葉から「負けても誠実」が、その年の流行語大賞候補にノミネートされた。
―― 関係資料②:鷹宮(隼人・恵美)夫妻 新居訪問「映像」 2018年 ――
―― 関係資料③:鷹宮恵美(朝霧恵美)・女児出産「映像」 2019年 ――
・・・ ・・・
―― 関係資料⑧:女優朝霧恵美さん事故死「新聞記事」 2025年 ――
2025年1月28日15時頃、女優朝霧恵美さん(本名鷹宮恵美さん)と長女の二人が死去。
夫で現職の官房副長官 鷹宮隼人さんと家族三人で〇〇遊園地に来ていた。
偶然、官邸からの電話で地上に隼人さんを残し、恵美さんと6歳の長女が乗った観覧車のゴンドラが一番高い位置に差し掛かったところで、爆破、観覧車は倒壊。
朝霧恵美さんと長女の2人死亡。容疑者も観覧車下の操作ブースで爆死。
容疑者は園のスタッフ〇〇〇〇で、かねてから夫婦双方に何らかの恨みを抱いていたとみられるが、貸し切り利用ときいて爆弾を用意し計画的に観覧車に仕掛けていたもよう。
警察関係者は、「いわれのない嫉妬・逆恨み」ではないかとしながらも、警備関係者が付き添う事がわかっていて、逃げ場のない観覧車の爆破に及んだのは極めて悪質とコメント。
―― 時間改変作業 2025年1月28日(火) 14時スタンバイ ――
休園日の遊園地を借りて、家族三人でしばし休日の園内を楽しんでいる。
家族水入らずと言いたいところだが、警備関係者が何人も付き添ってくれている。こんな日まで申し訳ないとは思うが、こちらを気にしてか、遠巻きにガードしてくれている。
「ねえパパ・ママ、次は観覧車がいい」めったにない機会とあって、予想以上に喜んでくれる娘を見て、それだけでもう、目頭がつい熱くなる。
「良く前を見て、転んじゃうぞ」
「もう、パパはしんぱいしすぎだよ~」
観覧車に向け、家族で休憩スペース横の通りを歩いていると、ちょうど官邸からの連絡が入り、電話に出ながら妻に目配せをすると
「パパはちょっとだけお仕事みたいだから、観覧車は二人で乗りましょ」
と、すぐに気を利かせて娘の手を引いて歩きはじめる。
二人の後姿を見送りながら、休憩スペースのベンチに腰掛けて、官邸との電話を続ける。
係員に案内されて、ゴンドラに乗り込む二人の姿が見える。
「手短に」と思いながらも、対応策など話合っていると、いつの間にか、つい10数分が経っていた。
妻と娘が乗ったゴンドラが概ね一番高い場所に上がったタイミングで、その事件は発生した。
「バン!」激しい爆音が響き、観覧車下の操作ブースが破裂し吹き飛んだ。
一瞬のことで、何が起こったか把握できない。
観覧車の係り員が、観覧車下の操作ブースの中で、事前に用意していた爆弾を爆破させたようだ。
操作ブースの小さな箱は破裂し、中にいた係員自身の体もバラバラに吹き飛ばした。
まずいことに、観覧車を支える太い支柱がどれも折れ曲がっている。ブースに近い側は、明らかに支柱も飛ばされて、無くなっている個所もある。
観覧車は停止し、傾いて、今にも倒れそうな状況となる。
地上から120mほどの高さに宙づりになった二人。
私は、余りのことにいつのまにか座っていたベンチから滑り落ち、地べたに腰を付けている事にも自分では気づかず、ただ茫然と見上げる事しかできずにいる。
この時、さらに運悪く、ショックと下の爆発による煙を吸い込んだことで娘は倒れこんでしまう。
すぐにパトカーや、消防隊、消防レスキュー隊のはしご車も到着するが、はしご車の最長到達点は60mに満たない。
こういう非常事態も建築時に考慮されていているはずだ。非常電源での回転、それが無理であれば油圧と手動での回転で「下におろす」仕組みが有るに違いない。
レスキュー隊が何人かで取り囲んで回転させられないかと取り組んでいるが、
「ダメです、回りません。爆発で曲がって、ビクともしません」といった声が上がる。
「救急ヘリは?」
「構造躯体が邪魔をして危険な事から、設計時点からのマニュアルで、読んでも無駄といった扱いの様です」
「今は他に手段が無い、それに要人家族だ、すぐに東京都消防庁航空隊の新木場ポートへ連絡を!」
「中型の最新鋭機が出動しました」
といった声が飛び交っている。
なにもできない、ただ茫然と、この様子を見ている。
10分ほどで、ヘリのプロペラ音が聞こえ始めた。
観覧車の周りをまわっているが、ただ回り続けている。
「なぜたすけてくれない?」と、声をあげていた。
レスキュー隊員の一人が近づいてきて、状況を説明してくれる。
「本来は無謀ですが、なんとか上空からロープを下ろしての救助を検討していますが、ヘリが真上を飛ぶと、気流により倒れる危険が高く、近づくことができないようです」
「それ以外の救助方法として、今、隊員が躯体をよじ登る方法を検討してます。が、ヘリと同様、倒れる危険が高すぎて、手が出せません」
その場に集まった者たちは、結果的に何も手を出せず、ただ今にも倒れそうな観覧車を見上げる事しかできなかった。皆、ただ茫然と見上げ続けている。
いつのまにか規制線がはられ、その周りにはどこから集まったのか人だかりができている。多くはメディアのようだ。
爆発から約45分、この史上最悪の観覧車爆破事件は、さらに最悪の幕切れへとむかう。
観覧車が、ギギギギ~とゴゴゴ~が混ざった様な大きな音をたてはじめる。巨大な金属の柱が重さでねじれ、折れようとしている音だ。
無意識に立ち上がり、観覧車に駆け寄ろうとしていた。
警護スタッフが二人それぞれ左右から斜め前に立って行方をふさぐ。
「お気持ちはわかりますが、近づけません」
「近寄っては、危険です」
それぞれに声を掛けてくれる。
「あそこに妻と娘が乗ってる! 助けに行く」
「無理です」「おやめください」
大きな金属の柱が、さらに異様な音をたてはじめる、明らかに先ほどまでと曲がっている確度が違っている。
「恵美……、◎◎……」ただ、夢中で大声で二人の名前を呼んで、前に行こうともがく。
見ている間に、観覧車の柱は大きな軋みとも悲鳴とも聞こえる音を響かせて折れてちぎれとび、観覧車の本体が倒れ、園内の他の施設の上に、轟音を立てて崩れ落ちた。
あらん限りの大声で、二人の名を叫び続ける、ただ、叫び続ける。
周りから見れば、顔じゅう涙で汚したままだ。そんなことなど、おかまいなしだ。
いつのまにか、自分でも気づかないうちに、叫び疲れ、その場に倒れこんで、ただ茫然といる状態。今は自分では、何も思考できていない。
こうして鷹宮は最愛の妻と娘を亡くした。この日は、総理就任の二年前にあたる日だ。
それは輝かしくスポットライトを浴び羨望のまなざしに包まれてきた家族の、太陽のまぶしい光から、一転、地獄の漆黒の闇に落とされる最悪の事件であった。
各テレビ局は、緊急報道としてこの事件を取り扱った。新聞でも夕刊と翌朝の一面に
「鷹宮官房副長官の妻と長女死亡 遊園地観覧車爆発事故」
といった見出しで、この事件の事は詳細に報じられている。
元の時間の流れでは、そうなっていた。
実は、このしばらく前から、キュベルスのメンバーたちがこの場を打開すべく立ち回っている。




