第18話(1章-18)~時間跳躍6 第一隊救出作戦~
2116年12月10日(木) 正午 マシンルーム
人類滅亡まで あと630日 時間跳躍可能回数 あと45回
120本のタキオン・クロノードから放たれるエネルギーが、俺たちの乗ったタイムマシンに注がれる。
最初は、船体をブゥーンとわずかに震わせるような振動や、腹の中をすこし押されるようなわずかな感覚が有った。
フロントスクリーンに見える景色が、一本一本のクロノードの先端に向けて、吸い込まれるように、レンズの映像がゆがむように見えたかと思うと、それぞれが虹色の光となって、そのあと白くなり、その白い光がすべて繋がり、目の前全てが真っ白になった。
ポッと太いろうそくの灯が突然に消えた時のような、その音を何倍も大きく低くしたような「ボッ」とも「ドッ」とも少し違う重低音が響いたと思うと、視界は真っ白から、ところどころ綿あめの様な白い模様、そのまわりは全体にうす水色の光に包まれた。
落ちている?
ゴーッと大気を切り裂いて、機体が後ろに向けて降下しているのがわかる。
右前の席で操縦桿を握っている水嶋さんがそれに気づいて、飛行用の後部ジェットを始動する。
「キーン」というエンジン音を立てて、機体が安定し始める。
様々な方角が見えるように機体には多くのカメラが取り付けられている。
スクリーンの両端が、全方位の様々な映像を映し出すようになり、国会議事堂の建物を見下ろしている。
フロントスクリーンの上、天井近くの部分に左右に並んでデジタル時計の表示が見える。
右側には、2116年12月10日(木) 12:05:10 秒針は1秒ごとに11.12..と進んでゆく。
左側には、2027年11月27日(土) 10:05:10 から、同じく秒針が進んでゆく。
左が今、我々がいる時間軸、右が時間跳躍前の時間軸だと分かる。
さらに左側刻々変化する秒針のすぐ右横にはClosedと青く表示されている。
今回の時間跳躍が、既存の世界線に向けて実行されたことが示されている。
第一隊がいる世界線に来られたことがわかる。
前回、第一隊は、時間跳躍5で、2116年11月26日から、2027年の11月26日に時間跳躍している。
それから14日たっているため、2116年12月10日から、そのまま14日後に飛べば、2027年も12月10日である。
ただ、その時点では、第一隊のマシンは破壊され、隊員たちは既に解剖されるなど、ひどい目にあっているため、同じ時間間隔ではなく、前回の時間跳躍から1日後の11月27日に飛んでいる。
用心深く周りを警戒しながら、国会議事堂前のT字路になっている広い道路の中央に、機体を降下させた。
第一隊が同じこの場に降下し、その日のうちに自衛隊に取り囲まれ、取り押さえられてしまった事、その後二日間(つまり今のこの時間を含め)この場には、念のためにと武装した自衛隊の複数隊が待機していることは、何度も映像を見返して確認している。
装甲車両やトラックなどの場所も念入りに確認済みである。
事前の打ち合わせの通りに、機体は国会議事堂に真っすぐ向けて着陸した。
降下が完了するなり、スクリーンの左半分は7時の方向(やや左後方の方角)をしっかり見据えるように固定され、我々4人は皆、そちらの画面に注目する。
一台の装甲車に向けて、慌てて自衛隊員が駆け寄ろうとしているのが見えるが、装甲車には、この時間誰も乗っておらず、昨日同様の機体が突然現れたことで、慌てて持ち場に戻ろうと、この隊員が装甲車に駆け戻ろうとしているのだ。
事前の打合せ通りの位置にターゲットスコープが固定された瞬間、俺は「発射」と発声した。
永倉さんが引き金を引くがはやいか、走る自衛隊員と装甲車の間の、道路わきの樹木の幹が、激しい音を立てて消滅し、その樹木の上半分が、バキバキと音を立てながら道路に倒れこんでくる。
走っていた隊員は驚いて、その場にしりもちをつく。
それを確認した俺が少し右を見ると、ターゲットスコープは既に、しっかりと装甲車のエンジン部分を狙っている。
「発射」と再び声をかけた。
ドーン!
地面が揺れるかのような激しい音。爆風で1m以上浮かび上がった装甲車には、前面にぽっかりと穴が開き、そこに有ったハズの分厚い装甲とエンジンが無くなっている。
俺はマイクを握り、拡声器で外に向けて声明を発表する。
「まず警告する! 我々に向けて攻撃の意思が見られれば、今見せたように、こちらの武器ですぐさま対処する。
試してみてもいいが、そちらの武器、つまり、この国のすべての兵器を使っても、我々のこの機体一つを制圧する事はできない」
周りを見回すと、その場を警備している者たちは皆、じっと身じろぎもできないと言った状態であることが確認できる。
よかった、と少し胸をなでおろしたいところだが、緊張を解かずに話しを続ける。
「ただ、誤解しないでほしい。
我々は、日本国政府と国民の皆さんに向けて、重要なメッセージを持って、ここに降り立った。
昨日、私たちの同胞が同じ目的を持ってこの場に降り立ったが、対等な話し合いはなされず、不当な拘束からその後、より不当な扱いへと進むことが確認された」
すこし肩の力を抜いた者がいるのだろう、その場で姿勢を立てなおす者が何人かいる。
しっかり伝わるように、一呼吸開けて続きを話し始める。
「二つ要求をつたえる。
まずこの場に、各メディアの緊急放送チームを集めてほしい、この様子を全国に、そして世界に放送してかまわない。
この機体の50mより近づかなければ、こちらから攻撃を仕掛けることは無い。
そして、この国の代表、総理大臣にこの場に来て話し合いに応じるように求める」
ここから約20分、ジリジリとした待ちの時間が続く。
警備車両のエンジンがかかるたびに、そちらに向かってレーザー砲のターゲットを合わせる。
警備のメンバーの移動自体は見守るだけだが、そのうちの誰かが、こちらの機体に近づく素振りが有れば、その方向に真っすぐレーザー砲を向けた。
そういう、言葉の無い駆け引きをジリジリと続けているうちに、TV局の車両や、様々なメディア関係者と思われる人たちが集まり始める。
その中には、メディア関係者に化けた増員部隊もいるかもしれないが、それは織り込み済みだ。
国会議事堂とこちらの機体の間に、仮設のテントが用意され、その場にテーブルや拡声器などが配置され始める。その準備はされたが、そのテントから発せられた言葉は異なるものだった。
「そちらが武装している以上、こちらからは話すことは無い。武装を解かない限り一切の要望に応じることは無い」
こちらはここで、先ほどの言葉を繰り返す事となる。ただし、こういう返答は予測できたので、一つの仕組みを用意してある。
清明が後部座席でコンソールを操作し、フロントスクリーンの右に、テレビ局の放送を幾つか映し出す。この場のやり取りを、緊急生放送とでも言うのだろう、リアルタイムに伝えている局もあることを確認して、ふたたびマイクを握った。
「我々は武装している。ただ、それには正当な理由が有る。
我々は、日本国政府と国民の皆さんに向けて、重要なメッセージを持って、ここに降り立った。
昨日、私たちの同胞が同じ目的を持ってこの場に降り立ったが、対等な話し合いはなされず、不当な拘束からその後、より不当な扱いへと進むことが確認された」
ここまで話した時に、目の前のテントと、右横のTV局のカメラからよく見える位置に、空間投影で仮想スクリーンを構成し、映像を流し始める。
「内閣官房は、昨日の正午からすぐに危機管理センターを通じ、国家安全保障会議を立ち上げ対処を開始した。その対応は良い。だが、国民にはこの事実を知らせることなく、すぐさま、われらの同胞を拘束した」
そう話しながら、巨大な仮想スクリーンに、その時の映像を映し出した。
「すぐさま公開せずに、タイミングを見て、という判断は否定しないが、その後も公開することなく、我々の同胞を一方的に捕まえ、拉致監禁している」
「そんなことはない、公平に話し合えるように、別の場所に移ってもらっているだけだ」
「そういう嘘の言い逃れは出来ない! この時に拉致されて以降、隊員からの連絡は途絶えている。最初に明確に伝える。我々は未来から来た。君たちを救うためにだ」
テントの中の何人かが、「これはまずいぞ」などとあれこれ言っているのがわずかだが直接聞こえてくる。こちらとしてはそれにお構いなしだ。
「助けに来た我々の、その言葉に耳を貸すことをせず、拉致監禁し不当な行動を行う。
この映像を見てくれ、これは、我々が受けた不当な扱いの証拠であると同時に、我々が未来から来た証拠でもある。」
そう言いながら12/3の、タイムマシンが破壊される瞬間の映像を流す。
「これは彼らが拉致された7日後、今日から6日後の12月3日の映像だ。私たちのタイムマシンを、こちらの同意も一切の確認もないまま破壊している」
この時、都内で人通りの多い街角の巨大スクリーンに写されている緊急放送を、立ち止まって見ている多くの人々の姿を、清明はフロントスクリーンの一部に映してくれている。
そこにはスクリーンを見上げて立ち止まる人々の姿が次第に増えている。こちらの映像を見て、「ええーっ」といった驚きの声が上がっているのがここからでも確認できる。
「さらにこちらを見ろ!
これは今日から11日後、12月8日の映像だ」
ここで映されたのは、頭蓋骨を開いている映像。さすがに人々の大声や嗚咽の様な声も確認できる。
「これを確認したため、やむなく武装して私たちはこの場に時間をさかのぼってやってきた。
ここで、あたらしい要望を二つ伝える。
今すぐ、昨日ここにやってきた3人の我々の同胞と、タイムマシンを返してほしい。
これは今すぐだ。
それと、もう一度いう、総理をこの場に来させて、対等な話し合いができるようにする事。
それぞれ、何分後に実現できるか、まず今ここで解答を求める!」
しばらく、話し合ったりどこかに電話したり、とゴタゴタしている様子が見える。
このようにして、時間跳躍6、我々第二隊にとっては最初の時間跳躍は、今まさに始まったところだ。




