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キュベルス~人類滅亡とたたかう者たちの笑うしかないデス・ループ~  作者: 泊波佳壱


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第1話  ~補修工 滝 龍馬~

2116年 秋  大雪山系に僅かに残る居住区の外壁

「なあ、龍馬、お前いくつになったんだっけ?」


 先輩社員のTが話しかけてくる。


「34です」

 仕事に集中したいので、手短かに答える。


 居住区の外壁の補修工事を請け負う会社の社員になって2年目、俺は、(たき) 龍馬(りょうま)


「なあ、こっち見ろよ、話ししようぜ。そんなに我武者羅に仕事してちゃ、身が持たんぜ」


「先輩、今日中にここ仕上げちゃいましょう。他にもやる事山積みなんで」


「だからさぁ、お前どうしてそんなに熱くいられるわけ? 茹で上がっちゃうぞ」

 T先輩のその言葉に、さすがに我慢がならず、思わず睨みつけてしまう。


「怖い怖い、そんなに頑張ったって、もらえる給料が変わるわけじゃないし、俺たちはさぁ、この居住区に居られて幸せなんだから、まあボチボチやろうって言ってるだけだろ」


「先輩はずっとここで生まれ育ったんでしたっけ」なるべく手を止めないようにして、先ほどからどうしても言っておかなければ、と思うことを話し始める。


「生まれは旭川だけどさ、なまらべっぴんさんとか、観光地の高級ホテルにはやってくるから、ここで仕事をするようになったのさ。そしたら2110だろ、綺麗なおねえちゃんとか、もうここにはやってこないわけさ、ショックだよな~、そういう龍馬も似たようなもんじゃないの?」


「俺は東京で就職して、SEやってました」


「そかそか、言ってたなぁ。SEなら花形の仕事だし、今の給料より倍以上貰ってただろうに。それ聞きたかったんだ、そんないい立場だったのに何でやめて補修工なんかやってるんだろうってな。どんな理由だったのか聞かせてくれよ。嫌なことあったんなら相談に乗るぜ」


 もしも何かの失敗をしてそれを打ち明けたとしたら、こいつ絶対周りに言いふらしておもしろおかしくネタにするパターンだ。この忙しい中で……と益々不快になったが、こちらには何もやましいことは無い、それに「この際、言っておかなければ」という事にも関している。俺はイライラしながら話し始めた。


「E社は世界中に5000の拠点を持つ企業で、インフラ制御関係のAIの調整を主にやってたんです。長年の会社の努力もあって、入社4年目、2109年には、日本の最高気温も何とか45度までに抑えられてたんですよ。それが暴走というか2110年の50度、それで多くの人が死んだ。その時俺は、偶然この施設のサーバーの見回りでここに来ていて死なずに済んだけど、その時、都内の本社とオンラインで会議してて、俺、見ちゃったんですよ。高層ビルのオフィス空調が異常きたして、まさに「蒸し上げられる」みたいに倒れて同僚たちが死んでいくのを」


「そ……か」さすがに、言葉も出ないと言う感じのあいづちをかえすT。


 そうだよ、先輩、生き死にかかってるんだよ、俺たちは。なんでこの状況でヘラヘラしてられんだ?


「慌てて、家にも連絡入れたけど繋がらなくて」


「そういえば、お前の家族って……」


「結婚三年目で、そのとき、娘はまだ2歳で」


「……」


「そか、すまん。そんな事とは知らなくて」


「ここにE社の支社が有るんだろ、ずっとそこに居られたんじゃないの?」


「その日以降も、世界中で多くのインフラはほぼほぼ安定動作していて、仕事としてはここからでも調整はできるんですが、ただそれに何か意味が有ります? 人間のいない都市部の電気・ガス・水道の供給が安定してるとか、それでいて温度はますます上がっていくとか」


「さあ、よくわかんないけど、それって、そのお前のE社が良い仕事してたって事じゃないの?」


「それよりは、この外壁を破って熊が侵入してくることの方が、我々の生き死にに関わってるでしょ。だから、この仕事に変わったんです。給料とかの問題じゃない」


「そか、なんか悪かったな」


「だから、先輩もこの壁の補修作業、もっと真剣にやってください」


「わかったよ」


 わかったよと言ったものの、Tは、相変わらずその日の仕事をだらだらとこなし、とっとと事務所に戻っている。


 一通りのしまいを付けて、終了ミーティングの時間には間に合うように事務所に戻ると、そこで他の連中と話しているTの会話が聞こえてくる。


「あれTさん、今日は滝と一緒じゃなかったでしたっけ」


「ああ、あいつな、仕事のろいから「自分の分は片付けとけ」って言って、こちとら先に帰ってきちまったよ、なんだか2110思い出して泣きだしそうにウジウジしてやがるし」


 思わず、事務所の入り口を駆けこんで、Tに殴りかかっていた。


「そんなわけないだろ、まじめにやれよ。おまえ……おまえなぁ……」


 その場にいた他の連中が止めに入る。


「T先輩、適当だから」とこちらに声を掛けてくれる者と、


「新入り、なまいきなんだよ」と言うものと。




 そんなことでむしゃくしゃして、飲み屋に立ち寄ってしこたま酒をあおったまでは記憶がある。


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