冬の童話祭「ぽっちくん、『きらきら』を探して『言葉の森』を探検すっ!」語り部お母さん版
その夜、幼子はベッドの中で母親に新しいお話を聞かせてくれとせがんだ。そんな幼子に母親はとっておきのお話を聞かせる事にしたようだ。
そして彼女は幼子の手を握りながら優しい語り口で語り始めた。
そこは異世界。誰がなんと言おうと異世界なの。
そして異世界と言えば当然世界観は中世欧州風よね。そして世界制服を企む魔王とそれを阻止しようとする勇者がいるのも鉄板のはずでしょ?
むにゅむにゅむにゅっ! きゃ、きゃ、きゃ!
問いかけと共に母親は幼子のほっぺをむにゅむにゅした。
なので幼子は大喜びである。そして母親はまた語り出した。
と言うかこのふたりがいない異世界なんて所詮はパチモンよね。だから異世界とは魔王と勇者がいる世界こそが正統だぁ~っ!
うん、そうよっ!勇者こそが世界を救うのっ!ふふふ、あなたも勇者になりたいの?なら、よく食べて遊んで、更に色々な事を体験しなくちゃね。
ところで本来世界征服と書くところを世界『制服』としたのは単なるお約束なボケだから突っ込んじゃ駄目よ。
うりうりうりっ! きゃ、きゃ、きゃ!
母親は、まだ大して言葉も話せぬ幼子相手に今度はほっぺをうりうりする。
そして今度も幼子は大喜びである。そしてまた母親は物語の続きを語り始めた。
でも異世界と言えばやっぱり『魔法』よね。そしてそんな魔法を扱える者たちは『魔法使い』と呼ばれています。
う~ん、そう言えば『魔法使い』と『魔術師』ってなにが違うんだろう?
えっ、考えちゃ駄目?フォースを感じれば自ずと答えは導かれる?あらら、いつの間にそんな難しい言葉を覚えたのかしら?
いえ、本当は判って使っていないでしょ?ただ、なんかかっこいいから使ったんでしょう?ふふふ、ママには全部お見通しだぞぉっ!
こちょこちょこちょっ! きゃ、きゃ、きゃ!
母親はふと漏らした自身への問いかけに幼子が「ぱぶぅ~。」と返した事に対して、その言葉の意味を何故か理解し軽く突っ込みの儀式を行った。
そしてそんな母子のコミュニケーションが一通り終わると、母親は今度は本腰を入れて物語を語り始めた。
と言う事で、今回の舞台は多々ある異世界の内のひとつ『ふぁんたすちっく・わーるど』にある『ラッドランド王国』です。
その王国の奥深くに広がる『不思議の森』には、この異世界随一の実力を持つと言われている魔法使いが住んでおり、その名を『メーテルリンク・アリステリア・ミライ』と言いました。
因みに彼女は年齢不詳です。と言うか妙齢の女性に年齢を尋ねてはいけません。でも彼女は実際遠目で見る限りはちっこい少女・・に見えなくもない。なので一応ここでは永遠の17歳としておきましょう。
そして現在、彼女にはふたりの弟子がいました。そのひとりが『クイーン・ルビジニア』。13歳にして既に大学レベルの知識があり、いずれは師匠の魔法使いから免許皆伝を授けられるだけの実力を持った女の子です。
因みに隠してもしょうがないので初めに説明しておくけど、クイーン・ルビジニアは『ラッドランド王国』の隣国である『シーアイランド王国』の王女様なのっ!
ただ、今は王位継承争いを避ける為に2年前から魔法使いの所に身を寄せているのでした。
そしてもうひとりの弟子が『ぽっちくん』。今年10歳になったばかりの可愛らしい男の子です。
とはいえ、ぽっちくんはまだ弟子入りしてから3ケ月しか経っていません。所謂、見習い魔法使い(仮)の期間中です。
だけど素質はあるはずなの。だって、ぽっちくんのママはかつてメーテルリンク・アリステリア・ミライと魔法使い業界の頂点を競ったくらいの大魔法使いだったのだから。
ただ、我が子だとどうしても指導が甘くなるので、ぽっちくんのママはかつてのライバルであり、盟友でもあるメーテルリンク・アリステリア・ミライにぽっちくんを預けたのね。
ぶぅぶぅぶぅ~。
えっ、そんなの嫌だ?あなたはママと離れたくない?うん、大丈夫よ。ママは絶対そんな事しないから。でもぽっちくんには偉大な魔法使いになるという使命があるからね。
なのであなたもぽっちくんを応援しましょうね。そしてあなたががんばればきっとぽっちくんも負けじとがんばるはずよ。
そしてある日、新しい森での暮らしにも慣れたぽっちくんに、師匠であるメーテルリンク・アリステリア・ミライから新しい訓練を始めるとの指示がでました。
「これ、ぽっち。今日からお前は新しい魔法の基礎訓練をやる。で、まずはその為に必要な魔法の材料を『言葉の森』の奥から探して採って来い。因みに採ってくるまでは飯抜きだ。」
師匠の言葉にぽっちくんは涙目になりました。いえ、これは別に森が怖くて震えている訳ではありません。そもそもぽっちくんはこことは別のところですが、やはり鬱蒼とした森の中で今までママと暮らしていたのです。だからぽっちくんはへっちゃらでした。
なのでぽっちくんが泣きそうになっているのは別の問題。そう、ご飯抜きの方だったの。
ぶぅぶぅぶぅ~。
うん、そうね。別にいけない事をした訳でもないのにご飯抜きは可哀想よね。でも安心して。ぽっちくんはがんばり屋さんだからきっとご飯を食べられるようになるわ。
だけど弟子であるぽっちくんにとって師匠の命令は絶対です。なのでしょぼんとしながらも何を探してくればいいのかを師匠に聞きました。
「ぐすん・・、で、お師匠さま。僕は一体何を探してくればいいんですか?」
「まぁ、そんなにしょぼくれるな。確かに探し物は簡単には見つからないだろうが絶対森にあるものだ。」
ご飯抜きの言葉にしょんぼりするぽっちくんに師匠は励まし?の言葉をかけました。
「はぁ。そうなんですか・・。」
でも弟子入りしてから既に3ケ月。ぽっちくんは師匠の言葉をまともに受け取ってはいけない事をこれまでの経験から理解していたのであまり嬉しそうではありません。
だけど師匠からの言いつけは絶対無理な探し物ではないと判りぽっちくんは少しだけ安心したみたいです。
とは言えぽっちくんが不安がったのも無理も無いことです。なんと言ってもこの師匠ときたら時にとんでもない事をぽっちくんにやらせようとしたのですから。
いえ、師匠としては普通に簡単な事を依頼したつもりらしいのだけど、大魔法使いの簡単は見習い魔法使いにとっては海の水を飲み干すのと同じくらい無茶な事が多かったのです。
例えばある日、ぽっちくんは師匠から水を汲んでくるように言われたのだけど、その水は屋敷の庭にある井戸水ではなく山を3つ程越えた先にある泉の水でした。
この作業を終わらせるのにぽっちくんは丸々1日かかりました。勿論その間は御飯なしです。おかげで家に戻ってきた時はへとへとでした。
いえ、姉弟子であるクイーン・ルビジニアが師匠に内緒でお弁当を持たせてくれたので何とかなりましたが、そのお弁当がなかったらぽっちくんは山の中で泣きべそをかきながら食べ物を探さなくてはならなかったでしょう。
因みにぽっちくんの師匠は最初見本だといって自分がやって見せたのですが、その方法は魔法でぽっちくんごとどーんと泉に転移して、ざぶんと桶に水を汲むと、ぱっと瞬間移動して戻って来るというとんでもないものでした。しかもその間たったの10秒しか掛かっていません。
え?うん、そうね。それって全然見本になってないよね。仮にぽっちくんが初級魔法使いくらいだったとしても多分転移魔法すら使えないから無理よね。
ふふふ、なんでこのお師匠はそこら辺の事が解らないのかしらねぇ。
でも、今回ぽっちくんがやるように言われた訓練はそれ程無理難題な訳ではありませんでした。何故ならばぽっちくんが師匠から森で探してくるように言われたものは『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』だったからです。
そう、探し物は『物』ではなく『言葉』だったです。
ぶぅぶぅぶぅ~。
ははは、そうね、やっぱりあなたもそう思うわよね。そんなのは別に森に行かなくても辞書やネットで調べられるじゃんっ!って。
でもそれは甘いわ。だってここは異世界なんだもの。だからあなたの世界の常識は通用しないの。そしてぽっちくんにとってはお師匠の命令は絶対だったのよ。
こうしてぽっちくんは『言葉の森』へと『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』を捜す冒険の旅に出かける事となりました。
ただ、その事を姉弟子であるクイーン・ルビジニアに伝えると、クイーンは少し考えた後にぽっちくんへ言ってくれたの。
「言葉の森かぁ。むーっ、あそこはまだぽっちには早い気がするんだけどなぁ。まっ、いいわ。丁度今日は私も時間が空いているからついていってあげる。但し助言はしても手伝いはしないわよ。」
クイーンの言葉にぽっちくんは表情がぱっと明るくなりました。そう、顔には出さないようがまんしていたみたいだけど内心はとても心細かったのね。
そしてクイーンが助言はしても手伝いはしないと言ったのは、この訓練はぽっちくんに課せられたものだから姉弟子であるクイーンが助けてしまっては訓練の意味がなくなってしまうからです。
と言う事で、ふたりはお昼用のお弁当と水筒とおやつを詰め込んだ魔法のバスケットを持って言葉の森へと出発したのでした。
とは言ってもここは異世界なので「そうだ、京都へ行こう」と思い立ったとしても新幹線でびゅーんっ!と言う訳にはいきません。
いえ、ぽっちくんたちの師匠ならば魔法であっという間なのでしょうが、ぽっちくんには無理です。姉弟子であるクイーンですら最近漸くひとりでホウキに乗って空を飛べるようになったばかりなのですから。
と言う事でぽっちくんたちはとぼとぼと歩いて『言葉の森』へ向かったのだけど、その道すがらぽっちくんはクイーンから『言葉の森』についてレクチャーをして貰いました。
「でね、言葉の森には三種類の魔物たちがいるの。その中でも最大の勢力を誇っているのが『コトノハ系魔族』と言って、彼らは言葉を表現する『文字』を神と崇めている種族なの。」
「文字?それって平仮名や漢字の事?」
「そう、それとカタカナとアルファベットね。それら以外にも『コトノハ系魔族』は沢山種類がいるんだけど、これから行く森ではこの4つが多数を占めているわ。」
「という事は、別の森ではまた違った魔族がいるって事なの?」
「そうよ、ある場所ではアラビア文字族が主導権を握っているし、また別の所では象形文字族が幅を利かせているわ。中にはデジタル信号文字なんてゆう新興勢力が勃興している地域もあるみたいよ。」
「そうなんだ・・、むーっ、文字って一種類ではないんだね。でも、後のふたつはどんな種族なの?」
「それらはスウジ系魔族と記号系魔族ね。このふたつの種族は元々コトノハ系魔族の一派だったんだけど、勢力を拡大して分離独立したのよ。」
「スウジ系魔族と記号系魔族・・。スウジ系って1、2、3とかの数字の事?」
「そう、正式には1、2、3という数字は『アラビア数字』というの。そして数字はⅠ、Ⅱ、Ⅲと書く場合もあるでしょ?それらは『ローマ数字』と呼ばれているわ。そして数字族にはもうひとつあるんだけどぽっちは判るかな?」
「もうひとつ・・、むーっ、あっ、判ったっ!漢字で書く漢数字でしょっ!」
「ご名答っ!一、二、三ってやつね。でも漢数字にはまた別の数字を表す漢字があって、それは主に金融関係で偽造防止の為に使われているんだけど「壱」「弐」「参」「肆」「伍」「陸」「漆」「捌」「玖」「拾」「阡」「萬」などの漢字をそれぞれの数字に当てているわ。」
「あーっ、確かに一、二、三って、違いは横棒の数だけだからお金を扱うところでは誤魔化せないようにしなきゃならないのか。」
「まっ、お金が絡むと人って闇落ちしやすいからね。で、最後に記号系魔族ってのがいるんだけど、これらは別名『デジタル系魔族』とも呼ばれているわ。」
「デジタル系・・、つまりデジタルの世界で使われているって事?」
「そう、絵文字族、特殊文字族、カタカナひらがな拡張文字族、装飾記号族とかは全て記号系魔族よ。あっ、後、特殊な例として点字族は記号系魔族に分類されているの。」
「絵文字と点字は知っているけど、特殊文字や拡張文字ってなに?」
「それらはデジタル魔族が拡大発展した時に新しく分類追加された部族よ。今はそれらを全て内包した『ユニコード規格』というものが制定されているわ。」
「ふ~ん、文字の種類って増えるのかぁ。」
「そうよ、でも消えてなくなってしまった文字も沢山あるわ。特に昔の魔法使いが使っていた文字や言葉は第1次焚書坑儒 (ふんしょこうじゅ)の時に殆ど焼かれてしまい、辛うじて隠されていた書物も文字や言葉の解読が困難で失われてしまった魔法も多いと聞いているわ。」
「あーっ、時々お師匠さまが読めなくて怒り狂っている古書の事でしょ?もう、怒り心頭って感じで『スタートライン・エンペラー』の事を罵っているよね。」
「あははは、そうね。まぁ特定の分野の書物を禁書化するのはいつの時代でもあったけど、魔法書に関しては第1次焚書坑儒が一番ダメージが大きいらしいわ。でもどこかの言葉の森には、そんな失われた魔法系の『言葉』が眠っているっていう噂もあるの。」
「どこか?それって場所は判らないの?」
「そうね、たまに見つけたっ!っていう人も現われるけど殆ど別の言語だったってのがオチね。とは言え、それはそれで立派な功績なんだけど。」
「ならばそれを見つけたらお師匠さまは喜んでくれるねっ!うん、僕も大きくなったら探してみたいなっ!」
「はははっ、そうね。でもその為にはもっと『言葉』の勉強をしなくちゃ。でないと折角見つけても、それが本当に失われた魔法系の言葉なのか判断できないから。」
「うんっ、判ったっ!僕、沢山勉強するよっ!そしてお師匠さまに魔法の言葉をプレゼントするんだっ!」
こんな感じでふたりは微妙にお堅い内容のお話をしながら森の中を歩いていたのだけど、とうとう『言葉の森』の入り口に到着しました。
とは言っても別にそこは【これより言葉の森】と書かれた立て札が立っていた訳ではありません。ただ、幾つかの木々にひらがなや漢字の『実』がぶら下がっていたので、ここが言葉の森だと判ったのです。
「ねぇ、クイーン姉さん。なんでこの森の木には『文字』がぶら下がっているの?」
「あはははは、うん、不思議よねぇ。でもあれがさっき言った言葉の森の魔物たちの食べ物なの。なので私たちは食べられないわ。」
「へぇ~、言葉の森の魔物たちって『文字の実』を食べるのかぁ。」
「そう、そしてそれぞれの系魔族はそれぞれに合致する実しか食べないの。だから実の出来具合が勢力数に大きく影響するらしいわ。」
「あーっ、ひらがなの実が豊作でも数字の実が不作だと、スウジ系魔族の魔物たちは食べるものがないのかぁ。むーっ、偏食過ぎると生きるのも大変なんだねぇ。」
「まぁ、そうなんだけど、逆に食べ物を巡っての争いは起こらないから平和的な共存とも言えるわ。なんせ人間って同じモノが食べれるから、ある地域が不作だと直ぐに争って強奪が起こるし。」
「お互い分けっこすればいいのに。」
「それが出来ないのが人間なのよ。仮に分け与えても、それを『恩』として押し付ける場合もあるからね。」
「ところでクイーン姉さん。僕はお師匠さまから『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』を探して持って帰れと言われたんだけど、それってこの実の事なのかな。」
「そうね、ただ師匠が言っているのは文字ではなくて『言葉』でしょ?なのでそうゆう実はもっと森の奥に行かないとないのよ。」
「そうなんだ。実にも『文字の実』と『言葉の実』があるんだね。むーっ、クイーン姉さんって何でも知っているんだねぇ。」
「何でもは知らないわ。あくまで勉強して知っている事だけ。でも知っている事を増やすのはとても素敵なことでしょ?ただそれは自分から進んで学ばないとね。」
「そうなんだ・・。なら『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』がどの実なのかは教えは貰えないんだね。」
「ふふふ、ヒントくらいならば教えてあげるわ。但し私だって何でも知っている訳じゃないからね。」
「むーっ、語尾が『ら』で終わるって決め事が厄介なんだよなぁ。語尾じゃなくて語頭だったら辞書で幾らでも探せるのに・・。」
「それじゃ修行にならないでしょ。ではヒントとしてまず五十音をひらがなで紙に書いてみて。」
「えーっ、五十音くらい書かなくたって言えるよっ!」
「そう?ならそれらの『あ』の行の5文字に『ら』を付け足して尚且つ繰り返してみて。」
「えーと、最初はあの段だから『あ』と『ら』で『あらあら』だね。次が『い』だから『いらいら』、次は『うらうら』、そして『えらえら』と『おらおら』だ。」
「それらの中で言葉として普段見聞きした事があるものはあったかしら?」
「えーと、『あらあら』は町の奥様方が使っていそうだ。『いらいら』は言葉としてよりも文章の中で見かけるかな。『うらうら』は・・、どうかなぁ。『えらえら』は聞いたこともない気がする。でも『おらおら』は漫画の台詞で読んだ事があるよ。」
「はい、これで捜す言葉は5種類中3文字に絞られました。それを『わ行』までやれば探すべき言葉を把握できるはずよ。」
「おーっ、確かにっ!すごいねぇ、クイーン姉さんはっ!やっぱり何でも知っているんだなぁ。」
「何でもは知らないわ。あくまで勉強して知っている事だけ。でも種を明かせば私も2年前に師匠から同じ課題を課せられていたの。」
「あ、そうなんだ。因みにその時の事は教えてもらえないんでしょ?」
「当然。そもそも今言った事だってぎりぎりのラインだわ。なので横着しようとしないで自分で考えなさい。」
「は~い。えーと、ならば次は『か』の行だから・・。」
こうしてぽっちくんはクイーンに言われたようにノートを取り出すとそこに50音を書いて、さらにそれらの後に『ら』を付けたしました。
語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉
あらあら からから さらさら たらたら ならなら
いらいら きらきら しらしら ちらちら にらにら
うらうら くらくら すらすら つらつら ぬらぬら
えらえら けらけら せらせら てらてら ねらねら
おらおら こらこら そらそら とらとら のらのら
はらはら まらまら やらやら らららら わらわら
ひらひら みらみら りらりら をらをら
ふらふら むらむら ゆらゆら るらるら んらんら
へらへら めらめら れられら
ほらほら もらもら よらよら ろらろら
注:50音と言うが、や行とわ行の4音は空白なので実際には46音である。
そしてぽっちくんはそれらの中に日頃見聞きした『言葉』がないかを探し出して、見つけたものに黒丸を付け区別してゆきます。
あらあら● からから● さらさら● たらたら● ならなら
いらいら● きらきら● しらしら ちらちら● にらにら
うらうら くらくら● すらすら● つらつら● ぬらぬら●
えらえら けらけら● せらせら てらてら● ねらねら
おらおら● こらこら● そらそら とらとら のらのら
はらはら● まらまら やらやら らららら わらわら●
ひらひら● みらみら りらりら をらをら
ふらふら● むらむら● ゆらゆら● るらるら んらんら
へらへら● めらめら● れられら
ほらほら● もらもら よらよら ろらろら
その作業が終わるとぽっちくんはクイーンにノートを見せて、どうかな?と聞きました。
「どうかな。これで合っていると思うんだけど・・。」
「ふ~ん、『か』と『は』の段は全部該当するけど『ら』の行は全滅なんだ。」
「『ら』行はどれも聞いた事ないもの。いや『らららら』とかは歌の歌詞ならありそうだけど言葉としては使わないでしょ?」
「まぁ、そうね。でも『わ』行はなんで『わらわら』だけなの?」
「えーっ、だって『を』はあ行に『お』があるから音が同じになっちゃうし、『ん』から始まる言葉なんて聞いたことがないよ。というか言いづらいっ!」
「ははは、そうね。因みに『を』は格助詞と言って名詞などの単語の後に付ける事によって、その単語と他の動詞との関係を示す助詞として使われるわ。だから『を』が文頭にくる事はまずないのよね。そして助詞には他に『が』や『に』、『へ』や『と』などがあるわ。後、『ん』は別名『撥音 (はつおん)』とも言われています。」
「知らない単語がいっばい出てきた・・。」
「あら、ごめんなさい。でも『ま』列の『むらむら』と『めらめら』を聞いたことがあるなんて、ぽっちも男の子だったのねぇ。」
「全部クイーン姉さんが隠し持っていたBL漫画本に書いてあったよ。」
「読んだんかいっ!このマセガキがっ!」
「あんまり面白くなかったけどね。なんであの漫画ってお風呂に入っている訳でもないのに男の人同士が裸でいるの?」
「あー、まぁ世の中にはぽっちが知らなくてもいい事があるのよ。なので忘れなさい。と言うか忘れろっ!」
そう言うとクイーンはぽっちくんの頭をゲンコツで軽く殴りました。まぁ、軽くだったので痛さは然程ではなかったのでしょうが理不尽な仕打ちにぽっちくんは涙目です。
だけどそんなぽっちくんを無視してクイーンは話題を『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』に戻しました。
「さて、師匠が言った『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』は46個あるんだけど、ぽっちに探せと言った以上、ぽっちが聞いた事も無い言葉は除外してもいいわ。でないと修行として成り立たなくなるから。」
「そうなんだ。」
「そうよ、だって習っていない事を試験に出されても答えようがないでしょ?」
「あーっ、それもそうだね。」
「と言う事で、ぽっちがこの森で探さなきゃならない言葉は、ぽっちが黒丸を付けた24個に絞られた訳だけど、多分これらの出現頻度は日常で使われている頻度に比例するはずだから、重点的に探すのはそれらよ。で、ぽっちはどれだと思う?」
「えーと、『むらむら』と『めらめら』?」
ぱこんっ!
ぽっちくんの回答に対してクイーンから今回2度目のゲンコツが飛びます。
「それは忘れろっ!後『ぬらぬら』も覚えなくてよろしいっ!」
「むーっ、だとしたら『きらきら』と『ひらひら』かなぁ。きらきらはお星様だし、ひらひらはチョウチョの飛び方でしょ?『すらすら』はクイーン姉さんなら使うかも知れないけど僕には無理だし。」
「いや、もう少し選びなさいよ。」
「んーっ、なら『さらさら』と『ゆらゆら』。残りのはなんか見つけた場合、嫌な予感がする・・。」
「ははは、結構いい勘してるのね。まっ、いいわ。では探しにいきましょうっ!」
こうして事前の予習をしたぽっちくんは師匠であるメーテルリンク・アリステリア・ミライに言われた『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』を探す為に姉弟子であるクイーンと言葉の森の更に奥へと分け入ったのでした。
しかし、森の奥は進めば進むほど鬱蒼と茂る枝葉によって日の光が遮られ段々暗くなっています。その事がぽっちくんを殊更不安にさせたようでした。
なのでぽっちくんはクイーンの声が聞きたくてわざと質問をします。
「ねぇ、クイーン姉さん。お師匠さまは『言葉』を探してこいって言ってたけど、それって本当に『言葉の実』を持ち帰れっていう意味なのかなぁ?」
「おっ、今日はやけに慎重ね。でもそれは教えられないなぁ。だけど探していれば自ずと判るはずだから心配いらないわ。」
クイーンの言葉にぽっちくんは安心したようです。でも残念ながらこの時、最初の試練がぽっちくんたちの前にわらわらと現われてしまいました。
その魔物群はちっょと見ただけでは普通のスライムのようにも見えたのですが、その体には『文字』が書かれていました。そんな魔物たちを見てぽっちくんはクイーンの後に隠れながらその事を指摘します。
「ク、クイーン姉さんっ!あの魔物、お腹に文字が書いてあるっ!でもなんか変だ。」
「あら、気付いたの?うん、よく観察しているわね。むーっ、本当は一番最初に会う魔物はひらがな族の清音系が良かったんだけど仕方ないか。で、あの魔物はひらがな族とカタカナ族の変種なの。名前は『濁音』『半濁音』と言うのよ。」
「濁音と半濁音・・。でも半濁音って半分だけ濁音ってこと?」
「いえ、それは単なる言葉のアヤよ。濁音とは清音に『゛』が付いている文字の事で、半濁音は『゜』が付いている文字の事を言うの。そして半濁音は『は行』の文字だけが該当するわ。具体的な例を出すと『ばびぶべぼ』は濁音で、『ぱぴぷぺぽ』が半濁音ね。」
「へぇ、半濁音って少ないんだ。」
「濁音も『か行』『さ行』『た行』『は行』にしかないから少数派よ。」
「『は行』は濁音も半濁音もあるなんてすごいねっ!」
「そうよねぇ、しかも『は行』の『ひ』には『拗音』もあるから50音界の三冠王だわ。」
「クイーン姉さん、もうひとつ聞きたいんだけど『清音』ってなに?」
「あーっ、ごめん。基本的な事を説明していなかったわね。まぁ、簡単に言うと『清音』って50音の事よ。」
「簡単過ぎて逆に判らない・・。えーと、それってつまり『あ』とか『か』とか『わ』とか全部って事?」
「そう、言葉の基本となるこれら50音、まぁ実際に使われているのは46音だけど、それらの事を『清音』というのよ。」
「つまり文字ってまず46文字の清音があって、それの亜種として一部の文字に濁音と半濁音があるって事?」
「そうゆう事。まぁ、それ以外にもまだ教えていない文字はあるけど今の所はそれだけ理解していれば十分だわ。」
「清音、濁音、半濁音以外にもまだ文字があるんだ・・。」
「ふふふ、それどころか先にも言ったけど漢字やアルファベット、記号文字なんてのもあるから覚えなきゃならない事は沢山あるわ。」
「ん~、もうお腹がいっぱいって感じだよ。」
「大丈夫、そもそも世の中には文字とそれらを使った言葉が溢れているんだから。きっとぽっちだってまだ意味や分類を知らないで、無意識にそれらの言葉を使っている事があるはずよ。」
「あーっ、ありそう。この前もお師匠さまに『コミニュケーション』は間違いで『コミュニケーション』だって怒られちゃった。」
「ははは、それって定番よね。漢字でも『雰囲気』を『ふいんき』と読んでしまう人が結構いるらしいわ。後、ネット上では『漢字』という文字を『感じ』と変換したり、『以外』と『意外』が混ざっちゃったりしている文章も結構見るわね。」
「それって『同音異義語』って言うんでしょ?この前お師匠さまに教わったよっ!」
「おっ、ぽっちったら難しい言葉を知っているのね。でも今はまだひらがな族とカタカナ族を見つける事に集中しましょう。」
「そうだね、お師匠さまに言われたのは『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』を探すことだもんねっ!」
いきなり始まったクイーンによるお勉強タイムも漸く終わり、ぽっちくんたちはまた歩き出しました。だけどここは言葉の森。なのでふたりの前にまた魔物が現われます。
ですがその魔物は見た目は可愛らしい猫の魔物でした。但し通常の猫よりも数十倍は大きな猫です。そしてその猫の魔物にも体に文字が書かれていました。
「クイーン姉さんっ!あの魔物にも体に文字が書いてあるっ!でもなんか変だ。」
「そうね、あれは『拗音』猫というのよ。そしてコトノハ系魔族の中ではレアな存在だわ。」
「『拗音』猫?そしてレアなんだ・・。まぁ、確かに見た目は可愛らしいけど・・。サイズが牛くらいあるよ?」
「まっ、レアだから。では『拗音』猫の体に書かれている文字を読んでみて。」
「えっ、えーと『にゃにゅにょ』?」
「そう、『拗音』とは『や』行のみっつの文字、『や』『ゆ』『よ』が他の文字の右に小さく添えられている言葉で、文字で書くと2文字なんだけど音節としては1音節として数える特殊な文字なの。」
「あーっ、確かにっ!『に』の後に小さい『ゃ、ゅ、ょ』が付いているっ!」
「で、『拗音』ってレアなだけに対応する文字も7つしかないの。さて、ぽっちはいくつ思い浮かべられるかな?」
「えーと、『にゃにゅにょ』は言ったから後は・・、あっ、『きゃきゅきょ』は『拗音』だよねっ!」
「正解っ!後5つっ!ヒントは文字単体ではなくて単語として色々思い浮かべると、結構『拗音』って使われている言葉がある事に気付けるはずよ。」
「むーっ、言葉、ことば・・。えーと、お師匠さま、魔物、飯抜きの罰・・、あれ?『おししょうさま』の『しょ』って『拗音』だよね?」
「ご名答っ!でも『し』の字と、さっき出た『き』の字はちょっと手強いわよ。さて、それは何故でしょう?」
「手強い?えー、なんで?むーっ、判んないなぁ。あっ、『き』と『し』で騎士さまになるから?」
「おしいっ!とんちクイズだったら正解だけど勉強としてはバツね。ヒントはさっき説明した清音、濁音、半濁音変化にあります。」
「あっ、『し』って『じゃ、じゅ、じょ』にもなるっ!『き』は『ぎゃ、ぎゅ、ぎょ』だっ!」
「大正解っ!さぁ、のこりは4つよ。がんばってっ!」
「むーっ、こうなりゃ総当りだっ!」
そう言うとぽっちくんはノートに50音を書き出して、それぞれに小さな『ゃ』を付け足して読めるか声にでして試し始めました。
そしてとうとう残りの4つを見つけ出します。それらを見つけたぽっちくんのノートには次に挙げるような文字が書かれていました。
きゃきゅきょ ぎゃぎゅぎょ 発見済み
しゃしゅしょ じゃじゅじょ 発見済み
ちゃちゅちょ
にゃにゅにょ 発見済み
ひゃひゅひょ
みゃみゅみょ
りゃりゅりょ
「見つけたっ!残りは『ち』と『ひ』と『み』と『り』だっ!」
「大当たりっ!まっ、ちょっとチカラわざだったけど見逃してあげるわ。ではそれらの『拗音』を言ってみて。」
「うん、『ち』は『ちゃちゅちょ』で、『ひ』は『ひゃひゅひょ』。『み』は『みゃみゅみょ』で、『り』は『りゃりゅりょ』だっ!ひゃ~、なんかみんな言いづらい言葉だなぁ。」
「あら、それだけ?だとしたら減点かなぁ。」
「えっ、あっ、また濁音と半濁音になるやつがあるのか。えーと、『ち』と『み』と『り』は違うな。でも『ひ』は『びゃびゅびょ』と『ぴゃぴゅぴょ』になるねっ!」
「おしいっ!実は『ち』にも濁音があるのよ。」
「えっ、『ち』の濁音?それって『じ』と同音になっちゃわない?」
「なるわね。でもまぁ、話し言葉の『音』としてはそうなんだけど、書き文字としては別々のものとして扱うようになってるの。ほら、『お』と『を』の使い分けと似たようなものよ。」
「そうなんだ、ちょっと区別が難しいね。」
「これはねぇ、他にも『ず』と『づ』が同音としてあって厳密には発音は違うんだけど、微妙過ぎて気にしていられないって人が大抵ね。ただ、文字としては未だに使い分けられているから間違うとちょっと恥ずかしいわよ。」
と言う事でクイーンに指摘されてぽっちくんはノートの『拗音』一覧に当たらしく発見した言葉を付け加えました。
きゃきゅきょ ぎゃぎゅぎょ
しゃしゅしょ じゃじゅじょ
ちゃちゅちょ ぢゃぢゅぢょ
にゃにゅにょ
ひゃひゅひょ びゃびゅびょ ぴゃぴゅぴょ
みゃみゅみょ
りゃりゅりょ
そんなぽっちくんにクイーンは更に説明してきます。
因みにこの時、既に『拗音』猫はどこかへ行ってしまっていました。でも勉強中のぽっちくんはその事に気付きません。
はい、中々がんばり屋さんですね。普通は猫が近くにいたら勉強なんて手に付かないはずなのに。
もっとも猫に気を取られたりしたらクイーンが説明を止めてしまうはずです。そう、ぽっちくんは自分の為に勉強しているのでそこら辺はちゃんと自覚があるのでしょう。
なのでクイーンは更に『拗音』について説明を始めてくれました。
「そして『拗音』って文字としては2文字使うんだけど音節としては1文字として扱われるから、師匠の言っていた『2文字の繰り返し言葉』にも『拗音』は含まれます。まっ、これはちょっとした引っ掛け問題ね。実は私も昔引っかかりました。」
クイーンの説明にぽっちくんは『拗音文字』の語尾に『ら』を足して音読してみます。
きゃらきゃら しゃらしゃら ちゃらちゃら にゃらにゃら
ぎゃらきゃら じゃらじゃら ぢゃらぢゃら にゅらにゅら
きゅらきゅら しゅらしゅら ちゅらちょら にょらにょら
ぎゅらぎゅら じゅらじゅら ぢゅらぢゅら
きょらきょら しょらしょら ちょらちょら
ぎょらぎょら じょらじょら ぢょらぢょら
ひゃらひゃら みゃらみゃら りゃらりゃら
びゃらびゃら みゅらみゅら りゅらりゅら
ぴゃらぴゃら みょらみょら りょらりょら
ひゅらひゅら
びゅらびゅら
ぴゅらぴゅら
ひょらひょら
びょらびょら
ぴょらぴょら
「ひゃ~、みんな言いづらい言葉ばかりだ。しかも殆ど使った事のない言葉ばかりな気がするし・・。」
「そうね、繰り返し言葉としては馴染みがないのが多いわよね。精々『ちゃらちゃら』と『ぢゃらぢゃら』くらいかしら。」
「そのふたつって、なんかヤンキーが鎖のアクセサリーを腰に吊るして歩いている光景しか思い浮かばない・・。」
段々難しくなってくるクイーンの説明に、ぽっちくんはちょっとゲンナリぎみです。それを読み取ったクイーンは、ぽっちくんに休憩を提案してくれました。
「さて、お勉強のし過ぎは集中力が続かなくなるからここらでおやつにしましようか?ほら、今日は頭を使うと思って甘いものを持ってきたのよ。」
そう言うと、クイーンは餡でお腹が目一杯膨らんでいるタイヤキをバスケットから取り出してぽっちに渡しました。
しかもそのタイヤキには『保温魔法』が掛けられていたので焼き立てのようにホカホカです。因みにクイーンは自分用にはタイヤキではなくガトーショコラを用意していたみたいです。
まぁ、ここら辺はクイーンは生まれ育ちがお姫様だという意識の違いなのでしょう。だから欧州の某国ではお后様が腹を空かせた民衆たちに「パンがなければお菓子を食べればいいのに。」と、言ったとか言わなかったとか噂されているくらいですからね。
でも、ぽっちくんにとってタイヤキはご馳走です。なので大喜びでクイーンから受け取ってお礼を言いました。
「わーい、僕タイヤキ大好きっ!ありがとう、クイーン姉さんっ!」
「どういたしまして。それにまだお勉強は続くからね。だから糖分をとっておかないと覚えられないわよ。」
クイーンの言葉にぽっちくんは少しだけゲンナリしたようですが、目の前のタイヤキの魅力はそれを上回ったみたいです。
なのでニコニコしながらアツアツのタイヤキを頬張りました。そしてその甘さに心を奪われ、折角の休憩タイムなのに油断して思わずいらん事を言ってしまったのです。
もぐもぐ。「そう言えば、まだ勉強は続くって言ってたけど、清音、濁音、半濁音、拗音意外にもまだあるの?」ぱくん、もぐもぐ。
「あら、ぽっちったらタイヤキを食べた途端やるき満々になったわね。では説明するけど、後知っておくべきなのは『促音』と『長音』ね。」
「『促音』と『長音』・・、それってどんな文字なの?」
「う~んっ、文字というよりは『発音符号』みたいなものかしら?『促音』は所謂『つまる音』。文字にすると小さい『っ』の事を言うの。そして『長音』は母音と言われている『あ列』の文字を『伸ばす』時に使われる文字ね。」
「例えば?」
「『促音』に関しては、学校 が『っ』こう とか、切符 き『っ』ぷ とか、日記 に『っ』き とかかな。ほら、全部前の文字の後に小さな『っ』が付いているでしょ。そしてこれが付いていると、みんなそこは前の言葉をつまらせて発音するのよ。」
「おーっ、本当だっ!なら『カップ』や『モップ』や『作家 さっか』も促音付きになるんだねっ!」
「そうゆう事。そして長音の例は『おかーさん』や『おとーさん』、『おじーさん』や『おばーさん』とかね。因みに『おにーさん』や『おねーさん』も長音表現です。」
「はははっ、家族を呼ぶ言葉は長音家族なんだねっ!」
「ただ、これはあくまで『発音』としてそう聞こえるのをそのまま書き表したもので、文字で書くとそれぞれ『おかあさん』『おとうさん』『おじいさん』『おばあさん』『おにいさん』『おねえさん』になるわ。」
「あーっ、確かにっ!」
「別の例だと『くーき』は『くうき(空気)』だし、『ふーふ』は『ふうふ(夫婦)』ね。あっ、『すうじ(数字)』も『すーじ』って発音する人がいるわ。また外来語と言われる言葉には『コーヒー』や『テーブル』などのように長音で発声するものが結構あるわね。」
「猫の鳴き声の『にゃーん』とかも長音発音だっ!」
「あははは、そうね。確かにそうだわ。因みに『おばーさん』を長音発音しないと『おばさん』になって意味が変わっちゃう場合もあるから気をつけないとね。」
「伸ばして発音するのがあたり前と思っていた言葉も正確には別の言い方があるのかぁ。むーっ、ちょっと難しいかも・・。」
「ではちょっとした試験です。『女王様』をひらがなで書いてみて。」
「女王様?そんなの簡単じゃん、えーと『じょーおうさま』。あれ、なんか変だな。あっ、『じょうおうさま』かっ!」
「はい、実はどちらも不正解です。で、正解は『じょおうさま』。長音も『う』も発音しないのが正式な『女王様』の読みです。もっとも慣用的には『じょーおうさま』や『じょうおうさま』も間違いとはされないらしいわ。」
「『じょおうさま』・・、むーっ、なんかしっくりこないなぁ。」
「まぁ、言葉は時と共に移ろうものだからね。本来間違った使い方でも多くの人々がそれを受け入れたら、いずれはそれが正式なものになってゆくのよ。」
このようにおやつ時間も勉強してしまったぽっちくんは少しくらくらする頭に対して、ほっぺをバチンと叩く事によって気合を入れ直しました。
ところが更に森の奥に向かおうとした時、ぽっちくんたちはまたまた怪しげな魔物たちに行く手を塞がれてしまったのですっ!
その魔物たちはぱっと見は二足歩行の獣に見えました。ただ全員がお腹と背中に番号が書かれたゼッケンを付けています。
それらの魔物たちに対してクイーンはぽっちくんを匿うように前に立ち説明します。
「ぽっち、こいつらはスウジ系魔族よ。そしてスウジ系魔族たちってちょっと性格が悪いやつが多いの。所謂、意識高い系を気どっているのよ。なのでここは私に任せてあなたは大人しくしているのよ。」
クイーンの説明にぽっちくんは言われるままクイーンにしがみ付いて頷きました。
そんなクイーンたちにスウジ系魔族たちはへらへらした態度でゴロを巻いてきます。
「へへへっ、おちびちゃんたちだけでこんなに森の奥に来るとはママの言い付けを守らない悪い子なのかな?だとしたら俺たちがお仕置きしてやらないとなぁ。特にお譲ちゃんの方はお仕置きのしがいがありそうだ。がははははっ!」
魔物たちの中で狼に似た魔物が、如何にもゴロツキが言いそうな言葉でクイーンたちに絡んできます。
因みにその魔物のゼッケンには数字の『33』が書かれていました。
そんな魔物たちに対してクイーンは「はぁーっ。」とため息をついて言い返しました。
「躾がなっていないのはあなたたちの方でしょ?ちょっと文句を言いたいからNo1をここに連れて来なさいっ!」
「がははははっ!これはこれはまた大上段で切り返してきやがったぜっ!だがどこで覚えたのかしらねぇが、族長がお前なんぞに会うか、スカタンっ!」
「ザコ相手じゃ話にならないから呼んで来いって言ってるのよっ!それくらいの事もわかんないのっ!この下っ端がっ!」
「くっ、口の減らねぇガキだぜっ!だが威勢がいいだけじゃ俺たちには勝てねぇぞっ!おい、構わねぇからやっちまいなっ!」
魔物たちのリーダーらしいゼッケン33の言葉に、後にいた魔物たちがクイーンたちを逃げられないようにと取り囲みます。
そしてその中のひとりが大声を発しながら攻撃を仕掛けてきました。
「まずは俺からだっ!333-222はっ!」
「111。」
魔物の攻撃に対してクイーンは即答で正解を返しました。その反応速度に魔物たちも驚いたようです。なので思わず感嘆の声を口にします。
「おー・・、マジかよ。即答したぞ、このお譲ちゃん。」
この状況にはゼッケン33も驚いたようですが、それでも強気でうそぶきます。
「ふん、まあまあ計算力はあるようだな。だが3桁の引き算など初歩も初歩。次の攻撃は耐えられるかな?おい、やれっ!」
ゼッケン33に命令されて今度は別の魔物が攻撃を仕掛けてきました。
「333÷222はっ!」
「1.5。」
「こっ、こいつ割り算を答えたぞっ!しかも答えが少数点になる高ランクな攻撃をだっ!おい、本当に合っているのか?」
「合っている・・。」
クイーンに割り算攻撃を仕掛けた魔物は、その攻撃をあっさり返えされた衝撃に呆然としながらも仲間からの問いかけに少し意気消沈した声で答えました。
ですがその魔物にもプライドがあるのでしょう。なので直ぐにクイーンに対して別の攻撃を放っってきました。
「2/3÷2/2はっ!」
「3分の2。実数に変換するならばおよそ0.666・・。」
「ぎゃーっ!」
渾身の分数の割り算攻撃をもあっさりと返されてしまった魔物は、ショックのあまり昏倒してしまいました。
それを見た他の魔物たちもクイーンに対して底知れぬ恐怖を抱いたようです。
「こ、こいつ・・、分数の割り算を解きやがった。バケモノかっ!」
「まずい、もしかしたらこいつはアリストテレス派の魔法使いなのかもしれねぇっ!」
そんな手下の魔物たちの動揺にゼッケン33はカラ元気で皆を鼓舞します。
「ビビるんじゃねぇっ!分数の割り算とて所詮は小学6学年の問題よっ!だが俺のレベルは中学2年相当だっ!喰らえっ!奥義『連立方程式』っ!」
そう言うとゼッケン33は両手を合わせて腰の位置に持ってゆき、気を高める為なのか息を止めて顔を真っ赤にしました。
そして気がピークに達したのでしょう。甲高い掛け声と共に重ねた両手をクイーンに向けて突き出し技を繰り出しました。
「数学奥義『連立方程式っ!』3z+4y=1、2z-1y=8のzとyの値を答えよっ!」
「z=3、y=2。」
「ぎゃーっ!ば、馬鹿なっ!俺の連立方程式攻撃が破られたぁっ!」
「駄目だ・・、ゼッケン33の奥義まであっさり破られた。こいつ何者なんだ?」
まぁ、魔物たちが驚くのも仕方がありません。そもそもクイーンはまだ13歳ですが既に大学レベルの知識があるのです。
そんな相手に対して中学2年相当の問題では太刀打ちできるわけがありません。
なのでこれは勝ち目がないと理解したスウジ系魔族たちは我先にと逃げ出してしまいました。その状況にぽっちくんは漸く安心してクイーンにお礼を言います。
「ありがとう、クイーン姉さん。やっぱりクイーン姉さんはすごいなぁ。僕なんて最初の引き算しか判らなかったよ。」
「ふふふっ、大丈夫よ、ぽっち。勉強なんて徐々にレベルアップすればいいだけなんだから。だけど基礎を理解していないと忽ち躓くわ。なので適当に覚えては駄目。最初で躓くとその後の勉強がつまらなくなるからね。」
「うん、判ったっ!僕も一生懸命勉強するよっ!」
「では、早速お勉強です。今私たちに難癖をつけてきたのはスウジ系魔族なんだけど、その中でもやつらはアラビア数字族という種族ね。そしてスウジ系魔族にはやつら以外にもメジャーなところではローマ数字族と漢数字族がいます。」
「アラビア数字?あのいつも使っている1や2ってアラビア数字って言うんだ。」
「そう、それとは別に『ⅠⅡⅢⅤⅩ』というローマ字の組み合わせで数値を表すのがローマ数字よ。」
「あーっ、こじゃれた時計とかの文字盤に書いてあるやつだ。」
「そう、でもローマ数字はよく見かけはするけど、昔の人はこれで計算もしていたと知ったら驚くでしよう?」
「えっ、計算?でもそれだと数字が足りないじゃん。計算は数字が10個ないと無理だよ。」
「そこはほら、創意工夫なのよ。つまりルールがあるの。まぁ、説明してあげてもいいけどこんがらがるわよぉ~。」
「難しいんじゃなくて、こんがらがるんだ・・。でも知らないままってのも気持ち悪いから教えて下さい。」
「おっ、ぽっちったら前向きね。では説明するけどローマ数字を使った計算も基本10進数で計算されます。ただぽっちはさっき、使う文字が5文字しかないから無理だと思ったのよね?」
「うん、『Ⅰは1』『Ⅱは2』『Ⅲは3』『Ⅴは5』『Ⅹは10』を表すってのは知っているんだけど、それだと4や6から9はどうするの?と思ったんだ。」
「はい、ちゃんと勉強しているのね。でもぽっちはさっきローマ数字は時計でよく見るって言ってたでしょ?でも時計は1から12までの数字が使われているはずだわ?さて、時計では4と6から9と11と12はどんな風に表されていた?」
「あれ?そう言えばそうだね。えーと、んーと、・・、あっ、思い出したっ!なんかふたつ組み合わせて使われていた気がするっ!」
「ご名答っ!そしてその組み合わせは『Ⅴ』と『Ⅹ』を基準として、その『左側』に『Ⅰ』があれば5から1を引いた数字である『4』を表し、『右側』に『Ⅰ』があれば5に1を足した数字である『6』を表すというルールになっているの。」
「なら『Ⅴ』の左に『Ⅱ』があれば『3』をあらわ・・、あれ?3は既に『Ⅲ』があるよね?」
「そう、、だから左に数字を付けて表すのは『Ⅰ』だけで、右に付ける数字は『ⅠとⅡとⅢ』とするというルールにしたらしいわ。」
そう言うとクイーンはぽっちくんのノートに1から12までのローマ数字とそれに対応するアラビア数字を書いてくれました。
Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・ⅠⅤ・Ⅴ・ⅤⅠ・ⅤⅡ・ⅤⅢ・ⅠⅩ・ Ⅹ・ⅩⅠ・ⅩⅡ
1・2・3・4・ 5・ 6・ 7・ 8・ 9・10・11・12
「うわ~、本当にこんがらがってきたよ。」
「でしょう?なので昔にローマ数字を使っていた人たちは計算が苦手だったのよ。だからアラビア数字が中東から伝わると、特にお金の計算しなくちゃならない商人たちはこぞってアラビア数字に移行したらしいわ。」
「書くだけでも大変なのに、それを使って計算までしてたんだ・・。ははは、ある意味頭が良かったんだね。でも僕には無理だよ。だって便利なアラビア数字を知っちゃっているから。」
「因みにローマ数字には50を表す『L』と、100を表す『C』と、500を表す『D』と1千を表す『M』があり、これらの組み合わせで最大3999までの数字を表せたそうよ。」
「3999?4000は表せなかったの?」
「そこはまた工夫があって、数字ではなく『1千が4つ』みたいに『言葉』として表現していたみたいね。因みにローマ数字の3999は『MMMCMXCIX』って書くのよ。」
「文字じゃんっ!どう見ても数字には見えないよっ!うわ~、僕、今に生まれてよかったぁ~。とてもじゃないけど大きな数のローマ数字なんて覚えられないし計算なんて出来ないよ。」
「そうよねぇ、まぁ今は古代ローマの遺跡を発掘研究する人くらいしか必要のない知識だから忘れてもいいわよ。」
「忘れる云々の前に覚えられない・・。」
「では、お口直しとして次は漢数字のお勉強をさらっと上辺だけしましょうか。」
「あーっ、そう言えばあったねぇ、漢数字。えーと、『一、二、三』でしょ?あれ、もしかして漢数字もローマ数字みたいにこれを基準文字の左右に付けてしたりするの?」
「いえ、そんな事はないわ。では、ぽっちは4から10までの漢数字は書ける?」
「えーと、四、五、六、七、八、九、十だね。」
「正解。ほら、これだとアラビア数字と扱いは一緒でしょ?」
「あっ、本当だっ!ならば慣れれば漢数字でも計算出来るかもっ!」
「まぁ、漢数字も完全にアラビア数字とは対応していなくて、漢数字には『位』という単位を用いて数字を区切っているのよ。」
「『位』って?」
「桁数の事ね。これが漢数字には10と100、そして1千より上からは4桁づつ専用の『位』が用意されているの。」
「あーっ、十、百、千、万、億だねっ!あっ、その次も僕、知ってるよ。兆って言うんだっ!」
「んーっ、勉強してるわねぇ。偉いわよ、ぽっち。まぁ、兆より上にもまだまだ『位』を表す漢字はあるんだけど普通は使わないから別に知らなくてもいいけど、興味があるなら自分で調べてね。」
「『位』かぁ。まぁローマ数字よりは全然マシだけどアラビア数字の便利さには勝てないなぁ。」
「そうかしら?ならぽっちはこのアラビア数字をぱっと読める?」
そう言うとクイーンはぽっちくんのノートに16桁もの数字を書き出しました。
3333333333333333
それを見た途端、ぽっちくんはあっさり白旗を揚げます。
「ごめんなさい。ぱっとは無理です。」
「ふふふ、ではこう書いてあったら?」
3333兆3333億3333万3333
「あー、なるほど。これなら直ぐ読めるや。」
「『位』表現のいいところはそれだけじゃなくて、数字の『0』の部分は省略して表現できるのよ。例えばこんな風にね。」
そう言うとクイーンはぽっちくんのノートに位取りした数字と、していない数字を縦に並べて書きました。
3333兆333億33万3
3333033300330003
「うわ~、断然上の方が読みやすいし使う文字数も少ないよ、クイーン姉さん。」
「でしょ?でもまぁ、これが計算となると全ての桁が埋まっている方がミスなく計算できるはずだから一長一短ね。つまり言葉も数字もその時々で最適な方を使えばいいのよ。」
「成る程なぁ、だから昔のローマ人商人たちもアラビア数字を取り入れたんだね。」
「でしょうね。さて、これでスウジ系魔族に関するお勉強はお終い。残るのは記号系魔族だけど、これらは文字としては新参だし、今回の訓練には多分係わってこないから途中で見かけ時に説明してあげる。」
そう言うとクイーンはぽっちくんを促して、また言葉の森の奥へと歩き出したのでした。
そして歩く事1時間ほど。その間もなんやかんやと細かいアクシデントはあったのですが、漸くぽっちくんたちは言葉の森でコトノハ系魔族が多く暮らしているという場所へと辿り着きました。
そしてそこには確かにそれまでの単一文字ではなく『言葉』としての文字が実として数多く生っていたのです。
「うわ~、ここって凄いねぇ。ほら、あの言葉の実なんて4文字も使っているよ。」
「あれは四文字熟語ね。『猪突猛進』。意味はわき目もふらずにひたすら目標に向かって突き進む事を漢字で言い表わした言葉だわ。」
「へぇ~、漢字ってたった4文字の言葉にそこまで意味が込められるのかぁ。あーっ、そう言えば昔お師匠さまに漢字って『意味の圧縮言語』だって教わった気がする。」
「あはははっ、確かにそうね。もしくは略語記号かな。漢字を使うと文字数がぐっと少なくなるし。」
「でも漢字って画数が多いのがあるからなぁ。文字数は少なく出来ても下手したら書く手間は多くなりそう。」
「そこで重宝するのが『デジタル機器』なのよ。所謂パソコンやスマホね。」
「あーっ、お師匠さまが時々「きーっ!」とか言いながら弄っている機械の事でしょ?あれって、なんかあんまりお師匠さまのいう事を聞かないみたいだよ?」
「師匠は新しいモノが大好きなくせに操作方法とかをちゃんと覚えようとしないから駄目なのよねぇ。パソコンって言葉で操作するものじゃないのに・・。ブラインドタッチくらいは覚えて欲しいものだわ。」
「でもお師匠さまの文字って読めない事が多いからパソコンで書いてくれた説明書はとってもありがたいよ?」
「そうね、確かにそうだわ。私なんて師匠の悪筆のせいで何度魔法の詠唱を読み間違えて暴走させたか判らないもの。」
「あーっ、去年の野外練習の時のやつは凄かったよね。鍋のお湯を沸かすだけだったのに辺り一面火の海になっちゃったし。」
「あれは危なかったわ・・。火力調整部分のスペルがミニマムじゃなくてマキシムになっていたんですもの。」
「僕だったらマキシムでも大した火力にならないけど、クイーン姉さんの保有魔力だと気をつけてもらわないと10メートルは離れていた僕でさえ丸焼けになっちゃうところだったよ。」
「ごめん、ごめん。でも私が買ってあげた防御アイテムが作動したから無事だったでしょ?」
「Aグレードのアイテムなんて僕には必要ないと思っていたけど直ぐに役立ってしまった・・。」
「でもあれの原因は師匠の悪筆のせいだから私は悪くないわ。まぁ、なんか変だなとは思っていたんだけど、私は師匠の事を信じているからっ!・・まっ、小指の先くらいはね。」
「うっ、小指の先・・。う~んっ、合っているだけに指摘しづらい・・。で、話は変わるけど、ここで僕が探す『言葉の実』って何か特徴があるのかな?」
ぽっちくんは話の流れが微妙になってきたのでわざと話題を変える事にしたようです。まぁ、ぽっちくんたちの師匠に関しては、その気になれば幾らでも話せるネタがあるのだけど、それを話し始めると絶対盛り上がってしまい日が暮れてしまいます。
なのでクイーンもぽっちくん同様、別の話題に話を切り替えたようでした。
「特徴?例えば?」
「光っているとか、形が四角いとか、すごく高いところにしか生っていないとか。そうゆう他とは違う注意すべきポイントがあるのかな、と思って。」
「あーっ、そうゆう意味ではないわね。なのでひとつひとつ言葉を読んでゆくしかないわ。つまり、見つかるも運、見つからないのも運次第よっ!」
「ここまで来て、いきなり運頼りになってしまった・・。しかも方法が総当りしかないなんて、下手したら今日中に帰れないかも・・。」
「それは大丈夫よ。一応野宿の準備もしてきたから。なので午後の3時くらいまで探して見つからなかったら、後の時間は食材探しよっ!」
ぽっちくんが不安がりだした為なのか、クイーンはぽっちくんの気持ちを鼓舞させる為に具体的な対策を言って気をそらそうとしたようでです。
もっとも屋外、特に森の中などは木々の葉が日の光を遮り暗くなるのがとても早いのです。なので早めはやめに準備を始めるのはキャンプの定石なのでした。
いえ、今回はキャンプではなく野宿なのですが理屈は一緒です。なのでぽっちくんはクイーンに今後について具体的な事を聞きました。
「言葉の実は僕らは食べられないんだよね?」
「そうだけど、今の季節ならば私たちでも食べられる普通の植物も沢山あるし、なんなら小動物を狩ればお肉も食べられるわっ!勿論塩と胡椒は持ってきてますっ!」
「クイーン姉さんがいきなりサバイバルモードになってしまった・・。」
「まっ、実際私もこの訓練は2日かかったからぽっちも腰を据えなきゃ駄目よ。課題の『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』は絶対あるとはいえ、師匠が簡単に見つかるモノを探させる訳ないんだから。」
「あーっ、やっぱり?でもビキナーズ・ラックって事も・・。」
「なくはないけど、そうなると師匠は多分面白くないでしょうから、あんまり早く帰っても更に面倒な課題を押し付けられるだけよ。」
クイーンの言葉にぽっちくんはゲンナリしたようです。ですが魔法使いの師匠とは大なり小なりそうゆう気質を持っているものらしいです。なのでぽっちくんの師匠だけが変という訳ではありません。
実際、ぽっちくんのお母さんでさえ、まだ10歳でしかないぽっちくんをあたり前のように修行に出させたくらいなのですから。
「今回の修行の合否ってお師匠さまの機嫌次第に左右されるのかぁ。まぁ、それはいつもの事だから慣れてるけどクイーン姉さんまで巻き込んじゃってごめんなさい。」
「いいの、いいの。ぽっちがいない間、師匠とふたりっきりだなんて爆弾を抱えて過ごすようなものだもの。だから私としてはぽっちといた方が万倍楽なのよ。」
「クイーン姉さんの危機回避の言い訳に使われてしまった・・。」
「さて、時間は限られているけど、さりとてお腹が空いては戦は出来ぬというわ。なのでお昼にしましょう。」
そう言うとクイーンはバスケットから包みと飲み物が入ったカップをふたつずつ取り出して片方をぽっちくんへ渡しました。
それをぽっちくんはお礼を言って受け取ります。
「ありがとう、クイーン姉さん。」
「どういたしまして。まぁ、中身はバターを塗っただけのサンドイッチだけどね。でも一応レタスも入ってます。卵はちょっと茹でる時間がなかったから今回はパス。でも昨日のベーコンが少し残っていたからぽっちの方に入れておいたわ。」
クイーンの心遣いにぽっちくんはちょっとだけ躊躇いを感じたようですが、ベーコンの魅力には勝てなかったようです。
なので包みを開くとベーコン入りのサンドイッチをいの一番にぱくりと食べました。
もぐもぐもぐ
「う~んっ、すごくおいしいよっ!クイーン姉さんっ!」
「そう?まぁ、外で食べるお弁当って何故か美味しく感じるからね。でもこれを食べちゃったら後は何もないからお腹が空く前に狩りの始まりだぁっ!」
そう言うと、クイーンは腰から護身用に持ってきた短剣を抜き放って高く掲げました。
「クイーン姉さん、ナイフなんて使えないじゃん。包丁だって漸くじゃがいもの皮を5ミリくらいの厚さで剥けるようになったばかりなのに。」
そう、前にも言いましたがクイーン・ルビジニアは将来隣国『シーアイランド王国』の女王様になる(予定)のお姫様なのです。
ただ今は王位継承争いを避ける為に魔法使いの所に隠匿しているのでした。
だから2年前にクイーンが魔法使いの所に来た当初は家事全般が全滅で、同じく家事が苦手だった魔法使いと結構ひもじい思いをしたのは思い出したくない悪夢です。
その後もクイーンの家事能力は大して上手にならず、家事全般に関しては3ケ月前に師事したぽっちくんの方が先輩、いや大先輩でした。
ただクイーンの名誉の為に断っておきますが、ぽっちくんの包丁捌きは熟練主婦並です。
そう、ぽっちくんはたった10歳にして家事全般をそつなくこなせるスキルの持ち主だったのですっ!
ただそうなった理由はぽっちくんのお母さんがこれまた家事全般が駄目だめで、人並みの生活を送る為には幼児であるぽっちくんがなんとかしなければならなかったという過酷な条件下に置かれたが故の、必要に迫られ遮二無に身についたスキルだったのでした。
さて、お昼ご飯を食べ終えてミルクも飲み終えると、何故かぽっちくんが少しそわそわしだしました。
そう、人は食べたら『出す』生き物なのです。だからお腹一杯食べたぽっちくんはそれらに押し出されるかのように『大きい方』をもよおしてきたのです。
まぁ、これがひとりだったならばぽっちくんも鼻歌交じりでそこら辺の茂みでぷりぷりするのでしょうが、さすがに女の子であるクイーンがいる側でそんな事は出来ません。
ですが、便意を我慢するにも限界があります。なのでぽっちくんは泣きそうになりながらクイーンに「ウンコしたい。」と申し出ました。
そんなぽっちくんの申し出に対してクイーンは笑ったりせず「毒蛇とツツガムシには気をつけるのよ。後、用を足した後はちゃんと埋めてね。」と言ってバスケットの中からシャベルと尻拭き紙を取り出してぽっちくんに渡しました。
因みにクイーンはうら若き女の子なので『ウンコ』などしません。しない事にしておきましょう。
その後、茂みの奥からちょっと恥ずかしそうに戻ってきたぽっちくんに対してクイーンはバスケットから取り出した水筒の水で手を洗わせ、更にタオルを渡して手に残った水を拭き取らせました。
さすがは魔法のバスケットです、なんでも入っているんですね。ですがそんなに詰め込んで重くないのか不思議です。
さて、ぽっちくんはお昼ご飯も食べたのでその後は本格的に言葉の実を探し始めました。ですが言葉の実自体は沢山あったのだけど、ぽっちくんの目的である『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』は中々見つかりませんでした。
そしてとうとう時間が当初決めていた午後3時になってしまいました。
この事にぽっちくんは落胆しましたが、時間的には3時間も探していないのだから見つからないよな、と自分を慰めて次に今晩の野宿の準備に取り掛かります。
とは言っても寝床はクイーンが魔法で枝葉を集め、尚且つ丈夫なツタでハンモッグを編んでくれたのでぽっちくんの出番はありませんでした。
なのでぽっちくんは食べ物を探す事にしたようです。因みに言葉の実は沢山あったのですが、それらは人であるぽっちくんたちには食べられません。なのでぽっちくんは他の木の実か果物、もしくはウサギなどの小動物を探して狩る事にしたようです。
そして探し回る事30分ほど。ぽっちくんは地面に鹿の足跡を発見してその事をクイーンに伝えます。
「クイーン姉さん、鹿の足跡を見つけた。だからここに罠を仕掛けようと思う。なので幻影魔法で鹿がここを通るように仕向けて下さい。」
「あら、すてき。今夜は鹿のジビエねっ!えーと、どこからどうゆう風に惑わせればいいのかしら?」
ぽっちくんの報告にクイーンも喜んだようです。そう、まさかクイーンも大した事前準備もしてこなかった野宿で、本当にお肉が食べれるとは思っていなかったのでしょう。
もっともお肉が獲れるかどうかはぽっちくんが仕掛ける罠と運次第です。しかし罠に関してはぽっちくんは10歳という年齢にも関わらず、それなりのスキルを持っていたようでした。
「この草が踏み固められているところが獣道だから、ここら辺でこっちに注意を向けさせて欲しいです。」
そう言うとぽっちくんは落ちていた枝で地面に少し大きめの丸を描きました。
「そこに誘導すればいいのね。」
「はい、仕掛けは落とし穴とくくり罠を併用します。」
くくり罠とは踏み抜くとロープの輪が獲物の足を締め付けて逃げられないようにする仕掛け罠の事です。これは指を器用に使える人間や二足歩行系の魔物には効果がないですが、四足歩行の鹿がこの罠に掛かるとローブを解きようが無いので噛み切られない限り逃げられないのです。
但しその為には鹿が仕掛けたロープの輪を踏まないとどうしようもありません。なので原理は簡単なのですが獲物が取れるかどうかは運次第という結構アバウトな猟法なのでした。
なのでぽっちくんはクイーンにお願いして魔法でその確率を上げようとしたようです。そしてクイーンの魔法精度はかなり高いので、鹿がこの場所を通りさえすればほぼ確実に仕留められるでしょう。
しかしそれを言って失敗するとクイーンがぽっちくんに八つ当たりをしてくるかも知れないので、ぽっちくんはちょっと曖昧な事を言って誤魔化しました。
「解ったわ。うふふふ、獲物が獲れたら今夜はごちそうねっ!」
「獲れたらね。でも確率は低いよ。だから罠を仕掛け終わったら木の実とかも探さなきゃ。」
そう言いながらもぽっちくんはてきぱきとツタを編んで丈夫なロープを作り、クイーンからシャベルを借りて落とし穴を掘り始めました。その間にクイーンもぽっちくんに言われた場所へ幻惑誘導魔法をかけます。
そして作業開始から20分程でくくり罠が完成しました。勿論罠には獲物に存在が判らないように土を被せ、葉っぱで偽装したので最初から作業を見ていなければクイーンもそこにくくり罠が仕掛けられているとは気付かないくらいの出来栄えでした。
「おーっ、相変わらず完璧な仕上げね。ぽっちは魔法使いよりも狩人の方が才能あるんじゃないの?」
「そうかなぁ、でも僕に罠猟を教えてくれた猟師のおじいさんの罠はもっと凄いんだよ。なんかそこに罠があると判っていても吸い込まれそうになるんだ。」
「それは魔法を併用したんじゃないの?と言うか、10歳にもなっていないぽっちに猟の仕方を教えるそのおじいさんも大概ね。」
「ははは、でもこうして役に立っているからね。だけど獲物が獲れるかどうかは僕の場合は運次第だよ。近くを通っても踏み抜いてもらわないと罠は作動しないし。」
「ふぅ~ん、確かにそうね。でも見張っている必要はないし、獲物を探し回る必要もないんだから楽と言えば楽な猟よね。」
「まぁ、傍からみればね。でも確率を上げるにはノウハウが必要だから見よう見真似で仕掛けても駄目なんだよ。クイーン姉さんだって教室の引き戸に黒板消しが仕掛けられていたら見破るでしょ?」
「その例えは時代的に古過ぎてちょっアレだけど、まぁ意味は判るかな。」
「それに罠を仕掛けたら後は放っておいていいと言っても、頻繁に見回らないと折角獲物が掛かっても他の肉食動物に横取りされちゃう可能性もあるしね。」
「成る程、確かにその可能性はあるのか。」
ぽっちくんの説明にクイーンは合点したようです。確かに行動の自由を失った動物は肉食動物にとっては楽に狩れるご馳走なので、そうなった原因がぼっちくんが仕掛けた罠だからと言って遠慮などしてはくれないでしょう。
それどころか、ぽっちくんは更に残念な事をクイーンに告げます。
「肉食動物じゃなくて、通りすがりの人間だって獲物が罠に掛かっているを見つけたら誘惑に駆られるはずだし。」
「あーっ、基本、罠猟の獲物には所有権とかないものね。まぁ、モラル的には駄目な行為だけど、人目がなかったり、お腹が空いていたら失敬しちゃう人がいても不思議じゃないか。でもここに私たち以外の人間が来るとは思わないんだけどなぁ。」
「別にお肉を食べるのは獣や人間だけじゃないじゃん。オークやゴブリンだって食べるって聞いたよ。」
「ゴブリンかぁ、でもこの森にはいないと思うけどなぁ。だけど迷い込んでくる事はあるかもね。」
「うん、それに人が権利を主張できない土地での木の実や薬草の採取だって結局早い者勝ちだしね。あっ、これはダンジョンのお宝も同じだねっ!」
「ははは、確かにダンジョンってマスターがいる割にはそこら辺がアバウトよね。となると誰かに先を越される前に木の実を集めなきゃ!行くわよ、ぽっちっ!」
そう言うとクイーンはずんずんと先に進もうとした。そんな彼女をぽっちくんが止めた。
「クイーン姉さん、そっちは歩き易いけどそうゆうところはライバルも多いよ。だからこっちの藪の先の方が確率は高いと思う。」
「えーっ、藪コキするのぉ。棘とかがある植物があったら嫌だなぁ。」
「僕が前で踏み固めるからクイーン姉さんは後についてくればいいよ。なんにしてもここに僕らがいたら獲物が通らないからね。本当ならば残り香も消したいところなんだけど今回は時間も無いから諦めるよ。」
「はぁ、結構猟って大変なのね。」
「動物たちだって命が掛かっているから警戒は怠らないんだ。いや、中にはのほほんとしたやつもいるけど、それはあくまで個体差だろうし。」
「そっか、では見つけさえすれば確保できる木の実を探しに行きましようっ!さっ、ぽっち、先に行ってっ!」
その後、なんとか藪を踏み進んだぽっちくんたちは、少しだけ開けた広場のような場所へと出てきました。ですがそこでぽっちくんの動きが止まります。
そしてぽっちくんは何かに耳を傾けるようにとある方向に意識を集中させました。その後ぽつりと小声でクイーンに警告しました。
「クイーン姉さん、誰かがこっちにやって来る。しかも追われているみたいだ。」
「誰か?それって人間?私たち以外がこんなところまでやってくるとは思えないんだけど?」
「うん、多分魔物だね。しかも結構大きな集団だ。」
「あらら、隠れてやり過ごせるかしら?」
「う~ん、追っているのが肉食系の魔物だと微妙かな。やつらって興奮しているとみさかいないからねぇ。」
「おっけぇ、ならぽっちは下がって。私が対応するわ。」
クイーンの指示にぽっちくんは素直に従います。まぁ、男の子としては危機に際して女の子の後に立つというのは、ちょっとプライド的に微妙ですが、クイーンは魔法に関してぽっちくんの何百倍も上位に位置します。
それは戦闘魔法に関しても同じです。なので今はまだクイーンの邪魔をしないように素直に従うべきという事をぽっちくんも理解していたのでした。
そして待つ事数十秒。広場の向こう側から結構な数の魔物たちが現われました。その姿を見てクイーンは呟きます。
「ひらがな族とカタカナ族?えっ、なんで?彼らはテリトリーが重ならないはずなのに・・。」
本来ならば一緒に居る事のないふたつの種族が一緒にいるのを見てクイーンは頭を傾げました。ただ、そうなったのは偶然ではなく、何かに追われてたまたま一緒に逃げているだけのようです。
なので魔物たちはクイーンたちを視界に入れても後ろから追ってくる者の存在の方が気になるのかそのまま進んでクイーンたちの脇を通り抜けようとしました。
そんな魔物たちの後を更に別の魔物たちが追いかけてきました。その姿を見てまたしてもクイーンは呟きます。
「漢字族・・。あーっ、これは多分コトノハ系魔族内の内部抗争ね。そう言えばそんな噂も聞いたなぁ。」
そう、実はこの森では漢字族がコトノハ系魔族から独立すべく主流派であるひらがな族とカタカナ族相手に闘争を開始していたらしいのです。
そして状況は漢字族がかなり優勢にひらがな族とカタカナ族を攻め立てているようでした。因みにアルファベット族は武力中立の立場を掲げ、どちらにも組していないらしいです。
そして漢字族はひらがな族とカタカナ族を追い立てている興奮からなのか、広場で待ち構えていたクイーンたちをも敵と見なしたようでした。なので半分ほどの一派が進路を変えてクイーンたちに向かってきました。
それを見てぽっちくんは震え上がりましたがクイーンは動じません。それどころか、向かって来る漢字族に対していきなり無詠唱で攻撃魔法をぶっ放しました。
どか~ん
クイーンの放った攻撃魔法によって向かって来た漢字族魔物たちはその殆どが一瞬で吹き飛ひました。それどころかひらがな・カタカナ族を追っていた別の漢字族魔物たちもそのとばっちりを受けて半数以上がぺしゃんこになったほどです。
なので仲間たちが盾になったおかげでぎりぎりダメージが少なかった前方にいた漢字族魔物たちは、自分たちが何に攻撃されたのかすら判らない状態のまま、それでも本能の指示に従って一目散に逃げ出したのでした。
因みに、クイーンの放った攻撃魔法の影響はひらがな・カタカナ族にも及んだのですが、距離が若干離れていたので風圧により転んだ程度で済んだようです。
そんなひらがな・カタカナ族に対してクイーンは油断なく近寄り言葉を掛けました。
「は~い、なんか追われていたみたいだから助けてあげたわ。なのでお礼として『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』の実が何処にあるか教えなさいっ!」
そう、別にクイーンは正義とか弱い者イジメを正す為に漢字族魔物たちを撃退した訳ではなかったのです。単に情報という報酬を得る為にひらがな・カタカナ族を助けただけでした。つまりクイーンは魔物たちに恩を売ったのです。
そんなクイーンに対してひらがな族を率いていた長老と思しき魔物が恐る恐るという体で返事を返してきました。
「漢字族たちを撃退してくれた事には礼を言いたいが、残念ながら繰り返し言葉の実に関する情報は我々も持ち合わせていない。いや、正確には既にここいらにある繰り返し言葉の実は採り尽くされたはずなのじゃ。」
「採り尽した?なんでまた。見たところ他の言葉の実は沢山実っているじゃない。」
「繰り返し言葉の実は貴重なんじゃよ。なんせ繰り返し言葉の実はエネルギー単価が高いからな。ひとつで単品の言葉の実の100倍から中には333倍なんていうエネルギー量の実もあるくらいじゃ。」
「あーっ、そう言えばそうだった・・。繰り返し言葉って言葉が繰り返される事によりエネルギーが濃縮されるんだったわ。」
長老の説明にクイーンも合点がいったようです。ですがそれでも疑問は残ります。なのでクイーンはその事を長老に問い質しました。
「でもなんで採り尽したの?あなたたちにとって繰り返し言葉の実は神聖なものとして祭事とかのお祝い事の為とかでないと採らなかったはずよね?」
「状況が変わったのじゃ。これも全て漢字族の独立闘争が原因じゃ。なんせ戦いは膨大なエネルギーを消費するからな。なので双方が慣習を捨ててこぞって繰り返し言葉の実を採取してしまったのじゃ。」
「成る程ね、ん~、タイミングが悪かったなぁ。いやもしかしたら師匠は判っていてぽっちにこの課題を出したのかしら?むーっ、あの師匠なら有り得るなぁ。」
長老の説明にクイーンは残念がります。と言うかあまりにもタイミングが合致した事になにやら陰謀めいた裏があるのではないかと勘ぐったほどでです。
そんなクイーンに長老が助けて貰った礼なのか慰め程度の情報をくれました。
「ただ、採り尽くしたのはあくまでこの周辺だけで場所によってはまだあるはずじゃ。」
「まっ、そうなんだろうけど、それってあなたたちですら見つけづらいところにあるから残っているんでしょ?だとしたら私たちには無理よ。」
「そうじゃな、人間にはちと難問かも知れぬ。しかし今回は助けて貰った恩もある。なのでこれを授けよう。」
そう言うと長老は首に下げていた四角いプレートを外してクイーンに差し出した。そのプレートの裏には『ぐーるぐるマップ』という製品名が記されていた。
「これは?」
「言葉の実のエネルギーを感知するアイテムじゃ。ただ扱いが難しくてな。わしも先代から引き継いだのじゃが扱いきれなんだ。じゃが、みたところあんたは結構高位の魔法使いらしい。ならばそのプレートも使いこなせるじゃろう。」
「へぇ~、そんなアイテムがあるんだ。どれどれ、あーっ確かに難しそうね。多分乱用を防ぐ為だろうけどトラップも仕掛けられているみたい。でも、これって結構貴重なものなんでしょ?私が貰っちゃっていいの?」
「まっ、扱えぬ者が持っていても宝の持ち腐れじゃからな。構わぬよ。」
「そう?なら遠慮なく頂いておくわ。でも扱えるかなぁ。」
「駄目ならば仕舞っておけばいいだけじゃ。もしくはフリーマーケットの『メリメリ』で好事家にでも売ればよかろう。」
何故かひらがな族の長老は人間界にあるフリーマーケットの事を知っていました。そして確かに『メリメリ』にはこの手のいわく付きの魔法アイテムを喜んで購入するエルフがいたりするのです。
「それもそうね、それじゃ私たちは時間が無いから行くわ。あなたたちにも幸運が巡りますように。」
「神の教えに従い進むのみ。それではわしらも行くとする。さらばじゃっ!」
そう言うと、長老は魔物たちを率いて森の奥へと消えて行きました。その後ろ姿を見送った後、クイーンたちも本来の目的である自分たちが食べられるものを探しに別の方向へ歩き出しました。
そして2時間後、大した収穫が得られぬままクイーンたちは罠を仕掛けた場所へと戻る事となりました。
「もうっ!なんでこの森には人間が食べられるモノが少ないのよっ!」
「そうだねぇ、言葉の実は結構なっていたけど、僕たちが食べられるものは少なかったね。やっぱりここはコトノハ系魔族たちの森なんだなぁ。」
「こうなったらぽっちが仕掛けた罠に期待するしかないわっ!うん、仮に掛かっていたのが魔物でも焼いて食べてやるっ!」
「いや、クイーン姉さん、さすがにそれは・・。」
「冗談よ。そもそも魔物たちってあんまり美味しくないらしいし。あっ、でもイノシシから変化したと言われているオークは美味しいらしいわ。」
「それって他の魔物と比べたらって事でしょ?街で売られているオークのパリパリ焼きって本当は飼育されている豚だって噂だよ?」
「産地偽造ならぬ品種偽造かよっ!でもオークのパリパリ焼きは美味しいから許すっ!」
そんな会話をしつつ、ふたりは漸く罠を仕掛けた場所へと辿り着きました。そしてこれはぽっちくんの日頃の行いが良かったおかげなのかもしれません。なんと仕掛けた罠には小鹿が掛かっていたのでしたっ!
もっとも別世界の一般の方だとこのような場合、子供とメスは逃がせよと言ったりするものですが、ここは異世界なのでそもそも常識が違います。
なのでぽっちくんは罠にかかった小鹿に哀れみをかける事なく、ナイフで絶命させるとてきぱきと動脈を切って血抜きをし、且つ腹を割いて内蔵を取り除き始めました。
まぁ、これに関してはお肉がどうやって生産されているかを知らない人たちには残酷な行為に感じられるでしょうが、その人たちが普段スーパーで買うお肉も、元を質せば見えないところで同じ作業が行なわれているのです。
つまり知らないが故の罪意識の無さなのです。
と言う事で、その晩ふたりは食べきれない程の美味しいお肉を食べまくりました。勿論調味料等はクイーンがバスケットから取り出したので味付けもバッチリです。
更に食べ切れなかった肉もクイーンが魔法で瞬間冷凍させてバスケットに仕舞ったのでこれから4、5日は食べ物に困る事はないでしょう。
なのでその晩ふたりは幸せな夢を見ながら野宿したのでした。勿論寝る前にクイーンが周囲へ警戒用の結界を張ったのは言うまでもないことです。
そして次の日の朝。クイーンはぽっちくんに鹿の肉を焼かせながらひらがな族の長老から貰ったアイテム、製品名『ぐーるぐるマップ』の解析をしています。
「ふ~ん、この波長共振器で魔力を飛ばして返ってきた波長を捉えるのか。そしてその際のコマンドがこれね。あーっ、これって古代マーリン系の魔法だわ。どうりで扱いづらい訳だ。」
そう、クイーンはまだ13歳の少女なのですが、魔法の知識に関しては既に大学レベルの知識を身につけていたのです。
それでも普通は古代マーリン系の魔法が使われている事を見抜くのは容易い事ではありません。つまりクイーンは正真正銘の『天才』だったのです。
そして朝食としてぽっちくんが焼いた鹿の肉を美味しく食べ終えた後、クイーンは地面に魔法陣を描いてひらがな族の長老から貰った製品名『ぐーるぐるマップ』の『繰り返し言葉を探査する能力』を試す準備を始めました。
そして全ての準備が整った後、深く息を吐き出すとクイーンは凛とした口調で古代マーリン系の魔法を詠唱しました。
「サーチプロンプトっ!検索対象:『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉の実』。検索範囲:半径33kmっ!」
クイーンは初っぱなから製品名『ぐーるぐるマップ』が持っているであろう最大検索範囲で言葉の実を探しました。そして運よく5km先に反応を得たのです。
「あら、ラッキーっ!結構近いところにあったわ。それじゃ行くわよ、ぽっち。ぐすぐすしていて魔物たちに先を越されたら面白くないからねっ!」
先日幾ら探しても見つからなかった繰り返し言葉の実が、あっけなく見つかった事によりクイーンは上機嫌です。
そしてぽっちくんも師匠から課せられた課題を無事達成できそうな事にちょっと浮かれたようでした。
ですが現実は中々厳しようでした。そう、クイーンが危惧したとおりその繰り返し言葉の実はぽっちくんたちが到着する直前に漢字族魔物たちによってもがれていたのです。
その光景を遠くから確認したクイーンはぽっちくんに奪還するからここで待っているように指示しました。
ですが争そい事が嫌なぽっちくんはクイーンに「別の実を捜そうよ。多分まだどこかにあるよ。」と泣きそうな顔で消極的な提案をしたのでした。
そしてクイーンはそんなぽっちくんに「仕方ないわねぇ。ぽっちは本当に怖がり屋さんなんだから。」と言いつつも、何故かぽっちくんのお願いを受け入れてくれたのです。
その後、場所を変えてクイーンはまた古代マーリン系の魔法を詠唱しました。但し今回は捜索範囲をかなり絞り、尚且つ、強度の強い波長を敢えてキャンセルしたようです。
その訳は、捜索範囲を狭い範囲に限定し、尚且つ探査する波長強度に上限を設ける事により、逆に微弱な波長を見逃さないようにする為でした。
この事によりクイーンは漢字族が気付かず見過ごしたであろう繰り返し言葉の実を洗い出すつもりらしいです。
「サーチプロンプトっ!検索対象:『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』。検索範囲:半径6km。波長強度上限ベレル3っ!」
クイーンの詠唱と共に半径3km以内にある微弱な波長を発する『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』の場所が製品名『ぐーるぐるマップ』の画面に3ケ所表示されました。
そしてその中のひとつは特に反応が薄かったのです。つまりその繰り返し言葉の実は製品名『ぐーるぐるマップ』の探査魔法に対してかなり微弱な反応しか返さなかったという事です。
ですが、その事が返ってクイーンの気を引いたようです。何故ならば、そもそも繰り返し言葉の実は高エネルギーを含有している実なのです。
それがこれ程までに微弱な反応しか返さないという理由は、繰り返し言葉の実自身が己の存在を隠蔽しようとしているのではないかとクイーンは考えたのでした。
とは言え、如何に不思議な魔力を含有している言葉の実でも所詮は植物のはずです。
なので自身の存在を隠す為にわざと発する波長の強度を隠蔽するなどという、まるで意識を持っているかのような振る舞いをするのでしょうか?実際クイーンは今までそんな植物があるなどという話は聞いたことがありませんでした。
そう、無かったが故に逆にクイーンはいぶかしんだのです。そしてクイーンはぽっちくんにその事を伝えてその実がある場所へと向かいました。
そしてクイーンの勘は当たっていました。そう、その繰り返し言葉の実は最高級に高濃度のエネルギーを持っていたのです。ただその事を自ら隠蔽していたのでした。
その事に対してクイーンは言葉の実の奥深さに畏怖すら覚え呟きました。
因みにその繰り返し言葉の実に書かれていた『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』は『むらむら』でした。
「成る程ねぇ、これ程の能力とエネルギーを持つ実ならば師匠が欲しがる訳だわ。でもそれをぽっちに探して来いってのはちょっと酷過ぎるわよねぇ。私だってこのアイテムが無かったら絶対見つけられなかったわ。」
そう言うとクイーンはひらがな族の長老から貰った『繰り返し言葉を探査する能力』を有する製品名『ぐーるぐるマップ』を手に取って掲げました。
そしてぽっちくんに『むらむら』という繰り返し言葉が書かれていた実を採取するよう言いました。
「さて、今回はかなりラッキーが重なった事で師匠が出した課題をクリア出来たけど、まぁ運も実力の内って言うからね。だからあの実を持って帰りましょう。」
クイーンの言い方にぽっちくんは少し嫌そうな顔をしましたが、それでも本来ならば見つける事が相当難しかった言葉の実を手に入れる事が出来たのですから文句は言えません。
なのでぽっちくんはクイーンに言われるがまま『むらむら』と書かれた言葉の実をもぎ取りました。でも、今後の展開に不安を感じたのでしょう。なのでクイーンにその事を聞いてきました。
「えーと、今回の事は僕にとってかなり棚からぼたもち的な展開だったけど、別にお師匠さまは怒らないよね?」
「どうかなぁ、でも相当高エネルギーを保有している言葉の実は手に入れたんだから課題自体はクリアしているわ。それにぽっちだって色々がんばったじゃない。小鹿のお肉は柔らかくて美味しかったわよ。だからこのまだ沢山残っている肉もついでに差し出せば師匠も喜ぶはず。なので大丈夫よ。・・多分ね。」
微妙に歯切れの悪い言い方でクイーンはぽっちくんを慰めます。まぁ、この事に関しては本当に師匠の機嫌次第なところが大なのでクイーンにも読みきれなかったのでしょう。
ですがぽっちくんの試練はまだ続いているようでした。なんとぽっちくんたちは師匠であるメーテルリンク・アリステリア・ミライが待っている家への帰路の途中、またしても漢字族から追われ隠れていたひらがな族の大集団に遭遇してしまったのです。
しかもその集団はとても衰弱していました。集団内にいた子どもたちの半数以上はもはや食べ物を口にする元気すら無くしているようです。
もっともこれはあくまでコトノハ系魔族内での争いが原因です。なので今回クイーンは我関せずといった態度でスルーしようとしました。
しかし、ぽっちくんは彼らの姿を見て動揺し動けなくなってしまったようです。そして事もあろうか、折角手に入れた『むらむら』という繰り返し言葉が書かれていた実を彼らに与えてしまったのですっ!
そう、確かに『むらむら』という繰り返し言葉が書かれていた実のエネルギー量ならば百数十人以上いる彼らの体力を元に戻せるだけのエネルギーがあります。それどころか、きっとお釣りがくるくらいです。
ですがその実を与えてしまってはぽっちくんは師匠から課せられた課題をクリアできません。ですがぽっちくんはためらう事無く『むらむら』の言葉の実を彼らに与えてしまったのでした。
それを見て、クイーンはため息をついたのですが何も言いませんでした。何故ならばぽっちくんの性格上この状態を見過ごせるものではない事をクイーンは判っていたのでしょう。
なので言葉の実はまた探せばいいやと思い、黙ってぽっちくんと魔物たちのやり取りを見ていたのです。
そんな中、ひらがな族の集団の中からひとりの少女がぽっちくんの下へと歩いてきて、それぞれ『い』と『あ』いう文字が書かれたふたつの文字の実を差し出してきました。それはどうやら少女がなんとか仲間に食べさせようと思ってがんばって採取した実だったようです。
しかし、ぽっちくんが与えてくれた高エネルギーの実によってその必要がなくなったのでしょう。だから少女はそのふたつの実を対価としてぽっちくんへ差し出したのかも知れません。
いえ、多分それは違います。少女はそんな打算的な気持ちでぽっちくんに言葉の実を差し出した訳ではないはずです。ただただ純粋に仲間を救ってくれたぽっちくんに感謝の気持ちを伝えたくて少女にとっては大切な文字の実をお礼として差し出したのです。
つまり少女にとって気持ちの上ではそのふたつの文字の実は、ぽっちくんが与えた高エネルギーを含有する繰り返し言葉の実と、思いの価値としては同等だったのです。
そしてその事をぽっちくんはあたり前のように自然と理解しました。なので少女から喜んでその文字の実を受け取ると、ありがとうとお礼を言いました。
そんなやり取りがあった後、ぽっちくんたちはその集団から離れ、再度『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』の実を捜す為に歩き出しました。
ですが、奇蹟はその後にクイーンが再度『繰り返し言葉を探査する能力』を有する製品名『ぐーるぐるマップ』を使って繰り返し言葉の実を捜す魔法を詠唱した時に起こりました。
そう、なんとクイーンの詠唱と共にぽっちくんが少女から受け取ったふたつの文字の実からとてつもないエネルギーが発せられぽっちくんは光に包まれたのです。そして光が消えた時、ぽっちくんが持っていたふたつの文字の実は合体してひとつになっていました。
そして『繰り返し言葉を探査する能力』を有する製品名『ぐーるぐるマップ』は、ぽっちくんの手の中でひとつになった『言葉』の実に対してエネルギーレベルが性能限界を超えた為計測できないと報告してきました。
その事に驚いたぽっちくんはまじまじと手にした言葉の実を見ます。するとそこには元々書かれていた『あ』と『い』という文字ではなく、『きらきら』という『語尾が『ら』で終わる2文字繰り返し言葉』が浮かび上がっていました。
そう、それぞれ『あ』と『い』と書かれていたふたつの文字の実は、なんらかの作用によってぽっちくんの手の中で『きらきら』という『言葉』の実に生まれ変わったのです。
その事に対して、クイーンはとても複雑そうな顔をしました。そう、クイーンは天才であるが故にたちまちこの奇蹟の意味を理解してしまったのです。そして自分にはそれを成し得る事が出来ないという事まで判ってしまったのでした。
ですがそれはクイーンの置かれた立場がそうさせているだけです。何故ならばクイーンは将来『シーアイランド王国』の女王様になる立場だからです。
なのでクイーンは帝王学を学ぶ課程で純粋な気持ちだけでは国政は担えない事を叩き込まれました。
多分その為なのでしょう、クイーンは自分が置かれた立場を演じきる為にある感情を封印しました。
ですが自らが封印してしまった『それ』を、ぽっちくんがなんの躊躇いや疑問も抱かずに持ち合わせている事が眩しくて、且つ羨ましかったのでしょう。
そして今回の出来事により、ぽっちくんもまた『あ』と『い』と言う文字が合わさると、時に『きらきら』という言葉に変わる場合があるという事を知りました。
そう、『あい』という言葉は人によって様々なものに変化するのです。それはまるで言葉の活用のようでした。
更に『きらきら』という言葉は濁音では『ぎらぎら』となり、また拗音では『きゃらきゃら』『きゅらきゅら』『きょらきょら』と変化します。
勿論、文字の中には『母音』のように変化しないものもありますが、多くの言葉はその時々で変化してゆくのです。
その一端を今回ぽっちくんは体感しました。つまりメーテルリンク・アリステリア・ミライが本当にぽっちくんに探させたかったのは『この事』だったのかも知れません。
とは言え、ぽっちくんもその事をまだ自覚してはいないでしょう。と言うか、その感覚を言い表わす『言葉』をぽっちくんはまだ身につけていないはずです。
しかしいずれは自然と理解するでしょう。何故ならばぽっちくんは『男の子』だからです。
そう、男の子とは常に冒険から様々な事を吸収してゆくものなのです。それらは喜怒哀楽等多岐に及び、言葉で表すと
『情熱』『信頼』『友情』『称賛』
『悔し』『寂し』『悲し』『楽し』
『喜び』『怒り』『恐れ』『驚き』
『嫉妬』『不快』『緊張』『渇望』
『心配』『不安』『憤り』『落胆』
『感動』『感謝』『熱中』『没頭』
『幸せ』『満足』『高揚』『興奮』
『同情』『悲哀』『憧れ』『希望』
『畏敬』『崇拝』『当惑』『困惑』
『愛情』『好意』『ぬくもり』『郷愁』など、様々な表現の言葉としてぽっちくんを鍛え上げてくれるはず。
そして、それらの言葉を形として表す為の『道具』が『文字』でした。
そう、まずは最初に『言葉』があったのです。いや、違います。最初にあったのはきっと『感情』です。その感情を表したいが為に『言葉』が生まれ、そしてその言葉を残したいが為に『文字』が生まれたのでしょう。
そして文字は人の営みや希望、更には感情を伝える『物語』としてそれらを広める道具となりました。そう、人々は文字を使い言葉を書き記し、感情を伝え合うようになったのです。
そんな一文が書き印された碑文が、後世ぽっちくんたちが修行したメーテルリンク・アリステリア・ミライの屋敷跡から見つかっています。
その碑には次のような言葉が刻まれていました。
Dear my babys GoodLuck!you’ers will be together forever
『頑張ってね、可愛い私の弟子たち!あなたたちはいつまでも一緒よ。』
Please Stand By Me
『そしてどうか私の側にいて。ずっと、ずっと・・。』
I Love You’ers to『きらきら』
『大好きなあなたたちに『きらきら』な愛を込めて』
I Love You’ers my babys!
『大好きよ、可愛い私の弟子たち!』
これにて母親が幼子に語った物語はひとまず幕を閉じた。しかし幼子は既に夢の中だ。
なので母親はそんな眠る幼子の額にお休みのキスをすると明かりを小さくしてベッドを離れていった。
その気配に眠っている幼子は一瞬体を強張らせたようにみえたが、また夢の中へと戻ってゆく。
そもそもぽっちくんだってママの元を離れてがんばっているのだ。なので幼子も負けてはいられないと流れそうになる涙をぐっと堪えて、夢の中でぽっちくんやクイーンたちと一緒に新たな冒険の旅に向かっているはずである。
そう、幼き男の子は今、母親の元を離れ自分の足で立つ事を覚え始めたのだ。
勿論そんな幼子の前にはこれから様々な困難が立ち塞がるはずである。だが幼子はもうひとりではない。今の彼には母親が語ってくれた仲間がいるのである。
なので幼子は『勇気』という言葉の剣を手に、未だ彼が経験していない『未来』へ進んでゆく事だろう。
そんな幼子にもう一度母親が語ってくれた言葉を贈ろう。
Dear my baby GoodLuck!
Please Stand By Me
I Love You to『きらきら』
- Fin -




