第7話「確かに、考えてみても良いかもしれませんね」
「確かに、考えてみても良いかもしれませんね」
須貝たちが姿を消してから時をおいて着地し、陸は言った。
「ほんま!? やったぁ! りっくんありがと~」
「但し、成功の見込みが十分にあれば、ですが」
喜び抱きしめようとする陽女の腕から逃れ、陸は再びスマホのライトを起動し周囲を照らした。
「あるある~。余裕やて~」
「そうとも限りませんよ」
「なんで? あんな緩そうな感じやのに~?」
怪訝な顔をする陽女を背に、陸は残されていった献血バス、冷蔵庫、倉庫の内部を次々とカメラに収めていく。
「文化祭で集まる血は上物だ、って言ったのは先輩ですよ? 警備はたぶんもっと厳重でしょうし、運搬の事も考えないといけない……」
彼は次にスマホの地図アプリを起動し暫しそれを注視した後、ため息をついた。
「やっぱり今日みたいにここに潜んでいて、帰って来たのを奪うやり方は難しいですね。道は袋小路だし、防犯カメラも多い」
「ほなウチが言うた言葉どおり、バスを強奪したらええんとちゃう?」
「確かに警備は献血会場とここの倉庫に集中するだろうから、道中は狙い目ではあります……。でも僕も先輩も免許持ってませんよね?」
「あー」
陽女は今それに気づいたとばかりに声を上げた。まさかあんな提案をしていながら、それに気が回っていなかったとは……。
「ほなほな、ウチが後ろからうりゃー! って押して、りっくんがハンドル握るのどう~? それやったら免許関係ないんとちゃう?」
「動力がエンジンでも先輩でも、運転が出来ない事に大差はありませんよ! それにいくら先輩が怪力の吸血鬼だからと言って、バスを押して速度を出せるんですか?」
「それは……押したこと無いし、知らんわ~」
「でしょ? それならいっそのこと、運転手さんを催眠で……」
陸はそこまで言って言葉を止めた。再びスマホを注視し検索を始める。
「須貝さんやで? 運転手さんの名前~」
「いや忘れた訳じゃないです」
彼にすれば名前も顔も忘れる筈がなかった。須貝は陽女から聞いていた以上にイケメンで、なんとなく気にくわない部分があったのだ。決して認める事はないが、それが献血バス強奪に乗り気になった理由の一つでもある。
「ほなどうしたん?」
「先輩の吸血鬼としてのアビリティってどうなんでしょうね?」
「アビ……なに? あの誘拐された女の子が吸血鬼やった映画?」
「それは『アビゲイル』です! 僕が言っているのはアビリティ、ほぼゲーム用語ですが要はどんな能力を持っているか? です」
「能力かー。あ、ホームセンターで売ってるもんだけで、ギャング団を壊滅できるとか!」
「それはイコライザーでしょ! そうじゃなくて吸血鬼としての特殊能力ですよ」
何でも映画の話へ持って行く陽女に呆れる陸であったが、同時にそれへツッコミを入れられる自分にもやや驚きを感じていた。
「……まあそんな事をここで話していても仕方ないですよね。今日はもう帰りましょう」
しかしそんな素振りは微塵も見せず、陸は出口へ向かった。ドアを内側から解錠し、外を伺う。
「大丈夫、もういないみたいですし日も落ちてます」
万が一、モバイルバッテリーの件がナンパの手段ではなく素であれば、須貝は物忘れが多い人物であり、また戻ってくる可能性もあった。だがとりあえず今は姿が見えず、その判断は保留という事になる。
「うーん! 前より夜が好きになったんも、吸血鬼になったせいかな~?」
先に外に出た陽女は大きく伸びをしながら半ば独り言の様に呟く。
「どうでしょう? もともと『映画館の暗闇が好きやねん』とも言ってましたけどね」
一方の陸はそう言いながら足下の石を探り、下に隠されていた鍵を拾って今度は外からドアを施錠し、鍵を元に戻した。
「そやったそやった。ほなもっと色んな映画見て強盗の勉強せんとあかんな~!」
『ほな』とは『そうであるならば』と言った意味の関西弁である。今の会話の流れで何が『ほな』であるのか陸には分からなかったが、陽女に確認し学んで貰う必要があるという部分だけは異論が無かった。
「明後日お伺いして良いですか?」
「うん、もちろん! てか今日は結局、映画観れてへんしプランの相談もせなあかんし、これからは毎日でええんとちゃう~?」
「そうなるかどうかは、先輩の努力次第です」
ニヤニヤと笑って応える陽女に、陸は冷静な返事を返す。実際に自分が彼女に努力を求めた際、どれくらい笑っていられるだろうか? と思いながら。




