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第40話「荷物は私が後ろに載せますよ」

「荷物は私が後ろに載せますよ」

 同時に、運転席から美しい男性も降りてきて声をかける。こちらも日傘を差しサングラスをかけているが、その美形は間違いなくファンティーニであった。

「…………」

 りくはサングラス越しに近寄る吸血鬼教師、いや吸血鬼元教師を見つめる。反射的に肩掛け鞄の方のスプレーに手を伸ばしかけるが、彼はため息をついてキャリーバックの持ち手を彼の方へ向けた。

「お願いします。そういう車のトランクの開け方は分からないので」

 彼がそう言うとファンティーニはでしょうね、と笑ってキャリーバックを預かった。

「姫、御身はこちらへ移られてはどないでっか?」

「結構なのだわサ! あと『姫』という呼称はややこしいから辞めるのサ!」

 一方、吸血猫の方へ手を差し出した沖田おきたは冷たくあしらわれ意気消沈したが、すぐに車へ戻って助手席を前へ倒した。

「ささ、リーダーもどうぞ」

「ありがとうございます」

 ファンティーニの車は4人乗りだが2ドアだ。後部座席へ搭乗するには助手席の座席を避ける必要があった。

「狭くてすんません」

「いえ、大丈夫ですよ」

 申し訳なさそうに頭を下げる沖田へ陸は首を横に振る。実際、乗り込む際には身を縮める必要はあるが、座ってみればなかなか快適だった。

「では例の所で良いんですね?」

 レンレンを除く全員が座席へ着くとファンティーニは自らも運転席へ身を沈めミラーで後方の陸へ確認した。

「ええ、お願いします」

 その姿勢はあの時のバスの中と同じだな、と感慨に浸りながらも陸はそう答えた……。


 あの日、つまり陸が最終的な計画を陽女とレンレンへ語った日。彼は『やり方を、丸ごと飲み込む』と説明したが、飲み込んだのはファンティーニと沖田の強盗計画だけではなかった。計画の実行者である吸血鬼の男性二名も取り込んだのである。

 つまり……陸たちは彼らと手を組んだ。彼らを計画の競争きょうそう者ではなく、共闘きょうとう者としたのだ。

 そもそも以前の状況で協力しなければどちらの計画も頓挫していた可能性は非常に高い。言っていた通り沖田の計画は乱暴で杜撰すぎるし、陸たちは沖田を阻止しつつ強奪も行うとあってはどうにも人手が足らない。

 しかし両チームが結託すればそれらが解消される。互いの足りない所が補えるのだ。つまり陸たちは手下と武力を、ファンティーニたちは秀逸な計画と隠蔽手段を。

 もっとも殆ど接点の無い両者が手を組むには大きな困難があった。何せ身分も環境も違うし、信頼を担保できるモノも何もない。それらを一気に解決したのは沖田とレンレンであった。

 沖田が尾行するレンレンに気づいたあの時。吸血猫は普通の猫に扮して彼をやり過ごそうとした。その目論見は半ば成功し半ば失敗した。

 彼はレンレンを執拗にモフりまくったのである。もう毛皮がはげ落ちるのではないか? という位に。史実や創作において沖田総司は猫に怯えたとされているが、実は彼は無類の猫好きだったのだ。その性質が目を曇らせ、彼女が吸血猫であるとは思いもしなかった。ただひたすらに愛でた。 

 そうされた際にレンレンが示した反応は、ある意味で猫らしく、ある意味で猫らしくなかった。彼女は撫で回された当初はゴロゴロと喉を鳴らしたが、それが何時までも続くのでついに堪忍袋の尾を切らした。

「ええ加減にするのサ!」

と頬ずりする沖田の首へ噛みついたのである。

 ところで吸血鬼には『イニシアチブ』という性質がある。基本的に彼の種族は噛んだ吸血鬼を親、噛まれて転化した吸血鬼を子とする緩やかな従属関係にあるのだが、改めて噛み直されるとその親が書き換わってしまうのだ。

 そうして主導権が換わってしまう事やそれを用いて命令する事をまるごとイニシアチブという。もっともそれは噛まれたシチュエーションや各々の精神状態で必ずしも発生するとは限らないのだが……レンレンと沖田総司にはそれが起きた。

 普通であればあり得ない。沖田総司は歴戦の剣士でそう易々と首を噛まれたりはしないし、かなり年長の吸血鬼である。だが彼が従属したい(下僕になりたい)タイプの猫好きであったこと、本来の親がとっくの昔に滅ぼされていること、レンレンが普通の吸血鬼ではなく非常に知性の高い吸血猫であったことなどが強く作用したのであろう。直ちに彼はレンレンの子となった。

 そうなってみて彼は驚き、喜んで従属し全てを語った。つまり自分たちの計画や身の上を。吸血鬼となり、幕末を駆け抜け密かに生き延び、分かり合える人々と出会い、しかしそれらを失った経緯を。

 陽女ひめには適当に誤魔化したが、沖田総司が今回の件に挑むモチベーションは関西のヴァンプクラブへの復讐心であった。

 それらの情報をレンレンは陸へ余すことなく伝えた。聞いた彼は熟考の上で沖田とファンティーニを仲間へ加える事にした。どの道、剣士の方は既にこちらへ落ちている。交渉してみた所、吸血鬼教師は喜んでその提案を受けた。

 こうして強盗団は頭脳、実行者、内通者、武力、遊撃員を揃えて作戦を実行するに至ったのである。


「我々は駐車場で待っていましょうか?」

 車が目的地へ到達すると、ファンティーニは振り返って陸へ訪ねた。

「あ、それなんですけど予定を変えませんか……?」

 陸は手提げ鞄をゴソゴソと探りながら笑顔になる。

「適当な偽名でテントを借りて一泊しましょう。4人が泊まれる大きなヤツで」

 それから目当ての物を取り出し、前へ突き出す。

「えっ!?」

「ええやん!」

「坊や、これって?」

 吸血種たちが驚きの目でそれを見つめる中、シェルターでみつけたある束をパラパラとめくりながら陸は言う。

「もちろん、足が着かないように支払いは現金で!」

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