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第4話「例えて言うなら、受けることよりもモテること」

「例えて言うなら、受けることよりもモテることに熱心な若手芸人って感じでな~」

 レンレンへの餌やりと投薬を終えた二人は、守衛室へ寄って退場の記入をしてから街を歩いていた。

 猫の病状については、薬と水をしっかり飲ませる以上の手立ては無い。今はもう一つの病状というか衝動、陽女ひめの吸血欲求を満たす為の手段を相談するターンになっており、彼女は京都赤十字の須貝すがいという男についての説明を、かなり辛辣に再開していた。

「ウチはあまり好かんかったんやけど、春のフェスティバルの時にな? ボランティア部の貸し出してた受付の机の上に、モバイルバッテリーを忘れていかはってん~」

「あーたぶんそれ、意図的にですよ。忘れ物ですよ、って電話してくる事を狙っての」

「ウチもそう思たよ~? せやけどウチは代表やったし、あの件でせんせえとかにも『ちゃんとせい』言われてたから、電話したってん~。非通知で」 

 あの件、とはもちろん文化祭でバイオレンスな映画を(パルプフィクション)上映した事件の事だ。彼女はそれで大目玉を喰らい、校内の清掃やら外部向け上映会への参加禁止を命じられた。

「その須貝さんとやらは出たんですか?」

「うん。ちょっと恐縮した感じの変な声でな~」

「まあ非通知からだったらそんなもんじゃないですか?」

「ほんでウチやと知ったら普通に嬉しそうな声になって礼も言ってくれてな。ゴチャゴチャ言っとったけど最終的には太田おおたさんに預けるから適当なタイミングで取りに来て、ちゅう話で終わってん~」

「はあ」

 太田とは例の守衛さんである。そして、そこで話が終わってしまっては献血バスが普通でない説明はまったくなされてなかった。

「問題はその電話の後ろでな~。あれが聞こえたことやねん」

「どれですか?」

 訊ねるりくに、陽女は唇に指を当ててしーっ、と合図を送る。やがて

『こちらは囲神社、参拝者専用駐車場です。駐車料金は……』

という声が聞こえてきた。近所の囲神社かこいじんじゃの駐車場案内のアナウンスだ。

「これですか?」

「うん。何かの中におったっぽいからここまで鮮明やないけど、間違いないと思う。この後、英語とハングル語やで~」

 はたして彼女の言うとおり、同じ内容が恐らく英語とハングル語で繰り返されるのが聞こえてきた。

「ウチらがモバイルバッテリーに気づいて電話したのが、献血バスが出て30分後。ここまでは歩いても5分くらいやろ? おかしいと思わへん~? 30分後にここにおるなんて」

「なんか酷い渋滞に巻き込まれたとか?」

「確かに御所方面はよう渋滞するけど~。こっちはジモっち(地元民)しか知らん抜け道やん」

「じゃあ逆に、先輩から電話が来るのを期待してこっちへ帰ってきてたとか?」

「そうなると逆に30分では無理やん~?」

 そう話し合いながらも陽女はさっさとある方向へ歩き続ける。その様子で、陸は既に彼女が何か結論ありきでこの会話を始めた事に気がついた。

「……と、その時は別にそこまで考えてへんかってん。でも吸血鬼になった後で献血バスのチラシを作ってた時に思い出してん~。あのバス、あの時じつはここにおったんやないか? って」

 言いながら陽女は囲神社の隣の、目立たない倉庫の敷地へズカズカと入っていく。そのエリア全体が、神社の林が作り出す陰に隠れるようになっていて表からは見えない様だが、かなり大胆だ。

「(先輩! 勝手に入って良いんですか!?)」

「大丈夫やで~。ほら、りっくんこっち!」

 陽女はそう言いながら陸を倉庫の大きな扉の隣の、小さなドアの方へ呼んだ。大きい方が車用、小さい方は人間用と思って間違いないだろう。

「本当にその中に……」

「あれ~? 前は施錠されとらんかったのになあ。どっかに鍵、隠してないかな~?」

 彼女はそう言いながら傘を畳み、ぴょんと飛び上がって庇の上を覗き込んだ。

「うわっ!」

 その風景に陸は思わず声を上げる。本当に軽くジャンプした筈の陽女が倉庫に2階を軽く越えそうな跳躍を行ったからだ。

「あらへんわ~」

 だが陸の驚愕はそれだけで済まなかった。吸血鬼が実在するこの世界でも重力と空気抵抗は存在する。つまりジャンプした陽女は重力に従って下降し、その際に彼女のスカートが空気に膨らんで上に捲れ上がったのだ!

「あ! 観た~?」

「見てません」

「何で観てへんの~!?」

「素早く首を横に向けて視線を逸らしたからです」

「むぅ~。あ、何を観たかまだ聞いてへんねんけど?」

「それはその……あ!」

 陽女の追求を受けた陸は、自分の視線の先にあるものを見つけた。

「先輩、鍵ですよ鍵! そっか、近くの石の下に隠してあったのが、着地の衝撃で石がひっくり返って出てきたんですよ~。しかし吸血鬼ってジャンプ力も人間離れしているんですね。そりゃそっか、あの怪力ですもんね!」

 陸は早口でそう言いながら身を屈めて鍵を拾い、振り向いて陽女と視線を合わせた。着地の衝撃でサングラスもずれ、睨みつけても迫力の無い可愛い瞳に非難と妥協の色が見える。

「もう。なんか腑に落ちんけど、鍵を見つけてくれたから今回は許してあげるわ~」

 そもそも許しを得る必要がどこにあったのか? むしろ事故でもスカートの中身を見てしまった場合の方が謝罪が必要では? 陸は大きな困惑に包まれたが、黙って彼女へ鍵を差し出した。

「それでは御開帳~」

 陽女は鍵を受け取り、そう言いながら倉庫のドアを開けた。

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