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第37話「4人目の生徒ですか?」

ファンティーニ章の証言


「4人目の生徒ですか? まったく心当たりがありません。ただ我々の同胞である事には違いないでしょう。もし仮に人間だとしたら相当な度胸ですよ。吸血鬼相手にあんな大立ち回りをしたんですからね。御西女学院ごせいじょがくいんの生徒……では無いですね。校内に吸血鬼は自分しかいませんから。もっとも自分は眼を銀で焼かれていましたし、運転をしていたので細かいところまでは見えていませんが。主犯の男? ええ、そちらの方が記憶にあります。我々の内部事情に詳しかったですから、クラブの者と見て間違いないでしょう。どうかそいつを見つけだす為に協力させて下さい! その代わり私を元の役職しごとに……」


 京都御所の地下にあるクラブの一室で、この後も引き続きファンティーニへの聴取が続けられた。しかし程なく彼の要求は退けられる予定である。これほどの失態を犯した存在を元の地位へ戻すことなどあり得ないからだ。

 一方、同時に確保された女生徒三名については催眠処理を施した上でただちに警察病院へ戻される事となった。これ以上尋問してもさほど情報は手に入れられそうになく、むしろ強い印象を残して記憶の操作に支障が出る可能性の方が高い。そうなると労多くして益は少ないハイリスク・ローリターン

 更に言えば現場の処理と調査の方が急務であった。吸血鬼としては今回の事件をありのままに、つまり

「吸血鬼の強盗団が血を狙って献血バスを強奪した」

として報道させる訳にはいかない。

 別のもっともらしい偽装された物語が必要であった。さし当たり用務員室で倒れていた須貝すがいがその生け贄の山羊となる。女子高生に横恋慕した彼が、ファンティーニと女生徒たちの関係を疑い暴走した……という設定が採用された。宣子たちに施される記憶の操作にはその件も含まれている。 

 そういった事情で須貝は体力が回復し次第、彼もまた催眠を受けて警察病院へ戻される事となった。御西女学院から永田寺ながたでらまでずっと彼が運転し、崖から落ちたが奇跡的に生存。しかし重傷を負っていたので病院へ……という体である。

 吸血鬼たちにとって幸いだったのはこの不埒な運転手が実際に何名かの女子高生へ誘いをかけていた事だ。故に証言だけでなく証拠の偽造も容易であった。その視点で言えば須貝はある意味ナイスガイだった。

 しかし別の処理と調査は容易ではなかった。特に永田寺の駐車場と、バスの転落地点である。実はあのあと少なくない戦闘員が何者かに斬り殺されていたのだ。いや正確に言えば斬られた後、銀の刃でトドメを刺されていたのだが……。ともかくそれによって現場の混乱は増した。

 駐車場の煙の中で、バスやその積み荷が落下した森の中で、何者かが偽りの生命を生きる吸血鬼達へ永遠の眠りを与えた。吸血鬼の上層部たちは後に知る事となるが、この死の舞踏を舞ったのは間違いなく沖田総司おきたそうじである。

 彼は混乱と狂騒の中で、可能な限り孤立した戦闘員を不意打ちし確実に仕留めて回った。暗闇での奇襲は新撰組の十八番であり、また己が先に倒したバス第二襲撃隊の戦闘服とガスマスクを身につけていた事がそれを更に容易にした。

 そうして満足いくまで斬り倒した後、彼は散乱した積み荷の一部を盗んでその場を去った。残されたのは灰になった吸血鬼の遺体と、少なくなった遺留品だけである。

 それでは調査も処理もままならない。吸血鬼達は自分たちの痕跡を消す事を主とし、それから他の事へ当たるざるを得なくなった。

 そして『その他の事』には吸血鬼の、いや吸血鬼社会特有の事情も含まれていた。それは自分たち内部にいるかもしれない犯人探しである。

 ファンティーニの証言に誘導されるまでもなく、吸血鬼の上層部は内通と造反の可能性を疑っていた。何故なら年齢を重ねた吸血鬼達の社会は複雑怪奇な権力構造をしており、恐ろしく緩慢で臆病と言って良いほど緻密な陰謀を日々繰り広げているからだ。

 つまり今回の献血バス強奪事件も、ある陣営が別の陣営の失態を狙った作戦であるかもしれない……と思ったのだ。

 沖田の存在もその疑いに拍車をかけた。彼は、あくまでも吸血鬼の上層部視点ではあるが、ファンティーニに気づかれず校内に潜み計画に一枚噛んだ。しかも戦闘員を大量に殺害し、

「お前たちの首を穫る」

と無線で伝えてきたのである。

 その言動は血を奪う事よりも上層部にダメージを与え、挑戦状を叩きつける為という色が濃い。と言うことはやはり内部に組織の転覆、あるいは下克上を狙う存在が潜んでいて沖田を駒として使った……と推測するのが妥当である。

 そう言った理由で吸血鬼達は捜査や追究の手を正しい方向へ伸ばす事ができなかったのである。半ば自縄自縛、己の疑心暗鬼が判断を鈍らせた結果ではあるのだが。これから数ヶ月、上層部は自分たちの内側の人物『インサイド・マン』を探して無駄に時間を費やす事となる。

 もっとも、それが無くても彼ら彼女らがりくへ辿り着ける可能性は低かったが。何故ならあの中学生男子は、誰も予想できない場所にいたからである……。

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