表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/41

第35話「煙が出たのは、バスから全員が降ろされてすぐです」

藤崎颯子ふじさきそうこの証言


「煙が出たのは、バスから全員が降ろされてすぐです。『こっちです! 仮面を脱いで!』ってファンティーニ先生が叫んでくれたのですぐマスクを剥ぎましたけど、その時には既に辺りに充満していましたし。それからバスが走り出して大きな音……たぶん柵をなぎ倒す音がして、先生の声の方へ必死で走りました。そしたら前からたくさんの人が来て、その内の一人に抱き留められた感じです。他の生徒? 見てません。見なきゃいけなかったですか? 別に鈴木さんと佐藤さんがどうなっても……え? 小さい子? あの子はどうだったかな……。うん、写真部にはあんな子はいませんけど。ところで貴方達、本当に警察なんですか? いや、なんか眼が赤いし……」


 献血バスは煙と駐車場の柵を切り裂いて山道へ出た。タイミングとしてはギリギリだった。煙幕装置を起動し、ファンティーニ達をバスから降ろして並べ終わった時に動体センサーに反応があり、吸血鬼の包囲網が輪を狭めてきたからだ。

 一方、悲鳴を上げて煙の中を走ってくる人影とバスどちらを追うべきかについて吸血鬼たちに迷いはなかった。山道の行く先は永田寺ながたでらの本堂であり、そこで行き止まりだ。故にバスは誘導で煙と人質に紛れて逃げるのが本当の狙いであろうと上層部は判断したのだ。

 命令を受けた戦闘員たちは両手を広げて教師と女生徒たちを抱き留めた。その数はちょうど4。ファンティーニ、鈴木宣子すずきのりこ加藤響かとうひびき、藤崎颯子の4名である。彼と彼女らはひとまず救助された事に安堵し、その中でファンティーニだけは救助隊の正体を察知し己の運命を悟って暗い表情になった。

 いずれにせよ、その中にりくたちの姿は無かった……。


「この後、どうするつもりだ?」

 陸が電話をかけると吸血鬼の上役は苛立ちを隠せない声で訊ねた。

「忠告を幾つかするつもりだ」

 少年はそう言って暗闇で笑う。因みに彼の声は無線とボイスチェンジャーを通して電話の通話口に伝わっている。バスの中にいた時の陽女ひめと区別はつかないだろう。

「忠告?」

「ああ。一つ、学校の献血を横流しするのは辞めろ。吸血鬼として血が必要なのは俺達も同じだ。だが、無垢な人々の善意をないがしろにするのはダメだ。既存の献血センターや人工血液の開発の方へ力を入れろ。社会の寄生虫には寄生虫のやり方があるだろう?」

「そんな事を言える立場か! お前の……」

「さもなくば、御西女学院ごせいじょがくいんで行っている事を世間に公表する。ファンティーニによる管理から、血の配布先まで」

「そんな事をしてただで済むと思うな!」

「二つ。俺達を追ったり探ったりしようとするな。追いつめられれば、俺達も牙を剥く。もっとも俺達が噛みつくのか、お前達が寝首を掻かかれるのか、どちらが先か分からないがな」

「……なにっ!」

「三つ。今回の献血バスジャックについて、今から良い感じの偽装工作を考えておくことだ。人質の4名を含め、普通の日常に戻れるようなカバーストーリー(筋書き)をな。さっきの言葉と矛盾するようだが、こちらだって俺達吸血鬼の秘密が世間に広まる事を望んでいる訳ではない」

 今の二つには幾つかの嘘が含まれていた。陽女たちは吸血鬼の上層部の事情を良く知らない。だが間違いなく権力闘争はあるだろうし、それを匂わすだけで今回の強奪事件に内通者がいたのでは? と思わせられるだろう。

 また陸は吸血鬼ではなく人間だ。しかしそれをわざわざ教える必要はなかった。むしろ逆だと思わせた方が都合良い。

「最後に。工事現場で手に入れた残りの半分を良く調べてみろ。上の幾つかを除けば、殆どトマトジュースだ」

「なんだと!?」

 途端に電話の向こうで慌ただしい音が聞こえた。しかし、やがてそれも収まり静かな怒りを湛えた声が戻ってくる。

「……騙したな!」

「お互い様だろう? ともかく、この四つの忠告に素直に従う事だ。嘘を吐いたり謀ったりはするな。俺達は簡単に見抜く」

 陸はそう言った後、少し溜めてから続けた。

「悪事も嘘も見破るのは簡単だ。どちらも、悪臭を放つ」

そうして彼は通話を終了した。


 通話が終わる少し頃、献血バスの旅路は一足先に終焉を迎えようとしていた。ヨロヨロと進む車両は手前の小型駐車場にも、もちろん永田寺の本堂へも入っていかなかったのだ。

 バスはカーブを曲がり損ねたかのように、頂上付近の道路の最後で左に大きく曲がり、やがてガードレールの切れ目から崖の下へ向けてダイブした!

「バカな!」

「どうする!?」

 バスを追っていた戦闘員達は、崖の上から転がり落ちて森へ飲み込まれて行く車両を見下ろして唖然とする。彼らは駐車場に残った同胞よりもかなり数が少なく熟練度も高くなかった。その内の一名が無線で司令本部へ連絡を取るも、返答は芳しくない。

 それはもちろん、陸が上層部と通話しているからである。吸血鬼達がバスと工事現場の襲撃を同時に行ったのと同じく、陽女達も同時に複数の事件を起こして陽動をかけたのだ。

「出来るだけ回収しろとのことだ」

「マジかよ……」

 それでもしばらくして命令が下った。いずれ増援が来るが、それまではここにいる彼らが落下したバスと、積み荷を探し回る事となる。

「バスジャック犯は何がしたかったんだ?」

「ただの嫌がらせだったんじゃないか?」

 そう愚痴を言いながら降りていく吸血鬼の集団を、寺の屋根に座るハチワレ猫が顔を洗いながらじっと見ていた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ