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第34話「よし、3番に停めろ!」

「よし、3番に停めろ!」

 二度目の襲撃を受ける事無く目的地へ到着すると、陽女ひめは興奮を押さえきれずやや大きな声でファンティーニへ命令した。

「駐車場のバーは?」

「構わん! 簡単に折れる筈だ」

 目的地とは『永田ながた寺』の駐車場であった。京都市郊外の山上にあり、観光バス数台が停車できる広大なスペースがある。しかし当然ながら年末年始を除き夜間に人気はなく、防犯の為に照明は点いているものの駐車券自動発券機の電源は切られたままだった。

「揺れますよ!」

 ファンティーニは警告の声を発してから陽女の指示通りバスを走らせる。バキっと乾いた音を立てて黄色と黒の棒は折れ、それを聞いた少女たちは小さな悲鳴を上げた。

「頭をあの矢印の通りに向けろ」

 続いて陽女は停車の向きを命令する。彼女の指さす所には地面に貼った養生テープにより描かれた矢印があった。

「……分かりました」

 それはアスファルトに引かれた白線に沿ったものではなく、出口の方向でもない。何らかの意図を感じさせる方向だが、ファンティーニは素直に従った。

「よし。ではこれを被れ」

 献血バスが停車すると、陽女は陸から今までと別のマスクを取り出して教師へ見せた。

「おかしな真似をすれば、銀がマスク内に充満する。分かるな?」

 それは後頭部に穴を開け、そちらに小型のデオドラントスプレーと小さな装置が縫いつけられた特殊なマスクであった。実はこの後、陽女と陸はしばらくバスを離れて作業をする。その間ファンティーニの動きを止める為にこういった道具が必要なのだ。

「これが終われば解放して貰えるんですか?」

「ああ」

 そう問いかけた彼から目を逸らし陽女は頷く。これは嘘をつく為ではなく催眠を避けての事だ。吸血鬼はその慎重さに感心しながらマスクを被った。

「あの、先生!」

 そこへ、りくが少女らしい声音を作って呼びかける。

「はい?」

「約束とは違うけど……。ここから無事に帰ったら、卒業を待たずに結婚しよう!」

「「はぁ!?」」

 陸の爆弾発言に、彼と陽女以外の全員が驚きの声を上げる。

「な、何を言うんですか鈴木さん!」

「いえ、いま喋ったのは私じゃないですけど……」

「……!」

 ファンティーニは失言を悟った。かなり後方から聞こえたので宣子のりこが言ったと思い慌てて口止めしようとしたが、そうでは無かったのだ。

 それどころか……

「待って先生? もしかして、私以外とも……?」

 案の定、颯子そうこが疑念の声をかける。彼女ともそういう約束をしていたので当然ではある。

「ちょいと待つし! あーしとあんな事をしながら、他におんながいたってこと!?」

 それを聞いてひびきも黙ってはいられない。ファンティーニは彼女については結婚をちらつかせていなかったが、かと言って浮気を許可されていた訳ではないのだ。

「あんな事ってどんな事なんです!?」

「待って下さい、皆さん誤解です!」

「どんな誤解か説明して!」

 教師は女生徒たちに詰められシドロモドロになる。実のところ彼は彼女たちの内、数名に催眠を用いて他言無用を命じてはいた。しかしこの局面に至って恐怖や怒りの強い感情でその作用が解かれてしまったのだ。

「(わーい! ずっと聞いていたいな~)」

「(そうはいきませんよ先輩! 急ぎましょう!)」

 修羅場となった車内を見て陽女は密かに喜んだが、陸は彼女の背を押して降車を促した。そして自らも彼女を追ってバスから外へ出た。


 ファンティーニの多重交際をこのタイミングで暴露したのは主に、誰かが付きっきりで見張らなくても彼が身動きできないようにする為である。女生徒三名への弁明に必死な間は、下手には動けまい。

 しかしもう一つ理由があった。自分たちが行っている作業から、彼女たちの気を逸らす為である。

「坊や、お嬢! 無事だったのサ?」

「大丈夫! レンレンこそありがとう! 重くない?」

 荷物を持って献血バスから降りた陸達の元へ、レンレンが駆け寄ってくる。だが彼女はただ走ってきた訳ではない。駐車場のお手洗いの陰に隠してあったリヤカーを引っ張ってきたのである。

「ぜんぜん平気サ! さあ、ドンドン積み込むのサ!」

 レンレンはそう答えるとバスの方を一瞥する。

「せやな! 大量やから気合い入れよ~」

 陽女はそれを聞いて笑顔で同意し、車内から荷物を運び出し運搬する。荷物とはすなわち大量の輸血パックが詰め込まれたクーラーボックス、吸血鬼撃退に使ったデオドラントスプレー、陸の変装道具や電子機器などである。

 その間、陸は陸で駐車場の仕掛けのチェックを行っていた。こちらは吸血鬼の接近を知らせ遅らせる為の動体センサーと紫外線ライト、古いピンポン球に花火を巻き付けた煙幕弾、自分の逃走経路などである。

 それらのチェックにかかったのは5分32秒。前日までのリハーサル通りであった。陽女たちは夜間、何日もここへ通って準備と練習を行っていたのである。いわゆる『ハーマン・ラムのテクニック』だ。

「コンディションオールグリーン! ゴー《決行》です!」

 バミリのテープこそ剥がされているが、全てが計画通りの位置にあるのを確認して陸は無線で仲間へ呼びかけた。

「オーライなのだわサ!」

「レンレン、気をつけるんやで~」

『ピッ!』

 返事が無線機から聞こえる。それを確かめると、陸は隠れ場所へ横たわり静かに目を閉じた。

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