第33話「アレは俺の獲物やで……なんてな」
「アレは俺の獲物やで……なんてな」
「はっ? 何か言ったか?」
場にそぐわぬ呑気な声を聞いて戦闘員たちが後ろを振り向いた。しかしそこにいた殿の戦闘員は、何も答えず少し頷くのみだ。
いや、頷いた様に見えた彼の頭部は、そのまま前方にずれて首から離れ遙か下方の木の根本まで落ちていった。
「どうし……!」
「何が……!」
次に後方にいた2名が最後まで言葉を発すること無く、何者かに一瞬で喉を突かれ沈黙する。
「なっ!?」
それどころか、内側から炎を発し消し炭になって崩れ落ちていくのを見て残った2名はガスマスクの下で顔をひきつらせた。
「銀の刀か!?」
「そうやで。先端だけやけどな」
彼らの前で月の雫の様に輝く日本刀を構えた男、沖田総司はニヤリと笑った。
「ならば!」
先端、すなわち突きが使えない間合いへ入って戦い武器を奪うまで。そう考えた右側の吸血鬼が枝を蹴って沖田へ飛びかかる。
「うえっぷ!」
その顔面へ口から血を吐き、沖田は脇へ避けた。視界と攻撃対象を失ったその男は着地ならぬ着枝に失敗しかけ、慌てて木の幹にしがみついた。
「小癪な!」
「おまえ『小癪な!』しか言えへんのか?」
今度は左側の吸血鬼が殴りかかってきたが、沖田はまず突き出された拳を切り上げで切断し、互いの身体が交差する間に今度は切り下げで吸血鬼の首の横を切り裂いた。
「くっ、畜生……うっ!」
最後の一人、木の幹にしがみついていた吸血鬼は片手を開けてガスマスクを顔から剥がしたが、顔面が夜気へ晒されたと瞬間にそれよりも冷たい風が口内に差し込まれた。
「ぐぁぁぁぁ!」
冷たい風、銀をコーティングされた刀の切っ先に口蓋を貫かれ、その吸血鬼はそこから炎を発し炭になって崩れ落ちた。
「ふぅ~。あかん、まだムカムカするわ。せやけど後始末、と」
沖田はそう言って胸をさすりながら、地上へ降りる。そして切り裂かれただけでまだ絶命していない吸血鬼に刀の先端を刺して、完全に灰へと変えていく。
『どうした? ストライカー2! ターゲットがポイントを通過したぞ!?』
そうやって灰に変えられた側に、そんな声を発しているガスマスクが一つあった。恐らく攻撃隊の指揮者のマスクに内蔵された無線機であろう。沖田は残された戦闘服で刀の汚れを拭ってから納刀すると、黒い仮面を拾い上げてどうにか通話ボタンを見つけた。
「御西女学院の用務員室にな? 失血死しそうな手下がおるで。誰か向かわせたげてや」
『はっ!? お前は何者だ!?』
「いずれお前らの首を穫るモンや。覚えとけや。以上、交信終わり」
沖田はそう言って通話を終えた。そしてガスマスクを首級に見立てて天へ突き上げた後、唐突に自分の口元を押さえた。
それからもう一度、血を吐いた。
須貝を捕らえ血を吸った際、沖田は少々血を吸い過ぎた。本来の目的である彼を昏倒させる以上に吸いまくった。我に返った時には、バス本来の運転手はミイラを水で5分だけ戻したような外見になっていた。
もっともそのおかげで、沖田の吸血鬼の身体はパワー満タンという感じになった。彼はその勢いを駆って日光のある間はひっそりと、日が落ちてからは全力でバスを追いかけた。
バスの現在地は分かっている。ファンティーニのスマートフォンがある所だ。彼は車内でこそ
「私のスマホに追跡装置はついてない」
と言ったが、実際には互いの位置が分かるアプリをインストールしていた。教師とは教え子に嘘をつくものなのだ。
もっとも、山を登り始めた沖田はアプリではなく周囲の方へ注意力を向けた。自分以外の吸血鬼も献血バスを追っている事は分かっていたからである。
そうやって伸ばした警戒の網に先ほどの襲撃班が引っかかったのだ。彼らとて吸血鬼の隠密部隊で、樹上に潜んで身を隠してはいた。しかし熟練の暗殺者であり、茂みに紛れた猫すらも見つけ出せる沖田総司の感覚から逃れる事はできなかった。
それどころか背後を取られ奇襲され、瞬く間に斬り倒された。陸たちの銀のスプレーを警戒してガスマスクをつけていたこと、同じく手袋をつけて爪という武器を素早く使えなかったことが、襲撃チームへ災いしたのは間違いない。
だが戦闘用の訓練を受けた吸血鬼5名を一瞬で葬った刀の腕前は、やはり恐るべきものと言えよう。幕末に都を震撼させた壬生狼の刃は令和の世になっても鈍ってはいなかった。むしろ闘いの半ばで見せた2段突きに至っては全盛期の鋭さを越えていたかもしれない。
今、草むらに突っ伏して再び血を吐いている姿からは想像もできないが、やはり彼は沖田総司なのである。
「ふぅ~、すっきりしたで。ほなぼちぼち行こうか~」
出すものを出して楽になった沖田は、周囲を見渡して手頃な戦闘服とガスマスクを拾った。今晩、彼が参加するパーティーにはドレスコードが存在するのだ。
沖田はそこで、もう一度ダンスを踊る予定であった。加わる者すべてに死を振りまく血の舞踊を。




