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第30話「なかなか猫使いが荒いのだわサ!」

「なかなか猫使いが荒いのだわサ!」

 一方、りくにそこまで想われている筈の猫レンレンはそう愚痴を吐きながら、ボランティア部の後かたづけをしていた。献血バス強奪作戦の直前までは陽女ひめと陸も例年通りの行動ができたが、作戦始動後は全てを後に残したままだからである。

 もし後に調査が行われ、何も片づけずバス事件の直後から姿を消した事がバレたら大いに怪しまれるだろう。騒動による混乱である程度までは誤魔化せるだろが、それにも限度がある。

 故に文化祭子供上映会を終了し、座席やプロジェクターをきちんと直して

「事件後も学校にいて、片づけてから帰りました」

とアピールする事はかなり重要であった。

「おっと、爪は出さないのサ!」

 レンレンは自分にそう言い聞かせてDVDプレイヤーから出てきた円盤を肉球で挟んだ。爪で表面を傷つけないよう注意したのである。

 因みに本日、最後の上映作品は陸が持参した

『ジャンゴ 繋がれざる者(アンチェインド)

であった。

 この作品は奴隷問題を扱い表向きは教育的でありながら、アクションも満載という上映会に相応しい作品だ。しかも非常に長く、それでいて陸も陽女も内容を熟知している。途中で抜けても問題無かった。

 まあ……アクションシーンの残酷さは『パルプ・フィクション』と大差ないのだが。ただそのシーンの大半は映画の最後の方にある為、確認の為に視聴した顧問はそこまで起きていられなかった。途中、まあまあ眠いシーンがあるのだ。故にチェックをすり抜けられたのである。

「おっと、日も暮れたのだわサ!」

 室内を軽く掃除した所で窓の外を見て、レンレンは呟いた。幸い、ここまで猫が部室を掃除する所を目撃した人間は一人もいなかった。

「完璧にできたとは言えないけど、雑な方が却ってお嬢がやった風に見えるのだわサ!」

 レンレンは忌憚のない陽女評を口にすると、窓を開けて夜の町へ飛び出した。


 日が暮れバスが郊外へ差し掛かった所で強奪作戦も一つの危険なポイントを迎えつつあった。ここまでは昼間で日光もあり、車も街中を走ってきた。吸血鬼たちの動きは鈍く、手も出し難い。

 しかし日が落ち周囲の人目が減ると、状況は吸血鬼側に有利だ。日の光を気にせず動けるし、多少の騒ぎになっても隠蔽できる。またこれから走るのは峠道で車の速度も自ずと落ちる。追っ手が何かを仕掛ける為の条件は揃いつつあった。

 もちろん、工事現場に残した半分を人質(ひとじ血)にして牽制してはいる。だがそれで完全に相手の動きを止められるとは陸も陽女も思っていなかった。

 更にバスの中では、もう一つの危険が目を覚ましつつあった。


「いったい、何処へ行く気?」

 バスが山道の大きなカーブを曲がり出したのを感じてか、颯子そうこが前方へ問いかけた。

「さあ?」

「確かに! もう山の方まで来てるっしょ!? どーいうつもりさ!?」 

 トボケる陽女にひびきも問いただす。彼女らは変わらずマスクを被らされているが、時間と揺れで大まかな位置は察していた。

「先生に聞いてみたらどうだ?」

「は? 言って良いんですか?」

 彼女がおどけて提案すると、ファンティーニは冷たい声で聞き返す。血を吸っていないとは言え時間はだいぶ経ち、しかも周囲は暗くなりつつあり左目も再生しつつある。彼の闘志もそれに併せて復活してきている様であった。

「あの!」

 そこへ、バスの最後尾から宣子のりこが大声で呼びかける。

「なんだ?」

「何が狙いか分かりませんけど! もう郊外なら、そこらでバスを乗り捨てて山へ逃げたらどうですか? それがダメならせめて、怪我している先生とあとの二人だけでも降ろしてくれません? 私は残りますから!」

 それは真摯な訴えであった。宣子はずっと一番後方にいたので、状況についてあまり理解できていない。ファンティーニが目に銀の消臭スプレーを喰らった時もそうだ。ただ苦悶の叫びだけが聞こえたのだ。

 だが、いやだからこそ、彼女はファンティーニの身を気遣った。その想いに、陽女は正直ぐっときた。乙女心がざわついて感動した。

 しかし……。

「はぁ? 勝手なこと言うなし! おい誘拐犯、先生の代わりに残るのはあーしだから!」

「いや貴女こそ適当な事を! あの、降ろせとは言いません。せめて私に手当をさせて?」

 響と颯子が口を挟んた。この局面で、宣子一人がファンティーニに対して点数を稼ぐのを黙って聞いていられなかったのだ。

「ラブやな、ラブ!」

 だがいずれにしても恋する乙女の純心であった。感動した陽女は思わず演技を忘れ、京都弁で感嘆の弁を述べつつスプレー缶でファンティーニを突き、返事を促す。

「鈴木さん佐藤さん藤崎さん、ありがとうございます。でも大丈夫です。そもそも、貴女たちに運転はできないで……」

「ひびきー!」

 愛しき教師の台詞に突然、響が割り込む。彼女を除くバスの乗員全員がその叫びに困惑の表情を浮かべた。

「どうした? 何か聞こえるのか?」

「何時もみたいにひびきって呼んでや、先生!」

 陽女の質問を気にせず響はまっすぐ前を向いていた。

「でも今は……」

「うん、二人きりやないけど! もしかしたらここで死ぬかも? って時に他人みたいな呼ばれ方したくねーし!」

 彼女はそこまで言うと、少し躊躇った後マスクの下で決意に満ちた表情になって続ける。

「鈴木さん藤崎さん。今まで隠してたけど……」

「佐藤さん!」

 危機を察し振り返ろうとしたファンティーニを陽女がスプレー缶で牽制する。

「実はあーしと先生……」


「「ドン!!」」


 響の告白の途中で、大きな衝撃音がバスの天井に響いた!


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