第26話「ほな30分後、ボランティア部の部室にお願い~」
「ほな30分後、ボランティア部の部室にお願い~」
陽女は3人目のクラスメイトにそう確認すると、笑顔で手を振って彼女らと別れた。
意気揚々と歩く廊下には様々な準備物と生徒が溢れている。今は文化祭まであと数日。忙しい盛りだ。それぞれがそれぞれの事情に追われている中、陽女は時間や交遊関係や交渉術を駆使して、それぞれ違うタイプの生徒を呼びつけあるお願いをしてきた。
しかしそれも次の生徒で最後だ。
「りっくんとレンレンに負けてられへんしな~」
陽女はそう気合いを入れながら、脳裏でやる事リストを確認していた。
作戦が定まった後、陸とレンレンは大忙しになっていた。具体的に言えば陸は通信手段の確保、血液パック遠隔破壊装置の設置、逃走時の煙幕の作成といった技術面を担当し、レンレンは当日の動線の確認、時間の計測、穴掘りなどに勤しんでいた。
「映画ならモンタージュで済まされる部分やね~」
と陽女は笑ったが、現実はかなりの手間であった。例えば無線。連絡手段と御西女学院の一般的な防犯体制の傍受を予て、陸は守衛の太田が所持するのと同系統の無線機を手に入れ密かに同チャンネルに登録するというミッションを行った。
それにはまず太田の無線機をくまなく調べネットで購入し気づかれないように両方の無線機を操作する、という作業が必要となる。幸い、あの守衛さんは隙だらけだったので彼がいない間に守衛室に進入し工作をするのは簡単であったが……そういった経験の無い陸には大変な緊張を要する行為であった。
また例えば移動時間の計測。レンレンが当日の移動ルートを実際に走って調べた訳だが、夜とは言え首からストップウォッチをぶらさげた猫が路上を全力疾走するのはやはり奇異な風景であり、人に見咎められないよう注意する必要があった。
これらの光景を短い動画で切り取り、ノリの良いBGMのバックで流しながら時間の経過が分かるカットも差し込んだりするのが、陽女の言うモンタージュの技法である。スポーツ映画で用いて
「この数ヶ月でこんなトレーニングを行い強くなりましたよ!」
と表現するのがメジャーな使い方ではあるが、強盗映画はそれに次ぐ位よく使われるのだ。
と、かく言う陽女の方はその間、何をしていたのか? 実は彼女については
「普段通り行動する」
というのが最も重大なミッションとなっていた。
何故なら彼女は強盗計画(3割)や陸と戯れること(7割)に明け暮れていて、ボランティア部としての活動や文化祭の準備を怠っていたのだ。その遅れを取り返さなければ、顧問や部活仲間に叱責される。いや叱責されるだけならまだ良い。遅れの理由を追及されれば計画にも支障が出るかもしれない。いや、きっと出るだろう。
なので正確に言えば
「普段通り行動しつつ、ボランティア部の活動を頑張る」
なのだ。
しかし、一つだけ別の任務もあった。いや正確に言えば三つだ。3名の生徒にある約束を取り付ける。それは作戦の重大なポイントにもなる事であった。
「バスで先生と一緒の所を写真に撮りたい、と。なんで?」
呼び出されボランティア部の部室へ来た生徒、藤崎颯子は陽女のお願いに対して当然の疑問を口にした。
「なんでやと思う?」
一方の呼び出し主は質問へ質問で返す。奇妙な、何とでもとれる笑みを浮かべながら、だ。
「え? なんでやって……」
颯子は戸惑いながらも口ごもった。彼女は新聞部所属で、口は達者な方だ。髪は黒髪ショートカット。手足も機敏に動き取材のフットワークも軽く運動部と良く間違えられる。
だがそんな彼女が、何か後ろめたい気持ちでも隠すかのようにモジモジとしていた。颯子は葛藤しつつ陽女の方を見る。
「ん~」
吸血鬼女子高生はその視線を受けて妖しい目で見つめ返した。催眠の能力が無いのは実証済みで、動物を使役する力も無い。だが彼女の本質的な魅力の様なものは日々、増す一方であった。
「いや、私、好きな人がいるし……」
彼女は思わず口走る。別に陽女が何かを誘った訳ではない。だが颯子はまるで誘惑されたかの様な感覚を覚え、自分には男性の想い人がいる事を思い出して必死に抵抗しようとした。
「てか先生! アン王女、もしかして私とファンティーニ先生の仲を知ってたりする!?」
そのせいか、快活な新聞部部員は更なる失言を重ねてしまう。
「ふふ! やっぱそうやったんや~。」
「あっ!」
颯子は顔を真っ赤にして己のミスに気づいた。それだけでなく、自分で質問の回答にたどり着く。
「なんなん!? 私と先生のツーショットを撮って脅すつもり? 言っておくけど、私と先生の関係は真面目なもんやから! 卒業後に……」
「ウチはただ、人気の先生とリラックスして献血してる子の写真を残して次回の宣伝に使いたいだけやったんよ? 献血ってやっぱ、痛そう怖そうなイメージあるやん~」
陽女は歌うような口調でそうトボケたが、ふと何かに気づいたような顔になった。
「そうや! 何なら、後でその写真プレゼントするし~」
「いやそんなの貰っても……」
「結婚式の動画の一部に使ったらええんちゃう? 『新婦は奉仕精神の持ち主で、そんな彼女に新郎が惚れてしまったのは当然と言えるでしょう』みたいな~」
「なっ! けっこん……」
吸血鬼の甘い言葉は颯子の心を貫いた。ファンティーニが管理している事から証明できる通り無垢な少女は、心の中も無垢であった。彼女の脳裏には自分とファンティーニの結婚式の風景が、陽女が言う通りのムービーまで込みで浮かび上がっていた。
「た、確かに悪くないかも……」
「ほな夕方16時で献血の予約とっておこか~」
惚けたような表情の颯子の前で陽女は手早く予約表を書き上げ、半券を彼女の手に握らせる。
「当日よろしゅう~」
そしてまだその状態の颯子を部屋から外へ送り出した。その手並みも3人目となるとスムーズなものだった。
「ふふふ。これでファンティーニ先生お手つきの子が綺麗に揃ったわ」
陽女はそう言いながら、予約表に並んだ16時台の宣子、響、颯子の名前を満足気に眺めた……。




