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第24話「そう言えばある映画って何を観たんですか?」

「そう言えばある映画って何を観たんですか?」

 地下室の地下に道具を収めたりく陽女ひめは、早々に御西女学院ごせいじょがくいんから去り共に歩いていた。向かうのはもちろん、彼の家である。

「えっとな~。『インサイド・マン』って映画やねん」

 陸の問いに陽女は嬉しそうに答える。レンレンは引き続き校内に残り、極力身を隠しながら沖田総司おきたそうじを監視している。久しぶりに二人きりになれた上に部屋へ行けるとあって吸血鬼女子高生はご機嫌であった。

「銀行強盗の映画なんやけど、ファンティーニ先生って内通者やろ? 『インサイド・マン』は内通者って意味やしぴったしやと思ってん~。ところがこの『インサイド』には別の意味もあってな? 外に逃げたと思われてた犯人が、実は銀行のインサイドに潜んでて時間経ってから逃げるねん! その為に隠し部屋を作るシーンを思い出してさ~」

「あの先輩? 今さらっと大事なネタバレをしませんでしたか?」

 気持ちよく語る陽女だが陸のその一言でパタリと口が固まった。

「あっ……やってもうた~。ウチがハンス・ラマーになってもうた……」

「ネタバレ話すのは浜村はまむらさんですね! 逆にハンス・ラマーの名前をちゃんと覚えている方が不思議ですが」

 そう語る陸の言葉に怒りの色は無い。もともと彼は他人からネタバレされる事に抵抗がない上に、彼女の話を聞いて脳内にあるアイデアが形を成しつつあったのだ。

「『現代銀行強盗の祖』やろ? 『インサイド・マン』もめっちゃ計画的な銀行強盗やったし、意味がよう分かってな~」

 陸の気持ちには人一倍、敏感な陽女である。ほっと胸を撫で下ろしつつそう言った後は、彼の思考を妨げないように黙る。

「外に逃げたと思わせて、中に残る……ですよね?」

 やがて、中学生男子は眼鏡の後ろの目を理知的に光らせながら聞いた。

「そうやねん! あ、ウチらの計画に使えそう~? 例えば今日、作った地下室に血液パックを隠すとか?」

「いや、そのままでは無理です。バスの礼拝堂までは距離がありますし、時間も無い。映画の中では、銀行に立て籠もるんですか?」

「うん。立て籠もってデンゼルと交渉しながらな~、実は……」

 そこまで言った所で陽女は一度、言葉を止めた。デンゼルの説明に悩んだのではない。両者の間でデンゼルと言えばワシントンに決まっていた。彼女が止まったのは、再びネタバレを口にしそうだったからだ。

「じゃあ僕の部屋でそれ観ましょう! その方が何かと話も早いし。先輩、二度目になりますけど良いですか?」

「ええよ~! ほなコンビニ寄ってお菓子買ってかへん~?」

 どの道、陸の部屋に入ったら陽女が観たいのは映画ではなく彼のプライベートエリアである。むしろ既に知っている映画の方が都合が良かった。

「良いですね。近くにありますし」

 一方、陸の方も自分の提案が受け入れられて安心していた。二人は軽い足取りでまずコンビニへ向かった……。


 同時刻。レンレンも軽い足取りで沖田の尾行を続けていた。そうなるには理由がある。一つには思う存分、穴掘りができたからだ。穴掘りと聞くと犬のイメージが強いが、猫にだってその欲求があるのだ。

 もう一つ、体調が良いからという理由がある。これまた猫の習性として自分の体調不良を隠してきたが実はここ数年ずっと気分が悪かった。しかし吸血猫へ転化することで全盛期の姿を取り戻し、しかもあの夜に陸から血を吸わせて貰っていた。

「強盗団加入のお祝い」

という形で、だ。もちろん陽女には秘密であるが。

 ともかくそれらの理由でレンレンは絶好調であった。

「むっ!? 何や今の音!?」

 だが絶好調ゆえ落とし穴があった。茂みの中で陸の血の味を思い出して顔を洗った際に、爪が木の枝に引っかかって音を立ててしまったのだ!

「そこに誰かおるんか?」

 沖田はそう言いながら周囲をキョロキョロと見渡す。因みに今は校内清掃の作業中で、麦わら帽子にサングラスに首タオル、オーバーオールに手袋長靴という完全防備である。明らかに怪しい姿ではあるが、真夏に作業をしている用務員としてはむしろ普通の装備であった。

 強いて言えばファンで風を送る空調服をつけていないのが意外な点である。だがそれも暖かい血が身体を流れていない吸血鬼としては当然の事であった。

「(しまった! やはり剣士は耳が良いのだわサ!)」

 レンレンは舌打ちしながら必死に考えを巡らせる。空調服さえ着てくれていれば、こんな物音も聞こえなかっただろうに。もっとも猫的には、あの騒音は好ましいものではないが。

 そうだ、猫!

「にゃん、にゃおーん!」

 ハチワレ猫は転化し(吸血猫化)て以来、久しぶりに猫らしい声で鳴いた。なんだ、猫か……と納得して立ち去ってくれるのを期待したのだ。

「なに、ニャンちゃん!? どこや!? 出ておいで~!」

 しかしその期待は粉々に砕かれた。沖田はむしろ血相を変えて、周辺を探し始めた。サングラス越しに目が赤く光っているのさえ見える。

「(いちかばちかなのだわサ!)にゃーん?」

 吸血鬼の超感覚まで惜しげもなく使っている新撰組一番隊組長から逃げる事は難しいだろう。レンレンは思い切って自ら茂みの外、しかし日は当たらない場所へ出た。

「やーん! きゃわゆい~!」

 それを観た沖田は気持ちの悪い声を出しながら身悶えする。やがて

「にゃんにゃん、逃げないでね~」

と言いながらにじり寄り、その魔の手をハチワレ猫の方へ伸ばしていった……。

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