第23話「終了すべきな事がもう一つあるのサ!」
「終了すべきな事がもう一つあるのサ!」
悔しがる陽女と呆れる陸に、レンレンが諭すように語り出した。
「何かあったっけ~?」
「この部室……もっと言えば、校内での作戦会議サ!」
ハチワレ猫がそう告げると、陸はなるほどと膝を打った。
「そうか! ファンティーニ先生と用務員の武田さんこと沖田総司、この二人が校内にいると分かった以上、学校の中で迂闊な言動はできないよね」
「そう! それにワタシも死んだって事になっているからますます学校の中にはいられないのサ」
「え? レンレン、死んだ事にしたん? 誰かに言うた~?」
その情報は陽女にとっては初耳だった。彼女の顔が険しくなり、陸は慌てて口を挟む。
「ええ、僕の発案で。とりあえず今日くる時に守衛さんへ告げたのが最初で……」
事後報告という形になるが彼は先日レンレンと相談して決めた内容、つまりハチワレ猫はもう死んでしまってこの学院にはおらず、文化祭の日に四十九日の法要を行うつもりである、という設定とその意図を話した。
「む~。確かにそれはええアイデアやけど、お姉ちゃんにも相談して欲しかったな~」
「まあまあ。あの日、坊やの部屋で話し合って決めて今日だし、お嬢に話すタイミングがなかったのサ」
レンレンは宥めるつもりでそう話したが、聞いた陽女は落ち着くどころかますます不満気になった。
「りっくんの部屋で……決めた~!?」
「あ、いや、その、レンレンそこは……」
「ずるい! ウチかってまだ、連れ込まれたこと無いのに~!」
黙っておくべきだった、と陸が助言する隙も無く。抜け駆けを知った陽女は悔しそうに叫んだ。
「先輩、連れ込むとかそういう言い方もどうかと……」
「りっくん、目を見て! りっくんはお姉ちゃんも部屋へお持ち帰りしたくな~る。したくな~る……したくなりなさい!」
「それはもはや催眠術じゃなくて圧迫なのだわサ!」
陸の両肩を掴み顔を近づける陽女へ、レンレンが呆れた口調でそう言う。更に付け加えれば、吸血鬼女子高生に催眠術の能力が無い事は既に実証済みであった。
「分かりました! じゃあ今後は僕の部屋で作戦会議をする事にしましょう!」
陽女の手をそっと外し、陸が言った。
「ええっ!? やった! ……ってりっくん、ほんまにええの?」
「お嬢が言い出した事なのだわサ」
「うん、それはそうやけど……」
喜びから一転、表情を曇らせた陽女にレンレンが当然の指摘を行う。だがハチワレ猫が知らない事情を、女子高生は理解していた。陸にとって家は心休まる場ではないという事情を。
「良いですよ。ただ道具を保管するまでのスペースは無いんですよね。運ぶのもリスクがあるし、そういうのは近くに置かないと」
しかし陸は別の問題を提起する事で彼女たちの懸念や憶測の矛先を変えた。因みに道具にはスプレーや覆面、養生テープや陽女が作成したジオラマなども含む。更に今後、人質として置く血液パックを廃棄する装置なども増える予定である。
「校内でそこそこ広くて、先生も用務員さんも他の子も寄りつかへんところやんな~?」
「しかも屋内なのサ?」
案の定、吸血鬼と吸血猫は共に腕組みをして悩み出した。実際、そういうスペースは必要なので陸も一緒に考える。やがて……
「あ! あそこなら人も滅多にこうへんし、レンレンもそこに隠れていられるかも!」
と陽女が何かを思いついた。
「おお! そんな場所があるんですか?」
「お嬢、さっそく連れて行くのだわサ!」
「うん! ほな荷物まとめて行こう!」
そうなると話は早い。二人と一匹、或いは二匹の吸血種と一人の人間はさっそく荷物を集め、陽女の先導である場所へ向かった……。
「ここって人間的に畏れ多い『礼拝堂』ってヤツじゃないのだわサ?」
「しかも日本ではかなり古い方ですよね?」
陽女に案内された場所、校内にある教会の内部に入ったレンレンと陸は、そっと陽女に訊ねた。
「せやで~。なんと写真集も出てる~」
女子高生はそう言いながら、入口すぐ脇の棚からサンプルとかかれた本を手に取り見せる。
礼拝堂の内部は『荘厳な』という形容詞が相応しい風景で、他には誰もおらず静かな空気が流れていた。中央に十字架の祭壇をバックにして説教台。その前に通路を挟んで参拝用のベンチが並び、ステンドグラスからの日光に照らされている。いま陽女が取り出した写真集と棚以外は俗なものがいっさい目に入らない空間だ。
「ここに……ですか?」
こんな場所を使って良いものか? と渋る陸に笑顔で頷くと、陽女は写真集を戻してつかつかと歩き出した。
「礼拝堂については勝手知ったるボランティア部やで~」
そう言いながら日差しを避けて向かうのは、祭壇右奥の暗闇だ。そちらの重そうなカーテンを通り抜けると、地下へ続く階段があった。
「ほう。ひんやりしてて落ち着きそうな所なのだわサ」
陽女に続いて階段を降りながらレンレンが呟く。それは猫としてか吸血猫としてか? と考えながら降りる陸の前に、小さな電球に照らされた部屋が現れた。
「じゃーん! 教会の備品室やで~」
「ここですか? でもドアもないし誰でも簡単に入ってこれるような……」
「もちろん、このまま使う訳やなくて~」
吸血鬼女子高生はそう言うと積まれた椅子や折り畳み式の長机を持ち前の怪力でささっ、と横に避けだした。
「なるほど、荷物の背後に……えっ!?」
然るのち、陽女は爪を伸ばして備品が消えて姿を現した床を削り出す!
「わお! 楽しそうなのだわサ!」
それを見たレンレンが嬉しそうに叫び、掘削作業に加わった。吸血鬼と吸血猫の爪の威力は凄まじい。呆気にとられた陸が見つめる前で、ものの10分ほどで地下室の斜め下にもう一間の地下室が出来上がる。
「これで十分やろ~?」
「良いアイデアなのだわサ!」
「そやろ? ある映画でもこんな場所を作っててん~」
陽女とレンレンはそう言い合って互いの仕事を褒め合う。それを見た陸は、強盗計画が終わったら会社の資材を盗んで必ずこの穴を埋めようと誓うのであった……。




