第21話「何か思いついたら連絡します」
「何か思いついたら連絡します」
「ワタシも偵察は続けるのだわサ」
カラオケ店を出て、陸とレンレンはそれぞれ言った。
「ウチも……たくさん映画、観てみる~!」
陽女も役に立てそうな事をなんとか絞り出してそう言い、三者は別る事となる。
献血バス強奪計画は根本的な見直しが必要であった。自分たち以外にも同じ獲物を狙う存在がおり、それは荒事のプロで内通者も抱えている。更にその内通者は多数の女生徒の心を操り、ずっと校内にいる。
この仕事の難易度は一気に上がった。
「……ただいま」
何も思いつかないまま30分近く歩き、陸は実家の裏口についた。彼の住居は奥川組が所有する鉄筋コンクリート5階立ての社屋兼住居だ。
「ボン、お帰りやす」
「うん」
挨拶する組員に生返事をして上の階へ向かう。1Fは倉庫兼事務所であり、建築業としての社員や極道としての組員が常駐している。彼はそこを足早に通り過ぎて自分の部屋がある4Fまで上がった。
「……どうしよう」
部屋に入り、ボソっと呟く。中はベッド、勉強机、本棚が並んだごく普通の子供部屋だ。その中で机上のノートパソコンがやや高価なこと、本棚の一部に映画のDVDやブルーレイが溢れていることだけが特徴であった。
陸は机に座りPCを立ち上げながら今日という一日を振り返る。献血バス強奪作戦は体育館を借りてのリハーサルまで進みながら、振り出しへ戻った。しかもレンレンが死にかけていたという事実を知らされ吸血鬼として蘇ったと聞かされ、その上……
「(坊や! ちょっと窓を開けて欲しいのだわサ!)」
と、窓の方から声が聞こえて彼はさっとそちらを見た。
「レンレン! どうやって!?」
驚きつつも少年は窓を開け、猫を中へ招き入れる。ビルの4Fはそこそこの高さだ。普通の猫ではとても外壁を登ってなどこれないだろう。
「尾行の練習でね! 壁は……軽く爪をひっかけながらなのだわサ!」
……普通の猫ならば、だ。陸は吸血鬼になった陽女の爪や身体能力を思い出した。ただの女子高生であれなら、吸血猫の強化されっぷりは相当なものだろう。
「危なくなかった?」
「全然! しかし坊やのお家って想像とずいぶん違ったのサ」
レンレンはそう言いながらベッドの上に座り、自分の足を舐める。
「どういうのを想像してた?」
「やっぱり日本庭園があって池に鯉がいるとか……」
「鯉がいたら捕らせてあげたのにね! まあ、そういう組もまだあるけど、ウチは建築業としての色が強いから」
陸はそう言いながらレンレンを優しく撫でて部屋を出て行く。程なくして、冷えた牛乳で満たされた小皿を持って戻ってきた。
「どうぞ」
「頂くのだわサ」
少年が運んできた牛乳を猫は遠慮なく飲み込んでいく。少し時間を持て余した陸は一方的に先ほどの続きを話す。
「日本家屋は見栄えが良いけど防衛には向かないから、最近はシェルターみたいな事務所も多いんだ」
「ピチャピチャ……」
「それで、て訳でもないけど本物の核シェルターも取り扱うようになっているんだよ。そうそう、それ系だと一件おもしろい場所にも作っているんだよ。どこだと思う?」
「?」
「なんとお寺! 凄いよね。お坊さんなのに、生に執着があるなんて……」
そこまで言って、陸は自らの言葉に気まずさを覚えて口を閉じた。入れ替わる様に、牛乳を飲み終えたレンレンが口を開く。
「ワタシが坊やを追ってきたのはそれだわサ。今回の事に納得していないみたいなのだわサ」
「それは! その……」
カラオケボックスでの話し合いで、レンレンは自分の身に起きた事を説明すると同時にこの強盗団への加入を認めさせた。その手腕はかなり強引だったと言えるだろう。
「レンレンが生き続けてくれること、こうして会話まで出来ることは嬉しいよ! でも吸血鬼になった理由の一端が僕だとしたら申し訳ないし、強奪計画みたいな危険な行為に加えるのも嫌なんだ……」
陸は意外にもスラスラとそう言い放った。どうやら学校から家までの道中で考えていたのは強奪計画の建て直しだけではないようだ。
「まあまあ。坊やたちを手伝う為に蘇った、てのは言葉の綾だわサ。あの瞬間はワタシもお嬢も平静ではなかったし」
レンレンはあっさりと認めて言った。あの瞬間と言うのは彼女が何度目かの痙攣を起こし、死に瀕していた時の事である。
「どちらかと言うと、せっかく貰った仮初めの命を有効に使うなら? って考えた時に一番楽しそうな事を選んだのだわサ」
楽しそう、という表現に陸はクスリと笑った。それを見てレンレンは密かに安心する。実のところ、彼に笑っていて欲しいというのが彼女の一番の願いなのだ。
……自分の死に嘆くのではなく。
「楽しいとは言ってられないと思うよ? レンレンのくれた情報で、強奪計画は思ったよりも困難なものだと分かったし。あと危険もある」
「ワタシは猫な上に吸血鬼、そう簡単に死にはしないのサ! それに作戦は『猫の手も借りたい』くらいだわサ?」
「確かにそうだけど……」
レンレンの言葉に陸は考え込む。彼女の言う通り、何か危機があっても一番いき残る可能性が高いのは吸血猫だろう。それに陽女の動物変化能力実験時にも検証した通り、小動物を使い魔に出来ることの恩恵は非常に大きい。
「それにもう一つ……。坊やが気づいていない危険があるのだわサ」
ここは押し時だ、と老練な猫は言葉を畳みかけた。
「え? まだ何かあった?」
「お嬢よ。もしワタシ抜きで二人で計画を進めれば、いずれあの子は理性を失って坊やを襲うのサ!」
「ようこそ強盗団へ! レンレン、宜しくね!」
陸はそう言って猫の右手を握った。




