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第19話「……という訳なのだわサ!」

「……という訳なのだわサ!」

 猫のレンレンは得意げに、先日みた光景を語った。

「つまりファンティーニ先生は催眠能力のある吸血鬼で、用務員の武田たけださんも別勢力の吸血鬼で別で献血バスを狙っていて、しかも幕末に活躍した剣豪ってことなん~?」

「そうなのだわサ! 坊や、沖田おきたの年齢計算できる?」

「えっと、180歳くらいかと……いやちょっと待って!?」

 高齢の猫に聞かれたりくは言われるまま暗算を行い、答えた直後に今度は自分が問う。

「なんでレンレンが人間の言葉を喋っているんですか? 何時の間にここに!?」

「最初から体育館に入っていたのだわサ。坊や達が気づいてなかっただけで。喋れる様になったのはあの痙攣の後、お嬢に噛んで貰って……」

「痙攣? 噛む? ええっ!?」

 ハチワレ猫の返答を聞いた陸は目を白黒させて陽女ひめの方を見る。先ほどから妙に静かだった吸血鬼は両手をほっぺに当ててハートマークを作っていた。

 つまり可愛さで誤魔化そうとしているのである。

「やれやれ。そこから説明しないといけないみたいなのだわサ。ちょっと河岸を変えた方が良いのだわサ!」


 体育館の使用時間には限度があり、ペット同伴可能な飲食店も近くにはない。慌ただしく後片づけをした陸と陽女は、レンレンを鞄に隠して近所のカラオケボックスへ入店した。

「ワタシの命の灯はもう消えかけていたのだわサ。尿毒症の痙攣も頻繁だったし」

 室内に防犯カメラが無い事を確認して鞄から出てきたレンレンは、更に廊下からも見え難い椅子へ移動して語った。

「痙攣!? 僕は知らなかった……」

「ごめん、りっくん。隠しててん」

「お嬢を責めるんじゃないわサ。見てて楽しい光景じゃないし、坊やもショックを受けると思っての事だわサ」

 落ち込む陸と陽女に、猫は優しい声をかける。

「ただあの日、坊やと会った後の痙攣はキツかったのサ。それでワタシはお嬢に訴えたのサ。『ワタシを楽にしてくれ』って」

「言葉は分からないけど、その気持ちは伝わってん~。でもウチにはどうしてもそれが出来なくて、仕方なく……」

 それ、とはつまり安楽死の類の事だろう。だが陽女にそんな事が出来る筈もない。そこでレンレンの血を吸い眷属(仲間)としたのだ。それについて彼女を責める気は、陸には無かった。

「彼女を吸血鬼、いや吸血猫にしたんですね? でも血を吸うだけでは転化しませんよね? そう言えばどうしたら成るんです?」

 しかし、吸血猫にする方法については興味があった。

「それがな~」

「ルールその1。ヴァンプ・クラブについては語ってはならない。ルールその2……」

「ヴァンプ・クラブについては語ってはならない、ですね。はい、分かりました」

 いつぞや先輩から聞いた事と同じ台詞を猫から聞いて、中学生は後を引き継いだ。

「でもレンレンはその、吸血猫になって良かったの? 血を吸わないと生きていけないし、もう日向ぼっことかできないんだよ?」

「そうサね……。お日様を浴びながら坊やの膝の上で昼寝をする時間は、何物にも代え難い幸せだったサ……。ワタシの名前を呼びながら撫でてくれた時の指の感触と優しい声は絶対に忘れないのサ」

「……」

 レンレンにそう言われて、陸は胸が一杯になり壁の方を向いて涙を隠すしかなかった。これには陽女も貰い泣きし、部屋の中には隣の部屋のカラオケの歌声だけが響く様になる。

「でもあのまま死んだら、坊やの声は二度と聞けなくなったのサ! ワタシだけじゃなくてお嬢も!」

 そんな空気をかき消すように、レンレンはピョンと椅子からテーブルへ飛び移り、メニュー表をシャッシャと引っ掻いた。

「せや! 『計画の抜本的な見直しが必要』って言うてたやんな~?」

「そうなのサ! あの二人もバスを狙っているのだわサ!」

 吸血コンビにそう言われ、陸はさっと眼鏡の位置を直すフリをして涙を拭い訊ねる。

「用務員の武田さんて本当にあの沖田総司おきたそうじなの? 新撰組の?」

「ファンティーニの話だけじゃなくて、後をつけて確認したのだわサ。あの殺気は本物だわサ」

「レンレン、尾行したん!? 大丈夫やった~?」

「沖田のアレは黒猫よ。ワタシはハチワレだから大丈夫だったサ」

 心配する陽女の手を舐め安心させるようにレンレンは言う。彼女たちが語っているのは沖田総司と黒猫のエピソードである。病が進行し某所で療養していた沖田の元へ、黒猫が頻繁に訪れたという話があるのだ。

 ただしここからは諸説がある。一説によればそれを死の陰と恐れて怯えていた伝えられ、別の説では今現在の己の腕を試そうとして斬ろうとして斬れなかったと言われている。

 いずれにせよ、猫としては近寄りたい相手では無いのだ。

「百歳以上の吸血鬼にして手練れの剣士で、しかもバスの横取りを狙っている……。これは銀のスプレー程度でどうにかなる相手じゃありませんね」

 陸は深刻そうな顔で呟く。当初の計画では御西女学院ごせいじょがくいんを出たバスを偽の道路工事で足止めし、乗り込んで護衛を排除した後で再出発する予定である。しかし沖田総司が割り込んでくるとなると話は簡単ではない。彼の計画も阻止しないといけないし、対面した際にスプレーを向けても発射する前に腕を切り落とされかねない。

「それに加えて、ファンティーニの存在も問題なのサ」

 悩む陸に、レンレンは追撃するかのように語り出した。

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