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第14話「え? これを先輩が作ったんですか?」

「え? これを先輩が作ったんですか?」

 二日後の放課後。部室に入ったりくは、大きなテーブルに広げられた段ボール製の工作物を見て言った。

「うん。強盗団って作戦実行前にこういうの作るもんやろ~」

 陽女ひめはそう言ってこういうの、机の上に広がる御西女学院ごせいじょがくいんやバスのジオラマとミニチュアを指さす。

「ええ。ハーマン・ラムのテクニックの一つです」

「ハマムラさんのテクニック?」

「ハーマン・ラムです! 確かに『ハマムラ』の文字はぜんぶ揃ってますけど! 不穏な名前を言わないで下さい」

「確かに映画好きには怖い人の名字やったね~」

 陽女は舌を出して自分の頭をコツンと叩いた。ハマムラと言うのは関西で長年活躍している司会者(浜村淳)の名前だが、彼は番組などで映画を紹介する時にあらすじを全て語り、ネタバレしてしまう事で有名なのだ。

「で、そのひと誰なん~? 最後まで見通すテクニックとか持ってはるん~?」

「いえ。ハーマン・ラムは近代銀行強盗の祖みたいな人です」

「吸血鬼業界にとってのドラキュラ的な?」

「どんな業界ですか!? ってまあそうか。ともかく、彼は元軍人で、即興で衝動的に行われてきた銀行強盗に『計画』という概念を持ち込んだんです。現地の下見、時間の管理、複数の逃走ルートの選定、それと……」 

 陸はそう言いながらミニチュアのバスを掴んだ。

「模型や現場を再現したスタジオによる模擬練習、シミュレーションなどを、です。彼のテクニックは実際の銀行強盗、ジョン・デリンジャー等に引き継がれていますが、映画に与えた影響も大きいんですよ」

「確かに、いま聞いたやつそういう映画の中でよく観る気がするわ~」

「なんかわくわくしますもんね」

「あとジョン・デリンジャーの映画もあったよね~」

「有名なのだと『パブリック・エネミー』ですね」

 陸がそう言うと陽女はそうそう、と手を叩いて頷いた。この手の映画の話なら何時間でも語り合ってしまいそうなので、陸は鋼の自制心を発揮して話を戻す。

「茶室に校舎に……学校部分も良くできていますね。これで当日の動線確認も出来そうですよ! でも学園祭の時の配置なんでどうやって調べたんですか?」

 陸が質問した通り、御西女学院の中の様子は特に細かに作られていた。しかもアーチや屋台といった学園祭期間中にしか無いものまで設置されている。ネットで上空からの写真を見ただけではそこまで作ることはできない筈だ。

「創立50周年の時の航空写真やねん~。まあ年によって出店の申請は違うやろうけど、大まかな場所は一緒の筈やで~」

 陽女は部室にあったパンフレットを見せつつ言った。陸に褒められて鼻高々といった様子だ。

「なるほど、そんな手が!」

 一方の陸は感心しつつ写真とジオラマを交互に見る。バスの強奪そのものが学校を出た後で行う予定なので、校内の配置は暫定のものでも問題ない筈だ。ただそこでまた別の疑問に当たる。

「かなりよく出来ているんですけど、どうやって作ったんですか? 先輩、それほど器用な方じゃ……」

 今までのボランティア部活動を思い出しながら彼は訊ねた。陽女は明るく朗らかで、対人交渉は得意だ。しかし飾り付けや玩具の製作といった手先を使う作業は不得手な方だった。

「アン王女は笑って人を集めてくるか子供と遊んでるかでええから!」

と他の部員に言われるタイプである。

「ふっふ~ん、それがな! これって切れ味ええから、めっちゃ切り易いねん!」

 陽女はそう言いながら両手を恐竜の様にもたげ、爪を伸ばした。

「ハサミやカッターナイフじゃなくて、それで切ったんですか?」

「うん、そやで~。たぶん今までウチがこういうの上手く作れへんかったん、道具が悪かったからやと思うわ~」

「そういう問題ですか!?」

 陸は半信半疑で言った。確かに陽女の爪や牙は鉄くらいまで軽く引き裂くという。部室にあるような段ボールなど紙を裂くように、というか紙を裂く以上簡単にカットできるだろう。

 だが恐らくはそれだけが理由ではない。吸血鬼としての怪力や超感覚が、3Dプリンター並みの正確な手元を与えている可能性があった。

「でな! 勤勉な陽女先輩は、もう一つの準備も進めてんねん!」

「え? まだあるんですか?」

「うん! ちょうどこれに関係あるんやけど……。りっくん、ちょっと外に出ててくれるかな?」

 陽女は鉤爪の形にした自分の手をちらっと見ながら言った。

「はあ。良いですけど」

「決して覗いてはなりませぬ……」

「了解です」

 その言葉に不穏なものを感じたものの、このミニチュアとジオラマを作成した陽女の努力に免じて陸は快諾し廊下へ向かう。 

「ほな、ちょっと待っててな!」

 そんな声と共に、閉まるドアの向こうで部室の電気が消えた。


「こんにちは。ボランティア部の交流会でお邪魔しております」

 廊下の向こうから小柄な女生徒二人が歩いて来たのを見て、陸は制服の胸ポケットに刺していた入校許可証を引っ張りだした。

「知っとるで。アン王女の騎士ナイトくんやんな?」

「近くで見ると可愛い~」

 彼女らの声に陸は耳まで赤くなる。女生徒たちは御西女学院の子にしては派手でいわゆるギャルっぽい見た目であった。特に肌のより黒い方の女子が興味津々といった感じで彼に近づく。

「ちょっと久子ひさこ! じぶん彼氏おるやろ?」

「うっさいねんひびき! 今ここにはおらんのやで?」

 もう一人の声に、陸ははっとして近くの久子と呼ばれた女生徒の顔を見下ろす。パーマがかかった髪の隙間から見える彼女の耳にはピアスの穴があった。

 背が低いので1年生かと思っていたがひょっとしたら2年生、陽女のクラスメイトの『久ちゃん』かもしれない。

「ん? どうしたん、騎士くん? もしかしてこれに興味あるん?」

 しかし久子はその視線を誤解し、既に大きく空いていた胸元のボタンをさらに一つ外し陸に谷間を見せつけた。

「おいおい久子! 王女と彼氏に言いつけるでー」

「そうですよ! 彼氏さんの事を大事にして下さい!」

 陸はそう言って目を逸らし壁に背を付ける。あの三つのシルバーアクセサリーでは久子の貰ったピアスだけが本物であった。その部分だけで言えば、彼が最も真摯な想いを持っているかもしれないのだ。

「え? お、おう……」

「りっくん、ええでー!」

 陸の反応に久子が戸惑っていると、部室の中から陽女の声が聞こえた。

「ほら、王女が呼んどる! 騎士くん行かな! 久子もー」

 響と呼ばれた女生徒が絶好の助け船を出す。陸は彼女たちに頭を下げると急いで部屋の中へ入った。

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