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第13話「銀は吸血鬼に効く、って事なんやね~」

「銀は吸血鬼に効く、って事なんやね~」

 言いながら陽女ひめりくの指に絆創膏を巻いた。彼女が常に持ち歩いていたハチワレ猫の柄の可愛いやつだ。もちろん、御西女学院ごせいじょがくいんの茶室に住み着いている猫、レンレンに似ているから選んだのである。

「ありがとうございます。逆に、銀には何か影響があったりはしなさそうですね。見た感じですが」

 陽女に礼を言った後、ハンカチで自分の血と灰のようなものをピアスから拭い取って陸は応えた。銀が、吸血鬼にダメージを与える代償に腐食してしまうといった可能性もあったのだ。もしそうなったらこの高価そうなをどう賠償すれば良かったのだろう? 

 彼は今更ながら自分の浅慮を悔いた。

「あと最後の一個が残ってるけど~?」

「もう実験の必要性はありませんよね?」

 ピアスを念入りに磨いて片づけるの彼に陽女が問い、陸は応えた。既に銀の有効性(攻撃力)は確かめられている。それにもし三つ目のシルバーアクセサリーが偽物ならただの時間の無駄だし、本物ならまた彼女が痛い目に遭うのだ。

「でも気になるんよ~。だってのりちゃんの彼氏、教師らしいし」

「えっ!? 先生!?」

 それには陸も驚きの声を漏らす。自由や多様性の世の中とは言え、教師と未成年の生徒との恋いとなれば話は別だ。

「なんや、りっくんも興味あるんや~」

「興味あるというか驚きの方が大きいです。塾とかじゃなくて、御西女学院の先生なんですか?」

「せやで~。一応、高校卒業までは清い交際を誓ったらしいけど~」

「そこはまあ当然でしょうけど……」

 清い交際であれば禁断度は一つマイナスだが、学校内の教え子となると一つプラス。陸の基準では差し引きゼロである。

「うーん、やっぱり好奇心が抑えられへん~! エントリーナンバー3番! 宣ちゃんの尊敬する先生でもある彼氏がくれた、銀のチャーム~!」

 陽女は言い訳しながら三つ目の袋から新たなアクセサリーを取り出し机に置いた。そして陸が止める間もなく左手の小指でそれにさっと触れる。

「先輩!? ……大丈夫ですか?」

「うん~。これも偽物やったみたいやね」

 彼女の言う通り指にも鎖を編んだブレスレットにも変化は見られなかった。使う指を人差し指から小指に変更した辺り、陽女にも多少の警戒心があったがそれも杞憂に終わった様だ。

「それで良かったですよ! あまり無茶はしないで下さい」

 陸のその言葉には安堵と心配と、そして少しの失望が含まれていた。前の二つは陽女に対してだが、最後の一つは宣ちゃんとやらの彼氏に対してである。

 御西女学院の教師ともなればそれなりにしっかりした社会人だ。しかも彼女が卒業するまでは清い仲らしい。ならば恋人へ贈るプレゼントも本物であるべきではないだろうか?

「なんか意外やね~」

 その気持ちは一部、陽女も同様であった。それどころかまだ信じられないらしく、大胆さを増して手のひら全体で触ってみたりもする。

「あ! 本物の上に何かを塗装している可能性はありませんか? 銀って柔らかいんですよね?」

「うん~、一般的に言えばそれはあるで。ロジウムでコーティングしたりするし。でもこれはちゃうやろな~。剥げてる所もあるし」

 陽女はそう言ってチャームを持ち上げて見せた。彼女の言う通り鎖の触れ合う所はすり減って変色しており、そこに触れても指が焼けたりはしていない。

「確かにそうですね……」

 陸は少し落ち込んで呟く。目の前のアクセサリーには前の二つに比べてかなりの使用感があり、それだけに着用者の愛着や彼氏さんへ向けての愛情を感じた。翻って彼氏さんからの愛情は、シルバーの真贋だけで計れるものではないがあまり感じられない。

 他人事ながら彼は宣ちゃんと先生の関係にあまり楽しくない事を想像してしまっていた。

「でもまあ、銀が使える事が分かりました。これで護衛や追跡者に吸血鬼がいても何とかなりそうです。次は武器になりそうな物を持ってきますね」

 語る内容とは裏腹に陸の口調は相変わらず沈んでいた。そんな彼の様子も気になったが、陽女は別の件を聞く。

「武器!? わ、楽しみ~。なあ、どんなんなん? 銀の銃弾? それとも銀を刃にコーティングした刀とか~?」

 彼女は浮かれた口調でそう言いながら、銃を撃ったり刀で切りつけたりする動きを見せる。

「そんな派手な物じゃないです。じゃあ、明後日に」

「え? りっくん、明日じゃなくて……?」

 しかし陸はそう言うと自分の鞄を掴み、陽女の問いに応えること無く部室を出て行く。

「まいにち会うんやなかったんや……」

 陸が出て行ってから、陽女は寂しそうに呟いた。彼のテンションが感染したかのように暗い口調で、だ。

「しまった! ウチまで暗い気分になったらアカン!」

 しかし数秒後、気を取り直し自分の両頬を叩いて陽女は言う。

「りっくんとバイバイする時は笑顔やで~、陽女!」

 彼女はそう自分を戒めながら窓に近づき、茶室の方へ向かう陸の真面目な背中を目で追う。彼が御西女学院を後にして帰るのは、心休まらない自宅だ。  

 陸の実家の家業が所謂ヤクザであること、彼が前妻の子であり後妻と上手くいってないことを陽女は聞いていた。そんな家庭環境ゆえに家にいても落ち着かず、学校でも孤立しがちだということも知っている。

 だからこそ、自分や茶室の猫と一緒にいる時は最初から最後まで楽しい気持ちでいて欲しい。陽女は常にそう願っていた。

「あした会えへんのは残念やけど、時間があるってことやんな!」

 陸の背中と寂しい想像から無理矢理きもちを振り払い、陽女は明るく言った。そしてボランティア部の一角を見つめながら、その手の爪をシャキーン! と伸ばした。

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