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異世界SS

最後の間にたどり着いた勇者は魔王と対峙するようです

作者: nakaken0629

 勇者はとうとう、魔王城の最深部にある、魔王の間の扉の前に立っていた。

 この場に立っていたのは、勇者一人。

 到底一人では叶う相手ではないと、わかっている。

 しかし、これは誰かが担わなければならない役目。

 たとえ相打ちになろうとも。

 扉には、魔法使いではない勇者にも、明らかにそれとわかる強い魔法がかかっているのが分かる。

 しかしその魔法がなんなのかまでは、わからない。


(神よ、我に祝福を!)


 勇者は扉に手をかけると、勢いよく開けた。

 目の前が白い光に包まれる。

 走馬灯のように、これまでの冒険の記憶が光の中に流れていく。


 鄙びた村で病弱な妹と暮らしていたこと。

 妹を治せる治癒薬を、魔王が持っていること。

 勇者になるために街に出て、死ぬような思いでレベルを上げたこと。

 とあるパーティーに所属して、そして裏切られたこと。

 別のパーティーに入り、裏切ったパーティーメンバーに復讐を遂げたこと。

 しかし、新しいパーティーメンバーを危険に晒すわけには行かないと、仲違いをしたふりをして別れたこと。


(すまない。ただ俺は、この世ではなく、妹を救いたいんだ。分かってくれ……)


 勇者の視界は、さらに明るさを増した光に包まれて、もはや見えなくなっていた……


 ◇◇◇◇


「いかがでしたか、魔王様」

「うむ、義に生きる勇者か。悪くないが、前にも見たような気がする」

「はい、先月にも、似たような過去をもった女魔法使いが参りました」


 魔王の側近が、魔王に伝える。さらに扉の前で光に包まれて静止している勇者を見ながら、つぶやく。


「それにしても、相変わらずの効果ですな。『再生(リプレイ)』の効果を付与した扉は」


 魔王の間の扉に付与されていた『再生(リプレイ)』は、扉を開けた者たちの動きを止め、その頭上に彼らの今までの記憶を映し出す効果がある。

 部下たちは、人間界で死人が出ない程度に暴れては、魔王退治に立ち上がる冒険者を量産していたのだ。

 冒険者たちの冒険の記憶は、娯楽に飢えた魔王の格好の楽しみとなっていたのだ。


「最近は、追放モノや裏切モノなどが多くて、食傷気味だったが、今回はなかなか良かった」

「ありがとうございます」


 魔王に褒められた側近が、頭を下げる。


「して、この気を失っている勇者は、いかがいたしましょうか?」

「エリクサーを持たせた上で、近くの森まで運んでおいてくれ。エリクサーは、楽しませてくれた礼だ」

「承知いたしました」


 部下たちの継続的な仕込みによって、大体一週間ごとに新しい冒険者たちが、あの扉を開ける。

 次の冒険者が待ち遠しい魔王であった。

感想などいただければ幸いです。

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