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「マートルさま、じゃ出発しよう。」
「こ、こちらのお方も一緒に行くんですか?」
マートルが目を疑った。
行く気満々の老女を見て、深淵の森と冠するところに同行するには足手まといではないだろうかと思いネリネを見る。
その流れを側で見ていたフリージアはこれはチャンスと思った。
「やだ、待って。荷物持って来るから。」
今度こそ置いて行かれたくない。
こうして4人でアイスリンを追いかける旅に出た。
森の中は至る所に膝丈ほどの草が生えている。
森の中盤ぐらいまでは、魔物の討伐の為に森の奥に行く討伐者達が歩きやすいように舗装されているところもある。
木々が日の光を遮るので少し肌寒い。
途中、何箇所か小屋などもあって魔物討伐者達が利用できるようになっている。
「まず、私の名前はフリージア・ラプシアよ。ジアって呼んでいいわよ。」
「で、こっちがニーレン。」
「ジアとニーレンですね。ところで、アイスリンさまはどちらへ?」
とにかく早くアイスリンの情報がほしいというのがひしひしと感じる。
(直ぐ教えたらまた置いていかれるかも)
ネリネが意図的ではないだろうが、話をそらしてくれた。
「ニーレン大丈夫かい?目の前の川を渡らないと行けないよ。」
「以外と流れが急だからね、気を付けて渡るんだよ。」
川幅2m位で深さが5センチ〜10センチほどの深さで石がごろごろしている。
「ネリネさま、おぶって差し上げましょう。」
この程度でも年寄には堪えるだろうとマートルが申し出た。
「マートルさま私は大丈夫。ほらこの通り。」
ネリネは杖を巧みに使って石と杖に体重を上手い事掛けながら危なげなく渡りきる。
「まさか……御見逸れいたしました。」
まさかの老女の脚運びの軽やかさに豪快に笑う。
そして残りの2人に手を差しのべる。
「私もこんな川、どうということはないわ!」
フリージアも足取り軽く対岸に辿り着く。
その横でニーレンが申し訳無さそうにマートルを見上げる。
「マートルさま、すみませんが私はお手を拝借いたしたいのですが。」
「もちろんです。」
マートルが、ニーレンの覚束ない足元を見て横抱きに抱えて川を渡った。
恥ずかしそに俯いているニーレンを満更でもない顔でマートルが見ていた。
それを見ていたフリージアがネリネにこそっと耳打ちする。
「お祖母さま、ニーレンとマートルはなんだか進展しそうだと思わない?」
「ジアじゃあるまいし、そんな単純じゃないだろう。」
ネリネが呆れた顔をしてフリージアを見る。
どうもアイスリンと出会ってから恋に浮かれているようだと思った。
舗装された道路が途切れているが、ここは地面の草が少し短くなっていて舗装が無くても歩きやすい。
先を見ると木々の間から小屋が見える。
「今夜はあそこの小屋を使おう。」
ネリネが先陣切って進んだ。
フリージアも、ネリネの直ぐ後ろを付いていく。
ニーレンはマートルに手を引かれて、慣れない道を頑張って歩いていた。
「足元は平気ですか?」
マートルは、今やニーレンの護衛のように付き添い世話をやいていた。