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一同は、アイスリンの話を聞き終えて、三者三様の意見を持った。


「じゃ、スリンは婚約者の仇討ちの為に、この森に入ってワイバーンを討つということなのね。」

「やだ素敵!絶対一緒に付いて行きたい!」


アイスリンの口元が引きつった。


今の話のどこにそんなにこの娘の興味を引くものがあったか考えてみたが皆目わからない。



「絶対にだめです!」

ニーレンの意見など通った試しはないが反対をする。

やはり、強い興味を持ってしまったか……と危機感を持つ。



「ジアが行くなら私も一緒に行くよ。」

ネリネもこのままフリージアに押し切られて、このアイスリンの仇討ちに付き合うだろうことを予測し、同行を申し出る。



ニーレンは諦めた。



ネリネが覚悟を決めているなら自分も腹を括るしかないし、頼みのネリネがこうなってはもう勝ち目はない。


「ネリネさまが行かれるなら、旅の支度をするから少し待ってください。」



助けてもらったこともあり強くは言いにくいが、このままでは本気で付いてきそうだと思った。



「森の奥深くまで行くんだ、女性の脚では大変だと思うよ。」


お世話になったからこそ危険なところに連れて行くわけには行かない。



「私は、スリンが気に入ったわ。この仇討ちの旅で私はあなたを仕留めて見せるわ!」


フリージアは頑固な性格だった。


「なるほど、アイスリンさまが婚約者の仇を仕留める横でジアはアイスリンさまを仕留めるということかい。」

ネリネが納得した。


アイスリンは、微笑を浮かべた。


「わかった。この後、僕は鍛冶屋で武器を調達して、こちらの魔物討伐組合にも顔を出して挨拶するから、出発は()()にするとしよう、フリージアも準備をしておくといいよ。」


「ありがとう!スリン。」


「こちらこそ、朝食までありがとう。」


アイスリンが席を立ち、ヘッドボードから掛けていたローブを取った。


「それじゃ、明日の朝にまたこちらを尋ねるよ。」

アイスリンはそのまま小屋を出て行った。



アイスリンが鍛冶屋で武器を調達すると聞いてフリージアも何を持っていくか考えた。


「ね、武器は何を持って行こうかな。」


「私は、この杖を持って行くから良いだろう。何が来てもこの杖を振りまわし、ぽくっとしてやるよ。」

「お祖母さま…流石ですけど、本当に一緒に来られるんですか?」


いまさらだが、最近疲れやすくなったという祖母に一応確認をする。


「ジアが行くなら一緒に行くよ。お前は言い出したら聞かない子だからね、全く。」


ニーレンは2人はそっくりだと溜め息をついた。


こっそりフリージアの母のクフェアに事の顛末を手紙で伝えることにした。



次の日、準備万端の3人は待ちぼうけを食らっていた。


「何かあったのかしら…もうお昼だけど。」

フリージアは落ち着かず、小屋の中をうろうろしていた。


「落ち着きなさい。ほら、昼ごはんでも食べて待とうかね。」


「………」

(お祖母さま、呑気な!お昼ごはんなんて作る気分じゃないわ。)


これは、置いていかれたのだろうとニーレンはほくそ笑んだ。



あのアイスリンという男は、常識人だったようだ。



ワイバーンの討伐には、見るからに足手まといな3人を、アイスリンはうまく出し抜いてくれたようでホッとした。



「もしかしたら、また倒れてるのかも!私見てくる。」



「ジアさま、今勝手に出ていって行き違いになったら大変ですよ。」

ニーレンとしては、このまま諦めて欲しかった。


「そうだったわ…」


「じゃあ、お祖母さま、その時はスリンを引き留めておいてね。」


フリージアは椅子に掛けていた上着を掴んだ。



上着はフード付きのフロントジッパーでポケットがたくさん付いているしっかりした生地だ。

丈が膝上までになっている。


「魔物討伐組合に確認してくる!」


「あ!ジアさま。」



フリージアは上着を羽織ると小屋から飛び出していった。




30分ほどしてフリージアが小屋に帰って来た。

テーブルに突っ伏して泣き出した。



「置いていかれたわ、うああああん。」



ニーレンの心が少しだけ痛んだ。



示し合わせたわけではないが、アイスリンの腹の中を知っていて黙っていたので居心地が悪い。



「まあ、それならしょうがないね。お腹も空いてきたことだし…何か食べよう。」


ネリネがフリージアに食事の催促をする。



フリージアが泣き腫らした目で、お昼ご飯の支度をしようとした。


小屋をノックする音がした。


「もしかしたら!」

途中で手を止めて、扉を開けに行く。


ニーレンもネリネもまさかアイスリンが戻って来るとは…と思ったが、フリージアがあんなに喜ぶならと旅に出る覚悟をした。



扉の前にいたのは、熊のような大男だった。


熊のような大男は、森の色をカモフラージュした柄の上着と同柄のパンツに編上げブーツを履いていた。


よく見る魔物討伐者のようなスタイルで腰のベルトに帯剣している。



アイスリンをベッドに寝かせた時はベッドのサイズいっぱいいっぱいだったので、おそらく185センチ前後だと目測したが、それよりもこの目の前の男は20センチは大きそうだ。



「すみません、人を探しております。この弓矢の持ち主を見ませんでしたか?」


ネリネが、奥から出て来て熊のような大男を見て、その男の持っている弓矢を見た。


「家紋が入っているじゃないか?」


「私は見たことないわ。」

フリージアがチラと見るだけで直ぐに答える。


フリージアは家紋やら爵位の称号やらを見るだけで頭が痛くなる。

昔、何度も覚えようとしたが全く頭に入らなかった。



熊のような大男は、平民相手にあまり最初から期待もしていなかったが手掛かりが全く無いので、小さいため息を溢した。



ニーレンは家紋と聞いて、フリージアを押し退けて男の手元の弓矢を覗き込んだ。


弓矢にはノースポールの花の家紋が入っていた。


「何よ〜、痛いわね。」

フリージアが大げさに腕を摩る。


「これ、ノースポール伯爵家の家紋じゃ…」


「よくご存知で……」


ノースポールは王都からは大分離れている北の方に領地を持っている。


王都に近いとはいえ、森のこんな小屋に住む者がこの家紋を知っていることに熊のような男は驚いた。



「アイスリンさまという御方を昨日こちらにお泊めいたしました。」

ニーレンが答えた。


予想が当たっていた…本当に貴族だったなんて、とニーレンは背中に嫌な汗が流れた。



「アイスリンさま?アイスリンさまこそ私の探している人です!……やはりこの森に?」


「しかし、弓矢を森の中には置いていかれるとは…」

熊のような男が不安気な顔をした。



「スリンは今朝、鍛冶屋に行くと言ってここを出たの…私を連れて行ってくれるって約束したのに。」


自分の状況を聞いて欲しくて話した。


フリージアは置いて行かれたのを思い出し、ふくれっ面をした。



「し、失礼ですが……スリンなどと愛称で呼び合う仲なのですか?」



「え?」

フリージアが嬉しそうな顔をする。


(そうよ!私、確かに愛称呼びを許可されたわ!)



もしアイスリンが身分のない者なら、愛称呼びなど気にもしないが、こと貴族となれば話は別だ。


特別な意味を持つだろう。

ますますフリージアは喜ぶ。


ニーレンがフリージアの呑気な後頭部を手で叩いた。


「全くの誤解でございます。このコが失礼ながら何度もノースポール伯爵子息さまのお名前を教えて頂いたにも関わらず、何度も呼び間違えるものですから、聞くに耐えかね愛称呼びをお許しくださったのです。」

「そうでしたか、それでどちらに向かわれたかご存知でしょうか?」


フリージアはまだ諦めていなかった。

「連れて行ってくれるなら教えてあげます!」


「ジアさま、アイスリンさまは()()()()()です。もう諦めてください。」


「いいじゃない、素敵だったんだもん。見るだけなら自由でしょ。」


見るだけなら(・・・・・・)って…思うだけ、とかじゃなくですか?」


ニーレンが、見るだけってそんな奥ゆかしいタイプじゃないでしょう、という目で見る。


「ファンよ、ファン。ファンならいいでしょ?」


「あの、アイスリンさまはどちらに?」


「あなたはスリンの何?」


「護衛のようなものです。」


「そんな魔物討伐者みたいな格好で、貴族の護衛なんて。なんだかイメージが違うわ。」


「アイスリンさまのギルドに所属しておりましたので魔物討伐者で間違いではありません。」


「貴族で魔物討伐者ってありえないでしょう?」

ニーレンが訝しがる。


「それは、ノースポールの領は魔物被害が多く、私兵はもとより魔物討伐組合も持っておりまして、アイスリンさまと私はおなじギルドメンバーなのです。」



ネリネがリュックと杖を持って準備万端にして言った。

「さあ、行くんだろ。そこのお兄さん名前を教えておくれ。」

「私はネリネだ、よろしく。」


「私はマートルと呼んでください。」














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