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3

男は、次の日の朝ようやく目が覚めた。


身体を起こして、周りを見回す。


目につくところには、台所と食事をするダイニングテーブルと椅子がある。


隣の部屋との間には間仕切りがなく、きれいな紫に染めた糸がロープに吊ってあった。


よく見るとその隣に見たことあるローブと服と下着が干してあった。



男は急いで掛け布団をめくった。



大判のタオルが腰辺りに巻きつけてはあるが、寝ている間にずれていた。



この頼りないタオル以外に、何も身に着けていないのを見て一瞬声を上げそうになったが、自分の隣を見てさらに驚いた。


隣のベッドになんと3人寝ていた。


自分のベッドに近い手前側に、夕陽色の綺麗な髪の女、奥側に青い髪の女、ベッドの足元に老女……


ちょうど、寝返りを打ったフリージアの目元に朝日が当たる。

「ううん…もうムリ…重い…」


フリージアの手が寝言を言いながら、何かを抱える動作をした。


自分を持ち上げた夢を見ているだろうことが分かって男が声を殺して笑った。


人の気配を感じて、フリージアの目が完全に覚めた。


寝起きで男と目が合う。


フリージアは起き上がった。

ベッドの端に腰を掛けて、男をまじまじと見た。


昨日楽しみにしていた瞳が見れたことが嬉しい。


「澄んだ水のように美しい水色の瞳だわ!」

興奮して口に出した。


男は躊躇いがちにお礼を言った。

「……助けてもらったようで、ありがとう。」


「声までいいのね、私の名前はフリージア・ラプシアよ。」



「僕は、アイスリン・カヤナイト・ノ……」

コホンコホン


「大丈夫?」

フリージアがベッドから下りて、アイスリンの背中を擦ろうと手をのばす。


アイスリンは裸だったので、若い娘が背中に手をのばしてきたのにぎょっとした。


直ぐに手で制して寄って来ないように言う。


「いや、構わないで。大丈夫。」


フリージアが出した手をバツが悪そうに引っ込めた。



(何よ〜!背中をさすってあげようと思ったのに…この行き場のない手をどうするのよ〜)



フリージアはようやく現状をしっかり認識した。



(そうだったわ…この人裸だった!)



フリージアは今更ながらちょっと照れる。

「大判のタオルを巻いて洗ったから見てないわよ!」


年頃の娘が、良い年の男を裸に剥いて洗った事がバレたら母に怒られるだろうと身震いする。



(大変だわ、お祖母さまに口止めしなくちゃ!)



取り敢えず、急いで隣の部屋に吊ってある乾いたローブやらをアイスリンに手渡す。


アイスリンは、掛け布団の中でコソコソしながら、なるべく早く自分の服を身に着けた。


ローブは、ベッドのヘッドボードに掛けた。


「アイシリンさまは、何故倒れていたんですか?」

「アイスリンだ…、昨日は」

フリージアの隣に寝ていたニーレンが2人の声で起きた。


「ジアさま、こちらの方にお水差し上げましたか?」

男は昨日から水分はもとより、何も口にしてないはずとニーレンは思い聞いた。


「そうね、それでさっき咳き込んだのね。」

「ごめんね、直ぐに用意するわ。」



急いで台所に行ってコップに水を入れる。


「ニーレン、これアイスインさまにお持ちして。」

お盆に水を入れたコップを乗せて渡す。


フリージアが、そのまま台所で朝食の支度を始める。

「アイスインさま、胃はどう?普通の食事は出来そう?」


フリージアがフライパンに卵を3つ割って聞いた。


「…アイスリンだ。もうスリンでいいから、スリンと呼んでくれ。」


「で、スリン普通に食べれそう?」


「朝食まですまない、気を使わせるな。私なら何でも入る。」


「アイスリンさま、お嬢さまが失礼いたしました。」

ニーレンが怖い顔でフリージアを睨んで、アイスリンに頭を下げた。

どう見ても貴族…多分次男か三男だろうと踏んだ。

フリージアは身分を軽視する傾向がある。


「スリン、パンは甘いジャムでいい?」

台所からフリージアが声を掛ける。


台所の窯からパンを焼くいい匂いがする。


「ああ、頂けるなら何でも…」

アイスリンが頭を下げた。


テーブルの上に、ふわふわのオムレツと庭で採れた果実のジャムと、パンとスープが並ぶ。


フリージアとアイスリンとニーレンが揃って朝食を摂る。





朝食が終わった頃、老女ネリネが起きてきた。

「うぅ…腰が痛い。こんな身体を丸めて寝たのは初めてだ…」


「あれ、もうみんな食べた後かい?」


ネリネがテーブルが片付いていて、皆が着席しているのを見てガッカリした。


「お祖母さまの分も残してあるから、台所から運んで来てあげてニーレン。」

フリージアは食後のハーブティーの準備する。


このハーブティーには交感神経を優位にしてくれる作用が少しだけある。


アイスリンが自分の前に置かれてたカップから立つ湯気を見て香りを楽しんだ。

「ありがとう、良い匂いだな。」


「そうでしょ〜、うちの庭で採れたハーブを干したの、自家製よ。」

アイスリンのカップに口をつける所作が美しい。


「で、昨日はなんであそこで倒れてたの?」


「助けてもらったし、話そうか。退屈だと思うが…」


「大丈夫!昨日で仕事終わったから時間ならあるわ。ニーレンも同席していいでしょう?」


「私もいるけど、いいかね?」

テーブルで遅い朝食を摂っているネリネが確認した。


ここで話されたら嫌でも聞こえてしまう。

最初に了解を取っておこうとネリネは思った。


「そんな構えて聞くような、たいした話じゃないんだが…」


アイスリンは、女3人に囲まれて自分の話を待たれていると思うと話すのを尻込みしたくなった。


フリージアが好奇心丸出しなのをニーレンが窘める。


「ジアさま、落ち着いてください。」


「だって〜。」



アイスリンがフリージアを見て苦笑した。


「実は、ワイバーンを追っていて上ばかり見ていたので、キンディノスの木の樹液が出ているのに気付かず触ってしまったのだ…」


「キンディノスの木の樹液は皮膚接触で一時的に眠気がくるものね。」


「私が通り掛かって良かったわよ!さっきのハーブティーでその作用を消す効果も少しあるから。」


「で、なんでワイバーンを追って森にいたのよ?」









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