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小屋の外に一度染めた糸を洗うための大きめの浴槽を設置してある。
ニーレンが、その浴槽にお湯を張った。
「どうぞジアさま、その者を着衣のまま突っ込みましょう。」
「手伝ってよ、一人じゃ持ち上げられないわよ。」
ニーレンがしぶしぶ寄って来て、フリージアと一緒に、ローブを身に着けた大きな男を引きずって浴槽に浸けた。
フリージアがローブをお湯でよく洗う。
ニーレンも一緒にローブを洗いながら言った。
「この人、どこで倒れていたんですか?ローブが泥だらけですけど…」
「沼の近く、キンディノスの木に触ったんじゃないかな…」
「樹液に誤って触れたということですか?じゃ、行き倒れじゃなくて眠ってるんですね。」
お湯が黒く染まっていく。
「多分…それよりお湯が濁っちゃったね。一旦お湯入れながら栓を抜こうか。」
フリージアが怪我の確認の為にローブの帽子に手を掛けた。
「怪我がないか、確認しておこうかな。」
ニーレンが言われた通り蛇口を捻ってお湯をジャブジャブ出す。
「怪我の確認もせず引きずって来ちゃったんですね。」
フリージアが浴槽の栓を抜いて、ローブの前を開けて傷口を確認する。
「とにかく、ローブの素晴らしさと倒れてるのを見て助けなきゃかなって…」
フリージアがローブの帽子を脱がせた。
ローブで隠れていた頭は、ごく暗い紫味の青い髪で前髪はセンターパートわけに軽くウエーブが掛かっていた。
後ろ髪は襟足までの長さでスッキリしていた。
睫毛が長く鼻筋が通っていて上品な口元だ。
控えめに言っても美しい。
「人形のようね…目を開けたところを見てみたいわね!」
フリージアは目を輝かさせた。
「この美しさは、貴族ですよ!関わり合いになるのは止めましょう!」
ニーレンがローブの帽子をまた被せた。
「そんなこと言わず、ね!楽しそうじゃないお世話しましょう!」
フリージアがローブの帽子を脱がせた。
取り敢えず大判のタオルを上から掛けて、ローブと着ているものを脱がせた。
浴槽に入れていたので浮力で女性の力でもなんとかなる。
浴槽の栓を抜いて、準備していた新しい大判のタオルを男の身体に巻きつける。
問題はここからだ。
目測だが180センチは優に超える。
運べるだろうか……
「いいこと思いついたわ!」
ニーレンはどうせ碌でもないことだろうと覚悟を決めて聞く。
「なんでしょう?」
「台車に乗せて運びましょう!」
「驚きました、まあまあのアイディアですね…。」
2人掛かりで身の丈180を超えるガタイのいい男を大きめの台車に乗せた。
2人で頑張って男の膝を折り曲げる。
ニーレンが台車を押して、フリージアが男が台車から落ちないように男の身体を支えながらがら移動する。
そのまま裏口のスロープから小屋に運んだ。
「フリージアさまのベッドに運びますよ。私のより大きいから。」
「ええ、もちろん端からそのつもりだわ。」
「どうしよう…ベッドに上げるのも一苦労だわ。」
2人共汗だくだ。
気温が20度前後で過ごしやすいが重労働をすると汗ばむ。
その時、小屋の扉が空いた。
「フリージア、遊びに来たよ。」
小柄な老女が杖を付いて玄関に顔を見せた。
「お祖母さま、いいところにいらしたわ!」
ニーレンは耳を疑った。
フリージアは、この杖をついた小柄な老女に手伝わせる気満々であった。
「お祖母さま、この人の脚をニーレンと一緒に持ってくださいね。さ、早く。」
こうして、力を合わせてこの筋肉質な大きな男をベッドに上げるという大仕事を3人でやってのけた。