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王都の魔物討伐組合の情報では、この小川に沿って歩けば小屋に着くという話だったが、まだとんと見当たらない。


「日が暮れかけてきた、少し歩く速度をあげようか。」


アイスリンが提案した。


「マートル、ニーレンの手を繋いで歩いてもらえる?」

「そうですね。」


マートルがネリネを背負いながら、ニーレンの手を握る。


ニーレンも薄暗い森歩きが不安だったようで、マートルが手を引いてくれて顔の緊張がとれた。


「フリージアは私の隣においで、手を引くから。」

「エリカは悪いが、しんがりを努めて。」


フリージアがアイスリンの横に移動しようとした時、エリカが烈火のごとく怒った。


「しんがりなんて私の役じゃなかったわ!しかも一人でなんて。」

「スリンは私のこと、どうでもいいの!?こんなお荷物おいてこれば良かったのよ!」


エリカのお怒りは最もだ。


フリージアはそのまま、また後ろに下がった。


「スリン、もう少し早く歩けばいいのね。大丈夫、私は疲れてないからまだ早く歩ける。私が最後を歩くから。」


アイスリンがそれを聞いて難色を示した。


「フリージア、魔物が出たとき咄嗟に対応出来るのか?夜はこちらは目も効かなくなるし、慣れてない者がしんがりは危ないと思うが。」


エリカの怒りのオーラを感じ取ってネリネが提案する。


「なら、私の杖を持つといい。小物の魔物は寄せ付けないよ。」

マートルの背中で抱えていた杖をフリージアに渡す。


「その杖は、魔物避けの芳香木か?」

スリンが目を丸めた。


「王家所有の森にしか生えていないというあの木?」

エリカも耳を疑う。


「その木で作った杖って……あの芳香木は炉を魔物から守るために限られた分しか伐採出来なかったはず。もうここ何十年も持ち出しは一本も許されていなかったわよね。」

「宝杖じゃない!?」

エリカが興奮気味に杖を凝視した。


「その通り。これは、宝杖だよ。」

ネリネがマートルの背中で得意気に自慢する。


「どうりで、昨日と違い小物が寄って来ないはずだ。」

アイスリンは芳香木の杖を見て納得した。


フリージアが杖を受け取って歩幅を大きくして歩き出す。

杖を突くと意外に歩きやすい。


そのまま30分ぐらい歩くとようやく小屋が見えた。




一行はようやく小屋に到着した。


小屋は外から閂がしてある。


それを外して中に入る。


マートルがネリネを下ろした。


ネリネはフリージアから杖を受け取ると腰やらを手でトントン叩いている。

ずっと背負われているのも身体が凝るようだ。



各々が、黙々と自分の仕事をする。


フリージアは持って来た肉を塩水を作って浸け込んだ。


マートルがお腹側に背負って来たリュックから、肉を出してフリージアに手渡す。


川岸で採ったハーブはちょっと酸味があって爽やかな風味があるのでそれと一緒に焼いていく。


冷蔵庫には果実酒が入っていた。

今夜は皆疲れているので、果実酒を出すのは控える。


この小屋は温泉がないので、浴室が中に付いている。

エリカは先にお風呂の準備をして入った。


アイスリンが長椅子にシーツを掛けて寝床の用意をする。


今夜は肉の香草焼きと、持って来た粉末スープとパンとハーブティーだ。

ネリネには肉を小さめにカットしてある。


ニーレンが棚からナイフとフォークとスプーンを出して並べた。


準備が終わったのを確認してフリージアが声を掛ける。

「皆さんどうぞ。」


スリンが最初にテーブルに着いた。

「いい香りだ。」


お肉のいい香りが小屋中に広がる。


「私もお腹ペコペコだわ!」

エリカもフリージアの料理を楽しみにしているようで直ぐに席に着いた。

マートルも風呂を上がってテーブルに着いた。


皆それぞれ食べ始める。


「領地の討伐の時もフリージアには一緒に付いて来て欲しい位だよ。」

アイスリンは、こんなところなのに食べる所作が美しい。


アイスリンとマートルとエリカには肉を多めにしてある。


フリージアが持って来た分のパンが、今夜で無くなった。

後でネリネのリュックから移しておこうと考えながら肉を咀嚼した。


ネリネは、食べ終えたら直ぐに風呂に行った。

やはり疲れているらしく口数が少ない。


皆が食べ終わってから、洗い物をニーレンとする。


この小屋は近くに小川があり、川の水を引いて濾過して使っているので水を贅沢に使える。




フリージアが朝食の肉の仕込みをして、ニーレンが食器を拭いて片付けをしていた。


フリージアの仕込みを、感心しながら見ているアイスリンが質問をしてきた。


「今朝の肉は柔らかかったけど、そのハーブティーの葉のせい?」


フリージアが顔を上げた。

見られているのは知っていたが、こんな仕事に質問をくれると思わず口元が緩む。


「うん、そう。このハーブティーの葉に肉の繊維を柔らかくする効果がある葉が混じってるんだ。」

「ハーブティーは他にも何種類か持って来ているよ。」

ちょっと得意気に話す。


肉をバッドに入れ終わって、手を洗う。


フリージアの横髪が頬のところに一筋落ちたのを、アイスリンが指で摘んで耳に掛けた。


距離感の近さにフリージアの心臓が早鐘を打つ。


直接触れらていないのに、アイスリンの手の体温を感じて触れられたように錯覚する。


顔を上げるとアイスリンとしっかりと目が合う。


アイスリンが微笑んだ。

「フリージアの手料理のお陰でいつもより身体が軽いし、よく休める。」


フリージアはつい、はしゃいでしまう。

「そうなの!夜出すハーブティーは身体を休めてスッキリした起床を促す効果もあるものを出しているからだと思うよ。」


こそっとニーレンが気を利かせて場を外す。


「なるほど、そのハーブティーはいろいろ使えるんだな。領地に戻る前に教えてくれないか?」

「いいよ。」

フリージアは、この討伐メンバーでの自分の価値をようやく見付けた気がした。



「スリン、お風呂入って来たら?」


エリカが空のグラスを持って立っていた。

アイスリンとフリージアの距離の近さに不安な顔をする。



それを見て、仕込みが終わったフリージアが台所を譲る。


アイスリンが風呂の支度をして、そのまま浴室に向かった。


フリージアはネリネのリュックから簡易食を出す。


これでネリネのリュックも少し軽くなるだろうと思いながら自分のリュックにそれを移していく。


「フリージアさま、昼間は落ち込んでいたようですが今は嬉しそうですね。」

「それに先程のお二人はなんだかいい雰囲気でしたね。」


隣で寝床を作っていたニーレンが、フリージアにこそっと耳打ちする。



さっきのアイスリンとのやり取りから、自分がノースポール領に呼ばれるかも、という大それた想像をして気になることを聞いた。



「ノースポール領って遠いの?」


ニーレンが少し考えて答える。

「王家の車とルートを使えば、半日ぐらいじゃないでしょうか?」


見るだけじゃなかったのか…とニーレンがフリージアに目で訴える。


ニーレンの言いたいことに気付いて言い訳する。

「だって…ニーレンも、いい雰囲気だって……」


「だめですよ、クフェアさまがお許しになりませんよ。」


「大丈夫!見るだけです〜。」


フリージアはアイスリンとの距離が近付いたことで気持ちに少し余裕が生まれたが、一番は自分が役に立っていることが思った以上に気持ちを楽にしていた。



横を見るとネリネはもう先に寝ていた。





アイスリンがまだ入浴していないフリージアとニーレンに声を掛けて台所に向かう。


「私はもう上がったから、次入るといい。」


(わざわざ声を掛けてくれるところが、貴族らしくなくて優しいわ。)


「アイスリンさま、ピッチャーにお水と氷を入れてますのでそちらをどうぞ。」

フリージアがテーブルに準備していたピッチャーを手渡す。

「ああ、ありがとう。」


「ジアさま、お先にお風呂どうぞ。」

「ありがとう、ニーレン先に入るね。」


アイスリンがフリージアの腕を取った。


「ネリネ殿の芳香木だが入手の経緯を直接本人に聞いても良いだろうか?」


「いいけど、聞いたとしても手に入る手段なんてないよ。」

フリージアが警戒して少しきつい口調になってしまう。

過去に何度か盗難にあっている。


「済まない、警戒させてしまったね。」

「単なる興味本位だ。」


「いえ、私の方こそごめんなさい!過去に何度か盗難に合ってるので…つい。」


浴室に向かうフリージアの背中をアイスリンが目で追っていた。



ニーレンはアイスリンがだんだんとフリージアに興味を引かれているのではと心配した。








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