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日が暮れ始めた頃に、一行は小屋を見つけた。


小屋には先客がいるようで、中から明かりが漏れている。


中から閂が掛かっているようなので、扉を叩く。

「すみません、開けてください。」

フリージアが発する声も疲れている。


フリージアは後ろを振り返った。


マートルの表情を見ると少し疲れが見える。

早く休ませてやりたい。


もう何度か扉を叩く。


「ちょっと待ってね、今開けるから。」

中から声が聞こえた。


扉が開く。


肩までの紫の髪に、緑の目の筋肉質な女性が立っていた。


「エリカ!」

後ろにいたマートルが驚いたような声で女性の名前を呼んだ。


扉に立っていた女性もマートルを見て驚いた。

「マートル!?」

「やだマートルどうしたの?え…その2人なに?」


後ろにもう一人背負っているのに気付かなかったようだ。


マートルが小屋に入って、その背中を見て初めてもう一人いることに気付く。



「連れが3人……」

エリカがマートルの背中を目で追って呟き、4人を中に入れて閂をした。



エリカが奥に届くように声を掛けた。

「スリン、マートルが来たわ!人助けしながら。」


エリカの呼んだ名前にフリージアの顔がほころぶ。


(そうだった!疲れ過ぎて忘れていたけど、スリンさま追い掛けて来てたんだったわ!)


マートルが屈んでネリネを下ろして、次いでニーレンをおろした。


ニーレンと、ネリネがマートルにお礼を言う。



奥から白のスタンドカラーシャツに黒に近い緑のパンツを履いたスリンがでて来た。


アイスリンはフリージアを見て目を疑った。



「フリージア?」


「スリン!」




エリカが名前で呼びあった2人に怪訝な表情を浮かべる。


「このコ、スリンって愛称で呼んでるけどどういうこと?」

エリカがスリンに聞いた。



フリージアはやっと会えて嬉しくなり、置いていかれたことが思い出されてちょっと恨みがましく言ってしまう。


「スリン、なんで置いていったの?ずっと待っていたのに。」



これについては、フリージアを騙してしまったのでアイスリンが申し訳無さそうな顔をした。



「すまない、こんなところまで来れる人だと思わなかったんだ。」



エリカはまさか自分が無視されると思わず、ますます腹をたててフリージアを睨んだ。


「スリンから聞いてるわよ。」

「あなたね、ちょっとスリンを助けたからって、付いて行きたいなんて言う方がおかしいじゃない。しかも愛称で勝手に呼ぶなんて図々しいわよ。」


エリカが食ってかかった。



アイスリンが場を収めるのに、普段なら放って置く下らないやり取りに口を出す。

「それは、私がいいと言ったからだ。」


「え?」

エリカが聞き返す。


フリージアも負けずにエリカに言い返す。


「ところで、あなたこそ誰?ここにいるみんな知ってる者同士なんだけど、あなただけ私達知らないわ。」


「うぅ…ひどいわ。」

エリカは急に弱々しくアイスリンを見たが、アイスリンが呆れてしまって相手にしてくれないとわかりマートルを見る。


「エリカはリナリスの妹なんだ。」

マートルがしょうがなく間に入る。




(エリカも貴族なのかな…私が知っている貴族と大分違うな。ノースポールは王都から大分離れているからだろうか……)


フリージアはアイスリンに質問した。

「リナリスってスリンの元婚約者の?」


「そうだね。」


「そうだったの!じゃあ、スリンにとっては妹みたいなものね。」



アイスリンは、ようやくこの話が終わりそうで安堵する。


「そうだ、婚姻が成されていれば本当の妹だからな。」


だいたい領地にいる時も、エリカが絡むとこの手の話題で揉めることが多く、収束する時もエリカが妹といえば収まるのを何度も経験している。


アイスリンはギルドに所属していたせいもあり、兄2人よりも気安く女性に声を掛けられやすかった。




エリカが、アイスリンのを妹扱いに悔しそうにフリージアを睨んだ。

「そういうあなたは、平民じゃない。」



マートルがエリカとフリージアのやり取りを見て、溜め息をつく。

「はぁ…スリンの周りはこんなんばっかだな。ニーレン今日は疲れただろう。」



マートルのニーレンに対する対応を見て、アイスリンが目を丸める。


「マートル、君が女性に気を配っているところを初めて見たよ。」



ニーレンが恥ずかしそうにフリージアを見た。


このマートルの献身ぶりにニーレンも自分が特別贔屓されているのを嫌というほど感じているようだ。


「フリージアさま、夕食の支度しましょう。」

色々聞かれると居心地が悪いので台所ヘ逃げ込む。



「そうだったわ、ごめんね。」

ニーレンは3年前に王都から来ているので、森育ちの自分とは体力が違うことを思い出した。


フリージアがリュックを下ろして、簡易食を取り出す。


簡易食を出すところを見て、エリカが意外に思う。


「マートルが一緒にいて簡易食?」


「2人も担いでたんじゃ、途中で魔物狩りなんて無理か。」


「私は剣を使えるけど、そこの3人はお荷物そうだもんね。」


「明日は、私とスリンとマートルで行くから3人は引き返して帰ったら?」



エリカがフリージアにつっかかるのはフリージアがスリンと愛称呼びしたせいだろうが、これだけ言われるとさすがにフリージアも苛々して、フリージアはマートルに質問した。


「マートルさま、そちらのエリカさまの言うようにニーレンをここで私達と帰して大丈夫でしょうかね?」



マートルは今日通って来た険しい道を思い出した。そしてニーレンには自分が必要だと再認識した。


「いや、私が責任を持って送り届けるよ。」


その一言を聞いて安心したフリージアが、エリカにやり返す。


「もともと、私はスリンさまと一緒に行くと約束してましたし、マートルさまはニーレンを置いて行くような方じゃないようなので、あなたが一人で行ったらどうですか。」



エリカがアイスリンの袖を掴んで上目遣いに見て甘える表情をして言った。

「スリン、こんな性格の悪い人と一緒になんて行けないわ。」



アイスリンとしては、一人で行くつもりで森に入った。


なぜか王都の魔物討伐組合に立ち寄ったらエリカも来ているし、遠足気分なのだろうかと頭を抱える。



そして、なぜかまだ険悪な雰囲気が続いている。



フリージアが台所の作業台に、パンとドライフルーツと昨日泊まった小屋から持ってきた干したきのこを出す。


冷蔵庫を開けるとチーズと果実酒と肉が入っていた。

「このお肉は、スリンが?」


スリンが台所で夕飯の支度をするフリージアの手元を興味深く見ていた。

「ああ、今日狩ってきた。」


「使っていい?」


「ああ、いいよ。」

どうやら楽しみなようで、笑顔でフリージアを見る。


「ありがとう。」

ハーブティーの袋を破って肉にまぶして少し置いておく。


焼くときに柔らかくなるように果実酒を振りかけて焼いた。




「マートルさま、ニーレン、お祖母さまも食事にしましょう。」


「御二方も、よければどうぞ。」


アイスリンとエリカを見て一応声を掛けた。


アイスリンがそれを聞いて嬉しそうに、ピッチャーの水を人数分グラスに注いで配膳する。


「アイスリンさまそのようなこと、私がしますから。」

ニーレンがフリージアの手伝いの手を止めて、直ぐにテーブルの方へ来た。


アイスリンが、それを手で制して、ニーレンに目で大丈夫と伝える。


「フリージアは前も台所に立ってたけど、料理担当なの?フリージアの料理は美味しいよね。」


そう言いながらスリンがテーブルに着いた。


討伐に連れて行かなくても、この美味しい簡易食を準備してくれる者が領地にもいると便利だなと考える。


ニーレンが、用意された料理をテーブルに配膳し終わった。

「食事にしましょう、マートルさま。」


ネリネがもう一度マートルに声を掛けて席に着く。


フリージアがアイスリンの斜め横の席に着いた。


「こんなところだから、粗末なもので悪いけどよければどうぞ。エリカさんはどうします?」


マートルとネリネも席に着いた。


みんなで食事を摂る。


エリカもいい匂いに釣れられて、結局一緒に席に着いた。



食べ終わったフリージアが斜め横に座っているアイスリンをじっと見つめた。


(やっぱりカッコいいわ、見るだけで満足だわ。)


センターパートで分けた優しいウエーブの前髪が軟らかそうだ。


ごく暗い紫味の靑色の髪から覗く、透明感のある水色の瞳。


(スリンは相変わらず美しいわ。)



鼻筋が通っていて唇がほのかに色付いている。

触ってみたい衝動に駆られる。



(見るだけ、見るだけ!)



自分に言い聞かせる。



「見過ぎだ。」



そう言いながら急にアイスリンの手のひらが、フリージアの目の前に来て視界を塞がれる。


フリージアはヒュっと息を吸った。

(これは、ご褒美だわ!)


エリカが、二人の間にある空気感に傷付いた顔をしたが、そのまま何も言わず黙った。


食事はみんなでフリージアの手製の簡易食を摂ったが、結局一番食べていたのはエリカだった。


「こういう、簡易食もいいわね!さすがに三食魔物のお肉じゃ口が飽きるし、栄養面も偏るものね。」


「こんなに美味しい簡易食は初めて食べるわ!」

エリカの現金な態度に周りも苦笑していた。



「お風呂は、ここも温泉ですか?」

マートルがアイスリンに聞いた。


「外に温泉があった、僕らはもう入ったよ。」

「入って来たら?」

アイスリンが簡易ベッドに腰掛ける。


マートルがリュックから着替えを出しながら、ニーレンの方に向き合って声を掛ける。


「昨日みたいに私が見張りに立とう。」

「マートルさまお気遣いありがとうございます。」


エリカが話を聞いていたのか、聞き耳を立てていたのか意見してきた。

「あなた達、図々しいわね!マートルに見張りまでさせてるの?」


それを聞いたニーレンがわからないようにエリカにやり返した。

「そうですよね、エリカさまの仰る通りマートルさまに甘え過ぎておりました。不安ですが、私一人で行ってみようと思います。」


それを聞いたマートルが焦って、エリカに注意した。

「私が心配で申し出ている、余計なことを言うな。」



アイスリンはフリージアの食事で満足したようで、歯磨きをした後もう簡易ベッドで眠っていた。


3人もそうそうに風呂から上がり、見張りをしてくれていたマートルが温泉から出てきたのを確認して眠った。




















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