この事については他言無用だ
朝食が終わり、しばらくした頃、バルトロメウ警部が研究室に入って来た。
そこには、昨夜完成した「作品」が、整然と並べられている。
「では、検品させてもらおう」
警部は慎重に、一枚一枚の額縁を手に取り、光にかざして確認していく。
47枚の輪切り標本。
それぞれがホルマリンで完璧に保存され、5センチの厚さに正確に切り分けられた断面は、まるで医学教科書の挿絵のように精緻だった。
頭部から足先まで。
脳の断面、心臓の断面、肺と鰓の複雑な構造、脊椎、内臓、筋肉の層。
すべてが、ガラス越しに透明な液体の中で固定されている。
「……完璧だ」
警部が、最後の一枚を確認し終えて呟いた。
「医学標本としても一級品だろう。これなら博物館に寄贈しても恥ずかしくない」
「そうでしょう?」
コーエン教授が、誇らしげに胸を張った。
「ヒナタ君の狩猟技術は芸術の域だよ。そして筋肉質で堅い身体をスライスできたのもヒナタ君の筋力があってこそだ」
マリオが葉巻を咥えたまま、額縁の列を眺めた。
「こいつを見た連中の顔が楽しみだぜ」
彼の声には、復讐の満足感が滲んでいた。
「では、積み込みを始めよう」
警部が合図すると、待機していたマフィアの部下たちが研究室に入ってきた。
彼らは黒いスーツに身を包み、まるで葬儀屋のような静かな動作で、一枚一枚の額縁を丁寧に梱包していく。
厚手の布で包み、専用の木箱に収める。
各木箱には取り扱い注意のマークが押されている。
「慎重にな。一枚でも割ったら、お前の給料三ヶ月分だ」
マリオが部下たちに釘を刺す。
「了解です、ボス」
部下たちは緊張した面持ちで作業を続けた。
ヒナタと○○○は、その様子を黙って眺めていた。
二人とも特に感慨もなさそうだ
やがて、すべての木箱がトラックの荷台に積み込まれた。
マリオの部下の一人が、各木箱に小さなカードを添えていく。
上質な紙に、達筆な文字でこう記されていた。
――東アーカム警察および協力者より、親愛を込めて
「……本当に書くのかよ」
○○○が呟くと、バルトロメウ警部が冷たく笑った。
「礼儀というものは大切だからね。どんな相手にも、敬意は示すべきだろう?」
その言葉の裏に込められた侮蔑を、誰もが理解していた。
コーエン教授が、マリオに向き直った。
「昨日の……カチュッコだったかな?あれが食べ納めになるのは残念な話だよ。」
マリオは葉巻を指で弾き、灰を灰皿に落とした。
「あれは美味かったが、二度目は食う気になれねえや」
「そうかね?それは残念な話だ」
コーエン教授が、眼鏡の奥の目を細めた。
トラックのエンジンがかかる。
排気ガスが冷たい朝の空気に白く混じった。
「じゃあ、行ってくるぜ。インスマスへの『贈り物』、しっかり届けてやるよ」
マリオが運転席の窓から手を振り、トラックはゆっくりと研究室の前を離れていった。
その荷台には、かつてサイラスと呼ばれた男が、47枚の「芸術作品」として積み込まれている。
ヒナタは窓からトラックを見送り、小さく手を振った。
「ちゃんと届くといいね」
その声は、まるで友人に荷物を送ったかのように、軽やかだった。
-----
一週間後の夕刻。
東アーカム警察署の大会議室には、選抜された警官たちが集められていた。
その中に、パトロール警官トーマス・マクレガーの姿もあった。
三十代半ば、警察官として五年目。真面目で射撃の腕も確かだが、これまで人に向けて引き金を引いたことは一度もない。
彼は会議室の後方、窓際の席に座り、周囲の緊張した空気を肌で感じていた。
前方の演壇には、バルトロメウ警部が立っている。
その隣には、軍の制服を着た大尉と、大きな地図が広げられたテーブルがあった。
「諸君、静粛に」
警部の声が、ざわめきを一瞬で鎮めた。
「本日より、我々はインスマス浄化作戦の最終準備に入る。
作戦決行は明日早朝0600時。目標は、インスマス全域の制圧と、ダゴン秘密教団の完全な壊滅だ」
警部が地図上のインスマスを指で示す。
海沿いの小さな漁村。人口は推定で五百人程度。
「まず、諸君に理解してもらいたいことがある」
警部は一呼吸置いて、冷徹な目で室内を見渡した。
「インスマスの住民は、人間ではない」
室内に、わずかなざわめきが起きた。
トーマスも、眉をひそめた。
「これは、誇張でも比喩でもない。事実だ」
警部が合図すると、部下が黒板に数枚の写真を貼り出した。
司法解剖の記録写真。
トーマスは、思わず息を呑んだ。
写真に写っているのは、確かに「人間」に似ていた。
だが、首の側面には鰓のような裂け目があり、手には水かきが張り、骨格は明らかに異常だった。
皮膚は鱗状で、目は人間のそれよりも大きく、魚類を思わせる。
「これは、先日ミスカトニック大学を襲撃した襲撃犯の解剖記録だ。
コーエン教授の協力のもと、詳細な調査が行われた。
結論から言えば、これは『人間に擬態した化け物』である」
警部は、さらに別の写真を示した。
インスマスの住民たちの顔写真。
いわゆる「インスマス面」——平坦な顔、突き出た目、薄い唇。
「彼らは、外見上は人間に近い。だが、その本質は我々とは全く異なる生物だ。
我々の同胞である警察官を何人も殺害し、行方不明にした。
そして、この街の治安を脅かし続けている」
トーマスの隣に座っていた年配の警官が、小声で呟いた。
「……マイク……」
マイク・オコネル。
トーマスも知っている名前だった。
三ヶ月前、インスマス周辺の巡回中に消息を絶った同僚だ。
遺体は見つかっていない。
「諸君の中には、躊躇する者もいるだろう」
警部が、再び全体を見渡した。
「女性や子供に見える個体もいる。だが、忘れるな。それは『擬態』だ。
彼らは我々人類とは相容れない存在であり、この街、この国にとっての脅威だ」
トーマスは写真をもう一度見た。
鰓。水かき。異常な骨格。
……これは人間じゃない。
「軍からの支援も確定している」
隣に立っていた大尉が、初めて口を開いた。
「装甲車二台、トンプソン短機関銃二十丁、手榴弾、そして火炎放射器を提供する。
諸君らは、これを用いてインスマスを制圧せよ」
火炎放射器。
その言葉に、トーマスの背筋に冷たいものが走った。
「質問は?」
警部が問うと、前方の若い警官が手を挙げた。
「降伏した場合は、どう対処しますか?」
警部は、一瞬だけ間を置いてから答えた。
「降伏は受け入れない。
奴らは人間ではなく、害獣だ。発見次第、排除せよ」
室内に、重い沈黙が落ちた。
トーマスは、自分の拳が震えているのに気づいた。
恐怖か、興奮か、自分でもわからない。
「諸君」
警部が、最後にこう告げた。
「これは、正義の執行だ。我々は、家族を、街を、そしてこの国を守るために戦う。
明日の朝、インスマスという脅威を、この世界から消し去ろう」
大会議室が拍手に包まれる中、窓の外は、既に暗くなり始めていた。
-----
翌朝、午前5時30分。
東アーカムの港に、警察と軍の車両が集結していた。
装甲車二台を先頭に、警察車両が十台以上。その後ろには、トラックに積まれた機関銃と火炎放射器。
総勢百名を超える警官と兵士が、冷たい朝の空気の中で最終確認を行っていた。
トーマスは、支給されたトンプソン短機関銃を手に、トラックの荷台に座っていた。
隣には、同じ班の若い警官が二人。
誰も口を開かない。
ただ、銃を握る手が、わずかに震えている。
「全車、出発!」
バルトロメウ警部の声が、無線を通じて響いた。
エンジンがかかり、車列がゆっくりと動き出す。
目的地は、海岸沿いの道を北上した先——インスマス。
トラックの荷台から見える景色は、次第に荒涼としていった。
整備された街並みが途切れ、古びた農家が点在するだけの土地になり、やがて海が見え始める。
そして、霧が濃くなっていった。
「……気味が悪いな」
隣の若い警官が呟いた。
「ああ」
トーマスは短く答えた。
霧の中に、やがてインスマスの輪郭が浮かび上がってきた。
崩れかけた桟橋。
傾いた家屋。
ひび割れた石畳。
そして、どこからともなく漂ってくる、魚の腐ったような臭い。
車列が止まり、警部の指示が飛ぶ。
「全員、配置につけ! 第一班、港湾地区。第二班、市街中心部。第三班、北側の住宅地だ!」
トーマスは第二班に所属していた。
彼は短機関銃を構え、他の警官たちと共にトラックから降りた。
霧の中、インスマスの街は不気味なほど静かだった。
窓のカーテンが、わずかに揺れている。
誰かが、中から見ている。
「……奴らは、俺たちが来ることを知っているのか?」
若い警官が震える声で尋ねた。
「どちらでも良いだろ」
トーマスは答えた。
その時、どこかで鐘が鳴った。
低く、重い音。
「作戦開始!」
鐘の音を合図にしたかのような警部の声と共に、銃声が響いた。
最初の抵抗は、港湾地区から始まった。
ダゴン秘密教団の残党が、倉庫の影から一斉に銃撃を開始したのだ。
だが、彼らの旧式のライフルは、警察の短機関銃と装甲車の前では無力だった。
「撃て!」
トーマスの班長が叫び、警官たちが一斉に引き金を引いた。
トーマスも、初めて人型の標的に向けて銃を撃った。
インスマス面——平坦な顔、突き出た目。
それは胸に数発の弾を受け、崩れ落ちた。
トーマスの手が震えた。
「前進!」
班長の指示で、彼らは市街中心部へと進んだ。
狭い路地、崩れかけた石造りの建物。
あちこちから、銃声と悲鳴が聞こえてくる。
角を曲がると、一人の女性が飛び出してきた。
インスマス面で、手には何も持っていない。
「撃たないで! 私は——」
彼女の言葉は、機関銃の音にかき消された。
班長が躊躇なく引き金を引いたのだ。
女性は、壁に叩きつけられるように倒れた。
「……班長!」
若い警官が叫んだ。
「何だ?」
班長は冷静に弾倉を交換しながら答えた。
「……あれは、武器を持っていませんでした」
「だから何だ? 奴らは化け物だ。情けはかけるな、何人もここから戻っていない事を忘れるなよ」
班長は、そのまま前進を続けた。
トーマスは目を逸らし、班長の後を追う。
数時間後、抵抗はほぼ沈静化し、港湾地区は炎に包まれ、市街中心部では散発的な銃声が聞こえるだけになった。
トーマスの班は、集会所らしき建物の前に到着した。
古い石造りの建物で、正面には奇妙な紋章が刻まれている。
「中を確認しろ」
班長が指示を出し、トーマスともう一人の警官が扉を開けた。
中は薄暗く、ろうそくの明かりだけが揺れていた。
そして——
トーマスは、思わず息を呑んだ。
ステージ上に、分厚い板状のガラスケースが綺麗に立てて並べられている。
その数、47枚。
それぞれに、何かが収められている。
近づいて見ると、トーマスの胃が捩れた。
それは、人間——いや、「半魚人」の輪切りだった。
頭部から足先まで、5センチ間隔でスライスされ、ホルマリンに浸された標本。顔は恐怖に歪んでいる。
一番端、頭頂部のガラスケースには、カードが添えられていた。
——東アーカム警察および協力者より、親愛を込めて
「半魚人のスライス?」
トーマスの声が震えた。
「……最初から銃撃戦になったのってこれを送ったからじゃないのか?」
「そうだろうな。見ろよ、凄い顔してるぜ。」
後ろから入ってきた班長が答えた。
「……報告しろ。集会所を確認した。異常なし」
班長がそう言って、外へ出ていった。
トーマスは、最後にもう一度、ステージ上の標本を見た。
そして、静かに扉を閉じた。
-----
集会所の外では、既に炎が上がり始めていた。
装甲車から降りたバルトロメウ警部が、部下たちに指示を飛ばしながら、トーマスの班が確保した建物へと歩いてくる。
その足取りは落ち着いており、まるで戦場ではなく、日常の巡回をしているかのようだった。
「班長、状況は?」
警部が尋ねると、班長が敬礼して答えた。
「集会所内部を確認しました。抵抗はありません。ただ……」
班長は一瞬、言葉を選ぶように間を置いた。
「内部に、特異な物が展示されています」
「特異な物?」
警部は眉を上げ、集会所の扉へと向かった。
トーマスと他の警官たちは、自然と道を開ける。
扉が開かれ、警部が中に入る。
薄暗い空間。
揺れるろうそくの灯り。
そして、ステージ上に整然と並べられた47枚のガラスケース。
警部は、一瞬だけ足を止めた。
そして、ゆっくりとステージに近づいていく。
一枚目のガラスケースを覗き込む。
頭頂部の断面。脳の構造が、完璧に保存されている。
二枚目。顔の上半分。恐怖に見開かれた目が、ホルマリンの中で永遠に固定されている。
三枚目、四枚目、五枚目——
警部は、すべてのガラスケースを、丁寧に確認していった。
その間、誰も口を開かなかった。
やがて、警部は最後の一枚——足先の断面まで確認し終えると、満足げに頷いた。
「……並べるだけの頭はあったのか」
その言葉は、静かだった。
だが、その静けさの中に、冷たい嘲笑が込められていた。
トーマスは、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
警部は、ステージ中央に置かれたカードを手に取った。
——東アーカム警察および協力者より、親愛を込めて
「我々からの『贈り物』、ちゃんと受け取ってくれたようだな」
警部は、カードを元の位置に戻した。
「班長」
「はい」
「この標本は、すべて押収する」
班長が一瞬、戸惑ったような顔をした。
「……押収、ですか?」
「ああ。それと報告書には残すなよ。上とも話は付いてるから、この事については他言無用だ」
警部がガラスケースの一つを軽く叩いた。
「それにこれは奴らが何者であったかを示す証拠でもある。
人間ではなく、化け物であったという証拠だ。押収品だと展示までが手間だからな。」
トーマスは、思わず声を上げそうになった。
だが、班長の鋭い視線が、それを制した。
「了解しました。すぐに運搬の手配をします」
班長が答えると、警部は満足げに頷いた。
「よろしい。それと——」
警部は、集会所の内部を見渡した。
壁には、ダゴン秘密教団の紋章が刻まれている。
祭壇には、奇妙な彫像が置かれている。
「この建物は、燃やせ」
「了解」
班長が手を挙げると、部下の一人が火炎放射器を持って入ってきた。
「ただし、標本をすべて運び出してからだ。一枚でも傷つけたら、お前の責任だぞ」
「はい、警部」
警官たちが、慎重にガラスケースを一枚ずつ運び出し始めた。
トーマスも、その作業に加わった。
ガラスケースは、予想以上に重かった。
中のホルマリンと、5センチの厚さに切り取られた「肉」の重みだ。
トーマスは、自分が運んでいるのが「何」の一部なのか、考えないようにした。
ただ、手が震えるのを止められなかった。
一時間後、すべてのガラスケースが運び出された。
それらは、専用のトラックに丁寧に積み込まれ、東アーカムへと運ばれることになった。
警部は、空になった集会所を最後にもう一度見渡した。
「よし、燃やせ」
火炎放射器の炎が、祭壇を、紋章を、そして建物全体を飲み込んでいく。
黒煙が、霧の中に立ち上った。
トーマスは、その光景を無言で見つめていた。
今日、自分は何体撃ったのか。
何体が、自分の銃弾で倒れたのか。
数えることすら、できなかった。
「マクレガー」
班長に名前を呼ばれ、トーマスは我に返った。
「はい」
「お前、大丈夫か?」
班長の目には、わずかな心配の色があった。
「……大丈夫です」
トーマスは、そう答えた。
班長は、肩を叩いた。
「今日の仕事は終わりだ。帰ったら、酒でも飲め」
「はい」
トーマスは、もう一度敬礼をした。
だが、その手は、まだ震えていた。
-----
夕暮れ時、インスマスは既に焼け跡と化していた。
崩れた建物、焼け焦げた木材、そして立ち上る黒煙。
かつて五百人が暮らしていた漁村は、一日で地図から消えた。
トーマスは、帰路のトラックの荷台に座り、ぼんやりと遠ざかる景色を眺めていた。
隣には、同じ班の若い警官たちが座っている。
誰も口を開かない。
ただ、時折、誰かの手が震えているのが見えた。
トラックが東アーカムへの道を進む中、トーマスは今日一日を思い返していた。
引き金を引いた瞬間。
倒れた「何か」の姿。
女性の、最後の言葉。
——「撃たないで! 私は——」
あの後、何と言おうとしていたのか。
トーマスは首を振った。
化け物だ。あれは化け物だったんだ。
司法解剖の写真を思い出す。
鰓。水かき。異常な骨格。
人間じゃない。
そう自分に言い聞かせた。だが、脳裏に浮かぶのは、あの女性の目だった。
まるで、人間のような。
「……マクレガー」
班長の声が聞こえた。
「はい」
「今日はよくやった。お前は立派に職務を果たした」
「……ありがとうございます」
トーマスはそう答え、班長は、何か言いかけたが、結局口を閉じた。
トラックは東アーカムの街灯が見える場所まで戻ってきた。
街はいつも通りだった。
まるで今日何が起きたのか、誰も知らないかのように。
-----
その夜、トーマスは自宅のアパートに戻った。
妻が夕食を用意して待っていた。
「お帰りなさい。今日は遅かったわね」
「ああ……仕事が長引いた」
トーマスはコートを脱ぎ椅子に座った。
「大変だったの?」
妻が心配そうに尋ねる。
「いや……大丈夫だ」
トーマスは、そう答えた。
夕食はいつも通りの味がした。
だがトーマスの喉は何も通らなかった。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「今日、新聞でインスマスのことが出ていたわ。警察が、化け物の巣を壊滅させたって」
妻は誇らしげに微笑んだ。
「あなたも、そこにいたの?」
トーマスは一瞬言葉に詰まった。
「……ああ」
「すごいじゃない。街を守ってくれて、ありがとう」
妻はトーマスの手を握った。
トーマスはその手の温かさを感じながら何も言えなかった。
-----
同じ頃、ミスカトニック大学の海洋生物学研究室。
コーエン教授の電話が鳴った。
「はい、コーエンです」
「教授、バルトロメウです。インスマスは壊滅しました。例の『作品』、回収しましたよ」
コーエン教授の顔が、喜びに輝いた。
「素晴らしい! 連中はきちんと並べましたか?」
「ええ。完璧に」
「それは良かった。」
警部の声が、冷たく笑った。
「教授の『芸術』は、明日にでも博物館に届けます。多くの人々に見てもらいましょう」
「ありがとう、警部。私も喜ばしい限りだよ。」
コーエン教授は、電話を切った。
窓の外では、雪が降り始めている。
東アーカムの冬が、本格的に訪れようとしていた。




