94. スレンの村の宿屋
隣の部屋にこもっていた精霊たちが戻ってきた。これから私たちが向かう方角がわかったらしい。
「お疲れさま。長くかかったわね」
『ええ、少し苦労したけど、わかったわ』
『北西の方角で祠の魔力を感じるのぉ』
「北西っすね。だとすると…地図だとスレンの村へ行って、そのあとはポアンの村だな」
『その先はまた精霊同士で話し合って決めていく』
『今日は疲れました。早く休みたいですわね』
「行く方向が決まれば大丈夫だろう。村がある辺りまでは魔獣も少ないし、2つ目の村を出たあとはまたその都度相談しよう」
「じゃあ、今日は解散でいいな」
「ええ、そうしましょう。じゃあルイ、私たちは隣の部屋へ行きましょう」
「はい、アル様。では皆さん、おやすみなさい」
精霊たちは相当集中して祠のありかを探ったのだろう。精神的に疲労しているように見えた。イグニティオなんて、一言も話さず、フランの頭の上に乗ったままだった。それはそれで可愛いけど。
アル様と向かった隣の部屋は、想像していた通り、3人部屋と同じ感じで2つのベッドと机と2脚の椅子が置いてあった。初日の今日は早めに休もうということで、私はミカヅキを呼んで、疲労困憊しているウェンティアと一緒にベッドにもぐりこんだ。
次の日は、みんなで朝食を宿屋の食堂で頂き、早々にウォーターフォードの街を後にした。今日これから行くスレンの村までは歩いて半日ほどかかるらしい。魔獣は出たとしてもマッドラビットくらい。ミカヅキがいれば全く問題がない。そういえば、私が初めて倒した魔獣はマッドラビットだったな。その時はハラハラしながら倒していたけど、今は確実に倒せる自信がある。ミカヅキがいるからほとんど出くわさないけど。
そんなことをしみじみと思いながら歩いていたら、隣を歩いているジークに声をかけられた。
「ルイ、大丈夫か? 何か考え事をしているようだが」
「いいえ、何でもないです。魔法を覚えたての頃は、小さな魔獣にも苦戦していたな、と。ちょっと思い返していたところで…」
『ルイは最初からちゃんと魔獣を倒せていましたわよ』
「あの時は、自分では心臓バクバクだったよ」
「何でも最初は緊張するものだ」
「ジークもそうだったの?」
『ジークは、俺と出会った時はもう魔法もかなり扱えていたから、緊張しているところは見たことがないぞ。俺も見たかったな、ジークが心臓バクバクな様子を!』
「俺が初めて魔獣を倒したのは15歳の時だったからな。その時は緊張した。アクティオに見られていなくて良かった。はは、一生言われそうだ」
『惜しいことをした』
「ふふ、アクティオ、残念だったね」
私たちは、警戒係のリュカを先頭に、その後ろにアル様とフラン、そしてジークと私がついて歩いていた。ミカヅキは私たちより少し離れた辺りを歩き回っている。ものすごく疲れそうだけど、彼は楽しそうだからやりたいようにさせている。
街を出たけれど特に危険なことはないし、魔獣にも全く遇わないし、会話も緊張感がない話題だ。村までは街道が整備されている(といっても土を均した程度だけど)し、たまにウォーターフォードの街へ向かう冒険者の人たちとすれ違ったり。のんびりした道程となった。
スレンの村に、陽が落ちる前に着くことができた。村の宿屋は2つだと聞いてきたので、まず一つ目の宿に行ってみるがいっぱいだと断られた。フランの顔に少し焦りが浮かぶ。村の奥の方にある2つ目の宿屋へ行ってみる。空き部屋がありますようにと願いながら。
フランとジークが宿屋の女将と話をしてくれている間、私たちは隅の方で待機。交渉に少し時間がかかっている。この宿屋もダメだったらどうなるんだろう。野宿をするの?
もし野宿となったら何が必要かを考えてみる。えーと、テントと寝袋が5人分欲しいね。エアマットも必要だ。あとは、夕食はあるけど、火を熾してもらえればお湯も沸かせるから大丈夫かな。あとは…
と考えていたら、フランとジークが戻ってきた。
「お待たせっす。一応部屋は確保できたけど、アルとルイ、すまんな。5人部屋しかなかった」
「5人部屋…ってことはこの5人で一室ってことなの?」
「そうだ。もうそれしか空いていない」
「私は、そうね、みんなを信じているわ。それでいいけど、ルイは?」
「私もいいです。何かあればミカヅキが対処してくれます」
「おいおい、それじゃあ、ルイは俺たちを信じてないってことじゃん」
「そんなことは、ないけど。でもミカヅキがいるもん」
「ルイ、大丈夫だ。何もない」
「ジークが一番ありそうだぜ」
「リュカ、何か言ったか?」
「…何も」
頭の後ろで腕を組んでいるリュカはそう言ってジークに背を向け、ペロッと舌を出した。
宿屋の人に部屋へ案内してもらう。部屋はそれなりに広かったけど、少し幅の狭いベッドが5つ置いてあった。それとテーブルと椅子。やっぱり椅子は2脚しかなかった。椅子は2脚って決まっているのかな? 不思議…
ベッドは、奥からアル様、私、リュカ、ジークそして出入り口のドアに一番近いところがフランとなった。リュカは世帯持ちだから、一応信じて真ん中だ。まぁ、この3人なら何もないとは思うけどね。
今日の夕ご飯は宿屋の食堂へ行った。5人で食べて、5人で部屋に戻って、それから5人でお風呂に行って、あとはそれぞれで部屋に戻った。
この宿にも共同風呂があったんですね~。地熱を利用してお風呂が沸いている。この辺り一帯は、他の土地より地熱の温度が高いので、お風呂があることも魅力の一つだそうだ。お風呂も目当てで、この北の地域へくる冒険者も多いとか。うん、わかるよ。疲れて帰って来てからのお風呂、最高だね!
お風呂にゆっくりとつかりポカポカで部屋に戻ってきた、そんなアル様と私に、問題がふりかかった。
それはリュカの一言から始まった。
「そーいえば、言ってなかったけど、俺たち、寝る時は裸だけど気にしないでくれ」
「「は?! 何、何ですって~!」」
なぜか私とアル様の声がハモる。って言うか、それはマズイでしょう!
「それは聞いてないよ!」
「しょうがないだろ。寝夜着なんて持ってきてない。野郎なんてそんなもんだ」
「でも、裸なんて困るわ」
「悪いっす。でも荷物になるから持ってきてないっすよ」
「上だけ着ないってこと?」
「俺は下も持ってない。下の下着一枚で寝る」
「あー、俺もっす」
「パンツ一枚…。じ、じ、ジークも下着一枚なの…?」
「お、俺は下は持ってきているが上はない」
はー、さすがジーク。ジークもパンツ一枚なんて…あり得ない! これが貴族と庶民の差かしら…
「お前、今『これが育ちの良さの違いね』なんて、失礼なこと考えただろ」
「ま、まさか! そんなこと…思ってないよ」
「はーん、図星だな」
もう! 何なのよ! リュカ。鋭すぎる。
今はそんなことより…私はアル様と目を合わせ、お互い頷き合う。と、私は急いでリュックの中に手を入れて『今まで一度も使ったことのないシャツ』と願う。そんなもの、あるのかわからないけど、どうかありますようにと思いながら待つこと3秒。
ガサッ
手の中に何かガサガサするものが入ってきた。シャツだと思って手を入れたのに何だろうと思いながら手を出すと…そこにはビニール袋に入ったTシャツがあった。
ビニール袋に入っているということは使ってないものだ。開けて広げてみると、茶トラのネコがハンモックに乗って寝ている絵と、“人生のんびり やまのキャンプ場” と胸のあたりに書かれていた。
あ、思い出した! リニューアルしたというキャンプ場に少し経ってから行ったとき、まだ残っているからどうぞと、このTシャツをもらったんだ。でもLサイズだったから私には大きくて、とりあえずタンスに仕舞ったんだ。
これを3枚に複製、それから拡大・縮小のスキルで一回り大きくして渡した。
Tシャツの生地は少し厚めでキャンプ場のプレゼントにしては良い物だ。3人とも、書かれている言葉も気に入ってくれたらしく喜んでくれた。リュカは『ネコっていうのがいい』と言っていた。犬だったら着てもらえなかったかもしれない。
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