79. 舞踏会を終えて
舞踏会の次の日、いつもよりかなり遅めの時間に、お休みのイアナさんの代わりに来てくれたエリンさんとの会話がおかしいと気が付いた。
「おはようございます。ルイ様。お目覚めですか?」
「おはようございます。今日はエリンさんが来てくれたんですね」
「はい、イアナはお休みをいただいています。代わりに今日は、私がルイ様のお世話をさせていただきます」
「よろしくお願いします。もう支度はできているので、朝食をお願いしたいんだけど」
「今日はゆっくりとお部屋でお召し上がりください。準備を致しますので、失礼いたします」
エリンさんが部屋の中に入って、朝食を用意してくれた。その間、先ほどのマニュアル通りの挨拶から変わって、少し友達っぽい感じで話しかけてきてくれた。
「それにしてもルイ様、何となくは気がついていたのですが、やっぱりお付き合いされていたんですね。クロアは驚いていましたが、私は驚きませんよ!」
「んん? 何の話ですか?」
「またまたぁ! あんなに堂々と踊ってらしたのに」
「堂々とは踊ってないですよ。下手なダンスを披露してしまいました」
「でもお二人はとてもお似合いでしたよ」
「2人? ジークのことですか? 似合うっていうか、彼の(ダンスの)リードはとても上手ですからね。私もそんな風(上手く踊れているよう)に見られているのかな」
「まぁ! ジークフロイド様の(私生活での)リードは上手なんですか。うらやましい限りです」
「(踊るところを)見ていたらわからないかなぁ?」
「他の人にはわかりませんよ。ジークフロイド様は少し冷たい印象がありますけど、甘い言葉をかけてくれるんですか?」
「甘い? それはわからないけど、別に冷たくはないよ。(私の踊りを)すごく褒めてくれるから一緒にいて楽しいよ」
「朝から甘々なお話をありがとうございました。ルイ様、応援していますから、お幸せにね」
「ありがとうございます?」
「ではお支度が整いましたので、ごゆっくりどうぞ」
「はい、どうも。食べ終わったらまた呼びますね」
エリンさんが部屋を退室したあと、私はしばらくの間ポカンとしていた。
「ルイ、朝食が冷めてしまいますからいただきましょうよ」
「あ、うん、そうだね。では、いただきます」
王宮での朝食は、私の分だけではなくウェンティアの分も用意されている。最近ではミカヅキの分も用意してくれるからありがたい。私は席についてとりあえず朝食を食べ始めた。
「ねぇ、さっきの私とエリンさんの会話って、変じゃなかった?」
「そうですわね。一応会話は成り立っているんですけど、それぞれが思い描いていることが違うっていうのでしょうか…」
「そうそう、会話しているのにお互い全然違うことを思っていたような感じなんだよね」
「昨日の舞踏会では何かあったのですか?」
「私にもよくわからないの…舞踏会が終わった後、部屋まで案内してくれた侍女さんも私の顔を見てにっこりして『素敵な踊りでしたね』って言ったの」
「ルイの踊りを見てそう言ったのですか?」
「ウェンティア、もうちょっとオブラートに包んで言って欲しいんだけどっ!」
「おぶらーとって何ですの?」
「あー、話が逸れるからスルーするよ。私の踊りを見て、よく頑張ったねって言ってくれたのかもしれないけど、普通は侍女さんが私に対しては言わない言葉よね」
「昨日は誰と踊ったのですか」
「えーと、最初にジークと踊って、それからリュカ、シュトリー様…」
「それは誰ですの? あー、シュトリーと言えばレンリベット侯爵家ですか?」
ウェンティア、スゴイね。貴族の家名って代々続いているから、精霊たちは結構知っているんだよね。でも3男の名前まで調査済みとは精霊って記憶がいいのかしら。
「ウェンティア、よく知ってるね。そうだよ。なぜか誘われたの」
「まぁ! ルイ、そんな方とも踊ったのですね」
「うん、それは別にいいの。それと…」
「まだ踊ったのですか? あ、わかりましたわ、フランとですね?」
「ううん、フランとは、練習で散々踊ったからもういいよねってことで踊らなかった」
「そうですわね。あんなに足を踏んづけたのですから、フランも懲り懲りでしょう」
「もう! そんなに踏んだかな…踏んだかも。ダンス練習の最初の時から付き合ってもらって、フランには世話になったよ」
「それで、あと誰と踊ったのですか?」
「最後にもう一度、その、ジークと踊ってもらったの」
「! それですわ!!」
「えっ、びっくりした」
私は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。急に大きな声を出すんだもん。驚くよ!
「ジークと2回も踊ったのですね」
「うん、ちょっといろいろあって…お願いして踊ってもらったの」
「2回以上一緒の方と踊るのは、貴族のマナーとして決まりがありますわ」
「でもそれって、連続して踊ることじゃないの?」
「もちろんそうですけど、でも連続ではなくても同じ方と2回も踊るのは同じことでしょう」
「でも2回目だと気が付く人はそんなにいないんじゃない?」
「ええ、気が付く人は少ないかもしれないですけど、2人は選ばれし者で注目の人です。気が付いた人が他の人に伝えれば、そういえば先ほど踊っていたわねと思うはずです」
「え、じゃあ、もしかして…」
「そうですわね。2人のことは、特別親しい間柄とか、もしくは婚約前提とか婚約中と思ったでしょう」
なー!んてこと! 私は食事中にもかかわらず、立ち上がってしまった。
「そ、そんな~。でも、でも、ジークは受けてくれたよ」
「ルイがお願いしたと言いましたね。ジークは貴族ですから当然その決まりは知っています。わかっていて受け入れたのでしょう」
「うわ~、謝らなくちゃ! きっと私がもう一度踊りたいって言ったから仕方なく受け入れてくれたんだよ。どーしようー」
「いえ、多分大丈夫だと思いますけど」
「そんなことないよ! きっとジークに迷惑が掛かってるよ。早く謝らなくちゃ。あー、でも噂はどうしよう。侍女さんたちだけってことはないよね。他の人達もそう思っちゃってるよね。ウェンティア、私、どうしたらいいのか…」
「ルイ、落ち着いて。えーと、そうですわね、ジークなら何とか自力で切り抜けられますわよ。噂も2,3日で収まると思いますわ」
「2,3日? そんなに短い期間では収まらないよ。私の国では人の噂は75日っていうよ」
「そんなに長くは…かかりませんわよ」
「一瞬、間があったね…でも、確かにジークなら自分で何とかしそうかな…」
「そうですわよ。ジークは…その…口数も少ないですからそんな噂は一蹴しますわよ」
「何となくそう思えてきた。でもちゃんと謝らないと、この先口も聞いてくれなかったら困るよ」
「それは全く心配しなくてもいいと思いますけど」
「なんで?」
『ねぇ、僕もう食べたよ。庭に行こうよ』
「ミカヅキ! 今大事な話をしているところなの。ちょっと待っていて」
『えー、すぐ終わるの? あれ? ルイ、まだ全然食べてないよ。早く食べてよ。遅くなっちゃうよ』
「考えていてもしょうがないですからね、早く食べてしまいましょう」
「…そうだね、わかった」
私はまた椅子に座って食事を始めた。まだ少し混乱している。こんなに慌てているのに、ウェンティアはかなり落ち着いているのは、なぜ?
私は、ウェンティアとミカヅキにせかされながら朝食を食べた。庭に遊びに行きたいというミカヅキをなだめながら、そのあと片付けに来てくれたエリンさんに、ジークと話がしたいから連絡を取って欲しいとお願いしたけれど、彼はもう王都のタウンハウスに行ってしまった後だった。
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