62. みんなで力を合わせて
「魔獣は近くにはもういないか?」
ジークは、渡したタオルで汗を拭きながら周りを警戒している。アクティオが少し高い位置から見渡していた。
『そうだな…ミカヅキとリュカがどんどん倒しているから、この近辺にはいないようだ』
「この前と大違いだ」
『前回は追いかけられてきた魔獣たちに遭遇したから多分特別だ。追われながら魔道具の臭いに引き寄せられて、というところに俺たちが出くわしてしまったんだ』
「今日はそうでなくてよかった」
ジークはすごくホッとしている。騎士団のみんなも『今日は魔獣が少ないな』と口々に言っているところを見ると、先日は相当ヤバい状況の時に転移しちゃったんだな。
「今、13時45分です」
「そろそろ配置につくか。騎士団は周りを警戒してくれ」
「リュカも呼びますか?」
「そうだな」『リュカ、そろそろ戻ってきてくれ。配置につく』
『了解した』
「戻ってくるそうだ」
リュカとの念話は仮契約をしているジークとだけ繋がっている。ジークは私にも伝えてくれた。こういうところが気が付くというか優しいよね。
そんなことを思っていると、シュタっとリュカが空から降ってきた。この人、すごい跳躍だな。獣人って目もいいし、身体能力も人族よりとびぬけているみたい。
私はリュカにもタオルを渡した。リュカも汗がすごい。リュカはタオルを手にした瞬間目を見開いたが、ジークが普通にタオルで汗を拭っているし、私も特別なことはないかのようにタオルを渡したので、リュカは何も言わずにそのまま使った。
多分『すごく柔らかい』とか『肌触りがいい』とか思ってくれていると思うんだけど、説明するのが面倒なのでスルーさせていただきました。ごめんね、リュカ!
「50分です。10分前になりました」
私は声を大きく出して、騎士団の皆さんにも聞こえるように伝えた。
みんなの顔に緊張が走る。ジークとリュカは、剣を振る練習をしている。まとわりつくような暑さのせいなのか、それとも緊張からなのか、顔に汗がつたう。
『ルイ、この辺りの魔獣はやっつけたよ! 大きな魔核も取れたからあとで持っていくね』
ミカヅキからの念話が入る。ふっと緊張が解けた。肩の力が抜けた気がする。
ふふ、ミカヅキはいつもの平常運転だね。そうだね、ガチガチに緊張していたらよくないね。
ジークも力みが抜けた感じだった。
「55分です。5分前です」
『ルキティア、そっちも5分前だな。順調だな』
『ええ、こちらは大丈夫よ。そちらからの魔獣が転移して来ないから、こちらは何もないわよ』
『よし、では予定通りに行う』
『わかったわ。予定通りに。そっちも気を付けて』
フラウスイベルの森側も大丈夫そうだね。あとは4人に任せるだけだ。ジークとリュカが魔法陣の円の縁に立つ。十文字に切るように、時計の6時と9時の位置にそれぞれ立って準備をする。
「58分、2分前」 また緊張してきた! ちゃんと時間を読まなくては。
「59分、1分前」 ジークとリュカが剣を構える。
「59分30秒」 剣に魔法をまとわりつかせ始めた。
「59分45秒」 騎士団の人たちも固唾をのんで見守る。
「59分50秒」
「59分55,56,57,58」 ジークとリュカが剣を振り上げた。
「59,ゼロ!」 ジークとリュカが剣を同時に振り下ろした。
スパーン
土を切ったのに、鈍い音ではなく何かが切れた音がした。
どうなったの? 成功なの? 魔法陣はどうなるの?
みんなの目が魔法陣に集まる。
長い時間が過ぎたような気がした。辺りがシーンと静まり返っている。不気味な感じがした…
静かだった時間は、実際は1分ぐらいだろう。しばらくするとシューという音がして、魔法陣から白い煙が上がり始めた。
それからシューシューといいながら煙が渦を巻いて行く…まるで邪悪な大きな白蛇のようだ。
どんどん煙が出て魔法陣の辺りは真っ白になった。その煙は渦を巻きながら空へと昇っていく。煙が見えなくなると…そこには何もなかった。
『おぉ、成功だ~!』 アクティオが声をあげる。
「やった、やったぞ~!」
ジークがいつものクールな様子とは違って、声を高々にあげている。リュカはガッツポーズを決めて、普段は見せない笑顔でテラティオに何かを伝えている。
「え、魔法陣が消えたのか? わー!」
ジークの声を聞いて、騎士団の人たちも喜びの声をあげた。
うわー、すごい、すごい! 2人ともやったね! 私も手を叩いて喜んだ。
「ルイ、やったぞ。ルイ、ありがとう、ありがとう!」
ジークが私を引き寄せ抱きしめた。耳元でジークが囁く。本当に嬉しそうだ。私もジークの背中をポンポンと叩いて喜びを伝えた。
この状況に気付いたジークがハッとして私を引き離した。
「すまん、ルイ。つい引き寄せてしまって…」
「いえ、大丈夫です。私も嬉しかったですから」
「え、嬉しい…」
ジークが顔を赤らめている。あれ、何か違う意味に捕らえられている気がする…
「いえ、あの、私も成功して嬉しい気持ちを共有できてよかったです」
「あ、そうだな、そうだよな…」
でも、抱きしめられて嬉しかったのも本当だけどね。言えないけどっ!
『ミカヅキ~、成功したからもうすぐ戻るよ。帰ってきて』
『え、魔法陣をやっつけたの? すごいね! わかった、戻るよ』
ジークはその後リュカの方へ歩いて行った。
「リュカ、やったな。お前もいたから成功した」
「いや…その、力になれて良かった…」
ジークが拳を上げた。リュカは驚いた顔をしたけど、すぐに意味がわかって拳をジークの拳に付き合わせた。2人の柔らかな微笑み。一緒に一つのことをやり遂げたという達成感が伝わってくる。こういう時、男同士って言葉にしなくても共有できる感覚があって、いいなぁって思うよ。
『こっちの魔法陣が消えたから多分成功しているとは思うが、一応向こう側にも確認してみるか』
「そうだな、アクティオ、頼む」
『ルキティア、そっちも魔法陣は消えたよな?』
『アクティオ! はい、消えましたよ! 成功しました! 1回で成功するとは思ってなかったので、すごいです!』
『よし、それではこの後戻る』
『ルキティアにしてはかなり興奮していましたわね。意外な一面ですわ!』
『はは、アイツも感情が高ぶることがあるんだな』
いつもは冷静なルキティアの声が弾んでいた。向こうもみんなでかなり喜んでいるんだろうな。目に浮かぶよ。
「フラウスイベルの森の魔法陣も消えた。これから戻るぞ!」
「「おー、やったな!」」
ジークが騎士団にアクティオの言葉を伝えると、みんな拳を空に掲げ、また喜びの言葉を交わした。
戻るときは携帯用ロールの転移の魔法陣を使った。ジークとリュカと私の3人で魔法陣に一緒に乗った。私は、手をしっかり握ってくれれば大丈夫だとジークに伝えたが、それは叶わなかった。男性に抱き着くなんて、本当に恥ずかしいんだけど! 自分としても、周りからの目も…。
私とジークの様子を見て、リュカがすごく変な顔をしていた。その気持ちは私もよくわかるよ! でも転移の時、体が浮いちゃうのは怖いのも確かなので…あまりこっちを見ないで欲しい。
フラウスイベルの森に転移魔法陣で戻ると、私たちを見つけたアル様が駆け寄ってきてくれた。
「ルイ、ルイ! 大成功だわ。ルイのおかげよ!」
「いえいえ、アル様たちのおかげですよ。私はただ時間を読んでいただけですから」
「そんなことない! じゃあ、私たちみんなでやったわね」
私に抱き着いた後、手を取り、満面の笑顔で喜ぶアル様も達成感で満ちている。アル様の笑顔は眩し過ぎるよ。
ジークとリュカも、フランと拳を突き合わせて、喜びを分かち合っていた。
騎士団も含め、初めてみんなで力を合わせて成し遂げた魔法陣の消滅作業は成功に終わった。みんなの気持ちが一つになれた気がして、私はとても嬉しかった。
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