5. 魔法の話
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プルルルル プルルルル
朝、スマホの目覚まし時計で目が覚めた。んん? 部屋じゃない? どこだ? と思って土壁をしっかり見て思い出した。あー、夢じゃなかった。
昨日の夜、ウェンティアが洞穴の入り口に結界を張ってくれた。何者も絶対入ってこられないという言葉を信じて安心したのを覚えている。疲れもあったのか、眠れないと思っていた昨日の夜がついさっきのように思えるほど熟睡してしまったようだ。
スマホの時計も腕時計も、朝6時を表示していた。なぜかわからないけど、時計はこっちの世界でも普通に使えるみたい。深く考えるのはやめておこう。
リュックから、食パンと、2Lの水のペットボトルを取り出す。インスタントコーヒーとマグカップ、一人キャンプ用に買った鍋とバーナーも取り出す。
毎朝、サラダも作って食べているけど、まな板、包丁、ボウル、お皿、ドレッシングなどなど、用意すると大変だし、洗うのもペットボトルの水ではもったいないので、今日はあきらめた。そのうち川の水とか雨水とか使えるだろう。もう少し生活が安定してから考えることにする。
ウェンティアと分け合って朝食をとる。ウェンティアにはコーヒーはあまり好きそうではない香りだったようで、水をあげた。
のんびりと朝を過ごし、陽も少し高くなってきたころ、私たちは洞穴から這い出て、木陰に座ってウェンティアの講義になった。少し涼しいけれど、風が心地よい。草の香りがアロマセラピーのようで癒される。
「まずは昨日、話の途中になってしまった魔法のお話をしましょう」
「そうだった! レベル5は低いのか高いのか、結局聞けず仕舞いだった。それでどっちなの?」
「レベル5は、一番高いのよ」
ウェンティアの話では…
魔力には属性があり、火、水、風、土、それと光の5属性。光は回復・治癒魔法を指す。“回復” とは弱った体や疲れを回復することに使われる魔法、“治癒” は怪我を治す魔法のことだそうで、残念ながら病気には魔法は効かないらしい。
この世界の人たちはほぼ全員魔力を持っている。その中で、レベル1からレベル3までの人がほとんどだという。普通はレベルは測定できないので、一般的にみて他の人より少し大きい魔法を使える人がレベル2ぐらい。レベル3の人は武器に魔法を付与できるらしい。そういう人たちは、給料が良い職である警備隊、騎士、護衛や冒険者に就ける。そしてレベル3の中でも自分ではコントロールできない魔力が体の外へ出てしまう人がいる。その人が選ばれし者になる素質を持っている人で、精霊が見つける。魔力が体からまとわりついているのですぐにわかるそうだ。選ばれし者は魔力を測定できる精霊によってレベル分けされる。
レベル5は本当に稀なんだそう。今までもいないことはなかったけど、選ばれし者の中にはほぼいないと思っていいぐらい。
それから、魔法は一人1属性。2属性持つ人はほとんどいないらしい。
「ルイは、レベル5なのです。属性は光属性。回復と治癒の魔法です。そしてここからがおかしいのですが、他の属性も持っています。それも全部! 他の属性はレベル2なので生活魔法ぐらいにしか役に立ちませんが、それでも5属性全部持っていることはこの世界ではおかしいのです!」
おかしいと言われてもね…異世界チートとして受け取っておこう。
「ウェンティアは風の精霊って言ってたけど、それが属性になるの?」
「そうですわ。あ、だからルイのレベル2の風属性も私と合わせればかなりの攻撃力になりますからそれは使えますね」
「攻撃力って、私も何かと戦うの? 結界を張るのに魔王を倒すとか?」
「まおう?はわかりませんが、結界を張るには、国の東西南北にある祠に “オーブ” と呼ばれる、えーと魔力増強の玉?っていうのかしら、それを納めに行かなくてはならなくて。そこへ行くには魔獣も出てくるので、戦いながらそこへ向かうことになります」
それって、ほぼ冒険者じゃない!
「私、戦いたくないな、っていうか戦えないよ。今までそんな経験したことはないし…」
「その気持ちもわかりますけど…。ただ、ルイの属性は光なので戦闘向きではないですね。魔力が多いので、他の方の補助をスキルを使って行うことになるのではないでしょうか」
なるほど、後衛で魔法付与をするポジションかな。他の人のサポートと言われてもやっぱり足がすくみそう。
「そういう戦い方もウェンティアが教えてくれるの?」
「もちろんです。そういうこともこれからやっていきますわ」
「それならまだいいけど。ねぇ、私が全属性持ってるって人には言わない方がいいんだよね」
「それは当たり前です! 絶対言ってはいけません! それを言ったらどんなことになるのか私も想像がつきません」
「わかったわ。じゃあ誰にも言わない」
「あ…でも、ルイが選ばれし者として他の4人とパーティを組むときは契約を交わすことになります」
「どうして契約までするの? 普通の冒険者はパーティを組む時は契約なんてしないよね」
「普通はそうなんですけど、選ばれし者の場合、精霊たちも一緒なので契約を交わすんです。そうすると他の精霊の言葉も聞こえるようになりますし、お互いに念話で会話をすることもできるようになります」
なんか、話の方向が違う方へ行ってる気がするけど。何の話? 何を話していたんだっけ?
「ねぇ、今、何の話をしているんだったかな?」
「ルイが全属性の魔法を使えることについてですわ」
「そうだった、っていうか、話の方向がずれてない?」
「えーとですね、選ばれし者通しで契約を交わすと、その精霊とも話ができるようになるんですが、ルイの情報も精霊には全部見えてしまうことになります」
「え、なんだって?!」
「私がルイと契約した時と同じように、ルイが異世界人であることや全属性を使えることが精霊たちに知られてしまうということです」
「そんな…じゃあ、選ばれし者には言わないように、精霊たちにウェンティアから言ってよ」
「多分…異世界人だということは口留めできると思いますが、全属性を使えることは口留めできないでしょう」
「どうして?」
「ルイが異世界人だということを教えても特に利はありませんが、全属性を使えることを教えるのはみんなにとって利になることなので、他の精霊たちはみんなに伝えるでしょう」
「そういうことか…うーん、そうね、メリットがあることならみんなで共有しておいた方がいいってことね」
「そうですわね」
「わかったわ。でも異世界人ということは隠したいと精霊たちに伝えてね」
「ええ、必ず伝えるわ」
もし、選ばれし者たちで一緒にパーティを組むことになったら、確かに最初に伝えておいた方がいいかもしれない。パーティってずっと一緒にいるのよね。そんな中で途中でバレると信用がなくなりそうだし、私もコソコソと使うのも嫌だもんね。初めから伝えておけば堂々と魔法を使えるよね。
ウェンティアとちゃんと話をしておかなくては、何かあった時にボロが出るとヤバい。慌てると不信感を持たれそう。異世界人ということは隠したいから、それだけは違う理由をちゃんと考えておかないと。
それをウェンティアに提案したら、乗り気で考えてくれた。設定としては、私はすごい田舎の出身で、この国のこともあまり教えられずに育てられ、20歳になったからとりあえず村を出てきてしまったので世間知らず、ということになった。情報もあまり届かない田舎育ちなら、世の中に疎くてもしょうがないで済まされるだろう、と願いたい。
そういえば、この国の名前をまだ教えてもらってなかった。まぁそのうちわかるでしょう。
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