52. 出発
魔獣を討伐する第2騎士団、12名の出発する日がやってきた。騎馬隊の6名は、前に4名、後ろに2名つき、その間には馬車が3台挟まれて移動する。
私たちより1日早く先行してワーズコートの街に行く第2騎士団の出発式に私も参加した。陛下を始め、お城の人たちで彼らを見送る。
ノーゲン団長から、昨日持って行った回復薬のお礼の言葉を受けた。『こういう心遣いがとても嬉しいのです』と豪快に笑う団長の顔は、これから討伐に行くとは思えなかったが、馬に乗り一番前で騎士団を率いる様子は人が変わったように勇ましかった。
第2騎士団の12名はお城の東の門から王宮の人たちの歓声を受けながら、意気揚々と王宮を後にした。
次の日、今度は私たちが見送られる番だった。昨日の夜はちょっと興奮して眠れなかった。
初めての4人での行動。厳密に言うと私たちだけじゃなくて第2と第3騎士団もいるけど、4人で何かをするというのは初めてだ。
あと、5人目の選ばれし者はどんな人だろう。知らない人と仲間になるって結構不安だな。みんなも私を探しているときはこんな気持ちだったのかな。そう思うと早く名乗り出なかったことをちょっと申し訳なく思った。
出発する馬車のところに行くと、騎士団の人たちはもう準備をしていた。
「ルイ様、おはようございます」
「おはようございます。ルイ様! 今日からよろしくお願いします」
先日顔を合わせてあったこともあり、護衛の第3騎士団の人たちから声をかけられる。和気あいあいな感じがいい雰囲気になっている。
そこへジークもやってきた。なぜか速足でこっちに向かってくる。朝食の時には機嫌が良かったのに、あれ? 眉間にしわ?
「ルイ、なぜ騎士団はルイのことを知っている」
「ジーク、お疲れ様。先日騎士団の練習風景を見に行ったときに少しお話したの」
「むっ、ルイは騎士団の練習に興味があるのか!」
「いえ、そういうわけじゃないけど…第2騎士団に回復薬を持って行ったの。その時に練習風景なんて見たことがなかったから少し見せてもらっただけだよ」
「よう、ルイ、ジーク。独占欲が強いと嫌われるっすよ、ジークさん」
「フラン、独占欲?って何?」
「そうではない…」
私にはよくわからない会話を、少し遅れてやってきたフランとジークが交わして、その場は終わった。ジークが少し怒った感じで騎士団長の方に挨拶に行ってしまったからだ。
「ジーク、朝はそんな風ではなかったのに、今日は機嫌が悪いのかな」
「そうかもね。でも大丈夫っすよ」
そのあとアル様も来て、出発式となった。陛下から直々のお言葉をいただき、残った騎士団の方やお城で働いている人たちから応援の言葉をもらいながら馬車に乗り込む。イアナさんやセリカさん、エリンさん、クロアさんの姿もあったので手を振った。友達っぽい感じでちょっと嬉しかった。
馬車が動き出した。王都の街を見るのは初めてだ。通る道は王都の東側で、市街から少し外れた街道なので、王都の賑わいを見ることはできなかったけど、それでもワクワクする。初めて座る馬車の椅子もクッションがあって快適だ。私は窓の外の景色を楽しんだ。
…なんて思っていた時もありました。
私達一行は王都を離れ、整備された道も終わり、土を均しただけの道路になると馬車に伝わる振動が激しくなった。これ、いつまで続くのかしら、と思うほどどんどんつらくなってくる。特にお尻が…。
私が持っている折り畳みの自転車の方がよほど乗り心地がいいんじゃないか、と思えるほど揺れがすごい。
みんなも初めは色々話していたが、ここにきて無口になった。多分痛みをこらえているんじゃないかな。
少し大きめな石に乗り上げたのか、馬車が “ばこん” と飛び跳ねたところで私の限界が来た。これは、何か対策をせねば…
私はリュックから家で使っていたドーナツ型のクッションを引き出す。複製のスキルで同じものを作り出した。
「私、お尻が痛くなってきたので、これに座りますが、皆さんも使いますか?」
「私も欲しいわ」
「じゃあ、俺たちも頼む」
やはり、みんな感じることは同じね。複製で全員分のクッションを出した。
「こんなクッション、初めてだわ」
「いいっすね、いいっすよ」
「これは…体に感じる揺れが全然違うな」
「なんだ、お前たち、お尻が痛かったのか。何も話さなくなったから心配したぞ」
「アクティオたちはいいよな。宙に浮いているっすもん。この振動をあげたいくらいだ」
「揺れ 嫌い」
「私たちも好きじゃないわよ。でもこれが一番早い移動なの。帰りは絶対転移魔法陣で帰りたいわね」
「アル様、一つで足りますか? 何個でも出せますけど」
「ん?! 今は一つで十分だわ。それよりまだ私のことアル様って呼ぶのかしら」
「あ、いえ、あの、すみませんっ」
油断した! 心の中でアル様と呼んでいたのがそのまま口に出てしまった。アル様の顔つきがちょっと怖くなっているような…
「私はルイにも同じ仲間として見てほしいの」
「ごめんなさい。わかっているんですが、アルと呼ぶのはちょっとハードルが高くてですね…」
私としても色々呼び方を考えてみた。子供のころの私は “ルイッぽ”と呼ばれていた。それが“ルイぽ”になり、そのうち“ルイぽん”になっていた。
アル様も“アルぽん”とかどうかなと思ったけど…多分呼んだ瞬間に私の頭と胴体が離れているような気がする。それは嫌だ~! やっぱりアル様はアル様なんだけどな…
「アル様というのは、皇女様だからというよりは、“お姉様”という意味で親しみを込めて私は呼んでいます。一緒にいろいろ話せる姉が欲しかったので、そんな気持ちになってしまって」
「あら、ルイはお姉様が欲しかったの? そうなのね。そう…わかったわ。そういうことなら私のことはアル様って呼んでもいいわよ。特別に許してあげます。私もルイのような妹ができて嬉しいわ」
「アル様! ありがとうございます!」
そこで、ミカヅキが頭を出した。
『ねぇ、僕、外を走ってみたい。いいかな?』
「おお、びっくりした。急に頭を出すなよ」
『フランには迷惑かけてないよ。ねぇダメかな』
「迷惑かけてないって…びっくりさせたっすよ!」
「もう少しで休憩のために止まるだろう。そうしたら護衛に聞いてみよう」
『やった、ジークはやっぱり優しいね』
そういうとミカヅキはまた影の中に隠れた。
「ジークばっかり株が上がってずるいっすよ」
「別に普通に会話しただけだ」
ふふ、ミカヅキはペンダントをジークからもらった時に『いい子だ』と言ってもらえたことが嬉しかったらしくそれ以降ジークのことをとても良く思っている。ミカヅキの中でどんどんジークの株が上がってるね。
ジークは出発式の時は機嫌があまりよくなかったけど、今は大丈夫みたい。よかった!
ジークが休憩の時に護衛の騎士さんたちに話をしてくれた。びっくりされたみたいだけど、従魔なら大丈夫でしょうということで、そのあとの移動ではミカヅキは外を歩いた。先頭に行ったり、馬車の横を歩いたり、鳥を追いかけたりと、なかなか楽しそうだった。
立ち寄った村で昼休憩を取りながら、陽が暮れる前の少し早めの時間に今日泊まる宿に着いた。馬も走りっぱなしでは疲れてしまうので、早めに宿で休ませるようだ。宿はあらかじめ第2騎士団が探して予約をしてくれてあったので、スムーズに宿に行くことができた。
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