34. お部屋に案内されました
柱が立ち並び風が通る渡り廊下を歩いて行くと、その先に男性2人と女性一人が私たちを出迎えてくれていた。
「ファイネスト伯爵、ご同行お疲れ様でした」
「執事長、出迎えありがとう。風の精霊に選ばれし者、ルイ・オウカ嬢をお連れした」
「オウカ様、私はリーガル城来賓担当の執事長、デュワースと申します。この度は選ばれし者様としてご登城いただき誠にありがとうございます」
「初めまして、ルイ・オウカです。よろしくお願いします」
「こちらにおります侍女、イアナがオウカ様のお世話を致しますので何なりとお申し付けください」
デュワースさんが紹介すると、イアナと呼ばれた女性が頭を下げた。つられて私も頭を下げる。
「それで、この後ですが、事前に打ち合わせをしました通りに進めてよろしいでしょうか」
「ああ、問題ない」
「では、ご案内いたします」
「ルイ、ここからは別行動だ。昼食を一緒に取るから、その時また会おう」
ジークさんはそう言うと、そこにいたもう一人の男性と一緒に廊下を歩いて行ってしまった。えー、ジークさんと別行動なの? めちゃ心細いんですけど。
「ではオウカ様、ご案内いたします。こちらへどうぞ」
「はい、よろしくお願いします」
こんなところで迷子になっても恥ずかし過ぎる。私は不安な気持ちを抱きながら、デュワースさんとイアナさんの後について歩いた。
デュワースさんは50歳前後くらいだろうか。執事長と聞くとロマンスグレーのひげを少しはやしたおじ様を思い浮かべるけど、デュワースさんは赤茶色の短くカットされた髪の、いかにも仕事ができます!って感じのおじ様だ。背が高くてスラっとしていて姿勢がいい。イアナさんは青みがかった髪をお団子にしていて、少し丈の長いスカートのメイド服がよく似合っている。年齢は私と同じくらいかな。
少し歩くと階段があり2人に続いて上がる。建物の中の廊下も階段も絨毯が敷いてあり、フカフカだ。階段を上がった先の廊下に窓があり、差し込む光に照らされていた。
「この後はお部屋にご案内いたします。お泊りいただくお部屋になりますので、荷を下ろしおくつろぎください。お昼頃にまた伺います。他の選ばれし者様と顔合わせを兼ねてご一緒に昼食となります」
「わかりました」
廊下を歩きながら説明を受ける。私は特に何も言うことはないので簡潔に答えた。
『どんなお部屋なのかしら』
『でもウェンティアは前も来たことがあるんでしょ?』
『そうですけど、必ず同じお部屋ということはないでしょうし、久しぶりですからね』
『私はこんな豪華なところ、初めてだから緊張しまくってる…』
ウェンティアと話しながらついて行くと、あるドアの前で2人が止まった。
「こちらのお部屋をお使いください。侍女は外で待機しておりますので、御用がございましたら部屋にあるベルを鳴らしてください。では失礼いたします」
デュワースさんはそう言うとイアナさんに一声かけて行ってしまった。イアナさんは、デュワースさんの後姿を見て呆けている私のために部屋のドアを開けてくれた。あ、入れってことなのね。部屋に入ると自動ドアのように閉まった。
「うわー、素敵なお部屋。こんなお部屋でちゃんと眠れるかな?」
ビジネスホテルの3倍はありそうな部屋に、ベッドとテーブルセットが置いてあった。手前には机と、小さいけれど鏡台も備えてある。私はリュックを机の上に置き、ウェンティアと一緒にベッドに寝転がった。
「きれいなベッドだね。こんな部屋には泊ったことがないよ」
「でも、布団はルイの持っている方がフカフカですわ」
なかなか厳しいウェンティア。でも顔は嬉しそうだから、気に入ったみたいね。腕時計を見ると11時。あと1時間くらいはのんびりできそうだ。ミカヅキも呼んで、3人でくつろぐ…。
なんて、くつろげない! だってこの後あの3人組と昼食会なんだよ。私、その3人と同席するの? 一緒の空間? 会話は? え、どうするの? うわ~!!
そんな気持ちを落ち着かせるために、ミカヅキの背中に顔をうずめる。ミカヅキの匂いで緊張をほぐしていたら、1時間なんてあっという間に過ぎてしまった。
もうそろそろ呼ばれるかなと、ミカヅキには隠れてもらい、鏡を見ると…私って地味だ!
この部屋の豪華さに対して、私が着ている服ってめっちゃ地味に見える。もうちょっと派手な方がいいのかな。
と言っても私の持っている服なんてザ・シンプルがほとんどだ。何か派手そうな服ってあったかな、と思いながらリュックに手を入れると、スパッと布が手に飛び込んできた。持ち上げてみると…え? こんな服、持っていたかな。そこにはミント・グリーンのフリルの付いたブラウスがあった。
考えることしばし…あ!そうだ。一昨年の冬、お気に入りの服屋の福袋が店頭に置いてあって、何となく買ってしまったのだ。中には、ラッキーな服もあれば多分着ないだろうという服もあり、この服はその着ない方の服。フリル付きのブラウスなんて一生着ないだろうと思いながらもタンスに仕舞ったのを思い出した。
この部屋の雰囲気に惑わされ、ブラウスの袖に手を通してみる。服だけ見るとなかなか可愛い。胸元と袖口にフリルが付いている。よく見ると薄く花の模様があり、服全体に花弁が舞っている。お気に入りのお店の服だから形は好みなんだよね。偶然だが、色が今はいているスカートにもマッチしている。
「あら、ルイ。見慣れない服を着ているわね。でもそういう感じもとっても似合うわ。これからはそんな服も着てみるといいわね」
「そうかな、変じゃない?」
「とってもルイに似合っているわよ。私はそういう服の方が好きかしら」
ウェンティアに褒められた! お嬢様風なウェンティアにしたら、確かに彼女好みかもしれない。こんなところでこの服が役に立つとは! さすが福袋!
トン トン
「オウカ様、昼食のお時間でございます。よろしいでしょうか」
おっと、お迎えが来てしまった。ちょっと恥ずかしい気もするがこの服で行ってみよう。どうぞと返事をする。
ガチャとドアが開くとイアナさんが立っていた。
「お待たせいたしました。準備が整いましたので、昼食の席にご案内いたします」
そう言って彼女は私に微笑んだ。私を見ても何も言わないし笑わないから、多分私の恰好は大丈夫だろう。
ドアから出るとまたイアナさんがドアを閉めてくれた。人にやってもらうことに慣れないので、大変申し訳ない気分だ。
そう思いながらイアナさんの後について、私はあの3人の待つ場所へと歩き出した。
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