31. 宿屋の女将 テルナ 2
前回のお話からの続きになります。
今回もテルナ視点でお話が進みます。
評価を頂きました。
ありがとうございます。
次の日、スタウトさんは朝食を済ませると早々に宿を出て行った。馬車と合流して、また商隊の護衛に戻るらしい。
そしてその後すぐに、スタウトさんと入れ違いでルイとジークさんが帰ってきた。こっちも急いで帰ってきてくれたみたい。
「テルナさん、ダリルさん、戻りました。ご心配をおかけしてすみません」
「おかえり、ルイ。それとジークさん。伝言をもらって良かったよ。2人とも大変だったね。疲れたでしょう」
「ルイを一緒に連れ回してしまいすまなかった。とりあえず無事に帰ってきたことで許して欲しい」
ルイもジークさんも頭を下げている。私に謝られても困るよ。2人が無事ならそれでいいんだから。
「ジークさん、謝らないでください。2人の活躍は聞きましたよ! 人助けなんてそう簡単にはできませんよ。あなたたちはすごいことをしたのよ!」
「そう言ってもらえると助かる。それで、ご主人もいるか?」
「主人ってダリルかい? ええ、いますけど」
「お二人に少し話があるんだが、今、時間は大丈夫か?」
「今なら多分大丈夫だと思うわ。呼んでくるわね」
話ってなんだろう? え? ジークさんとルイ、そしてダリルと私…。えっ? 一晩一緒にいたら2人は意気投合しちゃったとか? えー? どうしましょう。
『結婚なんてルイにはまだ早い!』とか言っちゃう? ダリルも『娘はまだやらん!』とか言っちゃったらどうしよう。あ、ルイは私たちの娘じゃなかったわね。私ったらついつい嬉しくなっちゃって。
あら? 私、ルイとジークさんが一緒になればいいなと思っているんだわ。そういうことなら早くダリルを呼んでこなくちゃ!
ダリルと一緒に店内へ戻ると、そこにはジークさんとルイが心配そうにこちらを見ていた。うんうん、お似合いの2人だわ。それから4人、席に着いた。
「それで、俺たちに何か話があるって?」
「はい、まずはご主人にも。昨日はルイを連れ回してしまいすまなかった」
「いや、いいんだよ。あんたたちも大人だ。何をすべきかをわかっている。2人が無事ならそれでいい」
「そうだな。わかってくれてありがとう。それで本題だが、実は俺は…選ばれし者なんだ」
「え? え? えー! え、えら、えらば…」
「おい、テルナ、落ち着け。“え” しか言ってないぞ。ジークさんは選ばれし者様だ」
「なんで…こんなところに…えら、えらば…というか、あんたは何で驚いてないのよっ!」
「いや、俺も驚いているぜ。でも昨日来た男が言っていただろう。スゴイ魔法だったって。同じ冒険者なら魔法の程度もわかる。それがもっとすごいと言っていたんだ。確信はなかったがそうかもな、とは思っていた」
「そういうものなの? あんた、なかなか鋭いのね。それで、ルイも驚いたのかい?」
「え、あの、私も実は選ばれし者なんです。すみません、今まで黙っていて!」
「え、ルイ? 今なんて言ったの?」
「ですから、私も選ばれし者で…すみませんっ…」
「え? え? えー! ルイも? ルイもそうなの? こんなところに、2人も、えら、えらば…」
「お前も察しが悪いなぁ。ジークさんがわざわざ俺たちに正体を明かすわけないだろう。ルイも選ばれし者様で、一緒に行くことになったからここを出ていくってことだ」
「はい、本当に良くして頂いたのに、中途半端な感じで申し訳ないんですけど…」
「ルイの働きっぷりは良かったからな、もうちょっといてもらえると良かったな。でもお前にもお前の事情ってもんが、あったんだろう?」
「はい、その…ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるルイ。そのルイが選ばれし者様だって?! おまけにジークさんまで?
私は話の展開に気持ちが追い付かないよ。それに比べてダリルはほとんど表情を変えていなくって、平然としていて、私ばっかりオロオロして…ちょっとムカついてきたね。
「ねぇ、だから何であんたはさっきから全然驚かないのよ! ルイのことも知っていたの?」
「それは、最初はわからなかったさ。ルイは従魔がいるのか?」
「え? それは…はい、います…バレてました?」
「これも確信はなかったが、朝早い時間に仕込みや仕入れがあった時、離れから違う気配を感じたからな。これでも昔は一応冒険者をやっていた」
「すみません、勝手に動物を離れに入れちゃって…」
「いや、いいんだ。従魔は大切な家族だからな。あとな、薬は冒険者でもあんなに多くは作れん」
「そうなんですか? 知らなかった…。作れば売れるから何も考えずに作っていました」
「ルイが選ばれし者様で従魔もいて…ダメ、頭が沸騰しそう!」
さっきまで、ルイとジークさんが一緒になればいいな、なんて思っていたのが笑えるほど、話の内容が全然違うんだけど! というか『一緒になります~』っていう話題の方がよかった! 話が大きすぎて何が何だか…
それにしても、こんなに身近に選ばれし者様がいたなんて…。結界を張っているところを実際に見てるわけじゃないから、選ばれし者様なんて物語の人のように思っているところがあったのよね。でもこんな若い人たちが私たちのために働いてくれるんだわ。
時折顔を見合わせながら話をする2人。私が思うに、多分2人は昨日ほとんど初めて会話をしたと思うのよね。まぁそんな2人を一緒に森に行かせてしまった私も私だけど。でもまるで前からの知り合いのような雰囲気に、この2人には何か特別なつながりがあるのだろうと思わせる。
ルイとジークさんが選ばれし者様だったなんて本当に驚きだけど、この2人なら大丈夫、とも思えちゃう。
そんな人たちと知り合いだなんて、人生ってわからないものね。
ダリルはどうして言ってくれなかったのかしら。この人、勘は鋭い人なのよ。あまり話してくれないからわかりにくいけど。そういえばこの人って、憶測で物を言うタイプじゃなかったわね。ルイのことは確信がなかったから何も言わなかったんだわ。もう、そういうところが男気があるっていうか、私と違うところでこの人に惚れちゃったのよね~。
「それで、ルイはもう発つのかい?」
「いや、俺も昨日、ルイが選ばれし者だということがわかっただけで、まだ王宮に何も報告していない。俺だけ先に戻って準備をして…となると半月ほどは時間がかかると思う。だからルイが行くのはもう少し先だ」
「そうなのね。じゃあ、あと半月はルイと一緒にいれるんだね」
「テルナさん…はい、あと半月、しっかり働きます!」
「ふふ、そういう意味で言ったんじゃないけどね。でもそうだね、しっかり働いてね」
ジークさんはルイに『また迎えに来る』と言って帰って行った。その言葉だけ聞くと、わぁ!と思うけど、実際は全然違う意味なのよね。ルイもちょっと顔を赤らめているから勘違いしそうになっているよ。罪な男だねぇ。
それからは、忙しくなってきた日々の仕事に追われ、半月なんてまだ日があると思っていたけれどあっという間に過ぎて行った。
そして約束の日の2日前、私とダリルはルイの送別会を開いた。『私のことは気にしなくていいから』とルイは遠慮がちだったけど、顔が驚きと嬉しさの表情だったからやってよかったと思ったね。
送別会は、近隣の人たちや、ルイと関わっていた人たちに声をかけた。みんな時間の都合をつけて来てくれたよ。食堂がいっぱいになり、歌を歌う者、飲んでルイに淡々と人生について語る者、ルイとお別れするのが悲しいと泣く者など、それぞれのお別れをした。盛り上がってくると踊りだす者が出てきて、そのうちみんなで踊りだし、ルイも引っ張りだされて一緒に踊っていた。送別会だったけど、みんな笑顔だったよ。
ルイとお別れをするのは寂しいけれど、最後に楽しい思い出ができて良かったわ。半年ほどの短い期間だったけど、ルイは真面目で働き者のいい子だった。静かな子だったけど、ちゃんと目を見て話してくれる優しい子だった。これからは国のために大変な思いをするだろうけど、このディングルの街から応援している人がたくさんいるということを覚えておいてね。
そしてついにお別れをする日がやってきた。
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