27. 『おやすみ』と『おはよう』
久しぶりのキャンプ(自分の中ではすでにキャンプになっている)だったので、ついつい前の世界の物をバンバン取り出して、ジークさんにも一緒に使わせてしまった。初めは『こんなもの、見たことがない』と言っていたジークさんだったが、エアマットと寝袋を出した時点ではもう諦めたのか『これはどうやって使うんだ?』と何事もないように聞いてきてくれた。
私も初めは何とかごまかそうと口実を考えていたけど、途中から楽しい方が大きくなってごまかすとかそんな気持ちもどこかへ飛んで、単純にキャンプを楽しみ始めてしまった。
ジークさんは、すごく不思議に思っているだろうけど、何も聞いてこない。こちらとしてはありがたいが…。いろんなことを考えてくれて、私に気を遣ってくれているのがわかる。心の大きな人だな。
そんなことを考えながら寝る支度をジークさんに教えていた。
アクティオは、見廻りも兼ねて適当に寝ると言って、飛んで行ってしまった。ウェンティアは、木の根のくぼみにタオルを敷いてあげて布団を作ってあげた。そして私は、ジークさんと並んで寝袋に入っている。この状況は…今は考えることは放っておくことにした。
こんなに大勢の人たちと一緒(の空間)に寝ることはないので、周りが気になってしょうがない。体は疲れているような気はするが、どうも寝付けなかった。
「ルイ、眠れないのか?」
「ジークさん、はい…他の人と一緒に寝るのは慣れていないので、気になるというか…」
「…手を貸してみろ」
「手、をですか?」
ジークさんが手を出して、と言うのでもぞもぞと寝袋の中から手を出す。
横になってジークさんと向かい合うのは、ちょっと…ビジュアルが…目のやり場が…もっと目が冴えそうなんですけどっ!
なんて思っていたら、ジークさんに手を取られ、両手で包まれてしまった。
「な、なにを…!」
「やはり少し冷たいな。眠るときは手を温めるといいんだ。まだ幼い頃、俺が寝付けなかったときは、ばあやがよく手を握って寝かしつけてくれた。手を温めておくから、目をつぶるといい」
「あの、それ、ちが…もぅ…!」
それって、手が温かいと眠いってことで、え? だから手を温めると眠れるってこと? あーよくわからなくなってきた! ジークさんに『それは違うと思う』と言いたかったけど、少し微笑んで手を包んでくれるジークさんの顔を見ていたら、違うとは言えなくなってしまった。私は幼い子供ですか!
それにしても、ばあやがいたなんて! さすが貴族様です。こういうことを純粋に正しいと思っているところが憎めないよね。でも、あなたにそうされると、全然眠れないんですけどっ!
私は『眠れない!』と思いながらも、目の前のジークさんも見られず、俯き加減で目を閉じた…。
ブルルルルルル ブルルルルルル
枕の横に置いてあったスマホが振動した。
『う、うーん、朝だ…結局あのまま寝てしまったな~』
昨日の夜、ジークさんに手を温めてもらった。そんなことをされたら絶対眠れない! と思っていたが、目をつぶっていたら、じわじわと温かくなる手が心地よくて、結局いつの間にか寝てしまったらしい。ばあやの知恵袋はどこの世界でも、やはり理にかなっているみたい。
私は伸びをしてから起き上がった。スマホの目覚ましは起床時間を変えてなかったので、いつもと同じ時間に鳴った。まだ少し早い時間なので、他の人も起きている人は見張り番をしてくれていた人たちだろう。ジークさんも眠っていた。
いそいそと寝床を片付けて、少し離れたところで顔を洗った。それからこっそりと着替えた。
着替え終わったところにミカヅキが顔を出した。
『おはよう、ルイ! 早起きだね』
「おはよう、ミカヅキ! そういうミカヅキだって早起きじゃない」
『ルイが起きれば僕も起きるよ!』
「昨日は一人で眠ったんだよね。ごめんね。ミカヅキ、おいで!」
『僕は大丈夫だよ』
ばふっ
ミカヅキが私の腕の中に飛びこんできた。うーん、モフモフだ~。ミカヅキの首に顔をうずめる。ミカヅキの匂い、可愛い匂いだ。今日も頑張れる!
ミカヅキをブラッシングしてあげてから戻った。ジークさんはまだ眠っている。もうちょっと寝かせてあげよう。その間に朝食の用意だね。
火種をもらってきて、昨日作ったなんちゃって竈に火を起こす。鍋を置いてお湯を沸かしておこう。もらったパンがまだあるからそれを焼いて、パンにつけるものは…おぉ、先日作って保存用にと入れておいたベリーのジャムがあるからそれにしよう。シチューの固形ルーも少しあるな。その中に、昨日のマッシュポテトの残りを入れてジャガイモのスープにしちゃおう。あとは頂いた冬越リンゴでいいかな。
料理をしている間に、周りの人たちが起き始めた。でもジークさんはまだ眠っている。
そろそろ起こした方がいいかな。みんな起きているのに自分だけ寝ているなんて、私なら嫌だと思うから。
「ジークさん、ジークさん、朝ですよ」 寝袋から出ている肩を叩きながら起こしてみる。
「う、うーん、まだ寝る…」
な、何ですと! ジークさん、朝は弱いのかな。これは手ごわいかもしれない。
「ジークさん、起きてください」 ちょっと体をゆすってみる。
「うーん、ジェムソン、可愛い声を出してもダメだ…」
ジェムソンって誰? 男の人の名前みたいだから侍従さんかな。可愛い声って私と侍従さんを間違えてる?! それって…微妙だな… そういうことなら、ちょっといいかな。
「坊ちゃま、朝でございます。お目覚めのお時間です」
「まだ時間じゃない…ジェムソンは意地悪だな…」
すごい、ちゃんと反応している! やっぱり家では “坊ちゃま” と言われているのかな。
いけない、いけない。ちゃんと起こさないとね。
「ジークさん、みんなも起き始めていますよ。さぁ起きてくださ~い」
「起きれない…もう少し…寝る…」
全然ダメだ! というか、この少し甘えた感じで無駄な色気が出ているモヤモヤがヤバい。侍従さん、こんなジークさんを毎朝、相手しているのかな。それはある意味すごい! でもそろそろ本気で起こした方がいいね。
「ジークさん! 朝です! おっきってっ!」
私はジークさんの肩を揺らして、耳元で少し大きめに声をかけた。
「もう、朝なのか…」
ジークさんが薄っすらと目を開けた。上からのぞき込んでいた私と目が合ってしまった。
「!」
一気に覚醒した(と思われる)ジークさんが、目を開けた。
「おはようございます、ジークさん」
「お、おはよう、ルイ…俺、何か、言ってなかったか…?」
「え、な、何も…」
「なぜ目を逸らす…」
「そんなこと、ないですよ~」
「やっぱり、俺、何か言ったんだな!」
「いえ、起きたくないって可愛らしい言葉しか言ってませんでしたよ」
「はっ、あー、ルイ、お願いだ、忘れてくれっ!」
「大丈夫ですよ、テルナさんにしか言いませんから!」
「ルイ~っ!!」
寝起きのジークさんがちょっとかわいくて、からかってしまった。ふふ、少し距離が近づいた感じがする。
「ほら、顔を洗って着替えてきてください。朝ごはんにしましょう」
「…いつもはちゃんと起きるんだ。今日だけ起きられなかったんだ。本当だ」
「わかってますよ。昨日は魔力をたくさん使ったので、体が疲れていたんでしょ。私も起きるのは辛かったですから。ささ、片付けますから向こうで顔を洗ってきてください!」
ジークさんが顔を洗っている間に、寝床を片付けて、昨日のキャンプセットを用意する。紅茶を入れているとジークさんが戻ってきた。
「昨日の足ふきといい、ルイの持っているタオルは本当に柔らかいな。これに付いているのは牛か? それにしては耳が丸いぞ。それに牛にしては足が短いな。尻尾も変だ」
「いえ、それはクマですけど…。それより、起きたばかりですけど朝食は食べれますか?」
「ああ、問題ない。朝食を作ってくれたのか」
「はい、簡単ですけど。では食べましょう」
「ルイ、何か怒ってるのか? 朝起きなかったのは悪かった」
「何も怒っていません。早く食べましょ」
ジークさんのために朝は可愛いタオルを用意したのに! 耳も足も尻尾も違うなら、それ、全然違う動物ですから! 牛と間違えるなんてあり得ないっ!
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