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穴から落ちたソコは異世界でした  作者: 森都 めい
第6章 選ばれし者
118/119

117. 年渡り祭 4

お読みいただきありがとうございます。

『年渡り祭』の最終回です。

今回はいつもより少し長めになりました。

ルイとジークのラブラブな二人を見守っていただけると嬉しいです!


 亀の歩みのようなのろのろとした移動をして、やっと祈りの列の最前列に来ることができた。

 像を見上げると一段と凛々しく見えた。今日はイニティラウタス様についていろいろと話が聞けたおかげで見方が変わったからかもしれない。


 私はジークと共に赤いじゅうたんの上で膝間着いた。左手を握って拳を作り、それを覆うように右手を添える。少し俯き目を閉じて感謝の気持ちを心の中で思う。


『この1年、仲間と一緒に旅をして、いろんなことを経験しました。この仲間に会わせてくれてありがとうございます。彼らとならこれからも立ち向かっていけます。オーブも一つ納めることができました。無事に年を越せること、渡れることに感謝します。来年もどうぞお力添えください』


 少し長くなってしまったかな。1年を振り返っての報告と感謝、どさくさに紛れてお願いもしてしまった。詰め込み過ぎた感はあるけれど、まぁ願うだけならいいでしょう。

 そう思いながら目を開けようとした瞬間に頭の中に重厚な声が響いてきた。


『ルイよ、元気な姿を見ることができ何よりだ。この世界に同意もなく渡らせてしまったが、馴染んで前向きにやってくれているようで私も胸をなでおろしておる。落ち着いたらそなたには頼みたいことがある。その時は使いを出すのでよろしく頼むぞ…』


 は?! 今の声は…誰??? 声が消えて思わず目を開ける。というか、多分目の前にいるイニティラウタス様というお方…しかいなくなくない?!


 私は恐る恐る視線を上げてイニティラウタス様の像を見る。そこにいるのはただの像で、すました顔で前を見つめている。前回来た時のようなウィンクはしないし何も動かない。さっきは凛々しく見えると思ったけど前言撤回! 普通のおじさんだったねっ!

 だけど頼み事って何だろう…。いやいや、私なんぞに何ができよう。前回は見間違い、今回は私の聞き間違いだね。即効忘れよう。私は何も聞いていない!


「ルイ、もういいか? ちゃんと感謝の気持ちを伝えられたか? そろそろ次の人たちに席を空けよう」

「うん、もう十分です。ジークも良ければ行きましょう」


 先ほどまで綺麗なバルーンにすごく感動していたのに、急にどどっと疲れが…。

 ゆっくり進んだ行きに対して帰りはスムーズに神殿から出ることができたのはよかった。私はのどが渇いたとジークにお願いして、神殿の前の広場にある屋台でお茶をする。ずっと立ちっぱなしだったから座れるベンチと魔道具の暖房器具がありがたい。ジークはホットミルクラム酒。それも美味しそうだけど、眠くなっちゃうと困るから私は普通のホットミルクにした。今は甘いものが欲しくて砂糖を入れてもらう。甘さが体に染み渡る~。


「ルイ、大丈夫か? お祈りの後、あまり元気がなさそうに見えたが」

「大丈夫です。今年はみんなで旅に出たし、ちゃんとオーブを祠に納めることができたんだなぁと思い返していたらいろいろ思い出しちゃった」

『そうでしたわね。水属性の祠に行って。みんな、よく頑張りましたわ』

『だけど、オーブはまだ4つもあるからな。まだまだこれからだ』

「俺たちの旅の終わりはまだ遠い。これからもよろしく頼むぞ」

「はい、こちらこそ!」

『俺たちからも頼むぞ』

『ルイは人一倍できる子ですから大丈夫ですわ。それよりアクティオ、足を引っ張らないようにお願いいたしますわ』

『俺が~?! ウェンティア、前々から一言、言おうと思っていたんだがな!』


 仲の良い?精霊たちは私たちの周りを飛び回っている。2人もいつもと違ってとても楽しそう。私は少し冷めてしまったミルクを飲みほした。


「そろそろ精霊の光を用意しておこう」

「もうそんな時間?」

「いや、もう少し時間はあるが、年渡りの時間に近くなると人々が店に群がるからな。悪いがルイのバッグに入れておいてもらえるか?」

「もちろん!」


 精霊の光を放つのは楽しみだけど、それはつまり、今日という日が終わるということで。まだまだジークと一緒にいたいという気持ちが膨れ上がる。『もうそんな時間』と聞いた私の言葉は、もう終わりの時間なのかという意味も含んでいたけど、ジークには気が付かれてないみたい。


 イニティラウタス様からのメッセージは誰にも伝えないでおこう。ジークに言えば多分心配するだろうし、アクティオに言うときっと根掘り葉掘り聞かれて大変になりそうだし、ウェンティアに言ったら絶対大騒ぎして手が付けられないことになりそうだし。

 うん、やっぱり忘れよう!


 精霊の光はどこで買っても同じ。国が管理しているらしく、物も値段も統一されている。お茶を飲んだ屋台の隣の屋台で売られていたのでそこで2つ、購入した。今日は全部ジークがお金を出してくれているので、これだけは買わせて欲しいとお願いして私がお支払い。


 屋台のおじさんの説明によると、精霊の光の外側はフィカスという木の樹液を膨らませたもの。直径10センチくらいの透明な球体で、風船のように柔らかくて軽い。中にはベリシュという木の実の種が入っている。白くて丸い種だ。魔力を与えると少し熱を出しながらかすかに光る。よく見ると透明なほおずきのようで可愛い。私はそれを大事にリュックに仕舞った。


「ゆっくり見ながら東区の広場へ歩いて行けばちょうど良い時間になるだろう」

「うん、冷えてきたし動きたいな」

「そうだな。寒いのはしょうがないから、すまんが我慢してくれ」

「寒いのはジークのせいじゃないし! でもまた腕に掴まらせてもらっても…いいですか。暖かいから…」

「ん…もちろんだとも」


 ジークが腕を出してくれた。私はその腕に手を絡ませる。言葉にすると恥ずかしい。2人とも照れてしまったので、お互い笑ってごまかす。そしてゆっくりと歩き出した。

 周りにはアクティオとウェンティアが楽しそうに飛んでいる。ミカヅキが出てこられないのは寂しいけれど、ジークの温もりに幸せなひと時を感じた。




 東区の広場に着くとたくさんの人! こんな真夜中だけどみんな出掛けるんだね。屋台も多く、特に精霊の光を売る屋台には途切れることなく人が寄って来ていた。


 家族で来ている人は少ない。精霊の光を放つのは、この場所に来なくてもどこからでもいいので、ジークも子供の頃は家の庭で、家族も仕えて働いている人たちも、みんなと一緒に行っていたそうだ。

 5、6人のグループで固まっているのは男性同士で来ている人たち。さすがに女性同士はいなかった。


 そして一番多いのはやっぱり男女のカップル。夜に堂々と一緒に過ごせるこのイベントを恋人たちは逃さないよね。一年の締めくくりと始まりの瞬間に一緒にいられるなんて素敵だもの。

 私たちも傍から見れば普通のカップル。本当は恋人同士じゃないけれど、でも今は何も考えずにジークと、そして今日の日を楽しみにしていた精霊たちと一緒に今を過ごしたい。


「ルイ、今は何時だ?」

「今? ちょっと待ってね。スマホ…えーと11時40分だよ」

「じゃあもう少しだな。さっき買った精霊の光を出してくれ」


 楽しい時間ってすぐに過ぎちゃう。もうすぐフィナーレの時を迎える。鐘は11時49分から1分ごとに鳴るらしい。私はリュックから2つ、精霊の光を出して、1つをジークに渡した。


『俺たちは鐘が鳴り始めたら上に昇っていくから』

『そのあとは先に帰っていてくださいね』

「うん、わかった。気を付けてね。良い年渡りを送ってね」

『ルイもね。今年も無事に過ごせてよかったわ。2人も良い年渡りを』

『ジークも水属性の祠にオーブを納めることができて良かったな。見事だったぞ。良い年渡りを送れよ』

「みんな、今年もありがとう。素晴らしい1年になった。良い年渡りを過ごしてくれ」



ガーンゴーン



 ジークの言葉が終わると同時に1つ目の鐘の音が王都の街に響き渡った。

 騒がしかった周りがシーンと静まり返る。

 2つ目の鐘の音が鳴る。夜空には鐘の音の余韻と、1つ、2つ、3つと、だんだんと数を増して昇っていく精霊の光たち。

 その中へアクティオとウェンティアが光になってゆっくりと私たちから離れて夜の空へ吸い込まれて行った。


 私もジークと顔を見合わせた後、精霊の光に魔力を送った。ぽわーっと光り始めるベリシュの種。私のバルーンはなぜかスノーボールのように中がキラキラと光が舞っていた。


「こんなところでも、ルイの魔力は綺麗だな」

 私の精霊の光を見たジークが微笑みながら言った。

「ジークの精霊の光も素敵だよ」


 そう伝えたところでふわりとバルーンが浮かび上がる。続いて私のバルーンも手から離れた。フワフワと2つ、寄り添いながら昇っていく。その2つを目で追いながら空を見上げた。


「うわ~! すごい、すごいね。とっても、きれい…」

「ああ、綺麗だな…」


 夜空には、広場に集まった人たちから放たれた精霊の光があふれていた。ゆっくりとゆっくりと、みんなの祈りを乗せて星の元まで昇っていくような気がした。



 私たちの光が遠くに行ってしまったのを見届け、気が付くと鐘の音は止んでいた。顔をそのまま横にずらすとジークがこちらを見下ろしていた。

 目が合って微笑みあう。ジークが私の肩を引き寄せ、抱きしめてくれた。


 ジーク、大好きだよ! まだ言えないけど心の中で強く思う。そしてこの思いが一緒ならどんなにいいだろうと、彼に寄り添いながら祈った。



読んでくださり、ありがとうございます。


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